ドールズフロントライン ~16.6%のミチシルベ~   作:弱音御前

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暑いですね。
当方よりも先にPCが音をあげて困っちゃう今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?
どうも、弱音御前です。

ネゲヴちゃんのサイコロの旅、今回は第6夜になります。
キング・オブ・深夜ヘリに連れてこられた北の地で、鉄血エリートと接敵してしまったエーデル
小隊。
なんやかんやで2対2のタッグバトルを行う事になったのですが・・・
戦いの結末やいかに!

というわけで、今週もどうぞごゆっくりと~


16.6%のミチシルベ 6話

「このホールなら、2対2のタッグマッチでも十分な広さでしょ? ね?」

 

 確かに、ホールはエントランスの倍以上の広さがある。しかし、私達が寝ようとしていた場所で暴れ回られるというのは、私はちょっとイヤである。

 

「広い分には構いませんよ」

 

「私も。ここなら存分にやれるし」

 

 まぁ、当人達が良いっていうならいいんだけどさ。

 

「オッケー! じゃあ、鉄血の2人はあっち。95式とK5はそっち側ね。んで、隊長はこっち

きて座って」

 

 いつの間にか仕切り屋になっているMDRが各員を配置する。

 私が招かれたのは、うちの2人と鉄血2人が向かい合う間に置かれたデスク。まるで、競技の

審査員が付くような位置である。

 

「んじゃあ、えっと・・・アタシは・・・」

 

「トロちゃんもこっち。ほら、はやくはやく~」

 

「え? あ、うん・・・って、トロちゃんって?」

 

 首を傾げながらも、MDRに言われる通り、デストロイヤーもデスクに付く。

 MDRを挟んで、鉄血側にデストロイヤー、グリフィン側に私、という並び。そうして、MDRがカメラを準備し始めたところで、この配置の意味が私にもわかってきた。

 

「夜更かししているみんな~、こんばんは~! 眠気も吹っ飛ぶエキサイティングなイベントを、神配信でおなじみの私、MDRがお届けするよ~! 今回、みんなにお見せするのは・・・

グリフィンVS鉄血のタッグマッチだぁ~!」

 

 コイツ、この戦いを実況中継する気だ。

 こんな節操無いヤツが部下だなんて、穴を掘って埋まりたいくらい恥ずかしい。

 

「え? 鉄血との戦いなんて、日常茶飯事だって? 甘いね。甘々だよ。戦いとはいっても、これから行われるのは武器の使用禁止の格闘戦。未だかつてない激戦の予感がするよね~。それでは、華麗な舞を披露してくれる戦士たちの紹介だぁ!」

 

 MDRがケータイカメラを向けると、鉄血2人は小さくお辞儀したり、手を振って応えている。結構ノリのいい奴らだ。

 

「西側に控えるは、みんなお馴染み鉄血エリートのツーハンデッド(2丁持ち)ことハンター、ソードマスターことエクスキューショナーのコンビだ。鉄血側解説のデストロイヤーちゃん、あの2人の事、ちょっとだけ教えてちょうだいな」

 

「え? そうだなぁ・・・エクスキューショナーは変わった喋り方でちょっと近づき辛い雰囲気だけど、周りへの気遣いができるいい奴で。ハンターは一見、乱暴に見えるけど、私の面倒をよく見てくれるいい奴で。とにかく、2人とも優しくて強い人形なんだよ!」

 

「はい、役に立ったようなそうでもないような紹介ありがとう! 続きまして、東からは、我らがグリフィン基地の中でも指折りの兵、95式とK5のお出ましだ!」

 

 こちらも、MDRのカメラに向けて元気に手を振って返している。私は興味がないので、背後の荷物からスナック菓子を拝借。デストロイヤーがそんな様子を物欲しげに見ていたので、小さい袋を取り出し、投げ渡してやった。

 

「グリフィン側解説のネゲヴさん。95式の格闘戦能力に関しては、知っている方が多いと思うのですが、K5はどうなのでしょうか? この4人の中で一番小柄というハンデを果たして埋められるほどのモノなのか」

 

「そんなの口で説明したってどうせ分からないでしょ? 見てりゃあいいじゃない」

 

「能書きはいい、見ればわかる。そういう事ですね? 実に深い解説、どうもありがとうござい

ます!」

 

 私のこんな投げやりな返答でも、上手く纏めて返すMDRのそういうところは素直に評価できる。そういうところ〝だけ〟ね。

 

「さあ、銃器の使用以外は何でもアリというストリートファイトなこの戦いを制するのはどちらになるのか。いつまでもお喋りを続けては皆さんも飽きてしまいますね。早速、始めるとしましょう。Ready? Steady? ・・・Go!」

 

 MDRの合図と同時に、双方、相手に向けて一気に詰め寄る。

 

 95式はエクスキューショナーと、K5はハンターと、律儀にも1対1の構図になっている。

 

「お~っと! これはいきなり激しいぶつかり合い! まずはエクスキューショナーと95式の

戦いから見ていきましょう!」

 

 つい、MDRの言葉につられて私も95式に目を向けてしまう。

 

「普段は長剣を用いた戦闘を得意とするエクスキューショナーですが、拳による攻撃を主体とした、堅実な立ち回りをみせています。トロちゃん、あの戦い方はどのようなものなのでしょうか?」

 

「よく分かんないけど、剣を持ってなくたってエクスキューショナーは強いんだから! よし、

いけ! ぶっ飛ばせ~!」

 

 ただ、剣を振り回しているというだけではない。エクスキューショナーには剣術に関しての詳しいデータがインストールされている、というのはグリフィン界隈では有名な話だ。

 そのデータを上手く応用しているのだろうか、ヤツの攻撃は的確に、鋭く95式を捉える。

 だが、95式も負けてはいない。・・・いや、負けていないなんていうのは遠慮した言い方か。

 

「ふっ!」

 

 エクスキューショナーの攻撃の悉くを躱し、弾き、流し、95式はその隙を縫って懐に飛び込むと、肘打ちを胸部に叩き込んだ。

 

「っ!!?」

 

 直撃を受けたエクスキューショナーの足が床から浮き、後方に弾かれる。

 見た目にはそれほど勢いが無いが、実際に受けてみるととてつもない破壊力を秘めていることに驚く。それが、95式の扱う武術である。

 うちの95式だけというわけではないのだろうと思うが、この格闘技術を持つ彼女は近接戦闘にめっぽう強い。

 銃器による戦闘を主とする私達だ、実戦で披露する機会はほとんどないが、模擬戦の時などはそれなりに使う手で、私を含め、何人もの人形たちがその餌食になっている。

 本人の名誉のために言っておくと、先刻、ファマスに呆気なくやられたのは、病みモードで正常な処理ができていなかったせいだ。本来の調子の彼女であれば、互角以上の勝負になっていたことは間違いない。

 流麗かつ強烈なその攻撃は、例えるならば蜂の一刺し。

 いくら鉄血エリートといえども、攻略は簡単ではない。

 

「95式の強烈な一撃がヒット! 両者、間合いが開いたところで今度はK5側に目を向けてみましょう」

 

 たぶん、視聴者はこちらの方が気になっているはずだ。

 95式の腕前はそれなりに知られているはずだが、あまり表立った印象の無いK5はどうなのか?

 結論を言ってしまえば、ノープロブレムである。

 

「そぉら!」

 

「すっげぇ! 当たったら超痛そうな回し蹴りです! トロちゃん、ハンターの戦い方はどんな

モノなの?」

 

「ハンターもすっごく強いんだよ! たぶん、パワーは鉄血でもトップクラス。そこだぁ!

やっちゃえ! ぶっ潰せぇ!」

 

 あまりにも表現力が低い解説なので、私が補足しておこう。

 ハンターの戦い方は、エクスキューショナーとは反対に位置するものだ。腕を、脚を、力の限りにぶん回して、空気ごと相手を薙ぎ倒す荒々しい戦い方。

 見た目が派手な分、一撃でも貰えばK5の華奢な身体はひとたまりもないだろう。

 しかし、K5には当たらない。当たらなければどうという事は無い、とはまさにこの事である。

 

「おっとぉ。えいっ」

 

「ちぃ! 小五月蠅いヤツめ」

 

 まるで、ハンターが巻き起こした風に乗ったかのように、ヒラリと攻撃を躱して魅せるK5。

直後、ガラ空きの側面に蹴りを見舞う。それも、僅かな間に3連撃だ。

 足技を主体とした素早い攻撃を与えるK5のこの技を知る者は、うちの基地ではそれほど多くない。

 目立ちたくないから、と本人は言うが、狡猾な彼女の事だ、例え仲間とは言え、自らの手の内を明かしたくないというのが本音だろう。

 95式のような一撃威力は無いが、それが実は厄介な点だ。

 模擬戦で味わった私が例えるのなら、それは毒蛾の鱗粉。ヒラリヒラリと優美に舞う彼女の毒に徐々に体を蝕まれ、気づいたときには手遅れなほどのダメージを負っている。

 私が模擬戦においては95式よりも手合わせしたくないと思うのが、このK5なのである。

 

「ちょ・・・K5ってこんな格闘術もってたんだ!? 凄い凄い! 蹴り技の格闘術って、実はかなり〝数字〟とってくれるんだよね~! 映える画、あざ~す!」

 

 そんなわけで、うちの2人が鉄血の挑発に乗った事に意を唱えなかった理由がお判りいただけたと思う。

 95式とK5は、当グリフィン基地でもトップクラスのインファイターなのである。なので、私はこうして呑気にスナックを齧っていられるというわけだ。

 そうとも知らず、自分達の土俵に上げたつもりでいるあの2人は何とも気の毒だ。

 

「おいおい、何やってんだよ2人とも! 銃も持っていないグリフィンの人形に負けるなんて、シャレにならないって・・・」

 

「形勢はグリフィン側の圧倒的有利。トロちゃんの思いも虚しく、このまま鉄血陣営は何もできずに終わってしまうのか!?」

 

 大した見どころも無くてMDRは残念だろうが、このままでは形勢はひっくり返らない。ケンカを売ったクセに見事返り討ちにあって終わり、というのがコイツ等の運命だ。

 

「っ・・・はは、なんだ、グリフィンの人形も思ったよりやるじゃないか。いっつも弾薬切れになると逃げまどってばかりだったくせにな」

 

 態勢を整えようと距離をとったハンターが不敵な笑みを浮かべる。

 また、こちらを誘い込む為のブラフか? ・・・いや、見るからに不利な状況なのだ。そんな

虚勢を張る理由は無い。

 

「これならば、面白い戦いが期待できそうだ。ここからはハンター共々、本気でいかせてもらうぞ!」

 

 並ぶエクスキューショナーも同様の態度。

 もしかして、本当にブラフではない?

 コイツ等は、ここから逆転できる策を本当に持っているという事なのか。

 

「「クロック・アップ」」

 

 それは、自己のプログラムを書き換えるための起動キーか。揃って呟くと、直後、エクスキューショナーとハンターの身体から赤い稲妻が巻き起こった。

 

「その手があったね! これなら勝ったも同然!」

 

 2人の身体を覆う稲妻・・・オーバークロックによって発生した余剰エネルギーはまるで、獲物を求めて揺らめく触手のよう。

 寒気すらもを感じるこの姿を実際に目の当たりにするのは、私は初めてだった。

 

「な!? もしかして〝Elite〟モード? あれって、そんな風に自由に変われるものなの!?」

 

「なんと、ここでまさかまさかの〝厨二〟モード発現だぁあぁぁあ! グリフィンのエース連中も震え上がる黒い悪魔が、形勢をひっくり返さんと襲い掛かるぅうぅ!」

 

「厨二ってなんの事さ?」

 

「ああ、厨二っていうのはね、とってもカッコ良くて強いモノの事を一纏めにして表現する便利な言葉なんだぞ」

 

「へぇ~、そうなんだ? よ~し、いっけ~厨二厨二~」

 

 デストロイヤーが無知なのを良いことに悪い言葉を教え込むMDRだが、今はそんな事を気にかけている場合ではない。

 通常モードとは比べ物にならない戦力を有するEliteモードは本気でヤバい。

 

「あっちゃ~、アレは少しマズイ・・・よね?」

 

「そう・・・ですね。まっとうに戦って勝てるでしょうか?」

 

 当の2人も渋い顔をしているので、私の見立ては間違っていない。

 これは、私もスナック菓子片手にのんびり観戦している場合ではないか?

 

「では、参る!」

 

 エクスキューショナーが宣言した刹那。その姿は既に95式の間合いに現れていた。両者の間は5メートル以上も離れていたのに、だ。

 

「っ!? 速い!」

 

 赤い稲妻の残光を引きながら襲い掛かる拳を、寸でのところで躱す95式。

 見るからにさっきよりも速度が増している矢継ぎ早の攻撃を、避け続けるが、その様子には余裕が微塵も感じられない。

 そんな綱渡りが名が続きするわけもなく。

 

「ぐっ!?」

 

 防御をすり抜け、エクスキューショナーの蹴りが95式の脇腹を薙ぐ。

 苦悶の表情を浮かべながらも堪える95式だが、一度奪われたイニシアティヴはそう簡単には取り戻せない。

 もらう攻撃は徐々に増えていく。

 

「おらぁ! ぼ~っとしてんな!」

 

 K5の方も同様にかなり苦戦を強いられている。

 相変わらず荒々しいハンターの攻撃は段違いに激しさを増し、まるで、赤い竜巻でも前にしているかのような様相だ。ショットの娘達が持っている盾だって、あの前では無力なのでは? と末恐ろしく見える。

 

「っとっとぉ? 勢いが付いてるのは良いけど・・・一辺倒なのは変わらない!」

 

 それでも臆することなく、最小限の動きで回避を続けるK5が隙を見つけて蹴りを叩き込む。

 体の回転を利用して勢いを乗せた踵蹴りが、ハンターの横っ面に直撃。鈍い音がホール内に木霊する。

 しかし・・・

 

「捕まえたぁ!」

 

 Eliteモードは耐久力も激増するのか、ハンターはひるむ素振りも見せず、K5の足首を掴む。

 

「! やばっ!?」

 

 戦慄するK5だが、もう手遅れだ。

 ハンターのパワーの前に虚しく、K5の身体が軽々と振り回される。

 まるで、癇癪を起した子供がオモチャを振り回しているかのような光景。

 そうして、散々振り回した後にハンターが手を離す。ホールを支えているコンクリの大柱に目掛け、K5の身体は砲弾のような勢いですっ飛んでいく。

 

「きゃぁ!?」

 

 K5の身体が石柱に激しく叩きつけられる。受け身は間に合ったようだが、でも、すぐに立てるような軽いダメージではない。

 

「寝るのはまだ早いぞ!」

 

 乱暴に踏みつけてくる追撃を転がって回避。態勢が整うまで、K5はこうやって凌ぎきるしかない。

 

「さすがは悪名高きEliteモード! 完全に形勢逆転です! グリフィンの精鋭2人には、もう成す術はないのか!? ・・・ね、ねえ、隊長。これってさ、2人ともヤバくない? あの2人がやられちゃったら、私達じゃあ絶対に勝ち目ないって」

 

 音声が流れてしまわないよう、ヒソヒソ声で慌てるMDR。やる事はやりつつも、状況はちゃんとわかっているようである。

 

「・・・最悪、こっちには武器があるから、それで思い知らせてやればいい」

 

「でもさぁ、銃器は使用禁止って言っちゃったし。ここでルール破ったら、なんか申し訳ない感じもする」

 

「アンタ、どっちの味方なのよ!? 申し訳ないもクソもないわ。最後に生き残った者が笑うのよ」

 

 とか言っている間にも、95式とK5はどんどんと追い詰められていく。

 

「おい、エクスキューショナー! そっちいくぞぉ!」

 

「承った」

 

 後ろ首を掴み上げられていたK5がハンターによって放り投げられる。

 弾丸ライナーのような勢いですっ飛んでいくその先には、エクスキューショナーに追い立てられた95式の姿が・・・

 

「「きゃぁ!!」」

 

 咄嗟にK5を受け止めようとする95式だったが、崩れた態勢ではそれもままならない。激突した勢いもそのままに、2人纏めて吹き飛ばされてしまう。

 

「なんて息の合ったコンビネーション! 大ダメージ間違い無しの見た目ですが、果たして、グリフィンの2人はここから立ち上がることが出来るのでしょうか~~! ・・・や、やっちゃおうか? 動画の取れ高は大事だけど、命はもっと大事だし」

 

「おい、汚いぞグリフィン! 約束破るつもりかよ? 2人とも~、コイツら、隙を見て銃を持ち出そうとしてる~!」

 

 馬鹿MDRめ。焦って声が大きくなったせいで、隣のデストロイヤーに話を聞かれちゃったじゃないか。

 

「安心しろ。そ奴らの動向にも目を光らせている。奇襲でなければ、銃を持ち出そうとも我らの敵ではない」

 

「せっかく温まってきたんだ、次はお前らが相手してくれよ。そんな偉そうな態度なんだ、もちろん、存分に楽しませてくれるくらいの腕前なんだろう?」

 

「ひぃぃいぃぃぃ~。無理無理無理絶対に無理ぃ、ボコボコにされちゃうって~」

 

 様子を見ても分かる通り、MDRでは近接格闘は話にならない。秒殺だろう。

 私は、まぁ、心得くらいはあるが、それでもK5と95式には及ばない程度だ。1人であの鉄血コンビを相手にはできない。

 

(くそっ・・・これは流石にマズイわね)

 

 ここは戦場だというのに遊び半分で事を運んでしまった、これは私のミスだ。

 打開策を考えようにも、Eliteモードが登場というこの戦力差はどうしたって埋めがたい。

 私の主義に反するが、隙を見て撤退というのが一番現実的か。

 確か、装備品の中にあるスモークグレネードがあったよな・・・などと、さしもの私も弱腰になりかけていた・・・その時だった。

 

「あいたたた・・・流石のEliteモードだね。これは、私達も本気出さないと厳しいかな?」

 

 床に倒れ、蹲っていたK5が起き上がってくれた。そして、なにやら不穏なセリフのおまけ付きである。

 

「・・・そうですね。今日は疲れたので、やりたくはなかったのですが、背に命には代えられませんからね」

 

 そして、そんなK5に合わせたかのような95式。

 立ち並んだ2人は、身体の節々をさすっているが、それほど大きなダメージを負っている様子は無い。

 本心では、ちょっと涙がジワってしまいそうだった私だったが、その様子を見て涙が引っ込んでくれる。

 

「MDR、上着を預かっておいていただけますか?」

 

 言って、95式が上着に手をかける。

 真っ白い外套のような上着が脱ぎ去られ、実況席のMDRに向けてフワリと宙を舞う。

 上着のヒラヒラ感がなくなり、一層に細やかなフォルムに換装した95式が構えをとる。

 

「・・・ほう? どうやら、ただの強がりではないと見た」

 

 私でも、95式が纏う気配が違うように思えるくらいだ。Eliteモードの彼女には、如実に分かる事なのだろう。

 

「うえ!? こ、この上着、重い!? 20キロ、いや、30キロはあるよ! まさか、今までこんな重い上着を羽織って戦っていたというのか! 果たして、これほどのウェイトを脱ぎ去った

95式は、どのようなスペックを発揮するというのか!?」

 

 もちろん、上着を受け取ったMDRのこれは、動画を盛り上げるためのウソ実況である。

 巻き返しのチャンスが見えた事で、また調子に乗り始めてしまったのだ。さっきみたいにビビっているくらいが可愛らしくてちょうどよかったのに、残念である。

 

「じゃあ、私は裸足になっちゃおうかな。隊長、パ~ス」

 

 K5は私に向けて靴を投げ飛ばしてくる。

 こちらも、何の変哲もない、普通のシューズをしっかりとキャッチする。

 横からMDRが何か言いたげに視線を送っているが、ガン無視しておいた。

 

「裸足になったくらいで、何か変わるってのか?」

 

「そうだね、分かりやすく言うと・・・銃のセイフティを外した、ってとこかな?」

 

「はっ、今までのはお遊びだったって? ・・・笑えない冗談だ」

 

 裸足になるのが好きなK5であるが、これは、そんな気分的なお話ではなさそうだ。

 ハンターが苛立っているのは、K5の自信が、決して大口なんかではないことを察しているからに他ならない。

 K5も構えをとり、戦闘態勢に切り替わる。

 ・・・これは、私の疲労による錯覚か、それとも、本当にそんなことがあり得ていたのか。並び立った2人から、澄んだ青色のオーラが漂っているかのように見えてしまう。

 

「私の持っているカメラを通して、皆様にもご覧いただけていますでしょうか? 95式とK5が纏う、神々しく美しい、この蒼い闘気が! 紅と蒼、相反する彩が今まさに、激突の時を待ちわびているのです!」

 

 MDRと同じモノが見えちゃっている時点で、私はもう完全にキテいる証拠である。

 私にとってみれば、ほんの僅か。でも、あの娘達にとっては、とんでもなく長い間だったのかもしれない静寂。

 まず、それを破ったのはK5だった。

 私が普通に瞬きをした、それだけの間でハンターの懐に踏み込んだのだ。

 

「っ!?」

 

 驚きこそすれ、それに反応できたのは流石のEliteモードといったところか。テレポートでもしたかのように迫ってきたK5に向け、拳を振るう。

 しかし、ヤツが本当に驚くのはここからだった。K5の高速の蹴り上げが、ハンターの拳を弾き返したのだ。

 

「なにっ!?」

 

 これには私も驚きだ。まるで、鉄製の建材でも振り回しているかのような、重量級の攻撃を、

K5が蹴り払ったのだから。

 

「ほら、驚いてる暇はないよ!」

 

 そうして、隙を作ったところにK5が連続で蹴りを叩き込む。

 Eliteモードの耐久力を破れず、苦労していたさっきまでとは大違い。その一撃一撃に対して、

ハンターは表情を歪めている。

 

「クソっ! 調子に乗るなぁ!」

 

 足元を狙った乱暴蹴りを飛び込み回避。

 地面に手を付き、逆立ち状態でハンターの頭部を蹴り飛ばす。

 しっかりと地面を掴んだ腕で体を捻り、まるで、回転ノコギリのような蹴りがハンターを追い詰めていく。

 

「これは凄い! 逆立ちからのスピナーキックが炸裂だぁ! 隙をついて立ち上がってぇ、飛び蹴り3連からの後ろ回し蹴り、水面蹴り、カカトにサマソ・・・は、速すぎてもう実況が追いつきません! だって、秒間5発以上のスピードなんだもん!」

 

 さっき、ハンターの猛攻を嵐のようだと例えたが、訂正しよう。今、ハンターを襲っている全方位からの蹴撃こそ、本当の嵐だ。

 何かの映像記録で見た、嵐の中で飛ばされないよう必死に堪えている報道員のように、ハンターはK5の檻の中で身動きが取れずにいる。

 

「あ~もう、何やってんだよ、ハンター! そんな攻撃、さっきみたいに我慢して一発ぶっ飛ばしてやればいいのに~!」

 

「解説のネゲヴ隊長。このK5の猛攻は、やはり、裸足になったというのが大きく関わっているのでしょうか?」

 

「そうね・・・たぶん、軸足の使い方が変わったんじゃないかしら?」

 

「ほうほう・・・・・・そこのところもっと詳しくプリーズ」

 

「蹴りの威力とスピードは、地についている側、軸足に依存するの。運動エネルギーを余さず相手に送り込むには、身体がしっかりと地面に固定されていなければならない」

 

 ふむふむ、とMDR、デストロイヤー揃って頷いているが、全く分かっていないのは顔を見れば明らかだ。なので、これはカメラの向こうに居る賢明な視聴者さんに向けての解説である。

 

「裸足になったことで、指でしっかりと地面を掴み、軸足としての効果が激増したから、それに伴って威力とスピードも向上したのよ。・・・まぁ、私の見立てだけど」

 

 私に予想できるのはこれくらいだ。もっと知りたい人は、直接K5に聞いてくれ。

 

「なるほど、そういう事ですね? 完全に理解しました。さぁ、K5、ハンター組みはもう実況してると疲れちゃうので、95式とエクスキューショナーの方に目を向けてみましょう。こちらも・・・とか言っている間に、95式がぁ! 画面端ぃ!」

 

 あまりにも目まぐるしく、激しいK5の戦いだが、95式本気モードだって負けていない。

 参考までに、画面端というのは壁際という意味である。95式が上手く立ち回り、エクスキューショナーを逃げ場のない壁際に追い込んでいるのだ。

 

「ちぃ・・・グリフィンの人形は化け物か?」

 

「貴女達にそのような言われ方をするとは、心外ですね」

 

 優美な口調とは裏腹、一層にキレの増した95式の打撃がエクスキューショナーの身体を打ち抜く。

 ガードしてもその勢いまでは殺せず、エクスキューショナーは背後の壁に強く叩きつけられる。

 

「カウンター読んでぇ! まだ続くぅ!」

 

 苦し紛れの反撃も、完全に優位に立っている95式には通じない。

 防戦一方になってしまったエクスキューショナーは、95式からの攻撃に加え、壁に打ち付けられるダメージも重なって、もう立っているのもやっとな状態だ。

 

「これで、仕舞です!」

 

 懐に踏み込み、体当たりの要領で半身を叩きつける。

 私も訓練で食らったことがある、アレこそが95式の決め技〝てつざんこう〟。

 見た目は地味だけど、痛いんだこれが。

 

「95式がぁ、決めたぁあぁぁぁ~~!」

 

 部屋中に振動が伝わるほど強烈に壁に叩きつけられ、エクスキューショナーがついに膝をついた。途端、身体に纏っていた赤色の稲妻が消え去る。

 もう、Eliteモードを維持するだけのエネルギーが尽きたという証拠だ。

 

「まさか、格闘戦でこれだけ圧倒されるとは・・・・・・無念」

 

 これでもうエクスキューショナーは戦線離脱だが、まだ勝負はついていない。

 

「95式~、ちょっと手を貸してくれる? やっぱり、私の力だけじゃあ倒しきれないみたい」

 

「分かりました。合わせますよ、K5」

 

 K5の巻き上げる嵐に、95式が果敢に飛び込む。

 

「上等だ! お前らまとめて叩き潰してやる!」

 

 ハンターの気合を現すように、身体に纏う稲妻が一層にバチバチしだす。

 左右からの挟撃に耐えつつ、剛腕を振るい続けるそのタフネスさは驚愕に値するが・・・もう手遅れだ。

 〝混ぜるな危険〟、という言葉があるが、今はまさにそれである。

 仲間が傍に居ようとお構いなしに吹き荒れるK5の蹴撃をかい潜り、避けながら、95式は重い一撃をハンターに叩き込んでいく。

 さながら、95式は荒れ狂うK5の暴風を追い風に舞い飛ぶ猛禽。歯車がキッチリと嚙み合ったかのような即興の連携だ。

 我が基地で1、2位を争うインファイターの華麗なコンビネーションを、まさか、こんな辺境の地でお目にかかることになるとは。

 私も、配信を通して見ている視聴者も、かなりの幸運と言っていいだろう。

 

「お~~っと、これはすごいぃ~~! K5だけでも凄かったが、飛び込んできた95式もかなりスゴイ~! もうね! なんていうか! すごすぎてスゴイっていうしかなくなっちゃうくらいに凄い展開です! 画面を通して見ている皆様にもお判りいただけていると思うので、あえて、詳しい解説はしないでおきます。決して、語彙が足りなくて解説できないわけじゃないぞ?」

 

 よくもまぁ、こんなヘボ解説で配信者を名乗れるものだ。コイツの動画を好んで観ている奴らの質が知れるというものである。

 

「ほんっっとうにタフいんだから! ・・・よし、95式、打ち上げて!」

 

「? 思いっきりで良いのですか?」

 

「全力全開でやっちゃって!」

 

 2人のやり取りに警戒したハンターが一歩後退する。

 そんなのはお見通しだった95式は、間髪入れずにハンターとの間合いを詰め、逃がさない。

 

「クソっ!?」

 

 ゼロ距離に迫った95式を前に悪態をつきながら、ハンターは咄嗟にガードを挙げる。

 

「せやぁっ!」

 

 力強い掛け声と共に、95式が屈めた身体を跳ね上げる。爆発的な勢いが全て載せられた掌打が、ハンターのガードをすり抜け、顎に直撃した。

 まるで、ロケットのような勢いを伴った掌打だ。体格の良いハンターとはいえ、軽々と宙に打ち上げられる。

 K5が指示した通りの状況。

 そして、当のK5はというと・・・95式の動きに釘付けだった間に、私達がいる実況席のすぐ目の前にまで駆け寄ってきていた。

 

「え? え? なになになに!?」

 

「ちょっと失礼!」

 

 慌てふためくMDRの真正面、長テーブルに飛び乗ると、踏み台にして私達の頭上高くへと舞い上がった。

 踏切りの際、分厚い木製のテーブルからイヤな音がしたくらいだ。相当な脚力だという事が伺える。

 

「これで」

 

 K5が空中で身体を捻る。

 上着の裾を翻し、踊るように飛んでいくその先には、95式によって弾き飛ばされ、無防備な

状態のハンターの姿。

 

「決めっ!」

 

 遠心力を以て急加速した脚はさながらギロチンの刃。

 断罪の一閃がハンターの腹部目掛けて振り下ろされる。

 

「っっ!!?」

 

 ショットガンでもぶっ放したかのような強烈な衝撃音を伴い、ハンターが床に向けて叩き落とされた。

 石造りの部屋が微かに揺れるほどの衝撃だ。いくらタフなハンターEliteといえど、到底耐えきれるものではありえない。

 

「ぅう・・・少し、グリフィンの人形を舐めすぎたか・・・・・・」

 

 床に倒れこみ、Eliteモードが解除されたハンターの横に蹴り姫様が舞い降りる。

 綿毛が地面に着陸するように、静かに、嫋やかに。

 

「MDR、95式に上着を投げて。ほら、ぼ~っとしてないで、早く早く」

 

「んぁ? 上着? はい、どうぞ~」

 

 あまりにも獰猛かつ華麗な一撃に、実況も忘れて見惚れていたMDRは、K5に急かされるまま、白い上着を放り投げる。

 

「ふふ、私達に」

 

 手を高く掲げた、お馴染みの勝ちポーズでK5。

 

「並ぶモノ無し、です」

 

 受け取った上着を羽織りながら、K5にクルリと並び立って優美に微笑む95式。

 しっかりとMDRのカメラに向かって勝ち名乗りを挙げているのだから、この2人も見た目に反してかなりの目立ちたがりだといえよう。

 

「し・・・・・・しょ~~ぶありっ! 厨二モード登場で一時は劣勢に追い込まれたものの、奇跡の大逆転を見せましたぁ! 我らがグリフィン基地の龍と虎! 背中を預け合った最強コンビ! タイガー&ドラゴンが見事に勝利を飾りました!」

 

 軽く唾を飛ばしながら、大興奮で喚きたてるMDR。

 ホント、2人がEliteモードにやられた時にはどうしようかとヒヤヒヤしたが、何はともあれ結果オーライだ。

 これからは、あの2人にはケンカを売らないよう気を付けよう。うん。




もう、ドルフロあんま関係ない展開になってましたね。
書き上げた当時にやっていたアクションゲームが影響して、こんな展開になっちゃったんじゃないかと自己分析しています。
K5が蹴り技を好んでいたのは、韓国出身という事でテコンドーをモチーフにしていたんでしょうね。

今作も残すところあと僅か。どうか、ネゲヴちゃん達の雄姿を最後まで見届けてやって下さいな。
以上、弱音御前でした~
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