ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
マジで感想読むの楽しくて一日中ニヨニヨしてます。
感想さらにいただけたならきっと1ヶ月はニヨニヨが止まらないと思います。
本当ありがとうございます!
では、今話もどうぞよろしくお願い致します!
魔術の発動手順。
まず最初に生成。
次にサイズを決め、その設定が終わったら速度を調節。
そうして、やっと完成形の魔術として発動ができる。
これらの手順は詠唱によって受け皿があらかじめできており、それに自身の魔力を当てはめることで、半自動的に術式を発動させる。
対してルディや私が使う無詠唱魔術は、この工程を全て手作業で賄うことで詠唱を完全に省略する。
しかし、魔術の発動方法は他にもいくつか存在しており、そのうちの一つが「詠唱短縮」だ。
これは熟練の魔術師が術を行使する際、本来の詠唱を省略して発動させる高等技術である。
無詠唱を身につけた私には、その短縮の理屈がなんとなく理解できた。
熟練し、術への理解が深まるにつれ、その魔術における魔力の動きを感覚的に理解していったのだろう。
そして生成、サイズ、速度、発動の四段階のうちどれかの工程を無詠唱でできるようになったから短縮できたのだ。
このことから、私の中には一つの仮説が浮かび上がった。
もっとも、仮定に仮定を重ねたような、子供らしく稚拙で理論的にも大きく穴があるものだったけれど。
その仮説とは、「詠唱の文字列は生成・サイズ・速度・発動に相当する記述でできているのではないか」ということ。
さらに使い手が無詠唱魔術を使えるなら、任意で詠唱する部分としない部分を選べるのではないかと考えた。
そして「速度」にあたる記述のみを口で詠唱すると同時に、手動である無詠唱で生成・サイズ設定を行えば、相手より一手早く魔術を発動まで持っていけるのではないか。
こういった理論が頭の中に思い浮かんだのだ。
わかりやすくするならば、本来は「生成→サイズ設定→速度設定→発動」の運びとなる所を、「生成&速度設定の詠唱→サイズ設定&速度設定入力完了→発動」にすることで、無詠唱よりもさらに早く術を完成させることができるということ。
タイミングがかなりシビアなことになるが、もし習得することができたなら、確実にルディの速さを超えられる。
これをモノにすれば、勝てる。
---
そう思い至ったならば話は早い。
元より私は、こうと決めたら一直線に突き進んでいくタイプだ。
4歳ちょいという幼さでありながら、その時の私はもしかすると人生で最も研究と修練に没頭していたかもしれない。
まず私が取り掛かったのは、とにかく『水弾』の詠唱を解析すること。
どの部分が生成・サイズ・速度・発動に相当するのかを把握できなければお話しにならないからだ。
詠唱の記述を一節省いたり、一言抜いたり入れ替えたり。
もしかしたら発音が関係しているかもしれないと考えて、暇があればアーアーウーウーと呟いたり。
時にはロキシーに話を聞いたりと、できそうなことは愚直に全て潰していった。
家族が全員寝静まってからも、小さなランプの灯りを頼りに延々とぶつ切りの詠唱と魔力操作を続けること、実に2ヶ月。
その結果、ついに理論が実践レベルで形を成した。
速度調節にあたる文脈を探し出し、それを針に糸を通すようなタイミングで無詠唱のサイズ設定直後に入力する。
いける。
勝てる。
そう思った。
「〝流れをい——」
「『水弾』」
「おぶふぉっ!」
ダメでした。
短縮しても詠唱は詠唱。
ルディを相手にするなら悠長に過ぎる行いだった。
私の4ヶ月が文字通り水泡に帰した瞬間であった。
「くぅおぁおー! 今度ごぞ勝゛てるど思っだのに゛いぃ!!」
「姉さま!? ちょ、ちょっと落ち着いてください! さすがに根を詰めすぎですって!」
「ええい、これが落ち着いていられるかぃ! こうなったらとことんやってやるわよーー!!」
思い返しても情緒不安定すぎる。
あの頃の私は
普通なら「やっぱダメだったか」と泣き寝入りする所を、私の子どもっぽいプライドが「いやこれ絶対間違ってないもん!」と強突張りに主張していた。
そうして三日三晩考えた挙げ句、思い至ったのは今の詠唱じゃどうやってもムリという事実。
またもや袋小路に陥った私は、ついに禁断の領域に手をかけることになる。
それは多分無駄すぎて今まで誰も考案してこなかったことだろう。
「はぁ……。
いっそ魔術の速度設定する詠唱作ろっかな……」
それも全ての魔術に組み込まれているであろう速度調節機能、その専用にしか使えず、それ単体ではなんの効果も影響も与えられない術式の開発だ。
しかも、できるだけ一言かつ一瞬で終わるような簡潔な詠唱文が望ましい。
そこからはまたもや試行錯誤の毎日だ。
魔術を使いまくり、速度調節の感覚をさらに鋭敏にし、魔術に「速さ」を与える魔術を作り出す。
ありとあらゆる魔術の詠唱に基本搭載されているものであるため、私は『水弾』の他にも初級、中級の様々な魔術の解析にも乗り出した。
来る日も来る日も詠唱を考えて、そのためにロキシーに難しい単語を習ったり、独自の言語でやればいいんじゃないかと迷走して結局ボツになったり、行き詰まった息抜きに上級魔術の練習をしたりした。
そんな日々が半年ほど続いた頃。
「できた……!」
ついに望んでいたものが完成した。
詠唱にかかる時間は早口で言えば1秒かからない。
前よりも格段に無詠唱操作と組み合わせて使いやすいような詠唱だ。
ここまでやれば絶対に越えられると思える出来だった。
「ありがとロキシー! ロキシーが手伝ってくれなきゃ絶対できなかったよ!」
「いえ、いいんです。私にとっても貴重な体験でしたので。
しかし、この歳でまさか独自の魔術を開発してしまうなんて……。
はは……ちょっと才能の差に凹んでしまいそうです」
「えー、でもロキシーはまだ私が使えないやついっぱい使えるじゃん。
そんな落ち込むことないって! ロキシーもすごいんだから、ちゃんと自信持ってよね!」
「ふふ、ありがとうございます。
せっかくノアの研究が成功したのですから、暗い顔をしている場合ではありませんでしたね。
まずは、おめでとうございます、と言うべきでした」
「ふふーん、どんなもんですかい!」
この期間で、私とロキシーの間には以前よりも深い絆ができていた。
詠唱の研究にあたり、最も私の助けになってくれたのは彼女だったからというのもある。
けど、一番大きいのはこの研究のことをルディには秘密にしていたことだ。
元々ルディ対策に立ち上げた一大プロジェクトであったため、ルディに詳細を知られるわけにはいかなかった。
知られてしまえば簡単に対処されるだろうことは明白だったし、何より成長した私の姿を見せてびっくりさせたかったから。
あの落ち着いたルディの顔がギョッとする瞬間を想像するだけで無限のモチベーションが湧いてくるというものだ。
ぶっちゃけ多分バレバレだったろうけどね。
こういうのは気の持ちようが大事である。
そんなこんなで女二人の秘密の研究生活を送るにつれ、私たちの距離は前よりぐっ、と近くなった。
隠し事の共有っていうのは、やっぱり子供心にテンションが上がるのもあったしね。
私もロキシーも即断即決で突っ込んでいく性質なので妙に話が合うこともあり、研究に疲れたら駄弁ったりしてお互いの内心がよくわかったのも大きいか。
まぁ、それはそれとして。
ついにお披露目の時間がやってきた。
—-
「それでは両者、位置について」
無言で腕を伸ばして構えを取る。
私もルディも集中していて言葉を発することはなかった。
私は自信ありげに笑みを浮かべ、ルディはそれを見て何かを察したのか、警戒してこちらに更なる集中でもって迎え撃った。
「初めッ!」
号令と同時に二人の魔力が練り上げられる。
ほぼ互角の速度の魔力操作。
しかし、ルディの方が瞬き数瞬くらい速かった。
だが、私は魔力を練ると同じくして、用意していた詠唱を一瞬で口にする。
「『
「!」
私の口からほとばしった聞き覚えのない詠唱に、ルディの目が見開かれる。
両者共にサイズ調節まで行っていた魔術は、私の方が瞬時に速度設定を完了した。
わずか一秒にも満たない差。
それでもその差は大きかった。
「『
その日、私は初めてルディより速く魔術を発動させることに成功した。
そして自身の勝利を確信した。
『水弾』は狙い違わず、真っ直ぐ、真っ直ぐに、
ルディの顔にあたるその直前。
「————は?」
あまりのダイナミック軌道変更に私の意識は完全に奪われてしまった。
「なんッ、ウボァ!」
そして遅れて飛来したルディの『水弾』によって水浸しになりながら、毎度いつものごとく仰向けに倒れ伏す。
いつもなら「悔しい!でもやっぱすごいなルディは!」となる所だったが、今回ばかりは話が違かった。
「……え、なん、でぇ?」
意味がわからなかった。
わからなすぎて、頭がどうにかなりそうだった。
私の魔術は完璧に動作していたのに。
ほころびなんて一つもなく、絶対に当たるはずだった。
なのに、突然、誰の手も借りていないのに、誰かの手で捻じ曲げられたかのように、『水弾』はルディを避けて飛んでいった。
当たらないということが、まるで
私は起き上がって再戦を申し込んだ。
絶対おかしい。
今のはさすがに勝っていたと、駄々っ子のようにみっともなくごねた。
ルディもロキシーもそれを了承した。
わけがわからなかったのは、彼らも同様だったのだ。
その後、日が暮れて、私の魔力が空っぽになるまで勝負を続けた。
放った『水弾』は100を超えていただろう。
その全てが、自分の意志であるかのようにルディを避けてあらぬ方向に飛んでいった。
泣いて泣いて、泣きながら魔術を行使し、気づいたら魔力欠乏で倒れたのか、ベッドの上で寝転んでいた。
——その日の1週間後、お父さんが王都から大金を払って連れてきた鑑定士によって、私の「呪い」が発覚した。
—-
そうして全てが終わった夜。
私は不貞寝して、夢を見ていた。
明晰夢、というやつだろうか。
やけに五感がしっかりしていたから、そう思った。
そこは全てが白で構成された、無の空間だった。
「……君、どこの誰だい?」
目の前には全身がもやもやとしていて、詳細を判別できない、しかしてはっきりと存在しているとわかる、ヒトの姿があった。
それが、私とヒトガミのファーストコンタクトである。