ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す -   作:抹茶れもん

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前話でロキシーは時系列的に短縮詠唱使えないよ、って指摘をいただいたので軽~く修正しておきました。
今後も私のガバガバゆるるん原作知識が炸裂するかもしれません。
そん時はぜひとも感想などで教えていただければ、作者は滂沱の涙を流して喜びます。
ぜひ、今後とも拙作と付き合っていただければ幸いです。
それでは、今回もどうぞよろしくお願い致します!


第七話 「呪子」

 時は一週間前に遡る。

 私が魔力を使い果たし、泣き疲れて眠ってしまった日の翌日のことである。

 

「ノアは呪子なのかもしれません」

 

 

 昨日の尋常ではない出来事を共有するため、我がグレイラット家では緊急家族会議が開催されていた。

 神妙な顔で音頭をとっているのはロキシーだ。

 彼女はこういったことに理解があるようで、自ら進行役を買って出てくれた。

 

「わたしはラノア魔法大学という所で魔術を学んでいましたが、その中には呪いにかかっているという人も多くいました」

「じゃあ、ノアにかかってるっていう呪いが何かってのもわかるのか!?」

 

 お父さんは身を乗り出し、鬼気迫る様子でロキシーに問うた。

 何を隠そう、このことに関して最も気を揉んでいたのはお父さんだったろうから。

 溺愛している娘の異常は何としてでも対処しておきたかったはずだしね。

 だが、その前に私はロキシーに聞いておきたいことがあった。

 

「ねえ、ロキシー。そもそも呪いって何なの?」

「ああ、そうでした。

 ノアやルディには説明していませんでしたね。

 呪いというのは、その人が持って生まれた……特別な障害のようなものです。

 一説には特別な魔力が関係しているとも言われていますが、詳しいことはまだ何もわかっていません。

 故に、呪いと呼ばれています」

「……」

 

 そんなものが自分にかかっているなど、にわかには信じ難かった。

 だって今までそんな兆候なんぞなかったのだから。

 それでも、ロキシーが本当に正しいのだろうことは、なんとなく理解できた。

 彼女自身の言葉に実感のようなものがこもっていたからかもしれない。

 とにかく、私はその時、「ああ、自分は呪われているんだな」とストンと腑に落ちたのだ。

 納得したわけじゃないし、なんで私なんだよって思ったけど、それならまぁ仕方ないかという諦念にも似た不思議な落ち着きがあった。

 

 でもそうじゃない人だってもちろんいる。

 その筆頭がお父さんだ。

 

「なぁ、ロキシー……そのノアの呪いってやつは、解けるのか?」

「……わかりません。

 わたしも呪いについてそれほど詳しいわけではありませんし、そもそもわたしの勘違いである可能性もあります。

 ただ……今までに、呪いを打ち消すことができたという研究成果は、わたしは聞いたことがありません」

「ッ! それじゃあ意味がないだろうが!!」

「あなた! ロキシーちゃんに当たっても仕方ないでしょう! 少し落ち着いて!」

「ぐ……! しかしだな……いや、わかった。俺が悪かったよ。

 確かに少し取り乱してた……」

 

 お父さんは、ロキシーからの解呪手段はないという言葉に怒気を露わにしたが、お母さんの一喝で冷静さを取り戻した。

 やはりいざという時頼れるものは母なのか。

 将来はこういった頼もしくも美しいレディーになりたいものだ。

 お母さんは治癒や解毒の魔術も得意らしいし、そのうち教えてもらおう。

 

「とにかく、ノアの呪いはなんとかしよう……今は無理かもしれないが、できる限りのことはやってみないとな。

 父さんも、こう見えてけっこう顔が利くからな!

 とりあえず知り合いに片っ端からあたって、何とか解決方法を探してみよう」

「! うん! ありがとう、お父さん!」

 

 そして、なんだかんだ言ってお父さんも頼りになるのだ。

 適当で見栄っ張りで後先考えないところはあるけれど、私はそんなところも好きだった。

 

「僕も姉さまには何度もお世話になっていますからね、僕にやれることなら何でも言ってください!」

「えへへ、ありがとね、ルディ!」

「わたしも微力ながら手伝わせていただきます。

 ノアは大事な生徒ですからね」

「ロキシーもありがとう!」

 

 そうして、結局良い案はでなかったけれど、家族会議はみんなが私のために全力で呪いについて手を打ってくれるということでお開きとなった。

 まぁ、けっこうわかりきっていたことだけど、改めて口に出して確約してもらえると、私が感じていた不安も軽くなるというものだ。

 私もただうじうじするだけじゃなくて、自分でもこの呪いについてできることを探ろうと思った。

 家族や弟、先生にばかり無理させてちゃあ、グレイラット家長女の名折れだからね!

 

---

 

 というわけで、お父さんたちがあくせくと方々に掛け合った結果、アスラ王国首都に鑑定をしてくれる人がいるそうなので、その人をうちに呼ぶことになった。

 なんでも、そういう魔道具があって、国のお偉いさんが管理しているらしく、お父さんがどうやってか少しの間借りることができたらしい。

 その道具、ずっと後になって調べてみたらわりとエグかったんだけどね。

 とはいえ、お父さんもかなり無理して大枚はたいてその人を連れてきてくれたようで、感謝してもしきれないぐらいだ。

 

 もっとも、その結果は私にとって最悪もいいところだったんだけど。

 

「えー、鑑定の結果、あなたの呪いは《あらゆる人間との勝負に勝てなくなる呪い》……だそうです」

 

 なんだそれは。

 ふざけているのか。

 そんなバカみたいな話あってたまるか。

 

 瞬時にそんな風な罵詈雑言が浮かんでは消えてを繰り返し、私はその場で彫像のように固まることしかできなかった。

 その時の私は、はた目から見ればさぞ面白いものだっただろう。

 まさに「真っ白に燃え尽きた」状態であったはずだから。

 一瞬でスンッと表情がかき消える私。

 もともと大した才能を持ってたわけでもないのだから、思い返せば笑い話で済むことだが、幼くて世界の広さを知らなかった当時の私にとっては、それはそれはショックを受けたものなのだ。

 鑑定士の人がそそくさとご帰宅なさった後も、私は魂が抜けたように天井を見つめていた。

 

「あ、あの……姉さま……」

「……ん。あー、ちょっと、寝てくるね」

「あ……えっと」

「……ごめんなさい」

「えっ?」

 

 それは私が第一としているルディすらも邪険に扱うほどであった。

 あんまり辛いことがあっても引きずらない性格の、私らしくない態度だった。

 つまるところ、それだけ落ち込んでたっていうことだ。

 もしかしたら、人生で一番落ち込んだのが、あの瞬間だったであろう。

 

「……はぁ……どうしよっかなぁ……」

 

 ベッドで大の字のように仰向けになりながら、独り言ちる。

 正直、何をすればいいのかわからなかった。

 なんだか、私が積み上げてきたものを無遠慮に、グチャグチャに踏みにじられたみたいで、何にもやる気が出なかった。

 全部、どうでもよくなった。

 がんばってルディにふさわしい姉になろうって、ずっと頑張ってきたのに、それは全部無駄なんだって突き放された気分だった。

 

 ……本当に、まるで泥沼に沈んだように、どん底の気分で、人生で初めて泥のように眠りこけた。

 

---

 

 で、気づいたらこの真っ白けっけの不思議世界にポツンと座り込んでいたというわけだ。

 目の前には男とも女とも、老人とも若者ともとれるような、曖昧模糊とした人型が腕を組んで突っ立っている。

 その立ち姿は、心なしかとてもイライラしているように見えた。

 

「ねぇ、さっさと答えてくれないかな。

 君はどこの誰で、どうしてこの世界に勝手に入ってくれちゃってんのかな」

 

 訂正。

 めちゃくちゃイライラしていた。

 私も混乱していたのか、流されるままに質問に答えた。

 

「えーっと、初めまして? ノア・グレイラットです。

 もうすぐ5歳になります!」

「……あっそ、で? なんでここにいるんだよ、お前」

 

 とうとう君呼びすらも取っ払ってお前呼びになった。

 目の前の存在がどんどん剣呑な気配を帯びていくのがはっきりとわかる。

 

「え、えっと、私もよくわからない。

 寝てて、気づいたらここにいたからさ……」

「はぁー? じゃあ何? マジで何でもないただのガキがこの神の結界が貼ってある無の世界に、偶然入り込んだってこと? 僕の未来視すらも搔い潜って? それこそあり得ないだろ。

 なんなんだよお前!」

「……」

 

 ぶっちゃけ、このモザイク野郎が何を言っているのかはさっぱりわからなかった。

 ただ、私が相対しているこの人型が、今まで自分が丁寧に積み上げてきた物を横合いからぶち壊しにされたかのような、殺気に満ちた苛立ちを私に向けているのはひしひしと伝わってくる。

 それを受けて、ついさっきまで似たような感情に支配され、落ち込みに落ち込んでいた私は、なんか、めちゃくちゃ腹が立った。

 要は虫の居所が悪かったのだ。

 

 端的に言えば、私はキレた。

 

「んもぉ~! だーかーらぁ! 私もわかんないって言ってんじゃん!

 だいたいさぁ! 私が自己紹介したんだから、あなたも自分の名前ぐらい言うのが筋ってもんでしょーが!」

「はぁ!? 馬ッ鹿じゃないか!? お前どうせオルステッドあたりの差し金だろ! なら僕の名前ぐらい知っていて当然だ!」

「オルステッドて誰!? ここにきて新しい情報追加してくんのやめてくれる!? 私今日はもうお腹いっぱいなんですけど!!」

 

 全身モザイクマネキンと白髪赤目の幼女がぎゃいぎゃいと騒ぐ様は、傍から見れば異常の一言に尽きただろう。

 しばらくの間、自己紹介しろ、するかよ死ね!という応酬があった後、真っ白マネキンが余裕で神級はあるだろう魔術をぶっぱし、その魔術がきれいに私だけを避けて炸裂したところで、場は一応の落ち着きを取り戻した。

 

「クソッ、なんなんだよこのイレギュラー……。

 殺す気で撃った魔法でなんで無傷なんだよ……」

「自己紹介はァ!?」

「うるさいなぁ! ヒトガミだよ! これで満足かい!?」

「ん! ヒトガミね!」

 

 よし、言いたいことが言えてスッキリした。

 ヒトガミはまだクールダウンしていないようだったが、一旦無視する。

 

 私にも少し余裕ができてきたため、今一度この摩訶不思議な空間を見回してみる。

 上も、下も、右も、左も、前も、後ろも、全てが白。

 どこまでも落ちていくようで、どこまでも浮いて行ってしまうような、そんな現実離れした浮遊感がそこにはあった。

 長々とした感想が思い浮かんだが、要はひたすら殺風景ということだ。

 「無の世界」とはよく言ったものである。

 ヒトガミはよくこんな所に居て飽きないな。

 

「ねー、ヒトガミ」

「なんだよ。用が済んだならさっさと帰ってくれない? 僕これから君の対策練るから。邪魔なんだよ、お願いだから早く消えてくれ」

「こんなところ居て、寂しくないの?」

「……はぁ?」

 

 ヒトガミは何言ってんだこいつみたいな雰囲気でこちらに振り向いた。

 

「だって、ここ何にも無くてつまらないじゃん。

 せめてお花とか飾ったら?」

「馬鹿だねぇ、君。

 この無の世界では何にも存在できないんだよ? 全てが魔力に変換されるからね」

「ふぅん、じゃあこの世界にはあなた以外は何にもないし、誰もいないんだ」

「さっきからそう言ってるだろ、脳足りん」

 

 いちいち憎まれ口しか叩けないのだろうか、こいつは。

 まるで駄々をこねる子供のようだ。

 む、そう考えると、なんだか納得するものがある。

 そっか、こいつはお子ちゃまなのか。

 

「むふふ」

「え、何。気持ち悪いんだけど」

「なんでもなーい!」

 

 ヒトガミは苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 表情はわからなかったけど、そういう雰囲気がした。

 

 ま、今回はこのくらいでいいや。

 

「私はもう起きるよ。やっぱり、まだやることがあったから」

「そうかい。じゃ、さっさといなくなっておくれよ」

「ん。じゃあね! また来るよ!」

「二度と来るな」

 

 すうっ、と意識が薄れていき、すぐにあの徐々に世界と離れていくような微睡みの感覚に引き戻されていく。

 夢から目が覚めるのだ。

 

 こうして、私とヒトガミのファーストコンタクトは終わりを告げた。

 

---

 

 パチリ、と瞼が開く。

 起き抜けは、今までにないくらいスッキリとしていた。

 なかなかに良い目覚めである。

 それに、私の人生で初めて友達ができた。

 うん、そう考えると、今回の騒動も完全なマイナスじゃなかった気がしてくる。

 

「よし! また考えよっか!」

 

 そも、呪いがあったからなんだというのか。

 諸共ねじ伏せられるくらい私が魔術の腕を上げればいいだけだし、なんなら解呪方法だってその内見つかるかもしれない。

 

 なら、私がやるべきことは変わらない。

 

 本気で生きていくだけのことだ。

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