『──続きまして本日の第七レース、条件クラスに出走するウマ娘達の入場です』
クラシック三冠に挑戦するという目標を定めてからさらに約一ヶ月。私は今、マックイーンさんが提案してくれた全ローテーションの起点となる条件クラスのレースに臨もうとしていた。
次走の舞台となったのは東京レース場。コース詳細は芝二千メートル/左。ここ数日快晴の天候が続いたこともあり、コンディションは良バ場だ。
装蹄に不備がないことを確認し、私は不気味なほどに静寂な地下バ道をおもむろに歩く。
カツン、カツンという金属音が、地下バ道に波紋を広げるように響き渡る。
本バ場へ近づくにつれて、会場のガヤガヤとした喧騒が私の鼓膜を揺らしだす。
緊張で暴れ出す心臓を落ち着かせるために、私は一度深呼吸を挟んだ。
深く息を吸って、ゆっくりとはき出す。
「ふぅ………………。んん……よしっ」
頬を叩いて気持ちを引き締め、強かな決意を胸に灯して私は呟く。
「──行ってきます、兄さま」
***
『重賞レースの開催を予定していないにも関わらず、本日の東京レース場は大勢の観客で溢れかえっています。その数、驚異の六万人越え!』
『以前、驚異的な凱旋劇を披露したチーム・アルデバラン。”期待の原石”サトノダイヤモンドの次走に注目が集まる中、本日ついにその瞬間がやってきました』
ホームストレッチを埋め尽くす大衆の熱気を肌で感じながら、私は姉のドーベルと共にサトノさんのレースを応援しに来ていた。
私の左隣にはチーム・アルデバランの代理監督を務めるたづなさんの姿もある。
「……あぁ。懐かしいですね、この空気」
緑の事務服を着こなすたづなさんが瞳を閉じ、何かに想いを馳せるように呟いた。
「……うぅ」
「ドーベル。あなた、大丈夫ですの?」
私はたづなさんとは対照的に、右隣で不審な態度を見せるドーベルに声をかける。
「ホームストレッチから無理に応援する必要はありませんわよ」
「……大丈夫。チームメイトの晴れ舞台なんだから、ちゃんと応援しないと」
「そうですか」
ドーベルは過去の経験から、人が大勢いる場所に対して強い苦手意識を抱いてしまっている。いや、場所というよりは自分以外の人そのものを苦手としていると言うべきか。特に、男性に対してその反応は顕著だ。
ゆえにドーベルがレースを観戦する際は、人の密度が薄い会場観客席を用いることがほとんどである。そんな彼女がホームストレッチに立っているということは、心の底からサトノさんのことを応援しているのだろう。
そういえば過去に一度、ドーベルは自分の意思でホームストレッチからレースを観戦していたことがあった気がする。
あれは確か、三年前の……。
『──第七レース、条件クラスに出走するウマ娘達の入場です』
私が過去の記憶を検索していると、会場の熱気が更に高まった。
ターフに繋がる地下バ道から、条件クラスに出走するウマ娘達が続々と登場する。
「サトノさーん、頑張って下さいまし!」
体操服にゼッケンを装着した状態で姿を見せたサトノさんに、私は声援をおくる。両手をメガホン変わりにして、声を張り上げた。
六万人を超える大観衆の目当ては言わずもがな、チーム・アルデバランに所属する“期待の原石”サトノダイヤモンド。
驚異的な末脚を披露したメイクデビュー以降、サトノさんは数多くのファンを獲得した。世間の反応を調べたところによると、非常に端麗な容姿とその豪快な走りっぷりのギャップに魅了されている者が多いようだ。
サトノさんがクラシック級の三冠路線を目指すにあたって、私は彼女にいくつかの選択肢を提案した。そして今日のレースは、その全ての起点となる重要なものである。
メイクデビューを突破し、彼女の次なる条件クラスの舞台として私が選択したのは東京レース場。
サトノさんの距離適性や脚質適性、得意とする武器を最大限に活かせると判断し、以下のような舞台をセッティングした。
東京レース場第七レース:条件クラス──芝二千メートル/左。
押さえておくべき特徴は、大きく分けて二つ。
一つ目は、スタート直後に控える直角に近い第二コーナー。
スタート地点が第一コーナーの外側奥とイレギュラーな場所からレースが開幕し、直角に近い第二コーナーを曲がって向正面に突入する。第二コーナーに差し掛かるまでの距離は約百二十メートルと非常に短く、その影響から序盤の位置取り争いが非常に熾烈なものとなることが多い。
さらに忘れてはならないのが、コーナーが
しかしサトノさんの場合は、差しの脚質を軸にしたレース展開を得意としている。リスクを負ってまで序盤で先行する必要がないため、私は彼女が有利に立ち回れると判断した。
二つ目は、五百メートルを超える長い最終直線。
第四コーナーを抜けた先に待つ最終直線には、高低差約二メートルの坂路が形成されている。数字だけを見れば阪神レース場のような急勾配な坂であるが、実際には非常になだらかな直線が続いているといった印象だ。
坂を登り切ったとしてもそこから三百メートル近い直線が続くため、私はサトノさんの武器である末脚を最も活かしやすいコースであると結論づけた。
サトノさんほどの能力があれば、条件クラスを突破することは容易いだろう。だがしかし、レースというものに絶対は存在せず、油断すれば足を掬われるのは明白だ。
「サトノ、勝てるかな」
「何も問題ありません……と、言いたいところなのですが」
私がドーベルの言葉に対して歯切れの悪い返答をしてしまうのは、サトノさんのポテンシャルを心配して……というわけではない。
「サトノさんが引いた枠は、六枠十二番とメイクデビュー同様
サトノさんにうってつけの舞台を用意することが出来たと自負しているが、同時に拭いきれない懸念もあった。
「どんな状況に遭遇しても冷静でいることが重要ですわ、サトノさん……」
私は祈るような眼差しで、ゲートインが間近に迫るサトノさんを見守る。
東京レース場の芝二千メートルというコースには、レースに集中するあまりついつい見落としてしまいがちな──とんでもない罠が潜んでいた。
***
──良いですか、サトノさん。スタート直後の位置取り争いに巻き込まれることだけは絶対に避けてくださいまし。
ゲートインを直前に控える中、私は先程控室でマックイーンさんから貰った助言を思い出していた。
──分かりました。ですが、一体どうして……?
マックイーンさんがここまで強く釘を刺すということは、相当な理由があるに違いない。
──”斜行”という反則行為に抵触し、降着となる可能性があるからですわ。
斜行とは文字通りコースを斜めに走行する行為を指し、他のウマ娘の進路を妨害したと判断された際に用いられる反則行為の名称である。
確かに、東京レース場の地形的特徴からすると、大外枠から序盤の位置取り争いに参加するためにはコースを激しく横断する必要がある。
差しという脚質で戦う以上、私は序盤からバ群の先行位置につける利点は薄い。末脚を活かす長い最終直線が存在する以上、審議を招くような行為は控えるべきだろう。
──分かりました。
マックイーンさんと練り上げた作戦と注意点を今一度確認し、大外枠の私がついにゲートに収まる。
『条件クラスに出走するウマ娘のゲートインが完了──スタートしました!』
残念ながら、大外枠のゲートインからスタートまでの間に息をつく暇は無い。
マックイーンさんの言葉を念頭に置いて、私は夢の実現へと繋がる二歩目を踏み出した。
***
『各ウマ娘が一斉にゲートを飛び出します。いや、十二番のサトノダイヤモンドが少し出遅れたか』
無機質なゲートがガタコンッ! という音を上げて開かれる瞬間が、ターフビジョンに映し出される。
サトノさんが他のウマ娘達よりも数コンマ遅れてゲートを出たことが原因なのか、会場が明らかにざわついた。
『サトノダイヤモンドはレース終盤の末脚を活かした展開を得意としています。序盤の熾烈な位置取り争いを嫌ってのことでしょう』
サトノさんの魂胆を瞬時に察した解説陣が、すかさず彼女のスタートをフォローする。
「……良いですわね。サトノさん、スタートがかなり上達しています」
夏休みの二ヶ月間で習得に励んでいたスタート技術だが、既に本番で通用する水準に達しつつあると私は感心した。
重心移動を利用し、利き足とは逆の足で地面を押し出すようにスタートを切るハーフバウンド。
一般的には先行争いで優位に立つために編み出された技術であるが、軽快なスタートを切れることからエネルギー効率も良く、身体への負担が少ないという利点もある。後方からのレースを得意とするウマ娘といえども、習得する価値は十分にある技術だ。
さて、サトノさんに控室で念押しした助言については……。
『サトノダイヤモンドは後方から四番手の位置につけて最初のコーナーへ突入していきます』
懸念であった序盤の位置取り争いに関しては危なげなく避けることに成功し、サトノさんの得意とする展開に落ち着くことが出来た。
「ふぅ……何とか第一関門突破ですわ」
私は胸を撫で下ろし、安堵のため息をこぼす。
「ねぇ、マックイーン」
「何でしょうか?」
「サトノ、大丈夫かな」
ターフビジョンを見つめるドーベルが、相変わらず不安げな声音で呟いた。
序盤に潜んでいた罠を掻い潜ることができたサトノさんに、もはや敵はいない。
私は即座に問題ないと返答すべく、視線をドーベル同様ターフビジョンの方へ移す。
「……………………なるほど」
その光景を見た私は、ドーベルの表情が晴れない理由を瞬時に察知した。
直角に近い第二コーナーを抜け、レースは既に向正面へと突入している。サトノさんは元来の目論見通り、後方の位置に着けて自分の走りを徹底していたが。
「
終盤の長い直線に備え、スタミナ温存を意識するあまり内ラチにぴたりとつけて走行した結果……。
サトノさんは前方を進むウマ娘や、併走するウマ娘達に進路を完全に塞がれてしまっていた。
***
相手の驚異的な末脚に対する策というのは、意外にも単純だ。末脚が活かせないよう前を塞いでしまえばいい。
あまりに露骨な場合は進路妨害として降着や失格といった処罰を下されるが、基本的には当人の進路選択ミスとして処理されることが多い。
私の武器はレース終盤の末脚だ。どれだけ先頭との距離が離れていても、今の私には差し切れるという自信がある。
しかし、レースとは併走する相手がいて初めて成立するもの。誰もが一着を目指すため、危険因子に対して何かしらの策を講じてくるのは必然のこと。
その対策の内容が、ウマ娘達に四方八方を取り囲まれた現在の状況である。
(……まずい)
これはまずい、非常にまずい。
序盤中盤とスタミナを温存したとしても、終盤でありったけを放出できなければ意味がない。
慌てて周囲に視線を配るも、意図的に幅を寄せられているため抜け出せそうな隙間はどこにも無い。
(一旦落ち着こう。ここで掛かったら、相手の思う壺)
私が位置取り争いを避けるような作戦を立ててきたと同時に、他のウマ娘達は私の末脚を封じるような作戦を立ててきた、というわけだ。
彼女達は私が勝手に掛かって、勝手にスタミナを消耗することを望んでる。
(……大丈夫。勝負はまだまだここからなんだから)
そんな明け透けな魂胆に引っかかってやるもんか。
手のひらの上で踊らされてたまるもんか。
気を強く持て。窮地に立っても呑まれるな。不安なんて、自分の足で置き去りにしてしまえ。
仕掛けるのは今じゃない。だから、焦る必要はどこにもない。
大丈夫、大丈夫だとひたすら心の中で唱えて私は前を向く。
過去の選抜レースで苦渋を味わった頃とは違うんだと、私自身に言い聞かせながら。
***
サトノさんがバ群に飲み込まれてからというもの、展開はこう着した状態に陥りつつあった。
『まもなく千メートルを通過、その時計は六十一秒三。ややスローペースといった展開でしょうか』
サトノさんを除く十一名のウマ娘が、最も警戒すべき相手を徹底的にマークしている。
バ群を先導するウマ娘が意図的に速度を落とすことで後方集団を固まらせ、彼女達はそれに便乗する形でサトノさんへの対策を修正し、四方八方を包囲していた。
この状況を打破するのは、仮にシニア級のウマ娘であったとしても容易ではない。
「どうしよう。このままじゃサトノ、負けちゃうんじゃ……」
「……」
私は不安に苛まれるドーベルに言葉を返すことが出来なかった。
周囲の観客もドーベル同様、サトノさんを心配するような声や展開に疑問を抱く声で溢れかえっている。
競走相手を警戒し、対策を講じるのは当然のことだ。
その場合、対策されることを前提として戦略を考案する必要があるのは自明の理であり、私はそれを怠った。
……正直に認めよう。私はサトノさんの才能に対して、驕りのような感情を抱いていたのだと。
メイクデビューで見せたような彼女の末脚ならば、仮にどんな危機的な状況に陥ったとしても、盤上を容易くひっくり返してしまうだろうと。
(……くっ、不甲斐ないっ!)
ここ二ヶ月、私はチームに不在であったトレーナーさんの変わりを完璧に務めることが出来ていたはずだ。残念ながら、そう勘違いしていた。
だが実際はどうだ?
圧倒的一番人気に推され、誰もがサトノダイヤモンドの圧勝だと疑わなかった彼女が、こうして苦戦を強いられている。
それはどうして。言わずもがな、私のせいだ。
現状を打破するには、バ群に生じる可能性のある、一瞬の隙間を見つけて飛び込んでいくしかない。
しかし一着という栄光を渇望し、警戒心を決して緩めないウマ娘達がそんな付け入る隙を許すだろうか。私ならそんなこと、絶対に許さない。
『先頭を進むウマ娘が向正面を抜けて、間もなく第三コーナーへ突入します──』
……万事休すか。
私はあまりの情けなさで視線を下げてしまう。
自信満々にサトノさんを送り出しておいて今更合わせる顔がないと、私は彼女の晴れ舞台を直視できなくなってしまった。
「──マックイーンさん」
歯を食いしばって苦渋を味わう私に、左隣から落ち着いた声音で言葉をかけられる。
力無くそちらの方を向くと、代理監督のたづなさんが柔和な笑みを浮かべて私を見つめていた。
「トレーナーという職業に必要な素養が何か、ご存じですか?」
素養? 突然、どうしたのだろう。
「えっと……状況に応じて適切な助言を送るよう常々心がけること、でしょうか」
「はい、それも大事なことの一つです」
たづなさんは私の言葉を肯定して、視線をターフの方へと戻す。
「どれだけ完璧な指導をしたとしても、万全な準備を整えたとしても……レースを走るのはトレーナーではありません」
サトノさんが窮地に追い込まれているにも関わらず、たづなさんは顔色一つ、声色一つ変えずにレースを観戦している。
「一度背中を叩いて送り出してしまったら、私達は何もしてあげることが出来ない。その感覚が、とてももどかしい」
まるで、私の心が筒抜けになっているかのようだった。
あぁ、図星だ。
たづなさんの言う通りだ。
私は今、自分が何も出来ない現状にやるせないもどかしさを感じている。
「私も今、マックイーンさんと同じ感覚を抱いています」
「……ならどうして、それ程までに冷静なのですか?」
私はたづなさんの抱える矛盾が気になって仕方がない。私とたづなさんの違いが理解できない。
何が違う? 何が私とたづなさんを明確に隔てている?
「サトノさんを信じているからです」
あまりにも単純明快なたづなさんの返答。ゆえに私は、衝撃を受けた。
「教え子を晴れ舞台へ送り出したトレーナーに出来ることは、一つしかありません」
それがたづなさんの言う──信じる、ということなのだろうか。
「口で言うのは簡単ですが、実際その立場に立つと非常に難しい。マックイーンさんは今、身をもって経験していることかと感じます」
「……はい」
「トレーナーという職業に最も必要な素養は、いついかなる状況においても担当ウマ娘を信じることです。担当トレーナーとの信頼関係は、担当ウマ娘にとって大きな力となります。そして、その逆も然り……残念ながら、理屈で説明することは難しいんですけどね」
たづなさんの言葉が心に染みる。私は改めて自身の未熟さを痛感し、トレーナーという職業の偉大さを再三思い知った。
「マックイーンさん。胸を張って送り出したサトノさんを、今は信じて待ちましょう」
ホームストレッチに立つ私が不安な顔をしていては、逆にサトノさんを心配させてしまうだろう。全力でターフを駆ける彼女の足手まといになってしまうことなど、絶対にあってはならない。
強かな覚悟でレースへ臨むサトノさんを信じ、隣で微笑むたづなさんに背中を押してもらいながら、私は伏せてしまった顔をゆっくりと上げる。
「──ほら、見てください。レースに絶対なんて、どこにも存在しませんよ?」
***
鋼の意志で掛かりを防ぐも、私は依然としてバ群に飲み込まれる苦しい状況を強いられていた。
前方を走るウマ娘が進路を塞ぎ、併走するウマ娘と
『完全に囲まれてしまったサトノダイヤモンド。これは果たして抜け出せるのか──』
間もなく向正面の直線も終盤に差し掛かり、バ群は第三コーナーへと突っ込んでいく。
私は先頭から九番目の位置で走行しつつ、努めて冷静な視点で現状を整理する。
集団から二バ身差をつけて逃げるウマ娘が三人、壁となるウマ娘が前方に三人、横で併走するウマ娘が二人。そして、最後方で足を温存しているウマ娘が三人。
ああ……まるで、肉の檻に閉じ込められているかのようだ。
私は意識を研ぎ澄ませ、虎視眈々と肉壁に隙間が生じる瞬間を窺う。
東京レース場の第三コーナーは緩やかな下り坂で、カーブが鋭角気味になっている特徴がある。続く第四コーナーも同様に、こちらも体感鋭角だ。
つまり遠心力による加速が得やすく、自身の最高速度に持っていきやすい。
(大丈夫、大丈夫、だいじょうぶ……っ!)
私の見立てでは、この辺りから誰かが仕掛けるはず。誰かがスパートを仕掛けた瞬間、壁となるウマ娘達の速度にズレが発生して隙間が生じるに違いない。
その瞬間を狙って、私が壁の隙間に身体をねじ込む。現状を打破する手段はおそらく、これしかない。
繊細な判断力と、作戦を実行する胆力。そして、ひたすら待つという尋常でない精神力。
『前が開かないっ、開かないぞっ! こう着状態のまま第四コーナーを迎えようとしています──』
どれかが欠ければ敗北は必至。加えて考える要素は他にも山ほど残っている。
私の集中力が極限の域に達しようとしていた瞬間──。
唐突に、その時は来る。
「……えっ?」
私の進路を塞ぐように前方を走っていた二人の進路が、第四コーナー突入直後、まるで
意図していない突然の展開に一瞬動揺するも、私は虎視眈々と狙っていた好機を決して逃さない。すかさず自身に鞭を打って、身体ごとバ群の隙間に突撃する。
『少し厳しいか、苦しいかっ!? サトノダイヤモ──ッ、いや、前が開くッ! ついに進路をこじ開けたッ!!』
徹底的だったマークを強引に躱し、私はついに四番手へ浮上した。
私はそのまま進路を外へ持ち出し、吹き飛ばされそうな遠心力を利用して温存し続けた末脚に拍車をかける。
『来たっ、来たっ、サトノダイヤモンドが最終直線で抜け出したッ!!!』
地鳴りのような歓声を全身に浴びながら、私は全身全霊を解放し、ありったけのスパートを仕掛けた。
「──はぁああああああああッ!!!!!」
瞬く間にハナを奪い取り、私は末脚を爆発させて後続を突き放す。
『二バ身っ、三バ身っ、四バ身……っ! サトノダイヤモンドの快進撃が止まらないっ、誰も止められないっ!』
風を切り裂く私の視界に、もはや私を拒むものは何もない。
両手を大きく振るたびに、足を一歩踏み出すたびに、私だけの景色が鮮やかに加速していく。
そして。
『──サトノダイヤモンドが圧倒的な実力を披露して、見事一着を掴み取りましたッ!!!!』
迫る後続に大差をつけて、私は先頭でゴールを走り抜けた。
終わってみれば独壇場の晴れ舞台に、会場は歓喜し熱狂で震え上がる。
この瞬間、私は夢への二歩目を無事に踏み出すことが出来たのだと実感した。