他にも、今プレイしているアクションゲームだって、ベクトルは違えども、所謂クソゲーに分類される。正確にはバカゲーと分類すべきかもしれないけれど、そもそもクソゲーもバカゲーも明確な基準を持たないのだからどっちでもいいか。
明日の一時からサービス開始するソードアート・オンラインだって、初のVRMMORPGということで期待が寄せられているけれど、それだって実際に遊んでみればいかがなものか。
私が今遊んでいるゲームのタイトルは、モンスターハンター。モンハンという略称で長く愛され、ついに
プレイヤーは武器一つと、ストレージに収まるだけのアイテムをフィールドに持ち込み、自身より数倍から数十倍巨大なモンスターと殺し合う。
最大四人まで、今時珍しいローカル通信でのマルチプレイが出来るとはいえ、実際にこのゲームを複数人で遊んだという話はあまり聞かない。というか、そもそもプレイ時間が十分を超えるプレイヤーの数が一握り。
というのも、怖すぎるのだ。現実と区別が付かないとまでに評された世界観は、モンスターにももちろん適応される。殺意に満ちた形状の肉食獣が、涎で濡れた牙を剥き、プレイヤーの頭蓋を噛み砕きにくる。
怯えて腰を抜かし、頭蓋骨を噛み砕かれる感触と共にゲームオーバー。即刻ソフトを売却するプレイヤーが続出した。
例外的に、芸能人や動画投稿者が罰ゲームとしてプレイするという、おかしな需要こそ保持しているものの、サービスが終了するのも時間の問題だろう。
非常に惜しい話だけれど。
リオレウスの口から放つ火球を回避しつつ、銃口たる大口目がけて太刀を振るう。刃先が牙に当たり、金属同士をぶつけたような音と共に弾かれた。
「まだまだぁ!」
このゲームには一切のシステム補助が存在しない。防御力は防具に依存し、攻撃力は武器に依存する。要するに、アバターそのものに成長は無い。武器を振る速さも、走る速さも、脳の処理速度次第となる。
だからこそ、頑張れば現実では難しい動きも物理的に可能なら出来てしまう。
「うりゃっ、しゃいらー!!」
左足を軸に、右足で地を蹴り、独楽のように回り太刀で口端を切り裂く。それを三度繰り返し、その巨大な頭部を真っ二つに割る。
声にもならぬ断末魔をあげて、リオレウスは鮮血に染まる地へと倒れ伏せた。
「しゃらー! おら見ろどうだボンクラ共!!」
このまま一分も経過すれば、クエストは終了しこのアバターは村へと転移する。それまでの間に、私を画面越しに見ている視聴者たちのコメント欄のウィンドウを開く。
――しゃいやー!
――しやー!!
――しゃらー!
――さすが姐御!
――レウスの顔面真っ二つとかww
――あいっかわらずのバーサーカーぶりにいっそ安心
「誰がバーサーカーだよ。私ほど頭使ってバトってるプレイヤー他にいねーだろ?」
――そもそもプレイヤーがいない件
――頭の使い方が人間やめてるんよ
――vrでモンハンやってる時点で狂人よな
――明日からのsaoでも大暴れしてる姿が目に浮かぶな
――姐御ー、saoって配信するんすか?
「あー、多分やるんじゃねぇかな。テストプレイ挟むし、少しばっか先になるけどな」
私はそれなりの登録者をもつ動画投稿者、名を
――vrでオンラインってことは、オフ会とか出来そうだね
――SAOを買えば姐御に会えるのでは?
――握手で複雑骨折が現実になる日も近いな
――ファンタジーにラクシャが解き放たれるのか……
「オフ会なー。面白そうだし、まぁ考えとくわ」
話してるうちに一分が経過。報酬がストレージに収められ、私の視界は白で包まれた。
「じゃ、今日の配信はここまで。きてくれてサンキューな。明日はSAOやるから配信はねーぞ」
――お疲れ様ですっ!
――SAOで逢いやしょう!!
――俺もSAO買います!
村に帰ってきてすぐに、動画配信ソフト、OBSの配信停止ボタンを押す。念のため、ブラウザも開いて配信が終了してることを確認して、ゲームからログアウトする。
「……あーーーー。……疲れた」
ナーブギアを頭から外し、雑に束ねてた髪を解きつつ身を起こす。時計を見れば、単身は真右を向いており、窓の外は真っ暗。私は夕飯時から九時間近くもモンスターと殺したり殺されたりしてたらしい。
「あ、インストールしなきゃ……」
できることならもうこのまま寝てしまいたいが、明日すぐにソードアート・オンラインを遊ぶためにも、インストールやら何やらをしなきゃいけない。配信環境の設定も必要だろうけど、……それはまだ先でいいか。
「ねみぃ……」
私は九時間の死闘を終えた体に鞭を打ち、もう一度ナーブギアを被り直すのだった。
普段だったら睡眠時間である、午後一時。純真な日本人である私は五分前行動を遵守し、眠気を押し殺しながらもナーブギアを被ってソードアート・オンラインのサービス開始を待った。一応、ツイッターには私がSAOのテストプレイのために今日は配信を休むことを伝えてある。まぁ、テストプレイといいつつも普通に遊ぶんだけどな。
五分も前からスタンばり始めたことを後悔しつつ、一時になると鳴るように設定していた、デジタル時計のピッという音を聞いた私は、開始コマンドの一言を唱える。
「リンク・スタート」
あらゆる
とはいえ、まずはキャラメイクから始めることになる。リアルの外見そのままでプレイすることも可能ではあるけれど、顔を見せたことのない
十分ばかりかけ、私の新たな肉体は完成した。
髪は扱いやすいようにリアルと同じ長さ、腰あたりまで伸ばし、色はモンハンの時と同じく、濃いめの青で染めた。
顔もリアルをベースに、多少整えて、目の色を水色に。
モンハンのアバターと確かに似ているけれど、しかしポリゴンっぽいというか、アニメっぽいというか、微妙に違和感のある体で、私は最初の町へと放り出される。
思ったほどの感動はない。まるで現実みたいだ、っていうのはもうモンハンで十分にやった。自分以外のプレイヤーがすぐ近くに沢山いるというのは初体験ではあるけれど、ぶっちゃけNPCと見分けがつかないし、おかげかやっぱり感動は薄い。
「あの! もしかしてラクシャさんですか!?」
「あ……?」
まずは何をしたものかと、ひとまず歩いてみようかと思ったところで、女の子に声をかけられた。確かに、私の名前は
「その声、やっぱりラクシャさんですよね! ファンなんです! 握手してください!」
「あ、うん」
こういうの、マジであるんか。VRとはいえ、
「ありがとうございましたー! 応援してまーす!」
と、女の子はそう言って、逃げ去るように何処かへと言ってしまった。
「ええ?」
……とりあえず、武器屋に行ってみようか。
キャラ紹介
女。十六歳。高校生。(割としょうもない)訳があって、妹と二人暮らし。両親とは別居中。
登録者五万人を持つ動画投稿者。ゲームの生配信がメイン。
VRゲームはアバターを第三者視点で撮影できる外部ツールを使っており、視聴者はその激しすぎる動きに酔いしれる(意訳)ことになると評判。過去にパルクール特化のゲームを配信して、同時視聴者数を一桁まで減らしたことがある。
名前の由来は、インドの命進法における数の単位で、十万を意味する。同時期に活動を始めた動画投稿者、
荒々しいプレイスタイルと言動からレディース総長のような扱いを視聴者から受けるも、本人としては多少活発程度の認識。姐御呼びはリアルの友人や同級生からもされている為、慣れている。……というか、諦めてる。
妹からはまだお姉ちゃんと呼ばれているものの、いつ姐御や姉貴なんて呼ばれ方をするかと不安に思っている。
好きなゲームジャンルはアクションとホラー。凶暴なモンスターに立ち向かう度胸と、慣れない武器を扱う素質を求められる鬼畜ゲー、モンスターハンターがお気に入り。