3、という数字は、どこか嫌に思ってしまう。それは、これまで生きてくる中で3、という数字がおおかったから、というのが一つ。
福引をやるにしたって、競争をするにしたって3に選ばれることが人生の中で特段多かった。
そして最近、夢を見る。そんな「3」の夢を。
何度も何度も、嫌と言うほど、自分のものですらない記憶がリフレインされる。あまりに鮮明に、まるで語られるように、ターフの上に自分を見る。そんな夢が―――
ガツンと、また音が聞こえそうな頭痛が目を覚まさせる。昨夜セットした目覚ましがちょうど朝を知らせてくれている。そういえば、時折起きるときにくる頭痛もストレスだ。ほんの一瞬、目覚ましを止めたころにはもうなくなっているけど。
それが週に一回はあるからむかつく。なんかの病気かと思って調べてもわからないし、放っておいてるけどこれもイラつく。
「きょう...やすみ...だっけか」
寝ぼけた頭をクリアにするために顔を洗いに行く。そしてすこし寝ぼけが収まると、昨晩のことを思い出した。あんな興奮初めてだった。
自分のポテンシャルを出し切って、どうやって勝とうか頭を振り絞るみたいにつかって、最後にはなにもかも吹っ切れるくらいの高揚感だった。
「あのときだけは...キラキラ...出来てたかな...」
ぽろっと、そんなことを漏らす。小学生とかのときに抱いてた、夢。もう捨てられたと思ってたのに、まだどこかそれを夢に見るあたしがいるらしい。
二つの夢。望むことと思い出させること。全く違う夢だが、どこか繋がる気がする。
朝ごはんを用意しようと思ってリビングダイニングに行き、テレビをつける。
今朝は安くなっていたパンを食べる。期限が今日までなので、パパっと食べてしまおう。実家を出てからは自炊の回数も減ってすこし手短になりつつある。夜と土日くらいはしっかりするものの、悪い傾向だと自覚する。
そうしてバターをつけたパンを頬張っていると、気になるニュースが流れてきた。
「トウカイテイオー、引退を表明...か。」
そういってニュースでは会見の様子が流れてきた。どうやら6年もの間最前線で活躍していたらしい。テレビに映る会場にはこれでもかと記者がおしかけて我先にと質問を投げかけ、
それを慣れたように受けるトウカイテイオーとその担当「トレーナー」の姿があった。
「本当のキラキラって、こういうのを言うんだなぁ...また自信なくしたかも。」
自分の勘違いが恥ずかしくなる。あんなのはただ...ちょっとちやほやされているだけで...なんでもないんだと、再確認した。
記者会見の様子を流し終えると、テレビとしてはそればかり取り上げてもいられないので、5月1日の天皇賞春を引退レースとすることを告げるとすぐ次のニュースになった。
ちょうど食べ終わったので、テレビをけして着替えて、朝の散歩兼買い物に出かける。財布とMD式の音楽プレイヤー、それ用のイヤホンをとって出て、外に出てカギを閉める。
下に行って、ふと止めてあるロードスターに視線をやる。普段はシートをかぶせてあるけれど、それでもあたしは、そこに目を向けずにいられなかった。
「なんでもないなんて言わない方がいいよね...アンタは...アタシのために頑張ってくれたのにさ...。」
そう言うと、イヤホンをつけて音楽をつける。
商店街までの道のりもずいぶん見慣れた。2、3年はこのあたりに住んでいるのだから慣れて当然かもしれないが、やはり最初は不安が強かっただけにすこし安心したようにおもう。
ここの商店街は、地元の歩行者天国的な雰囲気のあるタイプじゃなく、道路横に歩道があって、そこに八百屋やらが立ち並ぶ形式。今じゃ馴染んできたけど、やはり十数年の記憶のせいで違和感は否めない。
目的の八百屋に近づいて、音楽を止めてイヤホンを外すと、今朝も3、4人中外にいるようすがうかがえる。行きつけ、という概念に抵触するくらいにはよく来ている店で、こちらも顔を覚えてもらって訪れると
「おおネイちゃん!いらっしゃい!今日はずいぶん早いなぁ。」
こんな風に声をかけてもらえる。 地元ほどの付き合いじゃないが、半年もしたころにはこんな雰囲気だった。
「おっす~。いんにゃ、今日はやけに寝覚めがよかったもんだから、散歩がてら、と思ってね。健康寿命とやらにもいいらしいし、それに冷蔵庫には昼を乗り切れる食料もないもんで~」
「なんだうちのカミさんみたいなこと言ってぇ。ま、そういうことならゆっくり見てきな!まだ客は少ないから新鮮でデキのいいのが残ってるぜ?」
「お~。朝っぱらだとそういうメリットもあるからな~。どれどれ」
そうして目的の品を大方買い終えると、並びの古着屋に立ち寄る。来たばかりのころに、ここで手伝いをやってた、「ヤマノマナミ」さんっていうウマ娘にこのあたりのことを教えてもらったことがある。
それ以来買い物帰りにはいつも立ち寄っている。
「マナミさん~?」
「ほいほ~い。ちょっとまってねっと。 はいはい、あ、ネイチャちゃん!早いね今日は?」
「今日だけで何回聞いたかな~、ソレ。」
「なはは~。ネイチャちゃん、いつもお昼過ぎに来てて、それがみんなにとっても当たり前になってきてるんだよ。きちんと馴染めてる証拠なんだから嫌そうにしないでもいいじゃない?」
「そーいうもんかあ...そう捉えると悪くない...のかな?」
「ま、ネイチャちゃんは、ヒトに好かれる才能、ってのは確かにあると思うな!話しやすくてなじみやすいし、それに~...」
「それに?」
「うんにゃ、なんでも~?ただ、最近のウマ娘は発育がよくていいな~、っていっこ違いとかなのにねえ?なっはは~」
.. 優しい人だけど、たまにスケベなのは、このひとのある種アイデンティティなのかもしれない。(その乳じゃヒトのこといえないだろうに)
「っと、わざわざ来てもらってこんな話じゃわるいね。この前、乗せてもらったクルマのことなんだけどさ、私もさ、あれ以来もうクルマの世界にゾッコンでね?私も車ほしいって思うようになったんだよ。」
「へえ。マナミさん。アタシのロードスター乗るまで、そんなに興味ないカンジじゃなかった?(武内イ〇キかってんだ)」
「そんときの私と今の私はちがうのさ。でさ、ネイチャちゃんみたいな後輪駆動の車がいいなって思うのさ。バイト代も貯まってきてるし。なんてったっけ、トレノってやつ?とかボロだけど安いしいいかなって。」
「ほ~。1、2週間でそこまで。マジだね?」
「マジマジ」
「ふむ、なら来週あたり、中古車屋でも回る?手伝うよ、あたしなんかでよければ、ダケド。」
「お、ほんと?よっしゃ!なら来週の日曜日、開けておいてね!約束だよ!私、約束守らない人と煙草吸う人はキライだからね!」
「わぁわかりましたからそんなに盛り上がらないでよ。あたしはカルくついてくだけなんだからさ。」
「うん、それでも私超うれしいよ!」
「マナミ~。ちょいと来な~」
「ありゃお母さん。は~い!それじゃネイチャちゃん、細かいことはメールで!それじゃ~」
「は~い。まったく、元気のいい人だこと。こっちのほうが年下のはずなのに、気合負けしてるって感じ。」
けどまあ、たまにこうやって買い物をしつつ商店街をまわると、童心に帰れるというか、元気をもらえる。ナイスネイチャの在り方の原点はやっぱり、こういうおっちゃんおばちゃんのいる商店街にこそある、なんて思う。(それってどうなの)
そうして音楽を楽しみつつ帰っていると、アパートの駐車場にロードスター、セフィーロのならびにS13を見つける。持ち主と思われる帽子の似合うウマ娘は、こちらを見つけて手を振る。音楽を止めてイヤホンをポケットにしまい声をかける。
「おいっす~。どうしたのタンホイザ。今日は記念日かなんかだっけ?」
「こんにちは~!そうじゃないけど、ヒマだったし、一緒にご飯でも、とおもって。どうかな?」
「お、いいですな~。んじゃ、これだけパパッとしまってくるから、まってて~」
「今、馬力いくつ出てるんだっけ?このS13。」
「う~んと、180ちょい位...あ、前にちょっとセットを変えたから、175くらいと思うけど、それがどうしたの?」
「いや、前にバトルしたとき、結構加速で離されてたからさ。やっぱSRはいいエンジンだな~。アタシのB6じゃそこまで簡単に出ないもんなー。」
「けど、ネイチャのロードスターは軽いし、それに足も私のS13より煮詰まってるし。ダブルウィッシュボーンだったよね?S13はストラットとマルチリンクだから、それと比べると足がいまいちになっちゃうんだよね~」
「ま、スポーツカーとして産まれた車と結果的にスポーツカーになった車の差なのかな。前に見たときはかなりイイ動きしてたし、ぼちぼち調整してけばイイとこ行けると思うよ?上達も、ここらへん早いし。」
と、あたし達にとって他愛もない話をしながら窓の外を見ていると、一台、見慣れないクルマを見た。ホワイトとガンメタのツートンに横っちょには吸気口
「AW11かな。あ、ハイマウントストップランプ。ありゃ最終型だ。」
「このあたりのナンバーっぽいし、走り屋の車かな?」
「どーだろ。最近あんまし走ってなかったしわかんないなあ。」
「っとと、ここだった。はい、目的地到着~。ここのおいしいんだよね~」
「で、そのX-90がハイオク入れてて、もう珍しい続きで。」
「見たかったな~。県外ナンバーだったんでしょ?もう見れないだろーなー...。あ、時間大丈夫?結構引っ張っちゃってるけど。」
「う~んと、大丈夫!今日は夜までフリーだから大丈夫だよ!」
「それならさ、軽く中古車でも見ていかない?」
「いいけど、まさか、乗り換え...!?」
「ああいや、そうじゃなくて、知り合いがクルマ探してるらしくって、手伝いたいな~って。」
「そういうことなら、いこっか!時間はたっぷりあるし!」
「おっけ~。あ、会計、アタシ出しとくよ。」
「ほ~。結構見ないようなのもあるもんだな~。このビートなんか調子よさそうだし。」
「かわいいよね~。そういうのも。あ、FRがいいならこれとかどう?180!前期型だからCAだけど、ターボだしいいとおもうなあ。」
「お、いいね~。結構、180も10年落ちの車両が出てくるから、時の流れってのも侮れないな~。」
そんな風に見て回っていると、向かいの駐車場に、ボンネットを開けて中をいじっているヒトを見つける。どうやら、あの様子だとエンジンがかからないようだ。
「ごめん、アタシちょっちトイレに。」
「うん、わかった~。」
そういってその駐車場の方へ行ってみる。NB型のロードスターのようだ。
「えっと~、お兄さん?車、どうかされたんですか?」
「え?あ、いやっちょっとエンジンがかかんなくなって、でも、大丈夫、こんなもんなら...いって、っつう~。これで...」
しかし、その威勢に反してエンジンはかかる様子がない。
「う~んこの分なら...ちょっと見てもいいですかね?」
「いいけど...全然わかんなくて...」
「いや、こういう場合は~..やっぱし、接触不良だ。これを、ぐっと...あれ、こりゃ接続かなり緩んでるな~。このまま、セルまわしてみて!」
すると、さっきまでの煮え切らない音とは違いしっかりエンジンがかかった。
「おお...ホントに治っちまった...」
「接続がかなり緩んでるから、早めにここの...このコードごとバッテリーとっかえちゃったほうがいいよ。」
「えっと、ありがとう!なんてお礼したら...」
「いや、そんなのいいよ、ただ、アタシはこのロードスターが気になっただけだから。アタシもNAだけど、ロードスターのっててさ、しっかりキレーに乗っててほしいなって。それだけ。お兄さん、走り屋の人みたいだし。」
「じゃあ、名前だけでも、せめて恩だけでも覚えさせてほしいんです。」
「だから、いいってんにな~。アタシ、ナイスネイチャ。それじゃ。」
「...!ありがとうございます...!」
そうして、そそくさとその場を去った。慣れないことするもんじゃないな~、と、そうおもった。
その夜はまた土坂にのぼった。そうすると今度はみんなが揃い踏みだった。
「こんばんは、ネイチャさん。」
「おいっす~。見慣れないクルマ二台くらい見たけど、あれは?」
「おそらく先日のバトルの噂を聞いてきた走り屋かと。すでに一度挑戦をうけました。」
「で?」
「勝利しました。」
「さっすが。うちのリーダー、頼もしい限りですわ。」
「いえ、相手はおそらくココが初めての方でしたので、当然の結果かと。」
「そっか。しかし、こうなるとちと気をつけなきゃだな~。これまでは多くてもアタシたちプラス一人だったし。」
――ふと、見覚えのある車を見つける。ホワイトとガンメタのツートンに横っちょには吸気口。そしてハイマウントストップランプ。昼に見たMR-2、AW11だ。
「あんたたちが、この前ここでソニックスターズを倒したカノープスって走り屋だよな。」
「...そうだよ。一応、ここであのチームと戦ったのはアタシ達だけど。」
「そうか。なら早い話だ。次の土曜日、俺とここで下りのバトルをしないか?」
「...挑戦、ってわけ。」
「ああ。ルールは昨日のルールと同じだ。どうだ?」
「断る理由はないかな。OK、受けて立つよ。けどその代わり、あんまりこのことは騒ぎ立てないでほしいかな。できればバトルのあとで。」
「了解した。俺は紅葉康介。また、土曜9時、ここで会おう」
そういうとMR-2に乗る男、康介はそのまま去っていった。
「間髪入れず第二バトルですね。」
「そうだねぇ。うんや、あれケッコー疲れんだけどな~。」
「けど、昨日の調子でいけば勝てるよ!レコード、すごかったしさ!」
「うん!ターボも手伝うよ!」
「あっはは~。なんで当の本人より盛り上がってるんだかな~。」
そうして、第二バトルの予定が建てられることとなった。しかし、相手はミッドシップ。かんたんには勝てないかな~。なんて思うけど、心のどこかじゃ、きっと勝ちたくてうずうずしてるアタシがいるんだと、なんとなく考えた
あとがき
執筆当時は4月16日ということで改めましてナイスネイチャ号34歳おめでとうございます。。シャルロットという競走馬は40歳まで生きた競走馬がサラブレッドの中で最長寿だとされているため、
すでにとっても長生きさんです。これからも元気でいてほしいですね。さて、本作の話に戻りますが、今回ウマ娘においてもオリジナルキャラを出させていただきました。「ヤマノマナミ」という名前ですが、埼玉の牧場に
真波というウマがいるというのを見たのと、ヤマノ、はぱっとおもいつきです。キャラとしては真希波マリイラストリアスと葛城ミサトと武内樹を足して三で割った感じを想定しています。今後も時々登場させたいと思ってはいます。
ほかのウマ娘ですが、現在は、セイウンスカイ、アドマイヤベガ、その妹にあたるウマ娘、それからまだ補欠的にですがナカヤマフェスタとシリウスシンボリを考えています。史実においてド主人公のキャラは、若干登場させづらいのが
公道レース作品として書いたことの弊害としてありますね。「関東でわざわざレースでなく走り屋をやっている理由」がないともやもやするんですよね。故にナイスネイチャを選定した面もあります。
先日ハイパーレブのGRヤリス号ボリューム2を購入したのですが、あまりチューンが盛んでないというか、専用設計エンジンの弊害が出ているなという印象でした。
というか、これは私見なのですがvol100前後と比べて少々装飾が派手過ぎるように感じましたね。
さらに関係ない話に飛ぶのですが、このシリーズをいったん完結させた後、首都高を舞台にした物語を作りたいと考えています。おそらくまだまだ先ではありますが、そちらもよろしくお願いいたします。
用語コーナー
SR
日産のエンジンのシリーズを指す。直列四気筒、DOHC(次項で解説)16バルブ(次項で一緒に解説)のエンジンのシリーズである。シルビアやその他の日産車に搭載され、高い強度を誇ることからチューニングベースとして活躍した。
DOHC、バルブ
バルブというのはエンジン内部に空気を送り込む際、また内部から排気する際にそれらを制御するための弁機構のことで、DOHCとはデュアルオーバーヘッドカムシャフト、つまりカムシャフトと呼ばれるバルブを押し引きする棒がエンジン上部に二つ付いたエンジンを指す。
ダブルウィッシュボーン
サスペンションの形式の一種。二つのアームでサスペンションを支えることから来ている。左右車輪を独立して稼動させられる独立懸架に分類される
ストラット
サスペンション形式の一種。安価かつ小型で単純なことから採用車種が多い
マルチリンク
サスペンション形式の一種。4つ以上のアームでタイヤを動かす。
ハイマウントストップランプ
高い位置に補助的に取り付けられるブレーキランプのコト。MR-2のAW11に搭載されるものは厳密にはハイマウントストップランプではないとされる。
AW11
トヨタ・MR-2の初代モデル。AE86などにも搭載された4AGエンジンと国産初のミッドシップ車両ということで人気でした。
X-90
スズキの小型車。コンセプトがあまりに奇抜だったためあまり売れずに終わりまし
た。
CA
日産のエンジンで、SR型の前任に当たります。
NB型ロードスター
二代目ロードスターのコト。リトラクタブルヘッドライトを廃止したり、ボディ剛性を高めたりして元のポテンシャルそのままに進化を遂げました。
ミッドシップ
車両の中心(またはそれに近い位置)にエンジンを搭載する駆動方式。