ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
今回でミリス編は終了です。
次回のプロットは一応作ってあるのですが、細部の設定を詰めるべく原作を読み直すのでちょっと次の投稿は時間が開くかもしれません。
さすがに半年待たせることはないので、気長にお待ちいただけると幸いです。
それでは、今回も宜しくお願い致します!
私がミリス神聖国に来ておよそ三年近くの月日が経とうとしていた。
魔術の習得はいよいよ大詰めに入ってきている。
あとは王級治癒魔術の資格を取れば一旦故郷に顔を出そうと思う。
私ももう9歳になるし、10歳の誕生日は家族水入らずで祝い合いたいものだ。
ただ、今のペースだとギリギリ間に合わなさそうというのがもどかしいところだけど。
治癒魔術以外の魔術も順当に力を付けている。
解毒と神撃は上級の認定を貰ったし、結界に至っては聖級だ。
取り敢えずの及第点は果たしたといったところだろう。
3年目はほとんど結界魔術の鍛錬と研究に注ぎ込んでたし、そこそこ自慢の出来に仕上げたつもりだ。
ガダルフ先生にご教授してもらった召喚魔術も上級まで習得し、もう教えることはないと皆伝を頂いた。
精霊召喚も基本的には大体扱えるようになったし、魔獣召喚の方も使役する魔獣はこれから見繕っていくつもりだが、基本的にはマスターしたと言って良いだろう。
目ぼしい魔獣は見つかってないんだけど、何がいいかな。
ドラゴンとか憧れるよね、飛べるし頭良いらしいし。
食費エグそうだけど。
付与を始めとした魔法陣関連の技能も結界魔術と組み合わせて面白いことができそうだったので、かなり研究に労力を費やした部類ではある。
今はまだ実験途中だが、成功すればまた一歩先のステージに進むことができるだろう。
でもこの中で1番苦戦を強いられたのは解毒魔術なんだよね。
だってこの魔術だけ異常に詠唱長い上に莫大な数の術式があるんだもの。
まぁ、これも数々の症例に対応しようとした結果であり、先人達の苦労の積み重ねと思えばそれなりに愛着を覚えるものだ。
でも流石に一節一節がバカ長いからちょっと短縮詠唱にさせてもらいました! 許してネ!
お母さんにお世話を頼まれたノルンも順調にすくすくと成長している。
最近では私が論文を執筆している隣でお絵描きしたり、絵本を読んだりしている姿が実に微笑ましい。
将来は作家になるのかな? 気は早いが、今から大人になったノルンが楽しみだ。
そんなノルンからはよく本の読み聞かせを強請られたりするのだが、微妙に好みに食い違いがあったらしく、最初の頃はそのすり合わせに苦労した。
私はブエナ村の我が家にあった『ペルギウスの冒険』が物語として大好きで、ちょうどラトレイア家にも蔵書されていたので引っ張り出してきたのだが、ノルンには合わなかったらしい。
その後色々と読み聞かせた結果、ノルンの好みは冒険活劇よりも人情モノの物語だったようだ。
そういえばルディも『ペルギウスの伝説』とか『三剣士と迷宮』とかよりも図鑑派だったからなぁ。
その辺りの好みとか、血のつながりを感じてほっこりする。
でもペルギウスも面白くない? 面白いよね……?
そんなこんなでミリスでの勉強も生活も充実してきたある日、故郷ブエナ村から一通の手紙がラトレイアの屋敷に届いた。
差出し人の名義は父さまであり、そこに書いてあったのは驚くべき衝撃の報告だった。
『親愛なる娘、ノアへ。
元気にしているか? してるんだろうな、お前はいつも元気いっぱいだった。
ちなみに父さんは死にかけているんだがな、色んな意味で。
端的に言うとな。
ゼニスがいない間、リーリャに手を出しちまった。
それで、やることやったらそりゃできるわなってことで……できちまったんだな、お前の妹が。
当然、帰ってきたゼニスは怒髪天を衝く勢いだった。
ルディが取りなしてくれなかったら俺は今頃リングス海の沖に沈められて水龍の腹の中だったろう。
それでな、帰ってきた時に知らない妹が我が家に居たら流石のお前も混乱するだろうし、こうやって手紙で伝えさせてもらった。
言いたいことは色々あると思う。
そっちはノルンの世話とかもあるだろうし気軽に帰って来いとは言えないんだが、できれば詳しい弁明は俺の口からさせてほしい。
咎める人間がいない間に間違いを犯してしまい、すまない。
本当にすまない。
この通りだ。
最後になったが、お前の勉強と安全を心より祈っている。
元気にな。
煩悩溢れる女の敵 パウロ・グレイラットより』
「…………………スーーーーッ」
あまりの情報量に思考を一時停止させ、大きく息を吸って深呼吸した後。
「何やってんだッ、あのバカ親父ィーーー!!!!」
おそらく家族に対して一生出てこないと思っていた口汚い罵倒が、ラトレイア邸にこだました。
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我らが過激派お婆ちゃんは報告を聞き、顔を上げていの一番にこう言った。
「絶縁ですね。
ありったけの神殿騎士を向わせます。
聖戦ですよコレは」
「「「どうどうどうどう」」」
走り出したら決して歩みを止めることなく進み続ける進撃のクレアをなんとか引き留めるべくラトレイア家の全戦力で羽交い締めにする必要があったのはここだけの話だ。
でもまぁ気持ちはめちゃくちゃわかるというか、目の前に激昂する老婆がいるおかげでまだ平静が保てているだけで、私も割と結構憤慨している。
だってそうでしょ?
お母さんはあんなにお父さんのこと〝信じてる〟って言ってたのに!
これじゃあさすがにお母さんが不憫に過ぎる。
「……ノアさん。
魔術の進捗は?」
「いい感じです。
完璧とはいかずとも、あとは自力で賄える範囲内かと」
「宜しい。
では貴女に頼みます。
必ずや彼の淫魔のなり損ないに天誅を与えて参りなさい」
「実の父ですのでそのように悪し様に言われることには異議を申し立てたい所ではありますが、わかりました。
その要請、承ります。
取り敢えず、ありったけ強化した平手でぶってきますね」
「頼みましたよ。
ノルンさんのことはこちらにお任せなさい。
貴女の不在の分まで、立派なミリス淑女に育ててみせましょう」
「それはそれでなんかちょっと心配なんですけど……。
お任せ致します、どうか健やかにノルンを育ててください」
私達は3年間で1番息の合った怒濤の協議の末、ノルンをラトレイア家に預けての私のブエナ村帰還が決定された。
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「というわけで、急遽実家に戻ることになりました」
「相変わらず嵐のような奴だな、君は」
クリフ先輩は呆れたように嘆息した。
彼にはこの3年間、本当にお世話になった。
質の良い魔術の講義を受けることができたのも彼の計らいに依る所が大きい。
貴族学院での生活においても彼は何かと手を貸してくれた。
学院は全て貴族の子息令嬢で構成されているが、もちろんそれは一枚岩ではない。
貴族の中でも身分の違いというものがある。
私はその中でも最底辺という立ち位置に居ながら、学院の上位層に噛み付けるという何とも奇妙な状態だ。
当然、私は無闇に誰彼構わず噛み付くような狂犬ではないのだが、噛み付く力があるというのは事実。
ということで気づいた時には学院の下位層の人達にいつの間にか御輿にされてました。
まぁ派閥が増えれば手出しもされにくくなると甘んじて受け入れて、たまーに突っかかってくる上流の方々にメンチ切ってたら段々と大所帯になってね。
その取りまとめをしてくれたのがクリフ先輩だ。
マジで頭上がらないんだよなぁ、この人には。
「正直言って今君に国を去られるのは色々な意味で困るんだが、安心しろ。
学院の派閥の面倒は僕に一任しておけ。
上の方にも話を通しておいてやる」
「いやマジで本当にありがとうございます……」
「気にするな、僕も打算ありきだ。
将来のための基盤作りと考えれば安いもんだ」
頼もしすぎる……!
流石は教皇の孫といったところだろうか。
既に風格を纏いつつあるぞ……。
「とはいえ在学中にはついぞ魔術で君には追いつけなかったな」
「まぁ、私はそれしかやってこなかったし……」
「プライドの問題だ。
いずれ国を治める者として、後輩においていかれてばかりじゃ寝覚めが悪い」
クリフ先輩はニッと笑って言う。
「首を洗って待っていろ。
いずれ君も驚くような立派な男になってみせるさ。
だから君も、必ず夢を叶えろよ」
「うん! ありがとうクリフ先輩! 私、あなたに会えて本当に幸運だった!」
私達はがっちりと握手して、そのまま別れた。
互いに目指すべき目標がある。
その道が交わるかどうか今はわからないけれど、次に会った時お互い恥じる所のない人間でいようという、決意を胸に。
出発は明日だ。
思えばこの国では苦しいことが多かった。
しかしそれ以上に多くの物を得られ、私の成長の糧になった。
ミリス神聖国。
美麗と醜悪、光と闇の両方を孕みながらも、色褪せることなく輝きを放つ大聖堂を横目に、私はラトレイア邸へと戻るのだった。
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「ねぇ、ヒトガミは不倫ってどう思う?」
「1番俗世に関係のない僕にする質問じゃないよね、それ」
「でも私が知ってる限り一、二を争う俗っぽさだよ」
「表出ろ」
俗神ヒトガミはそう言って中指を立てた。
1番表に出てこない奴に言われても……って感じなんだよなぁ。
「まぁ愚痴った相手が悪かったか、これは」
「そりゃ良かったよ。
これに懲りたら2度と不法侵入して来ないでくれ」
「考えてみれば恋愛経験ない奴に話振ってもしゃあないよね」
「特大のブーメランなんじゃないのかい」
引き篭もりに比べれば出会いの機会は多いと思うよ。
それにまだ色恋にはあんまし興味無いのでノーダメでーす!
「それで、明日から父親をぶん殴りに帰省すると」
「そそ。一年以内には帰りたいとこだよね」
「任せてくれ。
頑張って道中を盗賊で埋め尽くしておくよ」
「余計なことせんでいい!」
憎まれ口しか叩けないんだからもー。
でもこういうところがほっとけないんだよね。
根本から人を信用してないというか、人を下に見てるというか。
いずれそこら辺で足を掬われるんだろう。
「んじゃ、明日は早いからこの辺で帰らせてもらうけどさ」
「そもそも来んなよ」
「なんか困ったことがあったら素直に頼みなよ。
できる限りは力になってあげるから」
「あっそ、そんな未来が来たら僕はもう終わりだろうさ」
私はしっしっと手を振って追い返すヒトガミに苦笑しながら、無の世界を出て行った。
「帰省ねぇ……君の姿は僕から見えないから盲点だったよ。
この時期、ミリスからアスラに帰るとして……道中ではアレがあるな」
ヒトガミは性悪に笑った。
「僕が関わった事件じゃ君は殺せない。
けど……偶発的な災害に遭うことを、黙っているのはセーフだろう?」
全てを見通す視界には、火の海に沈む
「何はともあれ……半月後の〝王竜祭〟が楽しみだ」
悪神はそう言って、災厄の未来に思いを馳せた。