描写の一部に独自解釈があります。
「……出端を挫いてしまうようで申し訳ないのですが」
チーム・アルデバランに所属するウマ娘達の自己紹介を終えた矢先、マックイーンさんが申し訳なさそうに口を開いた。
「プールや体育館同様、トラックの使用にも申告書が必要であることを失念しておりました……」
マックイーンさんの言葉通り、放課後から二十時までの時間帯にトラックを使用する際は他の施設同様、事務に使用申告書を提出する必要があった。
ちなみにそれ以降は、自主トレーニングを行う生徒達のために解放されている。
「申し訳ありません。トレーナーさんの代わりを完璧に努めようとするあまり、指導の面にばかり目が奪われておりましたわ……」
トレーナーの仕事は担当ウマ娘の指導だけではない。学園の事務的な業務をこなす他にも、施設の空き状況を調べて事前に使用申告を行なったり、レースへの出走届を提出したり、はたまたチームメンバーの勧誘やスカウトなどなど。
大変な業務であることは目に見えているのだから、私達がマックイーンさんの落ち度を責めるはずがない。
「そんなこと誰も気にしません。私達のためにありがとうございます、マックイーンさん」
指導経験が一切ない中等部の学生が、懸命にトレーナーの役割を努めようとしてくれているのだから。私も可能な限りマックイーンさんに協力して行きたい所存だ。
「すみませんサトノさん。トレーニングの変わりと言ってはあれですが、本日は私が考えた、今後のお二人の指導方針について説明させて頂きます」
マックイーンさんは自身のスクールバッグから数冊のノートとファイルを取り出した。
「お二人をサポートするにあたって、トレーナーさんからいくつか参考資料を頂きました。大方それらを参考にしつつ、私の経験を多少織り交ぜた内容となっております」
私達はマックイーンさんから、彼女が事前に準備していたと思われる資料を受け取る。
資料に目を通すと、約一ヶ月間に及ぶトレーニングの予定表やその具体的なメニュー、今後の目標や課題が詳細に記されていた。
「……すごいです。これ、全部マックイーンさんが作ったんですか?」
「ええ、幸い時間はたっぷりと有り余っていましたから。……ほぼ全て、トレーナーさんからの受け売りですが」
「そんなことないですっ!」
この資料からは、マックイーンさんが自身の目標と真摯に向き合う覚悟や、私達を想う彼女の熱意がひしひしと伝わってくる。
「過去二ヶ月分のサトノさんのトレーニングメニューを拝見しましたが、トレーナーさんは身体作りを非常に重視しているとお見受けしました。”星”のミライを育てた指導者が毎日のメニューに組み込んでいるのですから、間違いありませんわ」
マックイーンさんが組んだトレーニングメニューは兄さまの指導同様、身体の基盤作りに焦点を置いた内容となっていた。
「加えてサトノさんの走りも確認しましたが、基礎に忠実で非常に綺麗なフォームだと感心しました。おそらくトレーナーさんは、ここからサトノさんの身体に適したフォームに少しずつ作りかえていく予定だったのだと感じます」
憧れのマックイーンさんに褒められて、私は嬉しさと恥ずかしさが入り混じった表情を浮かべる。
「なのでサトノさんの場合は、現状のフォームを維持し、基礎をさらに固めていくことを目標として定めましたわ」
「はい!」
マックイーンさんはトレーニングメニューの目的を分かりやすく丁寧に説明してくれた。方針が明確だと目指すものがはっきりするおかげで、トレーニングにより身が入る。
「そしてドーベル。あなたの場合はメジロ家専属コーチの方針に沿ったメニューを組みました。多少、私の主観で変更した箇所はありますが」
「……ん」
「コーチ?」
「メジロ家は競走の世界における名門。私達は幼少期の頃から、すべからく英才教育を施されて来ました。これはその延長線であると考えて下さいませ」
「なるほど」
私も彼女達同様、生家の悲願達成のために幼い頃から様々な準備を行なってきた。現在のような本格的な指導には至らないが、私にもコーチと呼べる存在がいたのでマックイーンさんの説明は容易く腑に落ちた。
「個々の指導方針に対する説明は以上ですわ。そして、お二人に共通する課題も並行して行います。具体的にはスタミナの強化と、戦術の勉強です」
私はスタミナと根性には自信があるが、とは言ってもメイクデビューを勝利して間もないジュニア級のウマ娘。最強のステイヤーたるマックイーンさんにとっては、子供に毛が生えた程度のものだろう。戦術に関しては、言葉にするまでもなく未熟そのもの。
「トレーニングに関しては翌日から行う予定です。特にサトノさんの場合は、色々と疲労が溜まっていることでしょう。今日はゆっくり身体を休めて下さいな」
「心配してくれてありがとうございます、マックイーンさん」
生徒同士で今後の方針を確認し、今日のところは解散となった。相変わらず人目を避けるように栗東寮へ戻って、私は普段より早く床に就くのであった。
***
翌日、私達はジャージに着替えてトラックに集合した。以前よりも周囲の視線を感じるのは、私の気のせいではないだろう。
「準備体操と柔軟は入念に行います。身体を怪我しないように、集中しますわよ」
三人で輪になって、誰かが手を抜いていないか、互いを監視するように準備体操と柔軟を行う。
「……意外、マックイーンも一緒にやるんだ」
「当然ですわ! 激しい運動は厳しいですが、多少身体を動かさなければ私の”体質”が暴走してしまいますので」
「”体質”?」
「サトノさんが気にする必要は微塵もございませんわ。ええ、微塵も…………はぁ」
あまり触れてほしくない話題らしい。でも確かに、理解はできる。
以前まで現役として活躍していた選手が、運動の一切を断った途端身体がおかしくなるという話はよく耳にする。もしかしたらそのような症状が、マックイーンさんにも生じてしまっているのかもしれない。
時間をかけて入念にストレッチを行い、続いて基礎トレーニングへ移る。
「コースを走る前に行う基礎トレーニングですが、サトノさん」
「はい、なんでしょうか?」
「サトノさんが普段取り組んでいるメニューを、私達に教えて欲しいですわ。可能であれば、運動と同時に筋肉の動かし方とその効果を口頭で説明して下さるかしら?」
「分かりましたっ!」
教うるは学ぶの半ば、ということわざがある。
生半可な知識や教養では到底、人に物を教えることは出来ない。自然と自分の不明瞭な点が浮き彫りになり、その問題を解決した後でようやく他人に教えることが可能となる。転じて、人に教えるという行為が自分自身の勉強になるという言葉だ。
「
基礎トレーニングと言ってもやることは筋トレと大差ない。その行為に目的意識を抱いて行うことの重要性を再確認しながら、普段のメニューをこなしていく。
「まずは上半身からです。私達は足を酷使するので下半身に目が行きがちですが、上半身を疎かにしてはいけません」
上半身を鍛えることの重要性は、耳にタコができるほど兄さまから伝えられてきた。
色々と難しい言葉を並べず簡潔にまとめると、上半身のトレーニングには筋力増強と体幹強化の効果がある。
さらに極限まで突き詰めると、怪我の防止である。
「えっと、このトレーニングでの重要な点は……」
ただ、普段のルーティントレーニングのポイントを口頭で説明するというのは予想以上に難しかった。一言声を発する度に頭の中で整理した情報がぐちゃぐちゃになって、焦りが募る。
トレーナーに限らず、誰かに物を教える職業に就く人はすごいなと思った。要点を簡潔にまとめて分かりやすく伝えてくれる兄さまの優秀さを、私は改めて痛感する。
「サトノさん、ゆっくりで構いませんわ」
「あはは……すみません」
テンパっていた私を見かねてか、マックイーンさんが穏やかにフォローしてくれた。
私はマックイーンの言葉に素直に甘えながら、上半身のトレーニング、下半身のトレーニングとゆっくり続けていく。
下半身を鍛える基礎トレーニングは、力強いストライドの原動力となる腸腰筋や、超人的な推進力を生み出すトモを発達させる効果がある。
再三語るが、ウマ娘にとって身体は資本。
より速く、より強く、より長く走るために。地味なトレーニングも決して手は抜かない。
「…………ふぅ。マックイーンさん、これで全てのメニューが終わりました」
普段よりもだいぶ時間が掛かってしまったが、チームメンバーに対してなんとか全メニューの解説を終えることが出来た。
「ありがとうございます、サトノさん。非常に有意義な時間でしたわ」
「基礎トレだけど……これ、結構キツイね。今まで筋肉を上手く使えていなかったってことかな」
ドーベルさんの呟き通り、まだこれっぽっちも走っていないのにも関わらず、私達の額には汗が滲んでいた。
丁度良い感じに身体を刺激出来たので、走る準備は万端だ。
「さてと……お二人とも。続いてはウォーミングアップですわ。怪我をしないように、気を引き締めていきましょう」
私はマックイーンさんの言葉に強く頷いて、快晴のターフを駆け抜けた。
***
チームに新しいメンバーが加わったということもあり、その日私は初めて併走トレーニングを行った。
併走トレーニングによって得られる効果は非常に大きい。ウマ娘の闘争本能を引き出し、かき立てることによって、レース本番のような緊張を感じながらトレーニングを行うことが出来るのである。
以前までは兄さまと二人三脚でトレーニングに励んでいたこともあり、単走しか経験したことのない私にとって非常に良い刺激となった。
「お二人とも、お疲れ様ですわ」
首からストップウォッチをぶら下げ、バインダーを片手に持ったマックイーンさんが併走を終えた私達にタオルや飲み物を差し出してくれた。
「ありがとうございますっ」
「ん、ありがと」
私達はそれを受け取るや否や、身体に勢いよく流し込む。
「七月に入ったこともあり、右肩上がりで気温が上昇します。なのでくれぐれも、熱中症には気をつけて下さいまし」
休憩時は木陰に移動して全身に巡った熱を逃す。
「本当は私達も、夏合宿に参加出来れば良かったのですが……」
計測したタイムを記録するマックイーンさんが、少し残念そうに呟いた。
マックイーンさんがおっしゃった通り、七月から八月末の約二ヶ月間は、トレセン学園の恒例行事である”夏合宿”が開催される時期である。
トレセン学園は一学期の終業が七月上旬と、普通科の学校よりも非常に早い。ちなみに昨日が終業式で、今日から夏休みに突入している。
避暑的な意味合いを込めて、学園主導で行われる夏合宿。全国各地に点在するトレーニング施設を使用して行われるそれには、毎年多くのチームが参加していた。
合宿には当然、チームに所属していないウマ娘の参加も許可されている。その場合、教官による引率のもとで参加する規則となっていた。
そしてチーム・アルデバランに所属する私達だが……結論から述べると、今年の夏合宿は見送る運びとなった。
理由は主に二つ。一つは代表責任者である兄さまの不在。そしてもう一つが、合宿よりも学園に残った方がトレーニングに集中出来るからである。
先日のメイクデビュー以降、チーム・アルデバランは良くも悪くも学園中から注目を浴びていた。
夏合宿に参加し、多くの生徒が不在となるこの時期は現状の私達にはうってつけ、というわけである。
「休憩が終わったら、次はスタートのトレーニングを行います」
「スタート……ですか?」
「ええ。見たところお二人は共通して、スタートに対して苦手意識を感じていると思いましたので」
マックイーンさんの指摘通り、私はスタートがあまり得意ではない。いや、得意ではないと言うよりも、ゲートに入った時の息が詰まるような閉塞感が苦手と表現するべきだろうか。
「特にドーベル。あなたはスタートを克服する必要があります」
「……言われなくても」
しかしドーベルさんは、本当にスタートが苦手なようだ。マックイーンさんの指摘に対して、苦い顔を浮かべながらそっぽを向いている。
「と言うわけで、スターティングゲートの一枠を倉庫から拝借しましたわ」
そしてターフの隅には、いつの間にかマックイーンさんが用意したゲートがひっそりと佇んでいた。
木陰から移動しながら、私達はマックイーンさんの説明を受ける。
「スタートのコツは反射神経……と一言で片付けてしまったらお終いなので、今回はスタートの技術と考え方についてお教えします」
マックイーンさんがゲートの隣に立って、私達に語りかけた。
「結論からお伝えしますと、重要なのは”重心移動”と”意識”の二点ですわ」
「重心移動と意識、ですか?」
「まずは前者について説明します。サトノさん、陸上競技の短距離種目に多く用いられるスタートの方法はご存じかしら?」
「えっと、クラウチングスタートでしょうか?」
「正解ですわ」
クラウチングスタートとは、地面に設置されたスターティングブロックを利用したスタートのことである。ブロックを強く蹴ることによって水平方向に力を伝えられるため、素早い加速が可能になると記憶していた。
「それに対して私達のスタートは中立の姿勢、つまりスタンディングスタートで行われます」
スタンディングスタートはクラウチングスタートと異なり、水平方向に与えられる力が極端に減少する。その上静止した状態からの超加速が要求されるため、慣性の法則に抵抗するパワーが必要となってくる。
「反動による推進力を得られない以上、いかにして前へ進む力を生み出すか。これに対する答えが一点目のポイント、重心移動ですわ」
マックイーンさんが実際にゲートの中に入って、身体の動かし方を実践してくれた。
「体勢に決まりはありません。しかし一般的には利き足を後ろに引き、やや前屈みになった姿勢がベストであるとされています」
スタートの姿勢をとったマックイーンさんを見習うように、私はその場で彼女の動きを模す。
「重要なのはこの姿勢からスタートする瞬間。利き足で地面を蹴るのではなく、反対の足で地面を押すようにして、重心を前方へ移動させることですわ。ちなみに、このようなプロセスでスタート直後に急加速することを、”ハーフバウンド”と言います」
そう言って、マックイーンさんは集中力を研ぎ澄ませ、ゲートから鋭く飛び出した。
彼女の動きには一切の澱みがなく、洗練された滑らかな身のこなしに私は感嘆の声をもらす。
「言われてみれば確かに……あ、本当だ。今は利き足で地面を蹴っている感覚があります」
私は身体の操作を無意識に委ねて、スタートの姿勢を作る。そして走り出す瞬間、重心を移動させているような感覚はなく、私は身体の背後に置いた利き足で地面を強く蹴り上げていた。
「ハーフバウンドの利点について、簡単に説明しますわ。これは私なりの解釈になりますが……」
マックイーンさんは、手にしたバインダーをホワイトボード代わりにして私達に自論を語る。
「今のサトノさんのように後方へ置いた利き足で地面を蹴るよりも、私が実践したように重心を前方へ移動させる方が、反応時間の短縮に繋がると考えております」
そう言いながら、マックイーンさんはスタート直後に起こる身体の反応を順番に書き起こした。
一、ゲートが開門したという視覚情報が脳に伝達される。
二、一旦脳で情報が整理され、その情報が対応する運動器官へと送られる。
三、送られてきた情報をもとに、身体が運動を行う。
マックイーンさん曰く、特に重要なのは”二”の項目だそうだ。確かに待機する姿勢において、利き足は脳に対して末端の場所に位置している。そうすると当然、命令の伝達に要する時間が増加するため反応時間に差が生じてしまう。それが、スタートを苦手とする要因になっているのかもしれないと彼女は語った。
「あとは単純に、地面に対して力を伝えやすいからですわ。しばらくトレーニングを積めば、ハーフバウンドの感覚は簡単に掴めます」
兄さまは、地面から得られる力を利用することの重要性を繰り返し熱弁していた。スタートも走ることの延長線なのだから、間違いないだろう。
「ここからは二点目のポイント、意識についてですわ」
一点目のポイントを押さえるためにしばらく反復トレーニングした後、再びマックイーンさんの説明に移る。
「レース中に何を重視するかによって、スタートに対する意識が変化します。先程までは素早く上手にゲートを出る方法を解説してきましたが……
マックイーンさんの言葉を受けて、私は少し意外に思った。スタートに対する反応は、速ければ速いほど良いと考えていたからだ。
「少し座学を交えますが……ドーベル。ウマ娘の歩法には、それぞれの速度に対応した用語があります。ですが私、うっかり失念してしまいました。教えて下さいませんこと?」
「……バカにしないで。
「正解ですわ。意外と忘れている方も多いので、確認ですわ」
「ちゃんと覚えてるじゃん」
人間離れした速度で走るウマ娘に限定されるが、ドーベルさんが答えた通り、走る速度に応じた専門的な用語が存在する。
ドーベルさんが最初に挙げた
続いて
同じく
そして、四種類の歩法の中で最も馴染み深いのが
襲歩は全ての歩法の中で最も速く、いわゆる疾走の速度に分類される状態だ。全速力の場合、分速千二百メートルに到達することも少なくない。
「静止した状態から、いかにして襲歩の状態へ移行するまでの時間を短くするか。この時間が短ければ短いほど、一般的にゲートを出るのが上手であると表現されます」
「じゃあ、例外というのは……?」
「脚質ですわ」
ここで言う脚質は説明するまでもないが、逃げ、先行、差し、追い込みの四種類のことだ。
「得意とする脚質によっては、
「……?」
「散々スタートのコツをお教えしてきましたから、理解に苦しむというのは当然の反応です」
マックイーンさんのフォローを鵜呑みにするなら、私の抱いた疑問は間違っていないことになる。
「少し話が逸れてしまいますが、私達が”一完歩”でどれほどの距離を進むかご存じでして?」
一完歩とは、襲歩状態におけるウマ娘の歩幅のことである。
「えっと確か……七、八メートルでしょうか」
「その通りですわ。単純計算で、一ハロン辺り二十九歩前後と言ったところでしょうか」
一完歩は歩法と同じく、レースにおける基礎的な知識である。しかしそれと、上手なスタートが足枷になるという言葉の間に接点を見つけることが、私にはどうしても出来なかった。
「ウマ娘の”走りたい”という欲求はしばしば、人間の三大欲求に匹敵するとされていますわ。その本能に則ると、私達は基本的に速度を落として後退することを嫌います。渇きに近い衝動を抑制するわけですから、当然のことですわね」
スタートに成功した場合、脚質に関係なく自然とバ群の前目につくこととなる。
すると当然、先行集団の熾烈な位置取り争いに巻き込まれるため、脚の消耗を嫌って後退する必要が生じてくるはずだ。
……あ。
「学年的にサトノさんはまだ学習していないと思いますが、スタート直後から最短時間で襲歩に到達させる歩法を”回転襲歩”と言いますわ。これは、レース終盤のスパートに匹敵するほどスタミナを著しく消費します」
マックイーンさん曰く、回転襲歩という歩法は私が持つ知識で代替するところの、序盤に生じる位置取り争いに相当するそうだ。
「ここまで言えば、嫌でも察することかと思いますわ。上手なスタートを切ったはずが、かえって序盤でスタミナを消費してしまう。こうして色々理屈を並べてみると、スタートに対する考え方が変わってくると思いませんこと?」
差しを得意とする私やドーベルさんの場合だと、序盤で位置取り争いに参戦するのは悪手だ。
「極端な出遅れは論外ですが……良いスタートが切れないからと言って、苦手意識を持つことはありませんわ。そうでしょう?」
「…………言われてみれば」
マックイーンさんの解説に、終始苦い顔をしていたドーベルさんが納得したように頷いた。
「以上が、私が重視しているスタートの考え方になります。鵜呑みにする必要はありませんが、今後のトレーニングの参考になれば幸いですわ」
「ありがとうございますっ、マックイーンさん!」
マックイーンさんの指導者たる完璧な振る舞いに、私は感激してばかりだ。
「さて、説明も終わったことですし早速実践ですわ! 何事もアウトプットが大切でしてよ!」
「はいっ!」
「分かった」
マックイーンさんの熱心な指導のもと、私達はひたすらトレーニングに打ち込む。
この調子でトレーニングを積めば、いつか兄さまに成長した姿を見せられるかもしれない。
胸に込み上げてきた熱を感じ取りながら、私は一つ一つの課題と向き合うのだった。