ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
遅れてすみません!
ちょっと身内の事情でバタバタしてました。
それでは、今回もどうぞ宜しくお願い致します!
ミリス教団本部の中庭で出会った少女はサラークの舞い散る花弁がよく似合う女の子だった。
淡い薄紅色のドレスを着ているのも相まって、華奢な体躯の花の妖精という印象を私に与えた。
「やあ、ノアちゃん。こんなところで会うとは奇遇だね」
「テレーズさま! ご機嫌よう!」
少女には青い胸甲を着用しているテレーズさまが侍っている。
ということは、テレーズさまは護衛の仕事中?
じゃあ、その護衛対象っぽいこの女の子は……。
「もしかして、あなたが噂の『神子』さま?」
「ええ、そうです! ご存知だったのですか?」
「テレーズさまからお話は伺っておりましたから」
私は慣れないお嬢様言葉でそう返答した。
年下っぽい女の子に敬語使うのってなんか変な感じするね。
「ふふ、そうですか?
やりにくいのであれば、私に対して敬語は使わなくても構いませんよ」
神子さまはそう言って微笑んだ。
というか私の心、ナチュラルに読まれてない?
ミリスのお偉いさんには読心技術が標準装備されているのだろうか。
「教皇様は特別ですよ。あの方はとても洞察力に優れておいでですから。
私の場合は『神子』としての能力ありきです」
「あー! そっか、そういえばそのことを聞きたかったんだった!」
私は彼女の言葉に納得しながら、当初の目的を思い出した。
ミリス教団お抱えの『記憶の神子』。
神子と呪子の共通点である何らかの特殊技能に関連性があるかどうかを確かめたいと思っていたのだ。
元々はテレーズ様に歓談の機会を設けてもらうつもりだったのだが、ここでばったり会えたのなら話は早い。
ほとんどアポなしだが、今からでもお話しできないだろうか。
「私は構いませんよ。
あなたのお噂はテレーズや他の教団の者からよく伺いますもの。
今や教団のちょっとした有名人なんですよ、あなた」
「えっ、そうなの? ちょっと知らなかったよそれは……」
「あなたはとても目立ちますからね。
私は比較的耳聡い方なこともあり、前々からあなたとはお話ししてみたかったの」
神子さまはテレーズさまに振り返ってアイコンタクトを取る。
そこには「アポ無しだけど丁度いいよね?」という意味が込められていると私はみた。
テレーズさまは仕方ない、と肩をすくめて返答した。
そうして、サラークの樹の下でささやかな女子会が催されることとなったのだ。
---
「まず聞きたいんだけど、なんで神子ちゃんって能力があるの?」
私が疑問に思っているのはそれ。
呪子でも神子でも、例外なく特殊な能力または体質を持っているものだと言う。
じゃあ、その能力がどこから来たのか。
類い稀なる力の源泉は何なのか。
この辺りが気になってくるのは自然なことだろう。
原因がわかれば対処の仕方だって見つかるはずだ。
だからそこんとこ、日頃から能力を沢山使っていて感覚が身体に染み付いているだろう神子ちゃんに詳しく聞きたいのだ。
「ごめんなさい、それは私にもわかりません。
生まれつきなものでして」
「ですよね〜」
ちょっと肩透かしではある。
けど予想の範囲内だ。
私にかかっている呪いも先天的っぽいし、能力とは生まれつき持ち合わせている才能みたいなものなんだろうね。
「それじゃあ次、神子ちゃんは能力のオンオフってできるの?」
「できますよ」
「なるほどなるほど、やっぱりオンオフは可の……んんー!?」
当たりを引いた……だと!?
仮に能力の習熟度で呪いの出力を切り替えられるならもう解決したも同然じゃん!?
「ど、どんな風に制御してるの!?」
「こう……目頭あたりにぎゅーっと意識を集中したり、ずわーっと人の目をガン見するとなんとなくいけます」
「くっ……毛ほども参考にならない……!」
要約するとあれか、意識しないとそもそも能力が発動しない感じか?
私の場合は完全に常時呪いが漏れ漏れ垂れ流し状態なんだけど。
ということはやっぱり私と神子ちゃんの能力ってもしかして完全に別口だったりするのだろうか。
むしろそっちの方が可能性的に大なんだよなぁ。
やばい、そっちの方があり得そうな気がしてきたぞぅ。
うーん、よし。
この際、一回自分自身で試させていただこう。
神子ちゃんに見てもらえるなら、自分では気づかないようなことも明るみに出るかもしれないしね。
「神子ちゃん! 私にその能力使ってみて! それで体感してみてからもう一回理論詰め直すから!」
「あら? いいのかしら。
見られたくない記憶とか、お有りでないの?」
「私、誰に恥じるまでもない人生を歩ませていただいているので!」
まぁヒトガミのこととか内緒にしてることもあるけど、別にバレても私は困らないし。
困るのヒトガミだし。
あっ、でもこれはあんま口外しない方がいいよ。
あいつ容赦はしないから。
「重々承知しました。
それでは……失礼しますね」
チカリ、と私と神子ちゃんの目線が光を放った気がした。
あれ、気がしただけじゃない? なんか……めっちゃ光ってる!
すげー!
「ほうほう、中々に波瀾万丈な人生をして……あら?」
じーっと私達が熱い視線を交わし合っていると、神子ちゃんが不思議そうに声を上げた。
「どうしたの?」
「いえ、私の能力は目を見続ければどこまでも記憶を遡っていけるのですが……あなたの記憶は、
……どゆこと?
---
★ side:記憶の神子 ★
彼女、ノア・グレイラットの記憶を除いたのはほんの興味本位だった。
ミリス史上でも類を見ない魔術の天才。
枢機卿派にとっても教皇派にとっても、今後の勢力争いの鍵となり得るとして注目されている少女。
枢機卿派であるラトレイア家にありながら、教皇の孫とも深い交友関係を持っている彼女に対して、現在両陣営の一部から水面下で引き入れようとする者も少ないながら出始めているようだ。
神子としての能力でその辺りの腹芸には目聡い私が彼女に興味を持つのも必然ではあった。
私は枢機卿派の絶対的な切り札。
何があっても失ってはいけない最強のカードだ。
当然ながら厳重な警備と監視の中で人生の大半を過ごしてきた。
そんな私が、故郷を自らの意思で飛び出して自身のやりたいことに全力を注いでいる同年代の少女がいると聞き、密かな憧れを抱いたのもまた無理からぬことだろう。
今の教団に保護されている生活に不満があるわけではない。
平民と比べれば良い生活を送らせてもらっているし、普通は得られない厳戒体制で命の保障も行われている。
しかし、できることならば。
噂に聞くノア・グレイラットのような、自由な人生を送ってみたい。
せめて、彼女がどのように感じ、どのような気持ちで生きてきたのか。
その人生を知ってみたい。
そのように思って、運良く通りがかった彼女に声をかけたのだ。
彼女の方から記憶を見てほしいと請われたこともあり、私は嬉々としていつものように目を合わせた。
その記憶は決して楽しげなものだけでできていたわけではない。
いくつもの苦難があり、彼女なりの苦悩があった。
しかしそれを自らの意思一つで乗り越えていく様は痛快なもので、まるで等身大の英雄譚を見ているように私は感じた。
だがその最中、かつてない違和感を覚えた。
普通の人間ならば記憶はある一定の時期で途切れるものだ。
それは言うまでもなく幼少の時分、まだ己の自意識がしっかりと持てていない頃の記憶である。
私の能力は本人視点の記憶を遡るものだから、通常ならばその時点で記憶の『道筋』は途絶えてしまうはずなのに。
彼女の……ノア・グレイラットの記憶の『道筋』は、彼女の自意識が完成する遥か以前まで続いていたのだ。
こんなことは今まで数多の人間の記憶を追体験してきた自分でも初めてのことだ。
この違和感が、彼女が知りたいという〝呪い〟に関係しているのだろうか。
『道筋』を遡り、ついに意味のありそうな記憶に行き当たる。
その記憶は靄のようなものにまとわりつかれており、本人からは全く見えそうにない、彼女からしてみれば『失われた記憶』というものだと感じられた。
能力に従い、私はその靄の中に足を踏み入れる。
それに包まれた記憶は濃霧の中に紛れているように見えづらく、またところどころが大きく削り取られたように破損していた。
しかしここに彼女が求める何かがあるのなら、良い記憶を見せてもらったお礼も兼ねて、何か彼女の力になれるのならば幸いだと思って、私は辛抱強くその靄の中にある壊れかけの記憶を一つ一つ丁寧に探っていった。
『これで601基目か……フン、果たして成功するかどうか』
初めに見たのは、ゴポゴポと泡立つ液体の中。
目の前には白髪のしわがれた、しかし風格を感じさせる老人が立っていた。
『俺はお前をただ一つの目的のためだけに創り上げた。
だが残念だな。
失敗作の中では比較的マシで、小指の先程には〝至る〟可能性があるとはいえ、お前は間違いなく使えない失敗作だ』
次に見たのは、暗い実験室のような場所。
鷹のように鋭い目つきの、左右で色の違う瞳を持つ老人は、失望を露わにして吐き捨てた。
『フン……世話焼きだけは一流になりやがって。
お前はそのために作ったわけではないと、何度言ったらわかるのか』
一転して、朝日がわずかに差し込む木組みの小屋のような場所。
朝食を頬張る老人は相変わらず偏屈さに満ちていた。
『まともな役に立ちそうもないお前に朗報だ。
せめてこの実験でくらいは、俺の役に立ってくれよ』
そこで見たのは、満天の星空。
月明かりの下で、彼女は老人の言葉に勢いよく頷いた。
『結局〝至る〟ことのなかった失敗作とはいえ、お前にはそれなりに使い道がある。
……いいか、必ずや使命を果たせ。
お前の存在意義は、ただそのためにあるということを忘れるな』
視点は再び、泡立つ液体の中に戻る。
老人は彼女が浸かっている液体を覆う透明なガラスに手を当てながら、顔を伏せてそう言った。
そして老人は次の瞬間、顔を上げ——
『いいな……いつか必ず、ヒトガミを殺せ』
苦悩と執念に満ちた眼光で、記憶が途切れるまで、いつまでも彼女を見つめていた。
---
神子ちゃんは私の記憶を読んだ後、テレーズさまを人払いに当たらせた。
なんでも、2人きりの話にしておいた方がいいとのことらしい。
そこで彼女から聞かされたのは突拍子もない話。
私には生まれるよりもさらに前に人生があり、そこでは正体不明の謎の老人と2人で暮らしていた。
私はその老人の娘?っぽい何かだったらしく、老人にはある者を殺すために育てられたのだという。
そしてそのある者とは、私の腐れ縁ことヒトガミなんだとか。
マジか……私の前世?はヒトガミをぶっ殺すために産まれたのか。
なんかあいつのために生きてあいつのために死ぬとか嫌だな。
今度文句でも言いに行くか。
いや、でもあいつがいなかったら前世の私が産まれてこなかったってこと?
じゃあ文句じゃなくてお礼にでも言いに行くか。
「……あの、あんまり驚いてらっしゃらないのですね」
「いや、驚いてはいるよ? ただねぇ、実感が得られないって感じ」
だってその『失われた記憶』とやら、私には知る術がないんだもの。
私は私の人生で、その記憶がなくても後悔なくやってこれた。
だから私の印象としては、知らない他人の記憶と大差ないのだ。
「でも、これでまた一歩前進ね!」
「え?」
「だってこれで私の〝呪い〟がその……私の前世?由来のものっぽい可能性出てきたじゃん?
まだ私が〝人間に勝てない〟っていう部分とどう関わってるのかはわからないけど、なんかとっかかり掴めそうな重要情報だったし……!
ありがとう、神子ちゃん! あなたのおかげで私、これからも頑張れそう!」
神子ちゃんは驚いたように目を見開き、そして眩しいものを見るように目を細めた。
「……そうでしたね。
あなたは今までもそうやって乗り越えてきたのでした。
きっとあなたなら大丈夫。
記憶にも何にも縛られることなく、自由に人生を生きていくのでしょうね。
こちらこそ、良い経験をさせていただきました。
ありがとうございます!」
その後、私達はまたお茶会でもしようと約束して別れた。
初めてできた同年代の女の子の友達だ。
今日は本当に得られたものが多い。
とりあえず、このミリスでできることが終わってからやることは決まった。
記憶の中にいたという老人、またはその人が生きていた痕跡を探すこと。
まるで突破口が見えない研究に目処が立ってきた。
私は期待に胸を膨らませて、ラトレイアのお屋敷に帰るのだった。