ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
それでは、今回もどうぞ宜しくお願い致します!
お母さんは私を一人前だと認めてくれた。
よって私はこれから自分が満足するまでこのミリスで魔術を学ぶことができるわけだ。
認めてもらったからにはその期待に応えられるよう、よりいっそうの努力をしよう。
え? テーブルマナー? ハハ、なんのことだかわかんないな〜?
そんなわけで私はノルンのお世話の傍らで今日も魔術の勉強中だ。
最近は治癒魔術に大きな興味を惹かれている。
お母さんの出産の際に全力で行使したからなのか、私は以前よりもこの魔術に対する適正が上がったように感じるのだ。
あの時はめちゃくちゃ集中してたし、無意識にコツを身体に叩き込めたのかもしれない。
おかげで今は前までの半分くらいの魔力で同じような効果を出せるようになっていた。
難産だったお母さんの手前でなんだが、これが怪我の功名というやつなのだろうか。
決闘で役に立つような魔術ではないけれど、治癒魔術は覚えておいて損はない。
むしろこれさえ有ればぶっちゃけ食うに困らないぐらいには引く手数多の有能魔術だ。
あと単純に無詠唱でやる時は精密な魔力操作によって効果が大きく上昇したりもするので良い練習になるし、やりがいもあるのが個人的に学んでいて楽しい理由だ。
現在の私は上級の治癒魔術を使えるようにもなり、今度から聖級に着手する予定になっている。
最近は他にもミリス神聖国で盛んに研究されている解毒・結界・神撃魔術にも新たな発見があってホクホクしている。
解毒魔術は中級以上からは毒を治すだけではなく毒に侵すことも可能だ。
例えば舌を痺れさせるような毒を『
まぁルディは無詠唱なのでこの戦法意味ないんだけど。
結界魔術は初級で『
どちらも相手を倒すことには使えない魔術だが、自分が負けないようになるには非常に有用だと言える。
普通の魔術師ならば詠唱の必要性から攻防を両立させることはとてもシビアなものになるだろうが、無詠唱である程度の自由性を持って魔術の行使ができる私にはこれまたうってつけだ。
聖級以上からは『
神撃魔術には当初あまりそそられなかったのだが、ラトレイア家に所蔵されている『神撃魔術の発祥』という本に記されていた「死霊魔術」の節を読んで考えを改めた。
神撃魔術とは人魔大戦時に魔族の操る死者を蘇らせて使役する死霊魔術に対抗して人類側が生み出した魔術。
つまり神撃魔術と死霊魔術は互いに相克の関係にあるとわかる。
そして死霊魔術とは言い換えれば生物の魂に干渉する禁術。
私はここから忌々しい自身の〝呪い〟に対する対抗策が編み出せるかもしれないと睨んでいるのだ。
私はぶっちゃけもう自身の呪いを根本から治すことは半ば諦めている。
肉体的には白子症であれどそれ以外は他人と変わらず、技術的にもこの呪いの解呪という観点では極めて絶望的だ。
だが精神や霊……目に見えない要素ならどうだろうか。
研究してみる価値は大いにある。
とはいえ死霊魔術はその性質から禁術指定を受けているから、やるなら秘密裏に地道に進めていくことにしよう。
そんな感じで私の魔術ライフは現在極めて順調だ。
今日も今日とてクリフ先輩のご実家であるミリス教団本部に足を運ぶ。
「おはよーございます! クリフ先輩!」
「ああ、おはようノア。今日も元気だな君は」
「だって今日から聖級治癒魔術ですよ! 水魔術に続く聖級! 腕がなるってもんですよ!」
治癒魔術は王級から身体の欠損すら治すことができるという。
それはつまり肉体を魔術で作るという「治癒」の一言では片付けられない神秘である。
そんな大怪我することなんてそうそうないとは思うけど、大いに興味をそそられる。
是非ともミリスにいる間に王級まで習得したいところ……!
「あ、そうだ。
ノア、ちょっと君に顔を出して欲しいところがあるんだ」
「えー……講義の前にですか?」
「そんなあからさまに面倒くさそうにするな」
いそいそと意気込んでいた私は水を差された気分になる。
ふっ、だが今日の私は機嫌が良いのだ。
クリフ先輩の頼みとあらば聞いてあげるのもやぶさかではない。
「それでご用とはなんでしょう!」
「急に乗り気になるな……。
まぁいい。実は僕のお祖父様が君に会いたいと言うんだ。
良ければ顔を出してやってほしい」
「ほう、クリフ先輩のお祖父さま……」
え? それって現ミリス教皇ってこと?
めっちゃお偉いさんじゃないですか……。
私、今日あんまりお洒落とかしてないんだけど大丈夫!?
無礼者ーッ!みたいな感じで処されたりしない?
「まぁ、あんまり緊張しなくていいと思うぞ。
お祖父様も君をどうこうしたりとは考えていないはずだ。
ただ、少し話があると」
「それ絶対なんかあるやつじゃないですかー」
なんかあったらクリフ先輩を囮にして逃げようと画策しながら、私は彼の案内に従って教団本部に何度目かの足を踏み入れる。
何回か彼の案内でこの建物を歩き回っているが未だにどの廊下がどこに繋がってどの扉がどの部屋の入り口なのかさっぱりわからない。
白塗りばっかりじゃなくてもっとカラフルにわかりやすくしてちょうだいな。
そんな迷宮のように入り組んでいる廊下をクリフ先輩はずんずんと進んでいき、あっという間に教皇さまのお部屋に到着してみせた。
さすが先輩、住めば都というやつだろうか。
「お祖父様! ノア・グレイラットを連れて参りました!」
「はい、ご苦労様です」
その部屋は途中で透明な結界に遮られており、その奥に白く長い髭を蓄えた豪奢な司教服を身に纏う老人がにこやかな顔で座っている。
彼がクリフ先輩のお祖父さまなのだろう。
何はともあれ、まずは挨拶から始めよう。
健全な関係とは友好的な挨拶から始まるのだ。
昨日貴族マナー講習で言ってた。
「初めまして! ノア・グレイラットと申します! クリフ先輩にはいつもお世話になっております!」
「はい。元気な挨拶たいへん結構。
こちらこそ初めまして、私はミリス教団の教皇を務めさせていただいているハリー・グリモルという者です。
あなたの話はクリフからよく聞いていますよ。
その齢で水聖級の魔術を行使する天才にして、アスラ王国でも力を持つグレイラット家傍流の長女にして才媛であると」
教皇さまはそう言って好々爺然として微笑んだ。
「あの、それでお話ってなんでしょう?」
「はい。ノアさん、貴女は治癒魔術の腕も相当なものであると聞きます。
今日は聖級の魔術を習いにお越しくださったとも」
「そ、そうですけど……」
えっ、何? ダメなの?
「いえ、ダメというわけではありません」
心読まないでちょうだいよ。
「ですが聖級ともなればミリス教団が独自に管理し、その権利を保持している謂わば我々の重要な資源なのです。
ですので、おいそれと人前で聖級以上の治癒魔術等の行使はお控えいただきたい」
「あっ、はい。肝に銘じておきます」
……もしかしてイジメっ子どもを黙らせるために『
は、反省したから許してつかぁさい……。
「それともう一つ」
「あ、まだあるんですね」
「はい。まだあります」
教皇はにっこり笑って言う。
すでに私はちょっとこの人苦手だ。
なんというか、こう……胡散くさいんだよね!?
猫撫で声してるヒトガミより信用ならない匂いがする!
そしてじんわりと漂う嫌な予感に私は生唾を飲み込んで聞き入ろうとする。
「ノアさん、クリフと結婚してみる気はありますか?」
「「は?」」
「クリフと結婚してみる気はありませんか?」
いや聞き取れなかったから「は?」って言ったんじゃないよ!
大事なことだから2回言いました……ってこと!?
というかクリフ先輩も豆鉄砲喰らった鳩みたいな顔してるんですけどちゃんと順を追って説明お願いします!
「お祖父様!? 聞いてませんよそんなこと!?」
「言ってないですからね。
それと今すぐということでも決定事項ということでもないのでご安心なさい。
謂わば、許嫁の提案というだけの話です」
だいぶ大した話じゃないかな、それ。
てか、どうしてそうなった!?
「突然言われても困惑するでしょうから説明をしましょう。
まず先程私が申し上げた通り、聖級治癒魔術師ともなればいかにミリス教団が治癒魔術の総本山とはいえ、そう人数が多いわけではありません。
端的に言えば、手放したくない人材であるというわけです」
うーむ。
つまり私をミリス神聖国に留めておくために首輪付けとこうってことなのかな、これ?
「それともう一つ。
ラトレイア伯爵は魔族排斥派の重鎮にして神殿騎士団『剣グループ』の大隊長を務めるお方です。
ラトレイア家からグリモル家に嫁いでいただけるのなら、無用な争いをせずに済みますからね。
早いうちに手を打っておいた方が良いと判断したのです」
なるほどね。
ミリス教団内のパワーバランスなんぞはよく知らないけど、ラトレイア家が有力な貴族だってことぐらいは私にもわかる。
私とクリフ先輩を結婚させることで関係を強化したいというわけか。
なるほどなるほど。
私は即答した。
「嫌ですっ!」
「ほう、潔いですね」
「そこまで潔いと逆に僕が傷つくぞ」
いや、クリフ先輩に不満があるとかいうわけではないんだけどね。
結婚とかまだよくわからないし。
夫婦になるってことでしょ? つまりお母さんとお父さんのようになるってことだ。
クリフ先輩がお父さんで私がお母さん……うん、やっぱ想像できないや!
だからナシ!
「貴女にとっては良い話でもありますよ?
クリフはいずれミリス教皇になる可能性が高いと私は見ています。
そうなれば貴女の将来も安泰ですし、自由にこの国で魔術を学ぶこともできます」
「まぁ将来のことはともかく魔術に関しては悪くないですね。
でも遠慮しときます。やりたいことがあるので」
けど私はここに骨を埋めるつもりはないし。
アスラに帰ってルディと決着をつけるのが当面の最終目的だ。
それまでは自由の身でいたいものなんです。
あと個人的になんか語り口が気に入らないんだよなぁ!?
こう、こっちに都合の良さげな条件ぶら下げて操ろうとしてる感というか、まだなんか隠してそう感をひしひし感じるところがさぁ!
怖いんだよね!
だから教皇には悪いがこの話はナシってことで!
その後、教皇は「無理強いも良くありませんからね。気が向いたらいつでも私に申しつけてください」と言って私達を退出させた。
なんかどっと疲れた気がする……。
かわいげのないヒトガミを相手してた気分だ。
あいつほど性根の腐った感じはもちろんしなかったが、それが逆に私を気後れさせた。
そして問題はもう一つ。
「あの、クリフ先輩。
さっきからむすっとしっぱなしですけど、どうかしたんですか?」
「別になんでもない! 気にするな!」
ずっとクリフ先輩が不機嫌なんだよねぇ。
まぁ、先程の私の言い振りだとクリフ先輩に魅力がないみたいに受け取られることもあるのかな。
クリフ先輩のことは好きだけど、それは先輩や魔術に取り組む同士としてだ。
男女の関係とかは、まだよくわからないね。
というか7才だし! そういうのやっぱり早いよ!
それから聖級治癒魔術の講義を受け、私は見事に成功させて認可をいただいた。
次は王級だ。
思い入れのある水魔術より先に王級取っちゃいそうな勢いだけど、取れるものは早めに取っておくに越したことはない。
別れ際にクリフ先輩から「いつか君に一目置かれるような魔術師になる。それまで待っていてくれ」と言われたが、あれもなんだったんだろ。
私はとっくにクリフ先輩のことをすごい人だと思っているのだが。
彼は自己評価が高いのか低いのかよくわからないことがある。
私は聖級の称号を手に入れた余韻に浸りながら、入り口近くの中庭を通り抜ける。
ここに咲いている花はとても綺麗で、なんとも言えない儚さが気に入っているのだ。
名前は確か……
「見て、サラークの樹が満開だわ!」
そうそう、サラークの樹。
そしてその花弁が舞い散る下でくるくると楽しげに踊る、私より年下だと思われる幼い女の子。
それに加え、彼女を優しく見守るテレーズさまの姿。
優雅に舞う少女は私に気づいたようで話しかけてくる。
「あら? あなた、最近偶に見るお方ですね。
実際にお会いしたのは初めてですが、今日はどうかしたのですか?」
それが私と『記憶の神子』の初対面となった。