ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
モチベーションがガンガン上がりますねぇ!
今回からオリジナル色強すぎてちょっと戦々恐々としてますが、頑張りたいと思います!
これからも感想・評価等で応援してくれるとありがたいです!
それでは、今回もよろしくお願い致します!
ラトレイア家に居候することが決まった私たち。
一時はどうなるかと思ったが、なんとかなって何よりだ。
あの後、私たちはグレイラット家での日常生活がどんなものかということを中心にお婆さまと談笑した。
お婆さまは相変わらず無愛想な顔をしていたが、それでも真剣に話を聞いてくれているのはわかった。
日が暮れ始めるまでお話しをした私たちは、食堂に移動してご飯を食べた。
それがとてつもない美味しさで、ほっぺたが落ちそうなほどだった。
もちろんお母さんの料理が私の舌には一番合うのだが、これはまた違う魅力があったのだ。
まず見た目からして違う。
豪勢であり、なおかつ美術品のように技巧を凝らした美しさは、料理の期待値を一層引き立てる。
使っている食材もアスラでは滅多に手に入らず、またミリスにおいても高級なものらしく、料理人さんの腕も相まって正に桁違いの美味であった。
私は今日をもって「美食」という概念を知ったのだ。
その後は長旅の疲れを癒すように、ということで寝室に赴いたのだが、これまた庶民の私には常識の外にあるものであった。
めちゃくちゃ広い。
1人部屋でありながら、うちのダイニングぐらいの広さはある。
そして中央に鎮座するのは天蓋付きのベッドだ。
ぽすぽすと恐る恐る布地の部分を触ってみたのだが、心地のいい手触りと柔らかく、されど確かな反発があった。
いざ寝ついてみようと横になれば、あまりの心地よさに数秒で眠りについてしまった。
一晩寝てみた結果、やはりなぜ天蓋が付いているのかだけはわからなかった。
なんにせよ、一日屋敷を堪能したことでわかったのは、ここがやっぱり私にとって異世界のようなものだってことだ。
構成している何もかもが私の手なぞ一生届かないレベルの高級品。
それらに囲まれていると自分の場違い感のようなものが感じられて、興奮とともに落ち着かない心持ちでもあった。
そして翌日、私は大事な話があるからということで、現在応接室のソファにちょこんと座っている。
対面に掛けているのはお母さんとお婆さまだ。
この2人も昨日と比べればだいぶ距離が近くなったと思う。
私が眠った後、2人きりでお話ししたりとかしたんだろうか。
うんうん、仲良きことは良きことだよね。
「ノアさん。まずは改めて、あなたに礼を。
あなたの言葉があればこそ、我々の仲はそれほど拗れはしなかった。
もっとも、全てを清算しきれたとは到底言えませんが……。
それでも、貴族としてあなたに感謝を伝えておきます」
「え〜、そんなのいいよ、お婆さま! 私が言いたいこと言って、やりたいことやっただけだから!」
「……そうですか。
あなたがそう言うのなら、私もとやかくは言いません」
お婆さまはそう言って、ほんの小さく会釈をした。
このプライドの塊みたいな人がそこまでしてくれるのだ。
私も彼女に認められたということなんだろう。
「さて、前置きはこのぐらいにして、本題といきましょう。
ノアさん、あなたにはこれからミリス神聖国立貴族学院に通っていただくこととなります」
「ミリ……きぞ……なんて?」
「ミリス神聖国立貴族学院です。
まぁ、おおよそは略して聖国貴族学院と呼ばれておりますが」
「貴族学院!」
つまり学校!
学校というものは酔っ払ったお父さんから聞いたことがある。
剣術、魔術、語学、算学、礼儀作法、乗馬などの様々な分野の学問を子どもたちに学ばせる場所。
ミリスの学校では治癒や解毒がほぼ必修となっており、私もそのようなミリス神聖国が独占しているという魔術体系を学びに来た。
ようやく、私にとっての本番が始まるというわけだ。
ワクワクしてきた!
「あなたにはノア・グレイラットとして学院に入学してもらいます。
先日、あなた方は自分達はグレイラット家であると主張したのです。
ならば、家名には誇りを持ちなさい。
決してラトレイアの家の名を使うことのないように」
「はい、わかりました!」
「……まぁ、楽観はしないようにとだけは言っておきます。
なにせ貴族達の子息令嬢が集まる舞台。
生半可な覚悟と能力では、早々に潰されることでしょう」
「大丈夫だよ! 何があっても折れないって約束したから!」
お婆さまは私の返事を聞いて、隠すこともなく溜め息を吐く。
あらまぁ、私ったら信用がないね!
そして入れ替わるように、今度はお母さんが私に顔を向ける。
「ノア。
私はやることをやったら帰るつもりだけど、その時にあなたがどうしてもダメそうだったら連れ帰る、と言ったわね」
「うん」
「だから今、その条件を伝えておくわ。
いい? 貴族学院で、何らかの
そうすれば、ノアがもう一人前の人間としてやっていけると判断するから、自分の好きなようにするといいわ」
「成果……って、どんな?」
首を傾げてお母さんに問いかける。
成果とは何か。
魔術のことだろうか。
私のここでの目標は結界魔術や魔法陣のノウハウを極めることだけど、でもお母さんが言いたいことは、それではないように感じた。
わからないことは聞けばいい。
お母さんは私が問い掛ければなんだって答えてくれる。
「それは自分で考えるのよ」
「えっ?」
だが、今回はそれとは違った。
お母さんは真剣にこっちを見つめるだけだ。
「いつまでも誰かに聞けば答えてくれるものではないわ。
あなたは大人になるんだから、自分で考えて、自分で判断して、自分で結果を残しなさい。
私はそれを見て、あなたはその結果で私を満足させて頂戴。
それが合格の条件よ」
「……」
知らず、唾を飲み込む。
今のお母さんは、お婆さまそっくりに厳しかった。
自分だけの力で全てのことを行い、結果を出す。
思えば、私は今まで散々周りの大人たちに頼って、甘えてここまで来た。
それは子どものやる事、子どものやり方だ。
大人になって、カッコいいお姉ちゃんとしてルディに誇れる自分になるには、そのままではダメなのだ。
大人にならなくちゃいけないんだ。
「わかりました! 必ず結果を出して、お母さんを満足させます!
だから期待して待っててね、お母さん!」
「ええ。期待して待ってるわ、ノア。
大丈夫、あなたならきっとできるわ。
だって、私とあの人の自慢の娘なんだから」
「うん!」
そしてそれから2日が経ち、諸々の手続きを済ませた後、私はお貴族らしい格好をして、ミリス神聖国立貴族学院——通称、聖国貴族学院に通うこととなった。
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「うわぁー……ここもでっか……」
貴族学院に到着した私は、ここに来てから何度目かという感嘆の声を上げた。
荘厳と構える門と、その向こうに見える雪のように白いお城みたいな校舎。
門をくぐり抜ければ、そこは青々とした芝生が広がっており、この敷地の豊かさを象徴している。
私もせめて
「よし、行こう!」
萎縮してばかりでは始まらないのだ。
同年代の子たちが大勢いる場所に行く経験は今までになく、少し不安を感じてはいたが、自分で行きたいと言ったことだ。
ウジウジしてはいられない。
私は気合いを入れ直し、入学式の会場へと赴いた。
入学式の会場は外の広場であった。
色とりどりの花に囲まれたそこには今年この貴族学院に入学する貴族の子女たちがひしめいており、田舎者の私にとっては目がぐるぐると回るような落ち着かなさを感じさせる。
「諸君、入学おめでとう。
我が伝統ある聖国貴族学院には——」
キョロキョロと見回している間に、いつな間にか校長先生からの答辞が始まっていた。
学院の歴史から、学院における心構え、何を学ぶか、将来何を目指すのか……。
そう言ったことを
私はミリスにおける常識とか、文化とか、考え方に疎いからとても興味深い話だったけど、周りの人たちはあまり真剣ではなく、聞き流していた。
この国で暮らしている以上、わざわざ聞く価値もないということなのだろう。
こりゃあ早めに順応したほうがいいぞ、私!
「では、良き学校生活を送ってくれたまえ」
校長先生のお話が終わって、拍手が広場に響き渡る。
もっとも、全力で拍手していたのは私だけで、他の人ら全体的にまばらもまばらな拍手であったけれど。
なんだこいつとかいう目で見られながら、私は晴れてこの学院の生徒となったのであった。
そしてその後は教室に連れられて行った。
そこもまた、たいそうお金がかかっていそうな部屋で、落ち着いた雰囲気がありながら高級さも感じるという、勉強にはうってつけな場所だった。
「おぉ〜! すごいなぁ……」
「おい、貴様。
そこの白いやつだ、聞こえているか?」
「へっ? ああ、ごめん。何かな?」
「チッ……口の利き方がなっていないようだ。
どこの田舎貴族だ、名を名乗れ」
ひとしきり感嘆していると、後ろから声がかかった。
振り向いてみると、そこには幾人もの取り巻きを侍らせたいかにも貴族然とした金髪の男子が、これまたいかにも不機嫌でございという態度を隠しもせずに私を見下ろしていた。
「えっと、ノアです。
ノア・グレイラット」
「……聞かない名だ。よもや庶民ではあるまいな?」
「んー、多分庶民になるん……じゃないかな?
ここにはお婆さまの伝手で入ったけど、うちはそんなに裕福とかじゃないし」
いや、普通の村人の生活と比べるとうちの暮らしも結構贅沢じゃないか?
確かお父さんは騎士らしいし、私たちの旅費も出してくれた。
充分以上に恵まれていると言えるだろう。
そう思ったのだが、目の前の男の子は私の言葉を聞いて露骨に嫌そうな顔をしてみせた。
「なんと……下級貴族ですらないとは!
全く、この学院も落ちたものだ。
こんな平民を迎え入れるとは、由緒ある名に傷がつく。
貴様、二度と私の視界に入るなよ。このゴミめ」
流れるような罵倒!
そして取り巻きの皆さんは私を押し退け、話しかけてきたお坊ちゃんは悠々と教室に入っていった。
うん、お婆さまの言っていたことがよくわかった。
「こいつは確かに、とんでもないなぁ……」
先が思いやられるとは、正にこのことである。
気疲れしそうなことこの上ない、と私は切実に思うのだった。
そして当然ここは学校であるので、日にいくつかの授業を受けていくことになる。
初手は礼儀作法だった。
同級生たちは皆、洗練された流麗な礼を披露していたが、私のものは付け焼き刃だ。
クスクスという失笑をいただいたが、まぁ仕方のないことだ。
そもそも最初からできるのなら学ぶ必要なんてない。
これから練習して、できるようになっていけばいい。
試しに講師の先生にコツや、どれくらいで習熟できたかを尋ねてみたが、舌打ちをされて次の授業が忙しいと言われて袖にされてしまった。
それからも色んな授業を受けた。
茶会のマナー、ダンス、計算、読み書き。
貴族マナー関連はボロクソだったが、その他は問題なかった。
ロキシーの教えの賜物である。
というか、こうなるならもっと礼儀作法をちゃんとマスターしてくるべきだっただろうか。
さっきから視線が痛いのだけど。
そうして本日最後の授業、待ちに待った魔術の講習が始まった。
初回の授業は治癒魔術。
初級のヒーリングだ。
内容は枝の折れた小さな木を治すこと。
私は中級まで使えるので問題はないが、復習にもなる。
真面目にやろう。
「ほいっ」
「なっ!?」
パァッと緑の輝きが瞬き、小枝の切断面がくっついていく。
ロキシーもぽっきりと真ん中からへし折れた家の庭木を初級で治していたし、これくらい朝飯前と言ったところだ。
しかし、一瞬で終わっちゃったな。
まだ時間はあるし、先生に上級の治癒でも教えてもらおうか。
と、思っていた時だ。
私が無詠唱で治癒魔術を使ったことに驚きの声を上げた、先程嫌味をぶつけてきた金髪の男子生徒が声を荒げて詰め寄ってきた。
「貴様……薄汚い庶民の分際で、この中級貴族である私を愚弄する気かッ!」
「えっ? いや、私は普通に真面目にやっただけなんだけど……」
「フン、これだから道理を知らぬ田舎者は。
この場でもっとも地位が高い私に先んじるなど、無礼にも程がある!
貴様の家には相応の報いを与えてやる!」
「えぇ……」
そんなことあるー?
別にどっちが先とか関係ないじゃない。
初級程度いつ習得したとしても大したことではないだろうに。
私だってその程度で、できない人を見下すようなことはしない。
私自身が出来損ないだったからね。
彼の悔しがる気持ちもわからんでもないのだ。
ただ人間には向き不向き、得意不得意がある。
私とルディみたいにさ。
それに、彼には魔術以外にも色々やることがあるだろうし、それなら魔術がほどほどだったとしてもいいじゃないか。
それだけの話である故に、彼の言いがかりは私にとって今日一で理解し難いことであった。
わざわざこんな強引に詰め寄る必要性を感じなかったから。
まぁ、ちょっと熱くなっただけだろう。
よくあることだ。私にもそういう時は結構あるし。
ここは彼の近しい人に落ち着くように宥めてもらおう。
そう思って周りを見回した。
「……え?」
そこには私を非難するような目だけがあった。
生徒だけじゃない。
魔術の先生さえもあからさまに、その目で私を糾弾していた。
まるで、間違っているのは私だけであるかのように。
その後のことはよく覚えていない。
自分でもショックだったのだろう。
魔術の腕は私の誇りでもあった。
それを家柄だけを理由に否定し、非難されるのは納得できないものがあった。
「ただいま〜」
「あら。おかえりなさい、ノア。
学校はどうだった?」
「うーんとね……」
とぼとぼと帰宅し、ラトレイア邸の玄関をくぐり抜ければ、そこにはお母さんの姿があった。
それにしても、学校か……。
正直な感想でいいだろうか。
「思ってたのと違ったぁ!!」
「あらまぁ……でも、お母さんも気持ちわかるわ」
「なんだかな、面倒くさいね!」
「そうなのよ、あそこ窮屈でしょ?」
「うん、針の
目を合わせれば嫌味、合わせなくても嫌味。
質問は聞いても無視され、皮肉か罵倒が投げつけられる。
ぶっちゃけ気疲れがものすごい。
ここにお母さんがいてくれて良かった。
でなきゃ溜め込んだ鬱憤は全てヒトガミめがけてぶつけられることになっただろう。
「じゃあどうする? 諦める?」
「……」
私は言葉に詰まった。
今までこれほど過酷な環境に身を置いたことはなかった。
まだここに来る道中の野営の方が遥かにマシである。
だが、たった一日で諦められるものか。
カッコいいお姉ちゃんになるために、これは越えなければならない試練なのだ。
お母さんが言っていたのはこういうことだったのだろう。
「私、頑張るよ! 絶対私のことを認めさせるから!」
「……そう。頑張りなさい、ノア」
「うん!」
自分に不利な環境でも、成果を残す。
もしルディだったならできるはずだ。
なら、私もやらなきゃ姉として不甲斐ない。
まだ、どうすればいいかはわからないけれど、今はとにかく明日に備えてゆっくり休もう。
考えるのはそれからでもいいはずだ。
そうして、その日の晩は眠りについた。
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その後日のことだ。
「……何、これ」
息巻いて学院に着いた私は目にすることになった。
水浸しになった自分の席と、その上に無造作にばら撒かれている、昨日置いて帰った私の教科書。
そして意地悪く嘲笑う生徒たちの声。
そんなもの視界に入りませんよ、と言わんばかりの担任教師。
俗に言う、「いじめ」というものが始まった。
私はここで初めて、明確な人の邪悪に触れたのだった。