「そこそこかな~。明後日のバトル、どう?」
「どうもこうもないかな。自信はまだないけど、ベストは尽くすよ。」
「そっか、じゃ、ターボからアドバイス!ここぞってときは、車を信じて仕掛けてみるといいよ!」
「ほほ~。その心は?」
「ターボね、車って生きてると思ってるんだ!だから、思いっきり行くぞってときはクルマのことを信じれば、きっといける!ネイチャも参考にしてみるといいよ!」
「なるほどね~。クルマを信じて、か。」
すっと、ロードスターの方を見る。 今は、まるで眠っているようにしている。だけど...確かにこの車は、生きている。ターボの言葉はほんとうだと思う。
シートにおさまって、ステアリングを握っていると、だれにも聞こえるようなエンジン音とかだけじゃなく、深く、奥深くから声が聴こえる。
「それじゃ、ターボ明日早いから、これでね!」
「おいよ~。気を付けなさいな~。」
...信じられて、なかったかもしれない。そうだ、負けてなんかいない。あんたも、アタシも....
二日後。カーテンを開けて風に当たってみる。これほどまでに高揚することなんてない。頭を冷やそうと思ってたけど、ぜんぜん意味がない。冷水にでも頭つけるべきかな...
と、ケータイがピロンと音を鳴らす。メールかなんかだろうけど、どうしたんだろう。見れば[明日のことについて]というマナミさんのメールだった。
「しまったぁ...ぬけ落ちてたなあ...ネイチャさんともあろうものが...」
最近、変に忙しい気がするな...
さて、晩御飯は景気づけに外で食べていこう。今日はまた負けたくない戦いなんだから、うんとスタミナがないといけない気がする。
「あれ、先に来てらっしゃいましたか。」
「おう。万一遅れても嫌だしな。」
「そっか。んならさっそく始めるとしますか。先行後追い、先行はちぎれば勝ち、後追いはべたづけるか、抜いたら勝ち。勝負がつくまで繰り返す方式で。」
「それは前に確認したろ。始める...ん...?」
3...いや4台車が上ってきている。
「おい、俺はギャラリーを呼んだ覚えはないぜ。それなのに、お前が来るってんはどういうことだ。」
「そう身構えるなよ。俺は、そこの嬢ちゃんに言われてきたんだ。」
「へえ、お前も美人だからって簡単にオトしちまうとはなかなかの口だな?」
「はっはは!そういうんじゃなくて、かるくそういう話をしただけですよ。」
「もう集まっていましたか。では、進行は私が。」
「ごめんね~イクノ。こういう仕事頼みっきりで。」
「いえ、気にしないでください。」
「うし。それじゃはじめよっか!ポジションはどうする?こっちが地元なんだし選んでもらっても構わないけど。」
「なら先に後追いで頼む。」
「よし、じゃクルマ並べちゃって!」
正直なところ、先行のポジションになることはなんとなくわかっていた。おそらくこっちのレベルを1本目で図る作戦だろう。
「カウント5秒前!4、3、2、1、GO!」
1本目、全力でやればタイヤを消耗する。相手の作戦がこちらの実力を見る作戦なら全開で飛ばすことはない。
「ほお...結構やるじゃねえか、嬢ちゃん。女だてらに走り屋やってるだけあるぜ。(ちょっち変な表現化もだが)だがこの程度じゃないはずだ。こんなもんなら県内最速と噂されたソニックスターズは負けてないはずだ。
ヘアピンと呼べるコーナーの存在しないこのコースでゼロカウンターの実現は難しい、ならあえて慣性を利用しカウンターで反転しドリフトをする...この芸当を、全開じゃないということと、タイヤ温存と両立する。ただものじゃないな。」
「二本目入ります!5、4、3、2、1、GO!」
「二本目、じっくり見させてもらうよ、その走り...!」
「へ、へへへ...すげえぜこのプレッシャー、こうでなくちゃなバトルってのは...!!興奮するぜ、今までのどの瞬間より...!」
うまい、コーナー、そこから立ち上がり、イーブンなようで、立ち上がりで僅かにあっちが速い。ミッドシップの恩恵か、4AG型のパワーかどちらにせよ、だ。辛いバトルになることは初めから予感してたけど、これは不味いかも...
...でも、初めに想像していたよりも距離が離れない。ミッドシップ故の弱点、ピーキーさが、ツッコミにわずかに影響している、いや、アタシの想定より限界が高いはず、でもこれなら勝負できる。
お互いにタイヤが万全な間は勝負を仕掛けられない。なら限界までもつれ込ませる。そう難しいことじゃないだろ...!
「三本目入ります!5、4、3、2、1、GO!」
「三本目に入ったか。まだまだここから、ってわけだ。悔しいぜ。俺はここでもうやられちまってたってのに。」
「こんばんは!先週は、話してませんでしたっけ。マチカネタンホイザです!」
「ああ、ネイチャさんのチームの。相沢だ。よろしく。 君らのとこの御頭は、結構なスタミナなもんだな。俺にゃ簡単にはまねできないな。」
「ネイチャがああやって熱くなるようになったのはここ最近のコトですけどね。相沢さんとバトルしたときのネイチャは、いままでとは違うカンジがしてましたし。」
「じゃ、今回はそうだと思う?」
「今回も、というより、今回の方が、さらにいままでとは違う感じがしますね。今回も、私はネイチャが勝つと思ってます!」
「そうか。俺もそう思うよ。この前、すこし彼女と話したんだ。ビックリしたな、なんというか。バトルしていた時の殺気にすら近いプレッシャーを放つあのロードスターのドライバーと、自然体な感じで話す彼女はあまりに乖離していたからな。
バトル前にも軽く話したけど、走り屋としてのオーラなんてこれっぽっちも感じやしなかった。はっきり言えば今でも同一人物か疑ってしまうほどさ。」
「そ、そんなにですか?私にはそんな風には見えないんですけどね~。」
「ま、本気でバトルしたやつ同士でわかることってもんだな。一度本気を見たからこそ今回のバトルも彼女が勝つってわかるよ。あれを超える走り屋なんて想像つかないからな。」
「でしょう?なんたってうちのダウンヒルエースですからね!」
ジリジリと、追いつめられるような感触。三本目ももう終わる。そろそろタイヤのグリップに怪しさが見えてくる頃合いだ。程よい温度のドライ路面、タイヤが垂れるタイミングは大体予想できる。
あとがき
いや...イベントストーリー...めっっっっっっちゃよかったです...。なんというか、キングとネイチャのなんというか自然体な表情で会話してる感じがもう...好きです。今回はそれだけです。
用語コーナー
スーパーチャージャー
過給機の一種で、ベルトで駆動する。レスポンスがよく、常に一定の過給圧をかけられる。
ここもこんだけです。