ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
感想・評価等をさらに追加していただけたなら、蒸気機関をブン回すための良いエネルギー源になることでしょう。
「おっ!」となるお言葉も多くあり、感想読みは非常に楽しいですよね。
それでは、今回もよろしくお願い致します!
「〝汝の求める所に大いなる——」
「『水弾』」
一直線に飛来した水球が、バシャアと音を立てて私をずぶ濡れにする。
あれから私たちは、訓練の終わりに水魔術の一本勝負をすることになった。
私の強い要望である。
ロキシーもその方が上達が早いと思ったのか、割と簡単に許可が出た。
最近では彼女もノリノリで審判をしている。
まぁ、もっとも判定負けに持っていくことすらできない有様なのだけど。
私もこの1ヶ月間でかなり上達したと自負しているが、この水合戦勝負では未だ一度もまともに魔術を発動させることすらできていない。
今の私は中級の水と風の魔術を習得しているレベルで、既に魔術師としては結構な手前だとロキシーには太鼓判を貰っているのに、だ。
使っている魔術は同じ。
威力に制限があるので、魔術自体のスピードもほぼ同程度。
しかし、私とルディでは勝負にならない。
歯痒いことだ。
そのルディの圧倒的な勝率10割を支えているのは、やはりなんと言っても無詠唱魔術だろう。
長ったらしい詠唱を全部さっ引いて魔術を使うんだから、そりゃあ速度で勝てないわけだ。
そして私が詠唱魔術しかできない限り、ルディに勝つことは不可能となる。
ならば仕方がない。
わからないならルディに頭を下げてやり方を聞こう。
姉の威信は地に落ちるだろうが、これ以上足踏みしているわけにもいかないのだから。
「だからルディ! 私を立派な無詠唱魔術師にしてちょうだい!」
「まぁ、いつかそうくるだろうなとは思ってましたよ」
ルディは苦笑しながらそう言った。
双子なだけあって、ルディはやっぱり私の性格をよくわかっていた。
「ですが、僕も感覚でやっていることなので上手く説明はできないかもしれません」
「大丈夫! ちゃんと自分で理解するよ!」
「わかりました。他ならぬ姉さまの頼みですからね。
ではまず、姉さまが普段どんな感覚で魔術を使っているかを教えてください」
「了解!」
私はルディの言う通り、普段『水弾』を使う時の意識の仕方を話した。
詠唱を発動し、魔力の脈動を感じたら、それを見えない手でこねくり回すように操作するあの感覚を。
身振り手振りと時には擬音を駆使して、精一杯伝わりやすいように仔細を説明した。
ルディはそれを聞いて、んー、としばらく考えてから再び口を開いた。
「姉さまはもうほとんどできてると思いますよ、無詠唱」
「えっ!? そうなの!?」
「はい。そもそも無詠唱っていうのは詠唱が自動的にやってくれる作業を手動でやるだけです。
さっき聞く限りでは、姉さまはサイズ・射出速度調節の際に既に手動でやっているみたいですし」
どうやら私は既に無詠唱魔術の極意とやらを掴んでいたらしい。
きっと誰よりもそれに詳しいのはルディだろうし、間違いはないだろう。
「じゃあ、私も今すぐ無詠唱が使える……ってこと!?」
「いや、それだけじゃ多分ダメなんですよ。
姉さまは詠唱を使うことによって魔力を知覚し、そこから操作しているから詠唱が必要になっているんだと思います。
だから、まずは何の詠唱もしていない素の状態で魔力を認識できるようにしてみてください。
それさえできれば、すぐに使えるようになると思いますよ」
身体の中の魔力を、何にもない状態で掌握するということだろうか。
それなら明日の訓練の時間に、もっと詠唱の瞬間を事細かに探れば、感覚が掴めるようになるかもしれない。
さすがルディだ。
私が今必要としていることと、それを叶えるために最適な方法を教えてくれる。
やっぱりうちの弟は天才なんだと、改めて実感した。
—-
さらに半月が経過した後、私は身体に流れる魔力をしっかりと嗅ぎ取れるようになっていた。
ここまでくるには、なかなか大変なものがあった。
まず、ひたすら『水弾』を発動し続け、それに伴う魔力の流れを読み取る。
これを反復することで、自然と魔力を認識し、操れるように骨身に刻みつけるのだ。
魔術を使って、使って、使いまくり、身体の中を巡る熱の軌跡を染み付ける。
熱の源泉はどこか。
どう絞り出すのか。
経路はどうなっているのか、どこに流れていくのか。
それらを地道に何度も、繰り返し繰り返し練り上げ、精度と素早さを上げていく。
そしてついに、無詠唱魔術の扱いに成功した。
「うぉっしゃあああぁーーー!!!」
私は狂喜乱舞し、あまりの興奮と感動で雄叫びを上げた。
字面の通り、女の子らしさなどこれっぽっちも感じられない声を張り上げた。
「まさか本当に習得してしまうとは……ルディといい、やはり天才とはいるものなんですね……」
「やった! やりましたね、姉さま! すごいですよ!」
「ふぅーーっ……」
成功したのはまだ一発だけ。
それでも私の額には汗がだくだくと流れ落ちていた。
高鳴る鼓動と、新たな道が開けた解放感。
そして、「やってやったぞ!」という達成感が私の感情を席巻していて、しばしの間そのえもいわれぬ感覚を無言で噛み締めた。
「えへへっ! いいなぁ、これ。すごくいい!」
一度やり方を覚えてしまえば、それはとても自然であるように思えた。
手のひらから魔力を絞り出し、見えない手をそっと添えるようにして形作る。
魔力が水となり、そこに加えた魔力の支えで中空で螺旋を描くようにほとばしらせる。
陽光を発散させ、キラキラと虹色の光を透過させる私の魔術。
こんなに自由な魔術があったんだ。
「ね、ルディ! さっそく勝負しようよ! 今なら勝てる気がするわ!」
「もちろん! ただ、僕にもプライドというものがありますからね! 簡単に負けるつもりはありませんよ〜!」
そして私たちはいつものように位置に着き、いつものように腕を構える。
最初にこうした時は、そもそも勝てると思っていなかった。
ただ当然のように負け、それで自分の位置を再確認することが目的だったからだ。
けれど、今回は違う。
全力で勝ちに行く。
今は私もルディも互角なんだ。
使う魔術も、威力も、速さも、精度も、技術も全て同じ。
ならきっと——
「「『水弾』!!」」
私たちの手で放たれた水弾は互いを掠めてすれ違い、目標に到達し、バッシャア!と飛沫をあげて崩れ去る。
勝敗はきっと、誰の目から見ても明らかだった。
「そこまで! 勝者ルーデウス!」
ふぅ、といつぞやのように仰向けになりながら留めていた息を吐く。
少なくとも、勝負にはなっていた。
今までのようにただ蹂躙されるだけの塩試合ではなかったとは断言できる。
それでも明らかにルディの魔術の方が速かった。
うーん、なんでだろう?
おかしいなぁ。
勝てると思ったんだけどなぁ……。
「……なんで負けたんだろ」
「姉さま、えっと」
おっと、私としたことが柄にもなく辛気臭い顔をしていたか。
ルディがなんだか申し訳なさそうな顔をして駆け寄ってくる。
ルディは実力で勝ちをもぎ取ったんだし、もっと自信満々でいて欲しかったんだけどなー。
けれど、いつまでも寝っ転がったままではいけないだろう。
「大丈夫ですか……?」
「ん、もう大丈夫! ありがとね、ルディ。心配してくれて」
「いえ、いいんです。こちらこそ、すいませんでした」
「もーっ! そんな顔しないでよ!
ルディは勝ったんだから、もうちょっと自慢気にしてて! ね?」
「……はい、これからは気をつけましょう」
ルディは気遣うような微笑みを浮かべて、その場はそれでお開きとなった。
思えばこの頃から、私はちょっとずつズレていったのかもしれない。
けれどまだ決定的ではなく、いつもとさして違わない授業風景だった。
—
その日の夜は反省会をしなかった。
なんとなく、先ほどの敗因は自分一人で考えたかったからだ。
手慰みに魔術教本をパラパラと意味もなく捲りながら思考を回す。
なぜ勝てなかったのか。
落ち着いて考えてみればすぐにわかることだった。
それは経験だ。
無詠唱魔術は魔術における全ての発動工程を、自らの魔力操作技術で賄う。
ルディに聞いたところ、その強みは魔力を自由に整形・変質させられる応用力、詠唱を省き、サイズと速度の調節で魔力を追加する際の術式の待ち時間を短縮できることにあるそうだ。
つまりどういうことかというと、無詠唱魔術を互いに撃ち合う場合は、それに慣れ親しんで経験を積んだ者の方が圧倒的に有利となるわけである。
ルディは2歳くらいから既に無詠唱魔術を習得し、自在に使いこなしていた。
対して私が無詠唱を行ったのは今日が初めて。
そりゃあ、勝てる道理などこれっぽっちもありはしない。
それなのに舞い上がっちゃってまぁ……恥ずかしい限りだ。
「じゃあ、どうやって勝てばいいんだろ……」
ひとしきり考えた後、そうポツリと呟いた。
だって、それが正しいならどう考えたって勝ち目がない。
経験の分だけ強いなら、先に始めたルディに一生経っても追いつけないからである。
まぁ、私も子供だったこともあり、どれだけ才能に恵まれていても頭打ちはあるのだと知らなかったため、ルディが際限なく強くなってしまうと思ったのだ。
「……何か、別のことをやらないと」
しかし、だからこそ私はルディの後追いをしているだけではダメなのだと、早々に悟ることができた。
でも、どうしたらいいのか。
どうすればルディのあの早業を超えられるのか。
それがどうしても思いつかなかった。
私が無意識に魔術教本を手に取っていたのは、そこになんらかのヒントがあればいいな、という淡い期待がそうさせたのかもしれない。
もっとも、無詠唱魔術師の倒し方なんてものが載っているはずもない。
思考が袋小路に追い込まれ、今日はもう寝ようと思ってページを捲る手を止めた。
しかし、本は閉じられることはなかった。
ちょうど広げられたその頁に書かれていた記述から、目が離せなかったからだ。
そこには《詠唱短縮》についての記載があった。
そしてさらに、ルディの言葉が甦る。
《魔術は生成、大きさの調整、射出速度の調節、発動の順番で——》
「……あ」
雷の如く、天啓が舞い降りた。
これならいけるかもしれない、と。
私はその翌日から、ひたすら初級魔術の詠唱と向き合う日々が始まった——。