武器屋で一通りの武器を試し、結局は初期装備の片手剣に落ち着いた。攻撃力の高い装備もあったけど、金銭的に余裕があるわけでも無いし、見た目も気に入らなかったし、ひとまずは初期装備一式のまま外でモンスターでも倒していこうと思う。
「ちょれぇ」
はなっから大して期待はしていなかった。このゲームを買った理由は、話題性の一点に尽きる。最初のVRMMOってだけのゲームに期待なんて、するだけ無駄だと分かりきっていた。それでも、配信者として買わざるを得ないことはあるし、初回の一万ロットを運よく手に入れてしまった。私がここに立つ理由なんて、その程度のもの。
「しゃいらっ!」
配信してるうちに口癖になっていた掛け声と共に、片手剣の突きで突進してくる青イノシシの脳天を貫いた。HPゲージが空になり、プギーという情けない断末魔を上げながら、その体はガラスのように砕け散る。
弱すぎる。攻撃は最大の防御とはよく言うが、このイノシシ共は考えなしに突っ込んできて、勝手に切られて死んでいく。MMORPGだからか、どんどん新しく湧いてくるが、数の暴力というには程遠い。
ちょろいっつーか、やっぱモンハンが鬼畜ゲーすぎたのか。
しかも面倒臭い仕様の一つが、武器の耐久度。モンハンでは切れ味こそ落ちるものの、武器が壊れるということはなかった。
だけどこの世界じゃ、武器は消耗品。もちろん、レアな装備が出てくる頃には耐久値を回復させる手段とか出てくるんだろうが、今は安物の剣を複数買った方が効率的か。
日が暮れ始め、レベルが幾らか上がったところで、剣がポッキリ折れた。
デスルーラは出来れば勘弁して欲しいんだが、こいつらって殴っても死ぬよな……?
そんな心配は、街への帰路について数分で杞憂となった。
イノシシを蹴り殺しつつ帰る道中、何があったのか、はじまりの街の中央広場に全プレイヤーが強制転移で集められた。リンゴーンと鐘の音が聞こえ、光に包まれ、次の瞬間には地面は広大な石畳に。周囲には街路樹と中世風の街並み。そして正面には黒光りする宮殿がある。
ゲームのスタート地点に、一万人近いプレイヤーが集められた。あちこちから「どうなってるの?」「ログアウトできるのか?」なんて声が聞こえてくる。……ログアウト?
「……は?」
気になって見てみれば、確かにメニューのどこにも、あったはずのログアウトのボタンがない。最初はあった。ってことは、意図的にボタンを消した? なんで?
「あ……上を見ろっ!」
誰かが叫んだ。反射的に、誰もが頭上を見上げた。
そこに夕暮れの空はなく、市松模様に覆われ、『Warning』、『System Announcement』と、真っ赤なフォントで書かれていた。
ファンタジーかと思ったら、実はSF? と思ってしまうくらいに不釣り合いな状況は、さらに混沌を極めていく。
市松模様から、巨大な血の雫のようなものが垂れ出てくる。蜂蜜のように粘度の高そうな液体は、地面には落ちず、空中で姿を変えた。
二十メートルはありそうな、ローブ姿の巨人。……といっていいのかもわからない、何か。顔の部分は空洞で、ローブの裏地や縫い目がそのまま見えている。ゴースト系のモンスターのようにも見えるけれど、あるいは魔術師のようにも見える。
『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ』
一万人のプレイヤーの真上から、よく通る男の声が降り注いだ。
私の世界? 確かに、ゲームマスターとか開発者とかその辺の人なら、この世界じゃ創造神たりうるのかもだけどさ。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
……誰? SAO作った人? それとも政治家とかの偉そうな人?
あいにくと、私は世間知らずでね。そんな、誰もが知ってる人ですみたいな面されても困るんだけど。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない』
茅場晶彦とやらは、悪夢を語った。
このゲームでの死、つまりはHPゲージの全損は、現実世界での死を意味する。具体的には、ナーブギアから脳を破壊するビームかなんかが出るらしい。
このゲームは自発的にログアウトすることは出来ず、外部からナーブギアを外そうとしたり、壊そうとしたりすると、やっぱりビームが出て脳は丸焦げに。……中の髪はアフロになったりするかな。
ログアウトする方法はただ一つ。このゲームの舞台、アインクラッドの最上層である第百層まで辿り着き、ラスボスを倒すこと。
「……いいねぇ。面白すぎ、ラノベかよ」
モンハンと比べてスリルが足りないと思ってたとこだよ。惜しむべきは配信できないことだけど、その辺は帰ってからどうとでもなるかな。スクショとか撮れるだけとっとこ。
『最後に。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してみてくれ給え』
悪夢はまだ終わらない。この場の全員がアイテムストレージを開き、手鏡なるアイテムを取り出した。
そこに移るのはやっぱり、青髪になってアニメ調になった私の顔。口紅の色とかもう少し拘ればよかったかな。
と、これがプレゼントかと首を傾げてたら、あちこちが白く光る。そして私もまた、視界が一瞬白に包まれる。
「……あー、……あ?」
鏡に映る顔が、微妙に変わったような、……そうでもないような。
けれど周りは違う。さっきまで美男美女ばかりだったのに、大半以上がブッサイクな顔面に変わっていた。それに平均身長も頭一つ分は低くなってる感じだし、横幅の平均値もかなり上がっている。それに男女比も随分偏った。……女装趣味の男がいたなら、気の毒だね。
例えば、リアルでゲームオタクを数千人集めて、適当に甲冑とか装備させたような、そんな地獄絵図が一瞬にして出来上がった。全く、全く。何の恨みがあってこんな見苦しい世界にしちまったのやら。
私的には、NPCとの見分けが付きやすくなるしいいけどさ。
『諸君は今、何故、と思っているだろう。何故私は――SAO及びナーブギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか? これは大規模テロなのか? あるいは身代金目当ての誘拐事件なのか? と』
私の疑問の答えになるであろう話を、茅場は続ける。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、既に一切の目的も、理由も持たない。何故ならこの状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ、私はナーブギアを、そしてSAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
……つまり、ブサイクばかりの世界を作ることが、鑑賞することが目的? 鼻息荒くして戦うブサイクが、見苦しく努力するブサイクが、引き篭もり惰眠を貪るブサイクが、お好きなの?
『以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。――ではプレイヤー諸君、健闘を祈る』
最後の一言の後、状況は跡形も無く終了。阿鼻叫喚している様子は、間違いなく現実のそれだった。
「嘘だろ……なんだよこれ! 嘘だろ!」
「ふざけるなよ! 出せ!」
「こんなの困る! この後約束があるんだよ!」
「嫌ああ! 帰して! 帰してよおおお!!」
悲鳴、怒号、絶叫、罵声。ついでに咆哮。
たった数十分でプレイヤーから囚われの身となった人間たちは、頭を抱えてうずくまり、罵り合い、抱き合い、 両手を突き上げた。
これは、現実。
これぞ、現実。
キャラ紹介
洛叉と握手した女の子
女のアバターだが、中身は男。手鏡で男の姿になった。
女の姿でラクシャを油断させて近づき、あわよくばパーティーを組もうと目論んだ、悪質なボンクラ共の一人。レベル上げ中の事故で死亡。