これであなたはサトノ家行きです   作:転生した穀潰し

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24:名優の姉

 夏休みも中盤に突入した八月初旬。

 

 摂氏三十五度を優に超える猛暑日が連続で記録される影響で、長時間の屋外トレーニングが困難な状況となっていた。

 

 そこで最近では、チーム・アルデバランのサポーターを務めるマックイーンさんの提案で、屋内施設を使用したトレーニングメニューを多く取り入れている。

 

 ちなみに今日は、私達の共通の課題であるスタミナ強化と避暑的な意味合いを込めて、プールを用いた水泳トレーニングである。

 

「──お二人とも、今日も張り切ってトレーニングですわ!」

 

 私達はトレーニング用の水着に着替えて、プールサイドに集合した。私達以外にプールを利用している生徒はおらず、実質的に貸切状態。監視員さんに一言挨拶してから、私達は本格的なトレーニングに移る。

 

「水に入る前にしっかりと準備運動を行いますわ……ほらドーベル、トモの伸ばしが甘いですわ!」

「……分かってるよ」

「サトノさんも、肩甲骨周辺のほぐしが足りませんわ!」

「は、はいっ!」

 

 トレーニング開始前の準備運動の様子からして、何となく見て取れると思うのだが。

 

 私の憧れのウマ娘であるマックイーンさんは何故か、普段よりも三割増のやる気を滾らせていた。

 

「……マックイーン、ちょっと気合い入りすぎじゃない?」

「当然ですわ! 水泳トレーニングは非常に運動効率が良く、体脂肪の燃焼効果や内臓脂肪の減少さらには呼吸循環系の機能向上といった数多くのメリットがあるんですの!」

「あ、そう」

「加えて水の浮力によって、足に掛かる負担が軽減されますの。これはもう、私のために用意されたトレーニングと言っても過言ではありませんわ!」

 

 確かに、水泳トレーニングはマックイーンさんが熱弁したように、怪我や病気などが原因で脚部不安を抱えるウマ娘の運動不足を解消するといった側面も存在する。

 

 左脚に繁靭帯炎を発症してしまったマックイーンさんにとっては、数少ないうってつけの運動なのだ。

 

「そういえばマックイーン昨日、購買でこっそりアップルパイを──」

「あ、あなた見ていたんですのっ!?」

 

 マックイーンさんが顔を真っ赤に染めて声を荒げる。

 

「運動量が減っても同じ食事を続けてたら、太るのは当然でしょ」

「問題ありませんわ! 今日のトレーニングで摂取したカロリーを帳消しにする予定ですのでっ」

 

 そういえばマックイーンさんは以前、自分自身の”体質”について嘆いていたことがあった。

 

……なるほど。”体質”ってそういうことか。

 

「ん”ん”っ”……冗談はさておき、そろそろ始めますわよ。準備はよろしくて?」

「大丈夫」

「頑張りますっ!」

 

 準備運動と柔軟を終え、私達は十分に身体を温めた状態で全長五十メートルのプールに浸かった。

 

「まずはプールの水に浸かって身体を慣らします。その後は、各々好みの泳法で五十メートルを四本泳ぎますわ」

 

 先程マックイーンさんが挙げたメリットの他に、水泳トレーニングには全身の筋肉をバランス良く鍛えられる効果がある。

 

 水の特性として挙げられるのが、主に水圧と浮力の二種類。

 

 水圧は地上でトレーニングするよりも大きな負荷が身体にかかる一方、心臓の負担を軽減する利点がある。

 

 浮力は身体の可動域を大幅に増大させ、関節に掛かる負担を著しく軽減してくれる効果がある。

 

 加えて水に浸かっているだけでも、体温維持のためにエネルギーを継続的に消費していく。

 

 水泳トレーニングとは、身体を鍛えスタミナを強化するのに最適な有酸素運動なのだ。

 

「最初は全員共通の課題として、千メートルを五本。それ以降のトレーニングは各々の判断に委ねますが、まずは十五キロ前後を目安にすると良いですわ。休憩は適宜取るようにして下さいまし」

「ん」

「言っておきますが、出し惜しみは厳禁ですわ。走ること以外も疎かにせず、メリハリをつけていきましょう」

「はいっ!」

 

 自分自身の成長のため、手を抜いてトレーニングに取り組むことなど許されない。

 

 私は改めて気持ちを引き締め、課された距離を泳ぐのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「──ぜぇ”、はあ”ぁ”っ……げほっ、くはぁ”、はぁっ、はぁ”……っ”」

 

 時間をかけてマックイーンさんから課された距離を泳ぎきったドーベルさんが、荒々しい呼吸を繰り返しながらプールサイドで突っ伏していた。

 

「ど、ドーベルさん、大丈夫ですか……?」

 

 私は慌ててドーベルさんに歩み寄って、タオルとドリンクを彼女に手渡す。

 

「ぁ”、ぁりがと……サトノ…………っ」

 

 ドーベルさんは息を整えることに集中しているようで、私が差し出したものにしばらく手をつけなかった。

 

 水滴が止めどなくしたたる長髪にタオルを大雑把に押し当てて、少し時間を空けてから、ドーベルさんは勢い任せにドリンクを流し込む。

 

 そのまま数分が経過して、ようやくドーベルさんの呼吸が規則正しいリズムを刻み始める。

 

「…………はぁ、……すごいね、サトノは」

 

 ドリンクが入ったボトルから口を離したドーベルさんが、唐突に私のことを褒めた。

 

「すごい、ですか……?」

「あれだけの距離を泳いでも、アタシと違ってケロッとしてるし」

「そ、そんなことはないですよ……っ」

 

 私は他のウマ娘よりも少しだけ息の入りが優れているだけで、実際泳ぎきった直後はドーベルさん同様プールサイドでぶっ倒れていた。

 

「それを言うなら……マックイーンさんの方が」

 

 そう言って、私は未だプールで水泳を続けるマックイーンさんへ視線を向ける。

 

 長時間が経過しても速度が衰える気配がなく、彼女はまるで()()()()()()()()()()()()()()()()泳ぎ続けている。

 

 マックイーンさんも当然休憩は挟んでいるが、あれだけの距離を泳いでもまだスタミナが有り余っているのかと思うと……。

 

「マックイーンのスタミナは本当に化け物だよ。長期療養で結構なブランクがあったはずなのに、衰えている気配がまるで無い」

 

 レースにおけるマックイーンさんの最大の武器は、暴力的なスタミナに物を言わせた強靭なスパートにある。

 

 長期療養の影響で確実に筋肉量が落ちているにも関わらず、無尽蔵なスタミナは未だ健在。

 

 今の私達では、最強のステイヤーたる彼女の足元にすら及ばないのだと痛感した。

 

「こんなんじゃ全然足りない。もっとスタミナをつけないと……」

「も、もう少し休憩を挟んだ方が良いのでは?」

「大丈夫。妹が頑張ってるのにアタシが休んでたら、姉としての顔が立たないし」

 

 そう言って、ドーベルさんは再び水中に潜っていった。

 

 これは余計なお世話かもしれないが……はっきり言って、私にはドーベルさんが強い焦燥感と戦っているように見えていた。

 

「ドーベルさん、大丈夫かな……」

 

 メジロマックイーンという優秀なウマ娘の後にデビューを控えている以上、周囲からの期待は私の想像をはるかに絶するものだろう。

 

 そんな重圧に負けじとトレーニングに励む姿は非常に凛々しく、尊敬の念すら覚えるほど。同時に少しだけ、彼女のことを心配する気持ちもあった。

 

 ドーベルさんよりも一足先に休憩していた私は、彼女の後に続いてプールへ潜る。

 

 この後はスタミナが完全に切れるまで泳ぎ続けて、疲れ果てた私はその日、脇目も振らず泥のように眠ったのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 夏休みも終盤に突入した八月下旬。

 

「お先に失礼します」

 

 今日のトレーニングは午前中のみで、午後からは自由な時間であった。

 

 トレーニングを終え、ジャージから制服に着替えた私は荷物をまとめて一足先に部室を出る。

 

 特にこれといった用事は無いのだが、最近では実施したトレーニングの内容や所感をノートに記録することが日課となっていた。

 

 夏合宿と帰省の影響で、相変わらず栗東寮は静かでがらんどうとしている。

 

 少し物寂しさを覚えるが、やりたいことに没頭出来るため私としては有り難さも感じていた。

 

 自室に戻った私はそのままの勢いで机に向かい、ノートを広げる。

 

 本日のトレーニングメニューと意識したポイント、浮き彫りになった課題と今後の目標などを書き込んでいく。

 

 この習慣は夏休みに入った辺りから継続していたため、トレーニングノートは二冊目に突入していた。

 

 ノートを振り返ってみると、少しずつではあるが、成長を目に見える形で確認することが出来た。無意識に私の頬が緩む。

 

 一通りノートを書き終えた私は、それを両手で広げたままベッドに身体を投げ出す。

 

 私はノートを天井に突き出すように掲げて、ぽつりと呟いた。

 

「……兄さま、褒めてくれるかな」

 

 兄さまがトレセン学園を離れてから、間もなく二ヶ月が経とうとしている。

 

 当然、彼に会えないのは寂しい。治療のためだと理解していても、やっぱり私の心は激しく彼の温もりを求めてしまう。

 

 メイクデビュー前夜に感じた彼の背中の温もりが、ウイニングライブ後に刻み込んだ彼の鼓動が、どうしても忘れられなかった。

 

 しかし、このように熱に浮かされた状態でトレーニングに臨めば、彼の信頼を裏切ることに繋がりかねない。

 

 故に私は、トレーニングに対する意識を改める必要があった。

 

 いつか来たる再会に備え、成長した私を見せたい。

 

 胸を張って彼の教え子を名乗りたい。

 

 彼に相応しいウマ娘(わたし)になりたい。

 

 そのためには、誰よりも真剣にトレーニングに取り組まなくてはならない。

 

 そうやって考えを進めていく内に、私は自然と意識の切り替えが出来るようになってきたのだ。

 

 だがそれはあくまでも、()()()()()()()()()()()()()()である。

 

「……」

 

 一人でいるとしばしば、強引に胸の内に押し込んだ感情が爆発しそうになる時があった。

 

 兄さまと再会を果たしてからの三ヶ月間で、私は彼に対する底なしの好意を自覚した。

 

 指導者と教え子という立場上、この先私が、彼に対して気持ちを打ち明けることはないだろう。

 

 社会的な立場を抜きにしても、兄さまの心を追い詰めた私に、彼を支える権利など残っていないのだから。

 

 それは、いけないことなんだ。

 

 

 

……当然、頭では理解しているのだが、

 

 

 

──いつか必ず、君を迎えに行くから。

 

 

 

 真剣な眼差しで私を射抜いて、兄さまがあんな言葉を囁くから。

 

 

 

 

 私の心はずっと生殺しの状態で、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時々、気が狂いそうになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 気分転換を兼ねて、私は夏休みの課題に取り組むことにした。

 

 夏休みは二ヶ月という長期間のため、出題される課題は非常に多い。計画的に進めていかなければ、未来の私が悲鳴をあげるだろう。それは自明の理であった。

 

 栗東寮ではどうにも集中力を欠いてしまうと判断した私は、部室へ移動して課題に取り組むことにした。

 

 課題をいくつかスクールバッグにしまって、私は寮を出る。

 

 炎天下の敷地に一歩出るだけで汗が滴ってきた。私はハンカチで汗を拭いながら、急いで校舎別棟の部室へ向かう。

 

「──失礼します」

 

 兄さまは不在だが、礼儀として私は一言断り部室に入った。

 

 その瞬間、直射日光で熱された私の身体を冷涼な空気が撫で上げる。

 

「……?」

 

 部室は冷房が効いていて非常に涼しかった。最後に部屋を出た誰かが切り忘れたのかな。

 

 しかし、これはこれで都合が良い。私は室内を進んで適当な椅子に腰掛ける。

 

「……すぅ……すぅ…………ん」

 

 そこで初めて、()()がいることに気がついた。

 

「ドーベルさん?」

 

 制服に着替えたドーベルさんが机にノートを広げ、両腕を枕代わりにして寝息を立てている。

 

 トレーニングの後から、ドーベルさんはずっと部室に居残っていたのかもしれない。

 

 冷房が効いて快適な空間といえど、冷涼な風を無防備に受け続けたら身体を冷やしてしまう。

 

 私はドーベルさんの肩にブランケット──部室に常備してあったもの──をかけて、斜め対面の席に腰掛ける。

 

 そして机に教材を広げ、彼女の眠りを妨げないように課題を消化しようとして。

 

「……?」

 

 ふと視界の隅に、ドーベルさんが出しっぱなしにしていたノートが映り込んだ。

 

 少し卓上が散らかっていたので、私は寝ている彼女の代わりにノートと筆記用具を片付けてあげようと腰を上げる。

 

 鉛筆と消しゴム、ボールペンをドーベルさんの筆箱にしまった後、広げっぱなしのノートに手を伸ばして。

 

「……これは」

 

 見開きのページに描かれた内容が、無意識に私の目に止まった。

 

「可愛い……」

 

 何かのアニメの登場人物だろうか。可愛らしい女の子のイラストが、ポップなテイストでいくつも描かれていた。

 

「…………んぁ? サトノ……?」

 

 少しうるさくしてしまったか。眠っていたドーベルさんが目を覚ましてしまった。

 

「……あ、あれ。アタシのノート…………」

 

 ドーベルさんは寝ぼけ眼を擦りながらきょろきょろと周囲を見渡して、

 

「──っ!?」

 

 私を視界に捉えた瞬間絶句した。正確には、私が手に持ったノートを見てである。

 

「み、見た……?」

「……すみません、机の上に広げてあったので目に入ってしまって」

「…………ぁあ」

 

 事実を受け止めた様子のドーベルさんが、頭を抱えて項垂れた。

 

「……サトノ。ノート、返してもらっても良い?」

「は、はいっ。すみません……」

 

 私は手にしたノートを慌ててドーベルさんに渡す。

 

「ドーベルさん、絵を描くのがお好きなんですか?」

 

 ドーベルさんの反応からして、あまり触れて欲しくない話題なのかもしれないが。

 

「とっても上手なんですね……私、感動しました!」

 

 ノートに描かれたイラストはどれもこれも秀逸で、素人目にも心の底から可愛いと思えるようなものばかりであった。

 

「……あ、ありがと」

 

 お世辞を抜きにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……昔から絵を描くのが趣味で、暇な時間に落書きとかよくしてたから」

「そうなんですね」

 

 ドーベルさんの意外な一面を発見して、私は嬉しい気持ちになった。

 

 というのも、チーム・アルデバランにメジロ家の二人が移籍してから、ドーベルさんとはまだ壁があるように感じていたからだ。

 

 マックイーンさんとは過去に絡みがあったこともあり、すぐに打ち解けることが出来た。

 

 しかし、ドーベルさんの場合は、彼女自身が私達と一線を引いているような気がして。

 

 チームメイトとして申し訳ないが……正直に打ち明けると、私は彼女に対して少しとっつきにくい印象を抱いていた。

 

 もしかしたら、これがきっかけでドーベルさんと仲を深められるかもしれない。

 

「あのっ、ドーベルさんさえ良ければ、ノートをもっと見せてくれませんかっ!?」

「べ、別にいい、けど……」

 

 私の勢いに屈したのか、ドーベルさんは観念したかのようにノートを渡してくれた。

 

 私は課題そっちのけで、夢中になってノートをめくる。

 

「わぁ……すごい、すごいですドーベルさん!」

 

 練習のような形で様々な角度からキャラクターが線のみで描かれているページもあれば、丁寧に色付けされたキャラクターが描かれているページもある。あ、こっちには漫画まで……っ!

 

「どれもこれもすごく綺麗で上手ですっ、特にこのイラストなんて──」

 

 暴走する私を見て、ドーベルさんは頬を紅潮させながら顔を覆っていた。

 

「分かった、分かったから……っ!」

「……あ、す、すみませんっ。私ったら、つい熱くなってしまって……」

「別に良いよ。褒められて……まぁ、悪い気はしないし」

 

 ただ、私の熱弁を食らったドーベルさんはまんざらでもないらしく、顔を逸らしながら人差し指で頬をかいていた。

 

「……そんなに、すごいかな」

「はいっ。どのイラストにも魅力が詰まっていて、ドーベルさんが本当に絵を描くのがお好きなのだと伝わってきます!」

「そ、そっか……ありがと」

 

 私も教科書に落書きをする程度で絵を描くことはあるけれど、彼女ほどの水準に到達するには相当な努力と時間を要するはずだ。

 

「ドーベルさんはどうして、絵を描くことがお好きなんですか?」

「特に理由はないけど……強いて言うなら、集中出来るから、かな」

「集中、ですか……?」

「絵を描くことに没頭すると、他に何も考えなくて良いから。その感覚がとても心地良くて……気が紛れるんだ」

 

 少し予想外の返答に、私は言葉を返すまでに不自然な間を作ってしまった。

 

 てっきり、可愛いキャラを描くのが好きであったり、サブカルチャーに興味があるからといった理由を想像していた。

 

 しかしドーベルさんは何というか、少し普通の人とは違う視点から"絵を描く"という行為を捉えているように見えた。

 

 その姿は何というか、とっても……。

 

「かっこいい……」

「……え?」

「とってもかっこいいですっ!!」

 

 私の目には、キラキラと輝いて映った。

 

「……かっこいい?」

「はいっ」

 

 ドーベルさんは私の言葉を繰り返し、魅力が詰まった彼女自身のノートをぱらぱらとめくる。

 

「…………ふふ。サトノ、ちょっと変」

「え、変ですか?」

「変だよ」

 

 放った言葉とは裏腹に、ドーベルさんはやっぱりまんざらでもなさそうにはにかんでいた。

 

「ありがと、ちょっと自信がついたよ」

「はいっ」

「ところで……サトノ、自分の目的忘れてない? 課題しに来たんでしょ?」

「え……あ、あはは」

 

 ドーベルさんに指摘されて、そういえばと私は気付く。

 

 こうして部室へやって来たのは夏休みの課題を消化するためであって、チームメイトと雑談をしに来たわけではない。

 

「アタシ、邪魔になるだろうからもう行くね」

「……あ、ドーベルさん待って下さいっ!」

 

 私は一拍遅れて、席から立ち上がるドーベルさんを引きとめた。

 

「うん?」

「ドーベルさんさえよろしければ、勉強を教えて頂けないでしょうか?」

「アタシが?」

「夏休みの課題で、少し分からない箇所がありまして……」

 

 マックイーンさんから、ドーベルさんは学業の成績も優秀だという話を伺っていた。

 

 ドーベルさんにお願いすれば、分からない問題を解くコツを教えてくれるかもしれない。

 

「別に良いよ。一応……学年的には後輩の頼みだからね」

「ありがとうございますっ!」

 

 私はドーベルさんの隣の席へと場所を移し、改めて教材を広げる。

 

「この問題なんですけど……」

 

 最初、私はドーベルさんに対して”人を寄せ付けないクールなウマ娘”という印象を抱いていた。

 

 しかし、こうしてドーベルさんとプライベートな交流を持って、彼女の面倒見の良い一面を知ることができた。

 

 ドーベルさんとの心の距離が少し縮まったような気がして、私の胸がじんわりとした熱で満たされる。

 

 その温もりが、何故だかとても心地良かった。

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