これであなたはサトノ家行きです   作:転生した穀潰し

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13:空回り、綻ぶ歯車

「──すまなかった」

 

 謹慎期間が明けた俺は、真っ先にこの事態の被害者となったキタサンブラックのいる教室へ足を運び、深々と頭を下げた。

 

 教室へ足を運ぶ途中、俺は嫌悪や敵意のこもった視線を一身に浴びることとなった。

 

 想像はしていたが、俺が起こした問題は周知のものとなっていたようだ。

 

 こうして頭を下げる最中も、多くのウマ娘達から嫌悪的な眼差しが飛んできているのを感じる。

 

 突然教室に入ってきて、突然謝罪されて、キタサンブラックはどうやら困惑しているようだ。

 

 俺の謝罪を受けて、キタサンブラックが今どのような表情を浮かべているかは定かではない。

 

「ウマ娘のパートナーであるトレーナーとして、俺は君に対してあるまじき行動を取った」

 

 許して欲しいとは思わない。

 

 些細なことで気が動転し、衝動に駆られて理性に欠いた行為を働いた俺が招いた事態だ。トレーナーとして、大人として、潔く罪を認めなければならない。

 

「すまなかった」

 

 俺はキタサンブラックの心に、傷を付けてしまったかもしれない。

 

 青春時代を共に駆けるトレーナーという像に、不信感を抱かせてしまったかもしれない。

 

「……」

 

 キタサンブラックからの返事は無い。

 

 俺は一秒が無限に引き延ばされたような錯覚に陥る中、彼女の前で頭を下げ続ける。

 

「……あの。一つ、聞きたいんですけど」

 

 沈黙した空間に、最初に亀裂を入れたのはキタサンブラックだった。

 

 俺は素直にキタサンブラックの声に耳を傾ける。当然、視線は床に向いたまま。

 

「あなたはまだ……ダイヤちゃんのトレーナーですか?」

 

 キタサンブラックの背後に隠れた人影が、ビクンと揺らぐ。

 

 何故このタイミングで、こんな質問を……?

 

 いや、今それを考えるのは得策では無い。

 

 俺はキタサンブラックの問いに対して、正直に答える。

 

()()()

 

 キタサンブラックの背後に潜む人影が、今度は嬉しそうに揺らいだ。

 

「そうですか……良かったです」

 

 優しいな、君は。この状況においても、友達を優先できるだなんて。

 

「あの……顔を上げてください、トレーナーさん。ダイヤちゃんは、何も悪く無いんです」

 

 理事長の秋川から話を聞いたことで、大方の事情は把握していた。

 

 目先の出来事に囚われて、その背景に気を配ろうともしなかった。

 

 こんな自分が本当に嫌になる。

 

「……ああ」

 

 結論から言うと、俺は一週間の謹慎期間を経て、ダイヤとの契約を継続することを選択した。

 

 ダイヤが約束を破って自主トレを行った背景や、俺のトレーナーとしての落ち度など、様々な事情を加味して()()()()判断し、契約を破棄するには至らないと結論付けた。

 

「あの、もうすぐ授業が始まるので……」

「ああ、もうそんな時間か……本当に、申し訳ない」

 

 俺はこれ以上彼女達に迷惑をかけてはいけないと思い、この場から立ち去ることにした。

 

「ダイヤ、少し良いかな」

「は、はいっ」

 

 教室を後にする寸前、俺は少しだけ担当ウマ娘の時間を借りる。

 

 ダイヤは大人しく俺に続いて、教室を出た。

 

「この前はすまなかった」

「い、いえっ……私が、約束を破ってしまったのが原因ですから」

 

 ダイヤの表情は見るからに不安で押しつぶされそうであった。

 

 宝石のように輝く強かな笑顔が魅力だったのに。

 

 俺が全部、奪ってしまったんだな。

 

 罪悪感で押し潰されそうになる前に、俺は手にした鞄のファスナーを上げる。

 

「メイクデビューまであと一週間。レースに向けて調整するメニューを組んだ」

 

 そして、俺はダイヤに一週間分のトレーニングメニューが記載された書類を渡した。

 

「先日の一件で、俺はまだ処理しなきゃいけないことが多くある。その間、俺はトレーニングに付き添えない」

「…………つまり、()()()()ってことですか?」

「そうだ」

 

 今まで約束を破れば契約破棄と釘を刺していたのに。こんな手のひら返しみたいな真似は、ダイヤに申し訳が立たないな。

 

「色々と抑圧されて、辛かっただろう。少し、羽を休める感覚で好きにやってみろ」

 

 俺は以前まで、ダイヤが自主トレすることをあんなに恐れていたはずなのに……どうして今の俺はこんなに、平然としていられるんだろう。

 

 それっぽい理由をつらつらと並べて、俺は彼女の返事を待たずにそそくさと踵を返した。

 

 だが実際に、俺がダイヤを指導する時間が無いのも確かである。

 

 今日はこの後、謹慎期間中に俺の元へ訪れた理事長の紹介で、カウンセラーと面会する予定が入っていた。

 

 二年前。大切なものをどこかに落としてから、俺は少しおかしくなった。

 

 精神疾患なんていう都合の良い言葉を使うつもりは無いが、一度検査を受けてみては? という理事長の厚意に預かることにした。

 

 冷静な視点で自分を客観すると、つくづく俺はこの仕事に向いていないと思う。

 

 トレセン学園から去れる絶好の機会だったのに。

 

 契約は情に絆されて蔑ろにしていいものではないと、豪語していたのにも関わらず。

 

 一番情に絆されたのは……俺じゃないか。

 

 

 

***

 

 

 

 一週間という謹慎期間が明け、面会謝絶だった兄さまと会えるようになった。

 

 けれど、約束を反故にしてしまった私は兄さまにどんな顔をして会えば良いのか分からなくて。

 

 ひとまず放課後までに考えようと私は教室へ向かう。

 

「おはよう、ダイヤちゃん」

「おはよう、キタちゃん」

 

 先日の一件に巻き込んでしまった親友のキタちゃんは、普段と()()()()()()()()()()()声を掛けてくれた。

 

「ダイヤちゃん。そういえばあたし、メイクデビューで一着を取れたんだ」

「うん、ウマチューブで見てたよ。凄かったね」

 

 先週末、キタちゃんはメイクデビューに出走し、見事一着を勝ち取った。

 

 将来の可能性を感じさせるようなキタちゃんの走りは、何だかとても眩しくて。

 

 羨ましいな……なんて、感想を抱いていた。

 

 授業が始まるまでキタちゃんと雑談に耽るも、私は会話に身が入らず、どこか上の空。

 

 私の思考を支配するのは、どれもこれも兄さまのことばかり。

 

 この後、どんな言葉をきっかけにして兄さまに話しかければ良いだろうか。

 

 失望させてしまった兄さまの信頼を、取り戻すことが出来るのだろうか。

 

 そもそも兄さまは今、私の担当トレーナーなのだろうか。

 

 分からない。分からないのが……たまらなく怖い。

 

「……ダイヤちゃん?」

 

 もし、兄さまの言葉通り契約が破棄されていたら。

 

 私は一体どうすれば良い?

 

 もう一度図々しく契約を持ちかけるか。無理だ。そんなことをしたら、今度こそ嫌われてしまう。

 

 だったら諦める?

 

 それは絶対に嫌だ。私に愛想を尽かして、他のウマ娘に目移りして契約を持ちかけてしまったら。

 

 多分私は耐えられない。

 

 どうか私を見捨てないで欲しい。

 

 おこがましいと分かっていても、私はもう一度彼に振り向いて欲しいと思ってしまう。

 

 自分の不注意が招いた事態に頭を抱えていると、少し顔に出てしまっていたようだ。

 

「…………ダイヤちゃん、あの──」

 

 キタちゃんの声音が変化した瞬間、教室の扉が静かに開く。

 

 教室内がざわつく。私は何かあったのかなと視線を向けて……原因はすぐに分かった。

 

「……兄さまっ」

 

 先日の騒動で、兄さまの噂は学園中に広がっていた。謹慎期間ということもあって噂がひとり歩きし、歪曲した事実が形成されていた。

 

 非難の矛先の一部は兄さまの担当ウマ娘である私にも向けられたが……全くその通りだったので、私は決して否定することをしなかった。

 

 スーツ姿の兄さまは真っ直ぐに私達の方へ歩いてきて。

 

 

 

 

 

 キタちゃんの前で、深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

「すまなかった」

 

 言葉を紡ぎ終えてもまだ、兄さまは顔を上げなかった。

 

 キタちゃんは明らかに困惑していた。

 

 しばらくして、キタちゃんが固く閉じていた唇を開く。

 

「……あの。一つ、聞きたいんですけど。あなたはまだ……ダイヤちゃんのトレーナーですか?」

 

 唐突に何を聞いているのと、覚悟が決まっていない私の心臓が大きく跳ねた。

 

 キタちゃんの背後で、私はおそるおそる兄さまの次の言葉を待つ。

 

「そうだ」

 

 そして、さも当然と言わんばかりにあっさり答えるものだから、何だか拍子抜けしてしまった。

 

 無意識に尻尾が揺れる。

 

 私の心配は杞憂だった。安心感で胸が満たされて、張り詰めた緊張の糸が解ける。気を抜くと、目尻から涙が伝ってしまいそうだった。

 

 兄さまとキタちゃんの会話が少し続いたあと。

 

「ダイヤ、少し良いかな」

 

 胸を撫で下ろす私に声がかけられた。

 

「は、はいっ」

 

 嬉しさとか、安心感とか、何かもう色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って声が裏返ってしまった。

 

 教室を出る兄さまの後を、私は忠誠心の強い大型犬のような態度で続いた。

 

「この前はすまなかった」

「い、いえっ……私が、約束を破ってしまったのが原因ですから」

 

 兄さまから契約継続の意向を確認できて安堵する一方、私のせいで学園中から非難を浴びている彼に対して、今更ながら罪悪感がわきあがってくる。

 

 それでもやっぱり、兄さまが担当トレーナーのままでいてくれることへの嬉しさが勝ってしまった。

 

 しばらく幸福感を噛み締めた後、私は兄さまから複数枚の書類を受け取った。

 

 私は意気揚々とその書類に視線を落とす。

 

「メイクデビューまであと一週間。レースに向けて調整するメニューを組んだ」

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

 

 

「先日の一件で、俺はまだ処理しなきゃいけないことが多くある。その間、俺はトレーニングに付き添えない」

「…………つまり、自主トレってことですか?」

「そうだ」

 

 兄さまから肯定の言葉を聞いて……私は悟る。

 

「色々と抑圧されて、辛かっただろう。少し、羽を休める感覚で好きにやってみろ」

 

 私達の関係は、表面上何の変化もない。担当ウマ娘と担当トレーナーという、ごくごくありふれた関係。

 

 でもその中身は、以前とは全く別物になってしまった。

 

 見て呉れを取り繕っただけの安っぽいハリボテ。

 

 虚しさだけが詰まった空っぽのまがいもの。

 

 私と兄さまを繋ぐ絆は多分もう、ぐちゃぐちゃに……。

 

 呆然とする私をよそに、それじゃあ、と短く言葉を残して、兄さまは踵を返してしまう。

 

 待って……っ。

 

 兄さまを引き留めようとしたけれど、声が出ない。

 

 兄さまの背中が遠ざかっていく。

 

 その距離が私と兄さまのありのままを示しているように感じて、心臓がぎゅうと締め付けられた。

 

 私はそんな被虐的な妄想を振り払うように、教室へ飛び込んだ。

 

 

 

***

 

 

 

 カウンセラーによって行われた複数の心理検査の結果、俺は精神の許容範囲を超えた極度のストレスによる、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。

 

 精神疾患においてありふれた病名に、俺はそうですかと頷くことしか出来なかった。

 

 加えてうつ病と統合失調症を併発しており、長期的な治療を実施する運びとなった。

 

 実感はいまいちわかなかった。それどころか、俺の愚行に大義名分が生まれてしまったようで情けないとすら感じていた。

 

 検査を終えたその足で俺は理事長室へ向かい、業務続行の意を示した。秋川は年相応な様子で喜んでいた。

 

 しばらくの間は、俺が請け負っていた事務作業を軽減してくれるそうだ。

 

 俺は素直に、彼女達の厚意に甘えることにした。

 

 けれど仕事が無くなった訳ではないので、足取りは重いが部室に立ち寄る。道中、お世辞にも心地良いとは言えない視線の雨を身体に浴びた。

 

 部室の鍵を開けて、中に入る。

 

 

 

──あ、トレーナー。おかえり!

 

 

 

 一瞬、存在しない女の幻覚を見た。間髪入れず、頭痛と共にそれを振り払う。

 

 部室には当然誰もいない。

 

 席に着く前に俺はコーヒーを淹れた。

 

 一息つく。

 

 俺はこれから、先延ばしにし続けたチーム名を決めなければならない。ダイヤのメイクデビューの出走登録期限が間近に迫っているのだ。

 

 いくつか案を出しては消して、浮かべては振り払う。

 

──ねぇ、そんなに悩むことかな?

 

 以前は悪夢とか、面影を他人に重ねるだけだったのに、今や幻覚として()()を体現してしまうとは。

 

 とうとうイカれてしまったな、俺は。

 

──本当はもう、決めてるんでしょ?

 

 心の底で澱んでいた未練が、耳に馴染んだ声音を騙って問いかけてきた。

 

「違う。そんなことをしたら、それはただの押しつけだ」

 

 ”その名前”は俺とダイヤを象徴する名前では無い。

 

 これは俺と、俺の未練を象徴する名前だ。

 

──私との思い出を否定するの?

 

 確かに、この名前には彼女との思い出がたくさん詰まっている。

 

「……違う。これは決別だ」

 

 けれど過去の思い出なんて、今後には不要なもの。

 

 俺には過去を乗り越えて、前に進むための標語が必要なんだ。

 

──それを否定って言うんだよ、トレーナー。

 

 俺が生み出した幻覚は、いちいち神経を逆撫でする。

 

「それはっ──」

 

 それは違うと、声を荒げて主張しようとした俺はふと気付く。

 

 そもそもこの幻覚自体が、過去を否定している裏付けになっているんじゃないのか、と。

 

「……」

 

 俺はもう考えるのが嫌になって、机にペンを投げ出した。

 

 おそらく今日はもう仕事にならない。

 

 卓上を乱雑にしたまま、俺は部室を出て行った。

 

 

 

***

 

 

 

 先日の一件で、気分転換に学園の敷地を散策することが難しくなった。

 

 そそくさと寮に戻ろうとした俺だったが、いつの間にか足がトラックの方へと向かっていた。

 

 さながら未練に縋る亡霊のような足取りだった。

 

 ウマ娘達が真剣に汗を流している様子を、俺は遠慮がちに見る。

 

 別に目的なんて無かった。こんな場所に来るはずじゃ無かった。

 

 それでも俺は多分、無意識の内に()()のことを……。

 

「……っ」

 

 油断したのも束の間。

 

 トラックの隅の隅でひそかに佇む俺と、一生懸命トレーニングに励む彼女と──ダイヤと目があった。

 

 物陰に隠れてやり過ごそうにも、あいにく俺が立っているのは遮蔽物が一切ない場所だった。

 

 こちらの存在に気付いたダイヤは、あまり軽快とは言えない足取りで俺のもとへとやってきた。

 

「その、えっと……トレーニングを見にきてくれたのですか?」

「……まぁな」

 

 二人の間にぎこちない空気が漂う。

 

 お互いに顔色をうかがうような、よそよそしい態度だった。

 

「……? あの。顔色が悪いようですが、お体が優れないのですか?」

 

 はたから見ると、俺は顔色が悪いらしい。

 

「……かもしれないな」

 

 何となくそんな自覚はあった。

 

「その、ご自身のお体には気を遣って下さい。兄さまに何かあったら私、心配してしまいますから……」

「あぁ……ありがとう」

「……」

「……」

 

 会話が途切れた。

 

 気まずい。

 

 何か、何かないかと疲弊した頭を回転させる。

 

「……ダイヤ。この前はその……すまなかった」

 

 必死に考えた結果、このギクシャクした関係の原因を話題に挙げるとは。俺を客観視している自分が笑っていた。

 

「事情も聞かずに怒鳴りつけて、本当に大人げない真似をしたと思う」

 

 あの時、ダイヤの言葉に耳を傾ける余裕があればこんな事態にはならなかった。

 

 これは体裁を取り繕うみっともない言い訳のように聞こえるかもしれないが、俺は心の底からダイヤのことが心配だったのだ。

 

 

 

 

 

 俺の手が届かない場所で大切なひとが傷ついてしまうことが、どうしても耐えられなかったから。

 

 

 

 

 

 もう二度とあんな思いをしたくなくて、それで……。

 

「ごめん」

 

……いや、違うな。結局は自分に対する保身なのだ。

 

 自分が傷付きたくないから、ダイヤの意思を無視し、身勝手な善意を押し付けて自己保身に走る。

 

 そんな、どうしようもない屑。

 

 多分、俺は入れ込み過ぎる性格なのだ。

 

 担当トレーナーと担当ウマ娘という関係以上に、不要な情熱を抱いてしまうのだろう。

 

 何故なら俺には前例があるから。

 

「……」

 

 今後、俺がウマ娘達と接するためには線引きが必要だ。

 

 不用意に肩入れせず、理想的な関係でいるために。

 

「わ、私は全然気にしてないですっ。原因は私なので……兄さまが謝る必要は無いです」

 

 こんな俺を前にしても、君はまだ昔のように慕ってくれるのか。

 

 優しいな、ダイヤは。

 

「……兄さま?」

「今後のために一つ確認しておこう。ダイヤ、俺とお前の関係は何だ?」

「幼なじみです」

「違うだろう?」

「……」

 

 その優しさに俺は甘えていた。

 

「……担当トレーナーと、担当ウマ娘です」

 

 だから、いつまで経っても俺は成長出来ない。

 

 ()()()()()に対する清算が必要だ。

 

 二人の関係性にヒビが入ってしまったこの機会に。

 

 いっそのこと全部ぶっ壊して、新しい関係を構築するのも悪くないんじゃないだろうか。

 

「俺はダイヤのトレーナーだ。今後、俺のことは”トレーナー”と呼んで欲しい」

「に、兄さまっ。それはっ……!」

 

 そうすれば俺は、ダイヤに対して寛容になれる。

 

 義務的な関係に身を置くことで、柔軟な対応が出来る。

 

 彼女を伸び伸びと走らせてあげることが出来る。

 

「違うだろ?」

「……」

 

 俺が、俺の理想とするトレーナーでいられる。

 

「……はい。トレーナー、さん」

「そうだ。それで良い」

 

 保身。

 

 どこまでいっても、自分の心を守るための身勝手な押しつけ。

 

「トレーニングの邪魔をしてすまなかった。……それじゃあ」

 

 新しい関係の構築、なんて格好良い言葉を並べているけれど。相手の意思なんて完全に無視だ。言葉を返す暇を与えず、俺はそそくさと立ち去った。

 

 俺はただ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なんて弱い男なんだ。俺は。

 

 救いようが無くて、反吐がでる。

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