ドールズフロントライン ~16.6%のミチシルベ~   作:弱音御前

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暑い日が続くかと思えば雨が降ったり、忙しい天気で気が滅入る今日この頃。みなさまいかが
お過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

今作、サイコロの旅も早々に折り返しに差し掛かりました。お楽しみいただけていれば幸いですが、いかんせん、某番組のパクリネタですので・・・
ともあれ、今週もごゆっくりとどうぞ~


16.6%のミチシルベ  4話

 2日目 11:00 防衛線Dライン 制圧区

 

 

「じゃあ、いくよ・・・」

 

 真剣味を帯びたK5の言葉に、私達3人とも揃って固唾を呑む。

 姿勢を低く、ボールを転がすような姿勢で放ったサイコロは、砂利の上を不規則に転がり、すぐにその動きを止めた。

 もう、お腹の辺りがキリキリと痛くなりそうな緊張の瞬間。上空を向いた面に記された目は6。此度の6枠に振られた選択肢とは・・・

 

「~~~~~~! マジかぁ~~~」

 

「はぁ~・・・こればかりは仕方ありませんね・・・」

 

「これぞまさに運命のイタズラというものか! サイコロの神は依然として我々に試練を与え続けるのだった!」

 

 私たちの感想を聞いてもらえればお判りの事だろう。

 参考までに、1と2が基地へ帰還の選択肢で、3~6が別任務へGO! である。

 

「ご、ごめんなさい・・・・・・せっかくのチャンスだったのに」

 

 今までは、サイコロで変な目を出しても平然としていたK5だったが、今回は帰還のチャンスだっただけに、流石にヘコんでいる様子。そんな彼女を、どうして責めることができようか。

 下手な慰めは逆効果だ。K5の肩をぽんぽんと叩いて、この話は終了としておく。

 

『ランデブーポイントは西側の旧幹線道路を1キロ進んだ地点です。30分以内に移動をお願いします』

 

 もう、ウェンズデイに答えを返す気も起きない。初めは物珍しさもあって、みんな興味津々だったが、随分な変わりようである。

 いそいそと荷物を纏め、指定の位置へ移動を開始する。

 

「隊長、もう、指揮官様に連絡をとってどうにかしてもらった方がいいのではないですか?」

 

 歩み寄ってきた95式がひっそりと声をかけてくる。バレたら何をされるかわからないので、ウェンズデイには聞かれないよう気を付けて、である。

 

「いや、指揮官に頼るのは本当にどうしようもなくなった時の最終手段よ。みんなには悪いけど、そうしないと実地試験の意味がない」

 

 というのは建前で、この問題はなんとしてでも自力で解決したいというのが本心だ。それも穏便に、ひっそりと。

 前回の任務で大トラブルをやらかしている私だ。スペシャリストを名乗る者として立て続けの

失態はあり得ない。

 

「そう・・・ですか。まぁ、指揮官様の出張が終わるのは明日ですから、それまでは頑張るべきかもしれませんね。っ痛・・・」

 

 首の後ろをさすりながら、95式が苦い表情を浮かべる。97式の絡みで病んだ機内での事は、都合良く彼女の記憶から消え去っているので、首が痛いのは機内で寝違えたのが原因だとずっと

思い込み続けることだろう。

 

「はぁ~~あ。サイコロ振って移動して戦って、サイコロ振って移動して戦っての繰り返しってのも飽きてきたなぁ。動画的に。そろそろ、なんか面白い展開にでもなってくんないかな~」

 

「もう、そういう不運を呼ぶようなこと言わないでよ」

 

 不穏な事を呟くMDRに、K5がちょっとビビりながら答える。変な目を出したばかりだからって、少し気にしすぎである。

 

『エーデル小隊の皆様、止まってください』

 

 最中、突然にウェンズデイが発した声を聞いて、私達4人ビクリとして足を止める。

 なんだか、みんなでウェンズデイに対してビビっているみたいで少し悔しい。

 

「な、何さ? 私、何も悪い事言ったりしてないよ?」

 

『搭乗予定の便が運航停止になったようです』

 

 変なことを言うから・・・という抗議の目をK5から向けられるMDR。言った傍から、という状況に私もちょっとビックリだ。

 

「じゃあ、次の便に乗る? それなら、少しゆっくり行ってもいいわよね」

 

『目的地までの航路が危険区域になったようですので、ヘリは全便欠航になります』

 

「それでは、行先を再選択ということになるのでしょうか?」

 

『いいえ。目的地までの移動方法を再選しましたので、ご安心を』

 

 再抽選ということになれば、もしかしたらすぐに帰還できるかもしれなかったのだが、上手くいかないものである。

 

『当防衛ライン制圧区の南端。マップに記した地点へ移動してください』

 

 タブレットに表示されたマップに赤点が記される。

 

「この場所は確か・・・」

 

「? 何がある場所なのさ?」

 

「私も分からないよ。こんな場所、来た事ないもの」

 

 私とて、グリフィン支部の副官を務める人形である。自分のとこの施設は大体把握している。

 

「空がダメなら地上から、ってことね」

 

 

 

 

 

 

 2日目 13:00 防衛線Dライン外縁 旧ハイウェイ

 

 

『どうどう? 私たちの雄姿、ちゃんと撮れてる?』

 

 無線機の向こうから聞こえるのはMDRの声。つい数時間前までとは打って変わりご機嫌な様子なのが良く分かる。

 

「うん、平気だよ。ちゃんと2台ともファインダーに収まってるから」

 

 自分のすぐ手前、ダッシュボードに設置したMDR自慢のケータイを確認して、K5が答える。

 チラリと見やれば、ケータイのディスプレイには私たちの前を走る2台の後ろ姿がキッチリと

収まっている。

 

『はしゃぐのはいいですが、もう少し運転に集中してくださいね。私たち、つい先ほど運転を覚えたばかりなのですから』

 

「そうよ。事故ったら痛い目をみるのは自分なんだから、気を付けなさいね」

 

『大丈夫だって! 初めは操作に戸惑ったけど、慣れたら超面白いんだもの! 動画的にも絶対に

良い画になってるだろうし、もう最高!』

 

 95式と一緒にクギを刺しておくが、一旦、調子に乗ったMDRはもう動かざることなんとやらだ。

 ・・・と、ここで現状を説明しておくとしよう。

 私達、エーデル小隊はサイコロで選んだ目的地に向けて、大昔には栄華を誇っていたらしい

ハイウェイ、93号線を突き進んでいる。距離は長いが、この道を進んでいけば、目的地のすぐ傍に辿り着くようである。

 そして、気になる移動手段。95式とMDRはモーターサイクルと呼ぶ、エンジン付きの2輪車に乗り、その後ろに私とK5が乗る、2シートのスポーツトラックが付いて走る、という構図だ。

 ウェンズデイが地図に記した場所は、グリフィンが管理するレンタルビークルの中継点である。

 乗り合い便という移動手段も便利なものだが、緊急を要する事態で、便を待っていられない状況も出てくる。そう言った時に、様々な乗り物を集めておき、必要な時に利用できるレンタルビークルが重宝されるのである。

 

『それにしても、モーターサイクルというのは心地よいものですね。身体で風を感じることで、

気分が晴れやかになるようです』

 

『お~! そういうナチュラルな感想、実況にはとっても大事な要素の一つだよ。適時挟んでいこうね~』

 

 なぜ前の2人だけモーターサイクルなのかというと、間の悪い事に4人以上乗れる乗り物が全て出払ってしまっていたのである。

 前々から興味があったという事だったので、95式は見るからに攻撃的なフォルムのスポーツ

タイプに。MDRはゆったりとした乗り味のスクータータイプに乗ってもらったのだ。

 

「それにしても、隊長が車両の運転できるなんて少し意外だね」

 

「失礼な言い方ね。私はただ戦闘に特化しただけのスペシャリストじゃあないんだから。しっかりと覚えておきなさいね」

 

 うちの基地で車両運転技術を習得している娘は少ない。大抵は、自分の趣味で覚えるようなものだが、私は指揮官とお出かけする際、車両を運転する指揮官に色々と教えてもらっていたのだ。

 その時に話していた、どこで何が役に立つか分からない、という言葉を地で行くのが、今まさにこの状況である。

 

『あら? この先、道が狭くて急な曲がりのようですね』

 

『ここって、ハイウェイだったんでしょ? なんでそんな風になってるのさ?』

 

 先陣をきっている2台が速度を落としたので、続く私もアクセルから足を離してスピードを落とす。

 

「ハイウェイとはいっても、もう随分と昔の話だからね。破損したり、手を加えられているエリアもあるだろうから注意して走りなさい」

 

 どこまでもまっすぐに伸びているように思えた道が、95式の言った通り、突如として急な

カーブになっているのが遠目に確認できた。

 恐らく、過去の戦闘で破損したエリアのバイパスなのだろう、明らかに後から付け足したようなツギハギ路だ。2輪のモーターサイクルは今までみたいに呑気に走ってはいられない。

 

『おわぁ!? こんな急カーブの連続、転ばないで走れるのかな?』

 

『急カーブの場合は、車体を傾けるようにすると綺麗に曲がれるって教えてもらいましたね。・・・こうかしら?』

 

 95式が車体を傾け、カーブに突入する。

 〝ハングオン〟と呼ばれる技術だったか。カーブで発生する遠心力に対抗するための技術なのだそうだが、もう、転倒しないのが不思議なくらい地面スレスレでカーブを走り抜ける95式の姿は滅茶苦茶サマになっている。

 

『ふぅ~・・・少し怖かったですけど、上手くいったでしょうか?』

 

『すげぇ~! かっけぇ~! 私もやってみよ! 隊長、次のカーブは私もビシッと決めるから、カメラでしっかりと抑えておいてよね!』

 

「や、やるのはいいけど、2人とも本当に気を付けて走ってよね」

 

 楽しそうなのは何よりだが、後ろから見ているこっちは危なっかしくて気が気じゃない。

 

「いいんじゃないかな、放っておけば。転んだら痛い目をみるのは自分たちなんだし自業自得だよ」

 

「そうなんだけど、そうでもない事情ってのもあるのよ」

 

 派手に転ばれでもしたら2人のケガはもちろんだが、借りているモーターサイクルが破損した場合の弁償もうちの基地で負担しなければならないのだ。

 見た目にもなんだかボロ臭いMDRのスクーターだったらまだしも、95式が乗るスポーツ

バイクなんか、色々と部品を弄っているみたいで綺麗なので、どれだけの修理代を請求されるか

分かったものではない。

 非戦闘区域だというのに、これだけヒヤヒヤさせられることになるとは思ってもみなかった。

 とか考えている間に、次のカーブがやってきた。ここからは、さっきよりも急なカーブが幾つも連続する難所である。

 すでにコツを掴んだのだろう、95式が鮮やかなラインで先頭をきる。

 

『よ~し、いくぞぉ! ていっ!』

 

 気合一閃、MDRが95式に続く。

 

『~~~っとぉ! 怖かったぁ~。でも、会心の走り! どうどう? 今のは良い画になってたんじゃないかな?』

 

「ん? ん~・・・そうねぇ。まぁ・・・うん」

 

 ・・・頑張って車体を傾け、カーブを抜けるその努力は認めたい。しかし、どうしたってずんぐりな形のスクーターでは傾ける角度に限界があるので、大して傾いているようには見えないのである。

 95式のスポーツタイプは、まるで獣の咆哮のようなシビれるエンジン音を奏でているが、

MDRのは、なんだか植え込みをカットするトリマーみたいな情けない音を挙げているのも、迫力が足りない原因だろう。

 

『なんかテンション上がってきた~! どけどけぃ! 最強ブルパップコンビのお通りだ~!』

 

 そうしてまた調子に乗ってくるMDR。こうなると、しばらくウザいのが続いてこちらとしてはちょっとしたストレスなのである。

 

「そうだね~、ブルパップって有能な機構だものね~。おまけに、ブルパップって〝ブルドックのお尻〟なんていう可愛らしい語源が付いているくらいだしね~」

 

 そこへ、なにやら含みのある言い方でカットインを挟むK5。その内容を耳にして、思わず吹き出してしまう私。

 

「あははははは! ブルパップってそんな語源があったなんて、知らなかったわ。そんじゃあ

アンタ達、今日からチーム〝犬のケツ〟ね!」

 

 私の言葉を聞いて、無線の向こうの2人が急に押し黙る。

 なんだか、さっきまでよりも走りのキレも無くなってきたような、そんな雰囲気にも見えてきたりして。

 

「ほらほら、さっきのテンションはどうしたの? 頑張って走りなさい、犬のケツ」

 

『・・・やっぱり落ち着いてさ、吹きすさぶ風を楽しみながら走るのも良いと思うんだ。動画的にさ』

 

『そう・・・ですね。ここからは安全運転を心がけますので、どうかその呼び方だけはご容赦をいただけないでしょうか?』

 

 深く反省した様子の2人を確認して、一旦、無線をオフラインにする。

 

「今の、2人の当てつけで言ってやったんでしょ?」

 

「だって、MDRってば調子に乗るとブルパップブルパップってウルサイんだもの。でも、

ブルパップの語源に関しては本当の事みたいだよ。一説によれば、だけど」

 

「なかなかやるじゃない」

 

 2人、ハイタッチを交わす。

 さりげなく姑息で頭の回転が良いK5を私は気に入っている。今まではその機会に恵まれなかったが、いつか、戦闘がメインの任務でも彼女と一緒になりたいものだ。

 

『・・・・・・しかし、やっぱりツマラナイんだよなぁ~。大人しく走ってるばかりだとさぁ、

視聴者も飽きちゃうと思うんだよ』

 

 連続カーブを抜け、静かに走っていたかと思えば、またもMDRがそんな事を呟きはじめた。

コイツの辞書には自重という言葉は無いらしい。

 

『安全に走りきるというのが一番大事なのですから。これ以上の我儘はいけませんよMDR』

 

『それは分かってるんだけどさ。なんかこう、安全かつ盛り上がるような何かがあればって

・・・・・・おっ!?』

 

 いいもの見っけた! みたいなリアクションをみせるMDRに私とK5は咄嗟に顔をしかめる。もう後続車両組は良いシンクロ率なのである。

 

『隊長、ちょっと止まってもいいかな』

 

「何で? 理由は?」

 

『少しくらい休憩させてくれたっていいじゃんか。私たちは風と匂いとキケンを感じながら走ってるんだから、疲労だってそっちと段違いなんだよ~』

 

『MDRが何を考えているのかは分かりませんが、私も休憩をさせてもらいたいです。なれない

運転ですので、ちょっと疲れが』

 

 MDRが何かを企んでいるのは間違いないが、95式にまでそう言われてしまっては仕方がない。慣れない運転で疲れるという気持ちは私も良く分かる。

 

「わかった。でも、休憩できるような施設は何もないけど、いいの?」

 

「へーきへーき。そっちの荷台に座って休みからさ」

 

 ウィンカーを点けて、道路端に寄る2台に私も車両を続けて寄せた。

 本当に何もない、しいて挙げるのなら戦闘の後に置き去られた人形の残骸が転がっているくらいだろうか。そんな荒野のど真ん中のような場所で、しばしの休憩と相成ったのである。

 

 ~30分後~

 

「ねえ、どこまで行くのよ人形屋?」

 

 休憩を終え、再び走り始めた私達。

 前を走る、さっきまでとは雰囲気がガラリと変わったヤツに向けて声をかける。

 

『いやぁ、この先で頭を吹っ飛ばされたトロちゃんから注文が入ってさ。今、頭をお届けに行く

最中なんだよねぇ』

 

 わざとらしく答えるMDRの荷台には、トロちゃんこと鉄血エリート人形のデストロイヤーの

頭部が乗せられている。

 休憩の最中、そこらに落ちていた人形の残骸の中からMDRが見つけてきた逸品。本当に、首だけをバッサリと切り落とされたかのように、傷がほとんどない綺麗な頭部パーツである落ちないようロープでぐるぐる巻きにされ、チャームポイントのツインテールをバサバサと靡かせながら疾走するその様は、何とも言い難い。

 

『これなら安全運転かつ視聴者に対してもインパクト抜群! 隊長たちも文句ないでしょう?』

 

「文句ないどころか、さっき以上に迷惑極まりない状況だけどね。私達からすれば」

 

「まったく、K5の言う通り通りよね」

 

 荷台に積んでいる奴には分からないだろうが、目と口が半開きの生首をずっと視界に納めていなればいけない私達は、正気度が毎秒削られていく思いなのである。

 またもやMDRが調子に乗り始めてしまったことで、頭が痛くなってきてしまう私。

 

『95式もお揃いで積んでくれればもっとインパクトあったんだけどな~。荷台が無いなら背中に背負うとかさ』

 

『いやいや、流石に鉄血の残骸を背負うのは勘弁していただきたいというか・・・』

 

 救いは95式が常識人だったという事か。2つ並んだ生首を今後数時間も見せられ続けたら、

私もK5も正常なメンタルを保っていられる保証はないだろう。

 

『その頭、それなりの重量があるでしょう? 運転は辛くないのですか?』

 

『ん~、まぁ、かなり重量バランスが後ろに寄ってるからね。でも、転んだりするようなほどじゃあないから安心してよ』

 

 危ないって分かってて続けようとするんだから、もう私からは何も言う事は無い。

 動画の取れ高に満足してご機嫌のMDRに悩まされながらも、すでに行程の半分を過ぎ、目的地に向けて順調に進んでいく私達。

 だが、このまま、私達2人が鉄血の生首を我慢しながら走り続ければ万事上手くいくのかといえば、そんなことは無い。

 トラブルというのは、なんの前触れもなくやってくるからトラブルなのだ。

 

『あら? あれは・・・?』

 

『なになに? 今度はどんな面白いもの見つけたの?』

 

 何かに気づいた2台がスピードを落とす。それにあわせて私もスピードを落とし、やがて、

ハイウェイ上に珍しいモノが姿を現した。

 

『あれって、信号機だっけ? 車両を通したり止めたりするやつ』

 

『そうですね。本来は市街地の交通網を整理する為のモノのはず。ちゃんと稼働しているようですが、なぜこんなところにあるのでしょう?』

 

 ハイウェイ上、私たちの行く手を阻むかのように置かれているのは、縦に並んだ、緑黄赤3つのレンズ。指揮官とのお出かけの時に何度か見たことがあるものに近い信号機である。

 ただ、私が知っているのは頭上に釣り下がっているものだったので、これとはちょっと装いが

違う。なんか、信号機の横にカウントダウンタイマーなんか付いてるし。

 

「この先、誰かがハイウェイを補修しているんじゃないかな? 片方の車線しか通れないから、

上手く行き違いができるように整理してるんだよ」

 

「確かに、信号機の向こう側、盛大に崩れてるわね」

 

 グリフィンなのか、他の誰かさんなのかはわからないが、こんな通りの少ない道路をわざわざ

直してくれるなんて、ご苦労なことである。

 赤信号を前にキッチリと止まって待つ車両が3台。カウントダウンは秒毎に進んでいき、残り

30をきったところである。

 

『私、良い事思いついちゃった! この信号の合図で、どっちが早くスタートできるか勝負しようよ』

 

『勝負ですか? 私の方がスピードも加速もありますから、試すまでもないと思うのですけど・・・』

 

『あ~あ、またそんな事を言ってくれちゃって。そういう風に勝ち誇ってる相手をグウの音も出ないくらい叩きのめすのがまたオイシイんだよ、これが』

 

 もう、自分で面白いと思い込んだらMDRは止まらない。

 ・・・その好奇心が、あんな悲劇を招くのだと。この時、私を含めた誰もが知る由もなかった。

 

『もう・・・大人しくしなさいって、隊長からも言ってやってください』

 

「どうせ言ったって聞きやしないんだから。私が許すから、思い知らせてやっていいわよ」

 

『そうですか? でしたら、そのようにしますけど』

 

『いよっしゃ~! 目にもの見せてやるから、覚悟しておいてよね!』

 

 カウントが20を切る。

 2人とも、いままでのゆったりとした姿勢から、身体を低く構えて戦闘態勢へ移行する。

 

『へいへい! お姉ちゃんビビってるぅ~?』

 

 ヴぇんヴぇん、とアクセルを煽り、間の抜けた音で95式を挑発するMDR。

 片や、涼しい表情の95式だが、背後から見てもヤル気満々なオーラがひしひしと伝わってくる。

 

「隊長はどっちが勝つと思う? 私は95式に100クレジット賭けるよ」

 

「それじゃあ賭けにならないわね。だって、95式に賭ける以外の選択肢はないんだもの」

 

「だよね~」

 

 勝敗は目に見えているので、こっちは緊張感も何もありゃあしないのである。

 信号機のカウントが10を切る。

 

『はい、カウントダウン開始~。・・・5・・・4・・・3』

 

 2人はロケットスタートをかますので、それに遅れないよう、私もアクセルに足を添えて備えておく。

 余談ではあるが、私たちが乗るこの車両も色々とチューニングが施されているようで、95式のモーターサイクルに負けないくらい速いらしい。

 決して、95式が速いのを選んだから私も対抗して速い車両を選んだわけではない。本当だ。

 

『・・・2・・・1・・・GO!』

 

 信号が緑点灯に変わると同時、けたたましいエンジン音が木霊した。

 スリングで打ち出されるかのような、とてつもない勢いでスタートを決めるのは95式。

 予想通りの展開だ。

 そして、MDRはというと・・・こちらは驚愕の展開。

 デストロイヤーの頭部を積み、後部にウェイトが寄ったことが災いしたのだろう。スタートの

急加速により、なんと、MDRの車両は前輪が浮き上がってしまったのだ。

 モーターサイクルは2輪とも接地していなければ操舵することが出来ない。結果、MDRは

アクセル全開ウィリーのまま、前方に向けてまっしぐら。信号機の周囲を囲っていたバリケードへ盛大に激突したのである。

 

「ちょ! え!? な、なに!!?」

 

 車両の修理代とかバリケードの弁償とかMDRのケガとか、色々な事が一気に思い浮かんでしまった私は、言葉にならない声を漏らしながらも、とりあえず、車を降りてMDRのもとへと駆けつける。

 

「アンタ、だ、だだだ大丈夫なの?」

 

「・・・へ? 何が? 大丈夫じゃない事なんて何もないよ~。変な隊長だなぁ」

 

 きょとんとした様子ながらも、MDRは崩れたバリケードの中からいそいそと車両を引っ張り出している。

 見たところ、MDRにケガは無さそうだし車両のダメージもほとんど見受けられない。不幸中の幸いか、ウィリーしていたことでバリケードにまっすぐ激突したのではなく、上に乗り上げるように激突した事で衝撃が緩和されたようだ。

 

「ほら、信号が変わるまでカウント40だよ。隊長も車両に戻って準備して」

 

「お、おう・・・せやな」

 

 見た目のインパクトの割には被害が少なかった事ですっかり安心してしまった私は、MDRに

言われるがまま、お説教することも忘れて自分の車へと戻る。

 そうして戻ってみれば、そこには仲間の安否を気にかける事すらもなく、シートの上でお腹を

抱えて笑い悶えるお姫様の姿があった。

 

「あはははははは! ほ、ホント凄いクラッシュだったね! 私、ぐ、グリフィンに来てからこんなに笑ったの初めてだよ! くっくくくくっ!」

 

「・・・アンタって本当に薄情者よね。いくら相手がMDRとはいえ、ちょっとは心配するとか

無いわけ?」

 

「だって、MDRも車両も遠目で分かるくらい平気そうだったんだもの。実際、平気だったんでしょ?」

 

「そりゃあそうだけどさ・・・」

 

 シートに座り、信号機が変わるのを待っているMDRの後ろ姿は実に落ち着いたものだ。まるで、さっきの大クラッシュなんてなかったかのように思えるくらい。逆に不自然な感じもする。

 

『はい、カウントダウン~。3・・・2・・・1・・・GO~』

 

 さすがに、さっきの轍を踏むようなことはなく、そろ~りと発進するMDR。

 また同じような事をするようだったら、メンタルの整合性を疑うくらいの馬鹿だ。

 こちらのトラブルなど知る由など無い95式は、スタートでカッ飛んでいったまま、すでに見えないくらい先に行ってしまっている。

 距離が遠い影響で無線も使えない状態なので、ペースを上げて早く追いつきたいところ。

しかし、MDRはさっきまでと打って変わって黙したまま安全運転を続けている。

 車両にトラブルが起こっているというわけでもあるまい。もう少しペースを上げるように指示をしようとした、そんな矢先だった。

 

『・・・うぅ・・・えぐっ・・・ぐすっ』

 

 無線機から流れてくるのは、女性のすすり泣く声。決して、オカルトチックな話ではない。前を走っているMDRの泣き声である。その証拠に、彼女の背中がすすり泣きに合わせて震えているのが確認できる。

 

「ちょっと、どうしたのよいきなり? やっぱり、どこかケガしてたの?」

 

『ち・・・ちがうよぉ~。さっきの事故、ずっっごいごわがっだんだよぉぉ~』

 

 クラッシュの直後、やたらと落ち着いていたのはパニックになりすぎて訳が分からなくなっていただけのようだ。しばらく走って落ち着いて、ようやくメンタルが正常な処理を始めたのだろう。

 

『ウィリーのまま吹っ飛ばされて、ほんど~にじぬかと思ったんだよぉぉ~』

 

 鼻をズルズルと啜りながら、MDRはガチ泣きである。どんだけ厳しい訓練だってのらりくらりとかわしてきたコイツが、これだけ怖がっているところなんて初めて見た。さっきのクラッシュは、私が雷を落とすのよりも怖かったという事なのだろう。

 

「そうね。さっきのは、アンタが調子に乗りすぎてたのが原因よ。これに懲りたら、ここからは

安全運転でいきましょうね」

 

 さすがに、これだけ反省しているMDRに追い打ちで説教するつもりもないので、可及的速やかに宥めてあげる。

 もちろん、MDRが泣きじゃくっていると知り、ゲラゲラと笑い転げているその声が入らないよう、隣のバカ姫様の口を塞いでおくのも忘れない。

 

『ずるぅ~・・・安全運転ずるよぉ~。もう、40キロ以上だざないぃぃ~~』

 

「いや、さすがにもうちょっと出しましょうか。ここ、ハイウェイだし。ね?」

 

 それからしばらく、のろのろと走っているうちに95式との連絡が回復、おおまかな事情を説明し、路肩で待っててもらった彼女と無事合流と相成った。

 大きなトラブルといえば、これくらいのものだ。

 クラッシュ以前にペースを上げて時間を短縮できていたので、安全運転だった後半の分と合わせ、私たちはウェンズディが予定していたのとほぼ同時間で目的地に到着することが出来た。

 

「はぁ~・・・私、もう絶対にモーターサイクル乗らない。視聴数稼げるって言われても、

絶っっ対に乗らないから」

 

「まぁまぁ、そう意地にならず。安全運転でしたら楽しい乗り物なのですから」

 

「じゃあ、今度は私が乗るよ。その時は95式が乗り方を教えてね」

 

 到着先の制圧区で車両を無事に返却。一仕事終えた感がすごいが、私たちの任務は

ここからが本番である。

 

「戦闘支援任務の為にここへ来たっての忘れないようにね。一休みしたら任務にとりかかるわよ」

 

「いや、休憩なんていらないよ! 早いところ鉄血のクズ共を叩きのめして、さっきの憂さを晴らすんだ。ウェンズディ、任務はどこでやるの?」

 

 ヤル気があるのは何よりだが、いくらお仕事とはいえ、休憩は重要なことである。というか、私がちょっと休みたい。疲れた。主にメンタル的に。

 

『戦闘支援任務は行いません。移動方法が変わり、到着時間が大幅に遅れたことで、参加予定だった任務は既にクローズされています。よって、次の行先選択を行います』

 

「・・・だってさ、隊長」

 

「これはまた、喜んでいいのか、無駄足だったと嘆くべきなのでしょうか?」

 

「喜んでいいんじゃないかな? 余計な消耗を抑えられるんだしさ」

 

 感想は三者三様。私は、もうどっちでもいいかな。この2日間、ウェンズデイに振り回されっぱなしでいい加減慣れを感じてきたころだし。

 

『行先と任務を選出しました。7回目の選択をお願いします』

 

 ウェンズデイの声と共に、もうおなじみとなった6個の選択肢がディスプレイに現れる。

 果たして、今度はどんなおもしろ選択肢なのか? ドキドキしながら覗き込むエーデル小隊

一同。

 

「また・・・凄いのを選んでくるね。私、さっき振ったから他の人でお願いね」

 

「さっきの選択以上に責任重大ですね。プレッシャーを感じてしまいます」

 

「いやぁ~、ウェンズデイはこういうところ本当によく分かってるんだよなぁ~。基地に帰ったら、動画制作の手伝いをお願いしたいくらいだよ」

 

 これまでもシビれるような状況だったが、今回はそれ以上だ。

 まさに、Dead or Alive(生か死か)。

 それでは、ウェンズデイが提示してきた6つの選択肢を皆様にもご覧いただくとしよう。




ウィリー事件を持ち出したお話ですね。
元ネタの番組の中でもかなり好きな回を題材にさせてもらいました。
しかし、MDRは個人的にこういう立ち位置で使いやすいので助かります。

それでは、定期更新の次週もどうぞお楽しみに。
以上、弱音御前でした~

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