ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
頑張ってペース戻していきたいィ!
でもなんか今週忙しいィ!
あと感想マジでありがたいィ!
それでは、今回もどうぞよろしくお願い致します!
★ side:クリフ ★
僕、クリフ・グリモルは物心ついた頃には孤児院で暮らしていた。
もっとも、その時の僕は当然孤児であるので、誇りあるグリモルの姓はなかったのだが。
孤児院で何不自由なく5歳まで育てられた後、僕は祖父であるハリー・グリモルに引き取られ、彼の元で優秀な魔術師達による英才教育を受けた。
僕は彼らの教える魔術の知識をまるで乾いたスポンジのように吸収し、ミリスでは特に重要視される治療・解毒・神撃の3種の魔術を中級まで習得した。
さらに火魔術に至ってはつい最近、上級の域にまで足を踏み入れた。
ここまで成果を挙げれば馬鹿でもわかる。
たったの2年でこれほど多種の魔術を、しかも幼年期に習得した者はミリス広しと言えども類を見ない。
間違いなく僕は天才と呼ばれるに足る人間だ。
正に歴史に名を残すことは必定である『賢者の卵』と言えるだろう。
僕はすぐに教師すらも追い抜き、やがてはミリス教皇の後釜としてこのミリス神聖国を
ただ、そんな僕の膨れ上がった自尊心は、とある年下の女の子によって粉々に打ち砕かれることとなる。
通例であれば上流階級出身の者しか足を踏み入れることは許されない聖国貴族学院において、平民でありながらも入学してきた異端の女子生徒。
透き通る白銀の髪に、鮮やかな血の滲んだような宝石の瞳。
6歳でありながら水聖級魔術師の肩書を持つという怪物。
彼女の名は、ノア・グレイラットというらしい。
僕はとある日の明朝、彼女が校庭にて水聖級魔術『
それは初めて見る聖級規模の大魔術。
天候すら意のままに操る彼女を前に、僕は生まれて初めて自分以外の魔術師に対して瞠目した。
一目見て思ってしまったのだ。
こいつには天地がひっくり返っても勝てないと。
そして僕は、心底から恐怖した。
祖父に引き取られて以来、自分の才能一つで周囲の人間を黙らせてきていた僕にとって、そのアイデンティティの源である魔術で遥か上に立つ人間が出てきてしまったら、もう誰も自分のことを認めてくれる者がいなくなるのではないかと思ったのだ。
見限られてしまうかもしれないという恐怖は、これまでの地位が高ければ高いほど著しく感じられた。
それからのこと、僕は必死で魔術の腕を磨いた。
家庭教師にも珍しく頭を下げて、より高度な魔術の勉強に着手し、寝る間も惜しんで訓練に精を出した。
普段であればそこまでの熱量はないが、身に迫る危機感によって集中力は何倍にも高まった。
おかげで火魔術の上級は既に実戦レベルとのお墨付きを貰えたぐらいだ。
全てはあの唐突に現れて僕の築いてきた自信を地に落としたノア・グレイラットを超えるため!
あの水聖級魔術は、そんじょそこらの才能がほんのちょっとある程度の魔術師では力の差に打ちひしがれ、挫折して杖を捨ててしまうほどのショックを与えるものだろう。
だがしかし!
この僕、未来のミリス教皇クリフ・グリモルは平易な魔術師とは一線を画す!
打ちのめされてもなお、腐ることなく己を磨き上げ、必ずや目にモノ見せてやるのだ!
負けっぱなしで終わるなど、僕のプライドが許さない!
そして数週間に及ぶ猛特訓と綿密なシミュレーションにより必勝の方程式を見出した僕はついにノア・グレイラットのもとに赴き、いざ尋常にして正々堂々たる決闘を申し込み——
「|おばべぜんぱびびたびずるたいどっでぼのがだな゛《お前先輩に対する態度ってものがだな》……ッ!」
「あ、あははは……ご、ごめんなさい、つい興奮しちゃってぇ……」
無様に地面に這いつくばっていた。
いや、決闘に負けたわけではない。
むしろまだ始まってすらないのに僕の体はボドボドだ。
それもこれもノア・グレイラットが校庭まで僕を引き摺り回したせいである。
おかげで何度顔面から地面に接吻をかましたことかわかりゃしない。
「お、おのれノア・グレイラットぉ……! まさか決闘の前に僕を消耗させて不戦勝のつもりとはッ……! なんという卑劣な手口っ……僕は、僕は決して
「い、いやぁ……そんなつもりでは。
と、とりあえず『ヒーリング』かけといたからね?」
顔を真っ赤にしてアワアワと申し訳なさそうにする白い塊。
本当に悪気がないようで、流石の僕も毒気を抜かれてしまう。
まぁ僕もいずれ教皇となり多くの
今回は大目に見てやろう。
「だが! 決闘は真面目にやれよ!? 僕はこの勝負のために腕を磨いてきたんだからな!」
「え、本当!? うわぁ、すっごい楽しみ! じゃあ早速始めましょうか!」
「ふん! 臨むところだ!」
覚悟しておけよ、絶対にぎゃふんと言わせてやるからな!
そしてどちらがより優秀な魔術師であるかを今一度この学院全体に知らしめてやるのだ!
「ルールはお互いの魔法が当たったら負けってことでいいですか?」
「構わない。さっさと始めるぞ!」
「ふふふ、わっかりました! 手合わせよろしくお願いします!」
彼女はそう言うと距離を取り、慣れた風にビシッと杖を構える。
堂々としたその姿には以前の僕のような自分の魔術に対する絶対の自信が
だがしかし、恐れることはない。
僕にはこの日のために携えてきた必勝の策があるのだから!
ノア・グレイラットは水聖級魔術師というではないか。
なら初手で使ってくるのは練度の高い水魔術のはず。
僕はそれに火魔術で応戦し、最初の一撃を相殺する。
するとどうなるか。
大量の水が高熱の火によって熱され、蒸発して霧ができる。
上級以上の魔術では必須の知識となる混合魔術の内の一つ、『
これによって発生した蒸気の目眩しによって詠唱の隙を確保し、仕上げに広範囲をまとめて攻撃する火上級魔術『
ふっ、我ながら完璧な作戦だ……この勝負、僕の勝利だ!!
「〝汝の求めるところに大いなる炎の——」
「〝『
内心で勝ち誇って不敵な笑みを浮かべながら火魔術の詠唱を始める僕だったが、それを嘲笑うかのようにすぐ横を何かが翔け抜けていった。
「へ?」
困惑した。
速すぎる。
詠唱すらしていないじゃないか。
何より。
何より、あの魔術は僕の顔面めがけて一直線に放たれた。
直撃コースまっしぐらだったはずなのに、突如見えない壁にでも当たったかのようにギリギリのところを掠めてあらぬ方向にカッ飛んでいった。
それは使い手が意図していないとできない制御。
つまり、僕は舐め腐って手加減されたのだ。
「お前——!」
怒りで頭が沸騰し、奥歯を噛み締めて吠えようとする。
なんでこんなことをしたのか、尋常な勝負を台無しにされた、相手にすら思われていなかった。
そう思い掴みかかろうと——
「うばああぁぁぁ〜〜〜!!?! なんっでこれでも当たんないのぉ!? 理論的にはセーフでしょ今のはさぁーー!!!?」
掴みかかろうとした相手は僕以上に憤怒の形相で地面を転げ回っていた。
「は、へ……?」
「いや本当になんでさ精霊は微弱とはいえ意志があるつまり私自信が攻撃してるわけじゃないんだから当たって当然のはずまさか指示出ししたのが私だからって理由で呪いの有効範囲内だったのかうっそだそれじゃあもしかして魔獣召喚でも同じ結果になるんじゃこれは要検討しておかないとブツブツブツブツ——」
「おいっ、自分の世界に入るなぁ! ちゃんと説明しろぉ!!」
人間不思議なモノで、自分が激しく動揺していてもそれ以上に動揺している人間が目の前に居れば落ち着きを取り戻せると言う。
今の僕は正にそれを実感していた。
「あ、そういえばグリモル先輩には言ってなかった……。
えっとですね。実は私、とある呪いにかかってるんですよ」
「呪い……だって?」
「はい。なんか『人間との勝負に絶対勝てなくなる』っていうふざけた呪いらしいですよ」
「な、なんだそれは……」
ノア・グレイラットはぶすっとした顔で不機嫌そうに言った。
彼女の力量は聖級クラス。
その実力を満足に振るうことができないとなれば、きっとそれは想像を絶する歯痒さであるのだろう。
「じゃあなんでお前は——」
「よっし、うじうじするのはここまで! さ、もっかい戦ろ!」
「は?」
お前はなぜそんなに勝負に対して楽しげでいられるのか。
負けることがわかりきっている戦いに笑顔で身を投じることができるのか。
負けるのが悔しくないのか。
そんなことをつい口走りそうになった僕を遮って、ノア・グレイラットは立ち上がってまた魔術を練り始めた。
「なっ、まだやるのか!?」
「あったりまえでしょ! 久しぶりの術比べだもん! 一回で終わるなんてつまらないじゃん? 出せるモノ全部出し切っちゃおうぜ!」
それから1時間以上に渡る決闘というにはあまりにも長い勝負が始まった。
その間、ノア・グレイラットは僕の知らない様々な魔術と奇抜な戦法を繰り出し続けた。
時に魔術で雨を降らせ、時に突風を吹かせ、時にそこら辺を飛んでいる小鳥を魔術で従えて嗾けてきた。
その度に彼女の魔術は全てなんらかの突発的な不具合によって不発となり、当然僕の攻撃は力量差の隔絶している彼女には一切通じなかった。
千日手に陥ったその状況に僕は早々に根を上げそうになったが、しかし当のノア・グレイラットは全然そんなことはなかった。
悔しがりながらも笑顔で口の端を吊り上げながら、なぜそうなるのか、どうやって呪いを掻い潜れるのかを実に楽しそうに考えているようだった。
そう、楽しそうだったのだ。
何にも縛られず、彼女はただ自由に己の魔術と向き合っていた。
その姿を見て、僕はここ最近の自分の愚かさを恥じた。
僕は目先の立場やちゃちなプライドに拘って、魔術のことをただ権威を示すステータスとしか扱っていなかったのではないかと。
最初の頃はそうではなかった。
魔術を習い始めた当初は一つ一つの魔術に感動し、上達すること自体が楽しかったはずなのだ。
それがいつしか人に比べられ、自分でも人と比べてしまう不純さを孕んでしまっていた。
ああ、そうだ。
僕はそんな、魔術を一際楽しそうに使っている彼女を見て。
羨ましいと思ったんだ。
---
「くああ〜、まんぞくっ! 久しぶりに思っきり魔術使えて気持ちよかった〜!!」
「まったく、酷い目に遭ったぞ……」
グリモル先輩に持ちかけられた決闘で久々にハッスルしてしまった。
私は試したいことが大体試せてツヤツヤしているのだが、仕掛け人である先輩はゲッソリとやつれていた。
彼も最後まで魔術を使って応戦してくれていたのだが、もう魔力が限界なのかぐったりと倒れ込んでしまった。
しかし、結局今日も呪いを突破することはできなかったなぁ。
『
うーむ、どうしたものか。
これからまたしばらく検証タイムに突入せざるを得まいかな……。
「なぁ、一ついいか?」
「? なんですか、グリモル先輩?」
「……クリフだ。クリフと呼んでくれて構わない」
「じゃあクリフ先輩で」
私が今後の特訓予定について頭を唸らせていると、寝っ転がったグリモル先輩改めクリフ先輩が問いを投げかけてきた。
私もちょっと疲れたので彼の傍らに腰掛ける。
「君はどうしてそんなに楽しそうにいられるんだ。
普通に考えて腐るだろ、あんなデタラメな呪い……なぜ君は無駄な努力を続けるんだ」
「えー、無駄な魔術なんてないよ? あらゆる魔術が私の糧になって強くなれるんだから!」
まー、側から見たらそうも映るかな。
私もたまーに不安にならないわけではないし。
その度にヒトガミに愚痴ってストレス発散してるからあんまり溜まってはいないんだけどね。
「でもそうだなぁ。強いて言うなら、やっぱり単純に魔術が好きだからってことになると思うよ」
「好きだから……か」
「うん。それにね? 魔術がルディ……弟や、色んな人達と私を繋いでくれた。
感謝してるんだよ。
だから私にとって魔術は何より大事で、大好きなんだ」
「魔術が繋いでくれた、か……。
そうだな。僕も、きっとそうなんだろうな」
クリフ先輩は最初と比べて、どこかつき物が落ちたように苦笑してそう返した。
「ありがとう、ノア・グレイラット。
君のおかげで、僕はこれからも自分の魔術に自信を持っていけそうだ」
「えへへー、なんかわかんないけどどういたしまして! あと、私もノアでいいよ!」
「ああ。じゃあ、これからはノアと呼ぶよ」
これは、もしかしてクリフ先輩と友達になったということではッ!?
おお……なんか初めての実感に震えているぞ……!
「そうだ。今後暇があったらうちに来ないか? この学校ではせいぜい上級程度の魔術講師しかいないが、僕のお抱えの教師陣には聖級の魔術師も多いんだ」
「聖級!? そっ、それは是非ともご教授願いたいです!
いやっほう! ついに私にもツキが巡ってきたのでは……!?
ありがとうございますクリフ先輩! さすがです!」
「ふん! これでも順当にいけば次期ミリス教皇だ! これぐらい当然さ!」
クリフ先輩は天まで高々と鼻を伸ばしながらそう言った。
ミリスの聖級魔術師……聖級の結界や治癒、解毒が学べる機会なんてそうそうないことだ!
くぅ〜! テンション上がるなぁ!!
あと、さりげにめっちゃ良いとこの出なのにちょっと驚きました。
「まぁ今日のところは日も傾いてきたし、ここでお開きにするか」
「そうですねー! あ、勝敗ってどうします?」
「引き分けでいいだろう。納得できないものはあるが、今はこれでいい」
「ですね。そうしましょう」
すっかり夕焼けに染まった空を背景に、そうして私達は各々の帰路についた。
お互いにとって初めての同年代の友達。
ここでの縁はきっと生涯忘れることはないだろうと、私は思った。