ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
テスト期間だったんすわ。
これからは時間に余裕できるだろうしペース上げていきたいなぁ。
それでは、今回もどうぞよろしくお願い致します!
お母さんの出産に立ち会うために急いで遠征から帰還したというカーライルお祖父さまとテレーズさま。
2人がお屋敷に戻って今日で数週間が経った。
その間、私も彼らの為人などが理解できてきたところだ。
お祖父さまはお母さんと話していることが多い。
男親とは娘が特別可愛く思えるものなんだとお父さんも言っていたし、彼もきっとそうなのだろう。
お祖父さまは落ち着いた雰囲気を持つ人で、あまり賑やかな方ではない。
私はそんなお祖父さまの静謐さが好きになった。
テレーズさまとは沢山お話ししたり、遊んでもらったりした。
彼女はミリス教団の神殿騎士という役職に就いているそうだ。
神殿騎士の職務内容は、まぁ、わりとヤバめな感じっぽいけど。
テレーズさまはお祖父さまと比べると明るくて気さくなお姉さんだった。
色々と世話を焼いてくれたり、構ってくれたり、お菓子をくれたりする。
私のことをいたく気に入ったみたいだ。
彼女は「神子さま」というミリス教団の要人の護衛を務めているそうで、近いうちにその人との面会も取り持ってくれるらしい。
「神子」というのは普通の人にはない不思議な力で国の役に立ってくれる人のことで、テレーズさまが護衛しているという人もミリス教団に有益な能力を持っているそうだ。
私は「呪子」なので、その人とはまるで対極に位置しているような感じなのかもしれない。
ただ、「神子」も「呪子」も尋常の人間ではあり得ない力に支配されているという点では共通しているのかも。
もしかしたらその点から突破口が見出せるのではないかと思い、私から面会をおねだりした。
テレーズさまは神子さまの交友関係の狭さを心配しているらしく、同年代の女子との何の衒いもない触れ合いは良い経験になるだろうとのことで、熟慮の末に頷いてくれた。
そんなこんなで順調に月日は進んでいき、今日この日、ついにお母さんが を訴えた。
陣痛が始まったのだ。
お祖母さまはすぐにかかりつけの医師と産婆を呼び出し、テレーズさまはお母さんを優しく介抱し、お祖父さまはお母さんの側でじっと見守っていた。
そして私は。
「ど、どどどどどうしたのお母さん!? お腹痛い!? お水持ってくる!? あれお腹痛いときってお水飲んじゃダメなんだっけ!!?」
「あ、あはは……ノア、ちょっと落ち着きなさい。
お母さん大丈夫だから。2回目だもの、慣れたものだわ」
「だ、だってぇ……」
だってお母さん、今までで一番苦しそうなんだもん!
心配なんだもん!
出産て毎回こんな感じなの!?
お母さんってスゲー!!!
「全く、そんなに慌てているようでは良家の品格が疑われます。
こういう時こそ、余裕を持って泰然としているのが淑女の嗜みというものなのですよ」
お祖母さまはいつも通りのすまし顔をしながら、医者を呼んで手持ち無沙汰になったのか部屋のあちらこちらをカツカツと行ったり来たりしている。
あの、思ったんだけどさ。
「お祖母さま、もしかして私と同じくらい落ち着きないん——」
「お黙りなさい」
「いやでも」
「お黙りなさい」
「アッ、ハイ」
これ以上は藪蛇だそうだ。
私はちょっと落ち着きを取り戻し、お母さんの手を粛々と握りしめることに努めた。
その後、産婆さんが駆けつけてくれてすぐにお母さんが産気づいた。
みんな間に合って良かったとそう思った。
しかし誰もが気を緩めたその時、産婆さんがあることに気づく。
生まれてくる子は逆子だったのだ。
そこからはもうてんやわんやであった。
逆子の出産は母子共に危険だ。
ミリスは治癒魔術の元締めであるとはいえ、慎重な対処が求められる。
私はお母さんが死ぬかもしれないと聞き、急速に頭が冷えていった。
パニックになりすぎて、一周回って冷静になるというアレだ。
私は助産婦の人の指示に従い治癒魔術を使ってお母さんの体調を整えたりあくせくと働いた。
家族の命の危機に私の集中はピークに達し、いつもの数倍は精密で迅速な治癒の行使ができていたと思う。
その場にいるみんなの尽力によって、お母さんも生まれてくる子も無事だった。
生まれたのは女の子。
私の妹になる子。
彼女が元気に産声を上げた瞬間、私はぷつりと緊張がほぐれてその場にへたり込んでしまった。
お母さんの腕の中で精一杯に泣き声を上げているその子を見上げる。
とても神秘的だった。
命というものを直に感じるあの空気感は、出産に立ち会った時の特有のものだと思う。
「ノア、抱いてみる?」
「いいの……?」
「もちろん。あなたの妹なんだから」
私は恐る恐る赤ちゃんに手を伸ばし、おっかなびっくり抱きかかえる。
ああ……なんて。
なんという愛おしさだろうか。
ルディに感じる信頼とはまた別の、私がこの子を守れるようにならなければならないという心地の良い責任感。
「うっ、ぐすっ」
感動で涙が次から次へと溢れ出てくる。
妹はノルンと名付けられた。
私はこの子に尊敬されるような、優しくて格好いいお姉ちゃんになれるだろうか。
いや、なろう。
精一杯、至らないところはあるけど、まずは一人前になって——
「ノア、あなたはもう一人前よ」
「え……?」
「あなたはこの数ヶ月で、お母さんが満足するだけの成果を残したわ。
だから、心配しなくても大丈夫。
あなたは立派に成長してみせたもの」
お母さんは優しく微笑んでそう言った。
成果は出した。
だから後はこのミリスで好きに魔術を学んでも良い、っていうこと……?
「でも、私はまだその……成果? ていうのが何なのか、まだわかってないよ?」
「ふふ、そうなの? じゃあ教えてあげる。
〝友達を作りなさい〟それだけのことだったのよ」
「……え? そんだけ!?」
こう言ってはなんだが、拍子抜けだ。
もっと難しいものかと思っていた。
例えばドラゴンを召喚するとか、迷宮踏破とか。
いや、よく考えればそれ子供にやらせることじゃないな。
学校でできることでもないし。
「それだけのことができない大人も大勢いるわ。
あなたは初めての環境で、慣れない人達、慣れない文化の中でそれができた。
いい? 人は1人じゃ何もできないわ。
色んな人に頼って、寄りかかっていかなければ生きていけないの。
その為には何が必要?」
「……友達?」
「そうね。信頼できる人達と言い換えてもいいわ。
人生は苦難と逆境の連続よ。
自分以外の人と支え合って、それを乗り越えていくの。
あなたはそれができるようになった。
だから、あなたはもう一人前なのよ、ノア」
一人前。
自分ではとてもそうは思えない。
私はいまだに学校でも孤立しているし、慣れない環境に適応できているとは言い難い。
そんな私の気持ちをお母さんは察しているようで、優しく頭を撫でてくれた。
「全てのことを上手くできる人が一人前なんじゃないわ。
自分で自分の人生を選んで歩けるような人を一人前というの。
少なくとも、私はノアがそうやって生きていけると認めたわ。
お母さんの目を信じなさい? これでもあなたのこと、世界で一番わかってる自信があるのよ?」
お母さんはそう言って微笑んだ。
まだ、私は自分の実力に納得できてはいない。
けれどもお母さんは私を認めてくれた。
私の努力を認めてくれた。
なら、自信を持って私も胸を張ろう。
「うん、ありがとうお母さん!
私、これからもがんばるわ!!」
そうして新たに愛すべき私の家族が増えました。
この子に恥じることのないような人生にしたい。
私は、そう強く思ったのだった。
---
ノルンが生まれて数ヶ月が経過した。
彼女は順調にすくすくと育っている。
事ある毎に泣いているが、私は甲斐甲斐しく世話を焼いた。
もしかしたらノルンに一番構っていたのは私かもしれない。
私にできないことはお母さんや乳母さんが面倒を見てくれていたし、ノルンはとても恵まれているね。
ノルンはすでにハイハイができるようになり、拙いながらも言葉を話すようになっている。
私のことは「のーねぇ」と呼んでくれるのだ。
ルディ相手では得られなかった庇護欲というものが満たされていくのを感じる。
そんな風に私はでへでへとノルンにつきっきりで過ごしている。
お母さんは一旦ブエナ村の我が家に帰るそうである。
ノルンも連れ帰りたいそうだが、さすがに生まれたばかりの子に一年近くの長旅は酷だろうとのことだ。
ノルンが旅に耐えられるぐらいの年齢になったら迎えに来るという。
それまで私がこの子の姉として、そして母代わりとしてがんばろう!
まぁ、一緒に遊ぶぐらいしかできることあんまないけどね。
そうして今日はお母さんとのお別れの日。
〝黒狼の牙〟の皆さん、そしてロキシーと冒険者区の門前で待ち合わせをしている。
久しぶりに彼らと会えて近況を報告し、お母さんは楽しそうだ。
体調も回復したようだし、本当に良かった。
そして、私はと言うと。
「それで、ノア? 何かわたしに言うことはありませんか?」
「タイヘン、モウシワケゴザイマセンデシタ」
「わかっているのならよろしいです」
ロキシーにお説教されていました。
彼女からは魔術を習った際「無闇に天候を変える魔術を使ってはいけません」と言い含められた。
そのことを失念して割と思いっきり『
甘んじて受けます……いや、テンション上がっちゃってさ……すみません……。
「聖級の魔術師となれば一国の戦争をも左右する存在です。
大規模な魔術を行使するに当たっては相応の責任が発生するということをよく胸に刻んでおきなさい」
「はい!」
「それでは、わたし達はゼニス様をお送りしていきます。
護衛としての任務は完璧にこなしましょう、心配には及びません。
あなたはよく自分の魔術と向き合い、
「了解です、師匠!」
「師匠はやめてくださいと何度も言っているでしょうに……」
やれやれと肩をすくめてロキシーは言った。
彼女はこういう時に自分を卑下することがよくあるが、もっと胸を張ってほしいものだ。
ロキシーは私の尊敬する数少ない魔術師の一人なんだからね!
「ゼニスの娘……ノルンでしたか? 貴女やその子がブエナ村に戻る際はギルドに申し入れてくだされば、私達が駆けつけますわ」
「これも縁というものじゃからのう。
面倒はしっかり見てやらねばこちらとしても寝覚が悪いもんだ」
「そういうこったな。
んじゃ、お嬢もがんばれよ! 影ながら応援しといてやるぜ〜」
エリナリーゼさん、タルハンドさん、ギースもそう言ってくれた。
頼もしい限りだ。
流石はS級冒険者、踏んできた場数が違うのだろう。
「ノア。寂しくなるけどしばらくお別れよ。
ノルンのことをよろしく頼むわね?」
「任せて! 私もう一人前よ!」
「そうだったわね。落ち着いたらすぐに戻ってくるわ。
パウロにもノルンの顔を早く見せてあげたいもの」
私とお母さんは最後に抱き合って別れを告げた。
あと数年は会えないだろうから、今のうちにお母さんを堪能しておかねばならない。
それから、ちょっと個人的に話したい人もいる。
「ね、ちょっといい? ギース」
「ん? なんだよ、お嬢。そんな改まって」
私は件の人物、ギースに小声で耳打ちした。
彼は怪訝な顔をして耳を傾ける。
「ヒトガミのことなんだけどさ。
なんであいつの言うこと聞いてんの?」
「あー……」
ずっと気になっていたことだ。
ヒトガミは言っちゃなんだがあまり良いヤツではない。
私はあいつの底意地の腐った性格が嫌いではないが、ギースは普通に良い人だ。
正直、彼らが連んでいるのが不思議でしょうがない。
ヒトガミはギースのこと駒みたいに使ってるっぽいし、彼らの関係については前々から首を傾げていた。
「世話になったんだよ、昔な。
あのヤロウは確かにクソみてーな神さんだが、俺にとっちゃ大恩人だ。
なんつーか、無碍にはできねぇんだよなぁ」
「ふーん、お人好しだねぇ」
「へへっ、言ってろ」
ギースは満更でもなさそうに鼻の下を擦った。
彼も難儀な性格をしているものだ。
ちょっと親近感が湧くよ。
「……まー、でもよ。
俺が言うのもなんだが、あいつとは関わんねぇことを勧めるぜ。
お嬢みたいな良い奴なら尚更な」
「ま、そうなんだろうけどね。
でも私、あいつには何度か助けられてるし、嫌いじゃないんだよね。
私にとっては、初めてできた友達だしさ」
「あんたも物好きなもんだ……。
ま、忠告はしといたからな。後で泣きついてきても知んねーぞー」
彼はそう言って後ろ手に手を振って離れていく。
ヒトガミ、良い縁を持ってるじゃない。
なんであいつはそれをわざわざ棒に振ろうというのかね。
勿体無いことをしているもんだよ、全く。
「それじゃ、行ってくるわね、ノア! 元気にしてるのよー!!」
「うん! お母さんも! お父さんとルディによろしくねー!!」
そうして私達は一旦お別れした。
寂しくはない。
また近いうちに会えるだろうという確信があるからだ。
だから笑顔で別れよう。
精一杯手をを振って、私はお母さん達を送り出すのだった。