ゲーム開始から一ヶ月で、二千人が死んだ。
外部からの問題解決は一切なく、互いのやり取りすらも現状できていない。
この一ヶ月で、プレイヤーは四つのグループに別れたらしい。
一つは、プレイヤーの約半分。茅場の言葉を信じず、外部からの救助を待つ者たち。はじまりの街から一歩も出ず、半ば引きこもりのような暮らしをしている。
一つは、プレイヤーの約三割。軍と呼ばれる連中であり、みんなで協力して、グループ内で物資を分け合うんだとか。リーダーがゲーム情報サイトの管理者ってだけあって、なんとも胡散臭く見えてしまう。
一つは、……これは別にいいか。
最後の一つは、言うなればその他大勢。攻略を目指す巨大グループには属さなかったプレイヤー達の小規模グループが、およそ五十個。人数にして五百人くらい。
さらにごく少数が職人、商人クラスを選択した人達。
さらにさらに少数なのが、ソロプレイヤー。例えば私で、例えば目の前にいる女。
「さあやろうぜ、すぐやろうっ! 此処で会ったが百年目だよっ!」
「……なんで私よりもバーサーカーやってんだよ、
「此処ならゼロ距離で推しと愛し合える。殺し合える。やらない手は無いってもんじゃんねっ!」
「そういえばそんな奴だったな、お前」
摩攞羅は、私と同時期に動画投稿を始めた投稿者の一人。対人ゲームマニアで、私と違い、SAOを心底楽しみにしていた。無事買えたって話は聞いてたし、いつか会うとも思っていたけれど、思いの外早く見つかってしまった。
摩攞羅はすっぱり切り揃えられたボブカットの金髪で、体格は私より一回り小さい。歳は確か、私より二つ上っていつか聞いたことがある。
その小さな体で私に抱きつき、頬に口付けしてきた。かと思えば満足したのか、次は急に右手でウィンドウを操作し始める。
『マララから1VS1デュエルを申し込まれました。受諾しますか?』
即座に、私の方に半透明のシステムメッセージが出現した。YES、NOの選択肢と、いくつかのオプションが表示されている。……マジかよ、こいつ。
「うっはは! さぁおいでよ! ラクシャちゃん!」
「オーケイ、オーケイ。私だってこういうの、嫌いじゃない」
とはいえ、マジで殺すわけにはいかない。死なれても困るし、殺す趣味も私にはない。オプションの中から『初撃決着モード』を選択する。これは相手に強攻撃を一撃当てるか、HPを半分削ることで勝利となる、一番健全な決闘。……とはいえ、それでも殺す可能性があるだけに、デュエルなんてする人いないけど。
『マララとのデュエルを受諾しました』
新たなメッセージが現れ、その下で六十秒のカウントダウンが始まる。このカウントダウンがゼロになれば、街中でのHP保護が私達から消え、決着がつくまで殺し合う事になる。
「我慢できねぇや行くよー!」
「はぁ!?」
カウントダウンが終わるまでは、始まらねぇってのに、この馬鹿は短剣を抜いて私に切り掛かってくる。
「愛してるよっ! ラークシャちゃーん!!」
「あーもぅっ! しゃいらーっ!」
刺そうが噛もうがHPなんて一ミリも削れないのに、私も片手剣を抜いた。
私が狂戦士ならこいつは殺人鬼だなっ!
「やるねっ! 強いねっ!」
「対人戦は専門外だっつーのっ!」
ただでさえちっさい的を切るのは手間なのに、ちっこい体に加えてちっこい武器持ちやがって!
どっかで見たが、短い剣は防御にこそ有効な武器らしい。なるほど確かに、このリーチの差はやりにくい。モンハンじゃ、自分よりリーチの長い相手を殺してばかりだった。
これは、練習が必要だわ。むしろカウントダウン前の殺し合いは準備運動にちょうどいいまである。
「りっ、ちぇあああ!!」
「うりゃっ、しゃいらぁああ!!!」
ゲームでやり合ったことなら、幾らでもあった。互いのチャンネルでのコラボ配信で、格ゲーでもパーティーゲームでも。けどこうして、実際に刃をぶつけ合えるっていうのは、なかなか愉快!
互いの武器に、ソードスキルの光が灯る。その向かう先は互いの命。私の片手剣は摩攞羅の首を落とさんと。摩攞羅の短剣は私の
「アイッ、ラブユー!!」
「愛してるぜっ! 親友!!」
防御のことなんて一切考えず、私は心臓を、摩攞羅は首を差し出した。
けれどHP保護されたままのアバターにその必殺は薄皮どころか防具も貫けず、痛みもなく、ただただ衝突事故のようにお互い弾かれ、街路樹に体を強く打ち付けた。
そしてちょうど、カウントダウンはゼロに至った。
「……もういいかな。萎えた。こーさん」
だってのに、私の体もやっとあったまってきたってのに、立ち上がった摩攞羅は短剣を納め、降参を宣言した。
直後、デュエルの終了と勝者の名を告げる紫色の文字列が現れる。
「んだよ、白けるじゃねーか」
「これ以上はダメだよー。ボンクラさん達に嫉妬されちゃう」
「しないと思うぞ。お前んとこのオス豚共とは違って、普通のやつが多いから」
私のとこの視聴者がボンクラ共であるように、摩攞羅のとこの視聴者の呼び名はオス豚共。なんともひっでぇ呼び名だが、その名に恥じない変態が大多数を占める。何よりウケるのは、その馬鹿みてぇな呼び方を摩攞羅は嬉々として受け入れてるとこなんだけどな。
「そういえばラクシャちゃん、知ってる?」
「何だよ?」
開始から一ヶ月が経っても、私達はまだ第一層すら攻略できていない。
原因は、コンティニュー不可という現状。
ボス討伐に必要なまでのレベルまで上げることも、装備を整えることも、そもそもボスに挑戦しようという人員を集めることすらも出来ないでいる。
そんな現状を打破しようと、ついに第一層フロアボスの攻略会議がなんと今日、迷宮区最寄りの町、トールバーナで開催されるらしい。私は摩攞羅から聞いて知ったが、掲示板にポスターが貼ってあったとか。
「ラクシャちゃんももちろん行くよね?」
「そうだな。私としてもそっちの方が好都合だし、ついでだ。手伝ってほしいことがある」
「うん、いいよ」
「内容は聞いてから了承しろよ」
……いや、一回でもこいつに何かを申し込んで、了承より先に説明を聞かせられた試しはないけどよ。
「まぁ、摩攞羅にとっても都合の良い話だ。損はさせねぇよ」
「あたしはラクシャちゃんを信じてるからね。はいとイエス以外は持たないのさ」
四十六人。
午後四時から始まる会議には、私と摩攞羅を含めてそれだけの人数が集まっていた。
私と摩攞羅ははじまりの町から急いで駆け込み、会議開始の時間である四時を十分くらい過ぎてから噴水広場にやって来た。既にパーティ分けを終えてしまったのか、どこもかしこも五、六人くらいの集まりで別れている。
そんな中、一組だけ、たった二人のパーティを発見。一人はローブでほとんど隠れてて、骨格からおそらく女性ということしかわからない。しかしもう一方の男は、遠目に見てもなかなかいい顔をしている。
カップルだったら悪いが、私らも混ぜてもらおうか。
「ねえねえ、お兄さん達。あたし達出遅れちゃったんだけど、よかったらパーティに入れてくれない?」
こういう交渉ごとは、コラボ慣れしてる摩攞羅に任せるに限る。私が誘うと大概、ビビられるんだよなぁ。
「あ、ああ、俺は構わないけど……」
男は頷きつつも、隣に座る女の方を気にしている。
「……私も構わない」
二人揃って暗いな、おい。とはいえ、入れてもらえたのはありがたい。……ついでだし、この二人にも手伝ってもらうか。どうせ私と摩攞羅について知る機会もあるだろうしな。
「じゃあえっと、よろしく。……わりぃ、名前、なんて読むんだ?」
パーティ申請を受けて了承したら、男――kiritoと、もう一人、asunaは
「うはは。あたしらの、読み方むずいもんね。あたしはマララ。マーラちゃんって呼んでもいいよ」
「むずいっつーか、まぁ日本語じゃないからな。私はラクシャ。呼びにくかったら適当に呼んでくれ」
私達が名乗ると、二人も合わせて名乗ってくれた。男はキリト、女はアスナというらしい。
「てか待て、ラクシャにマララって、まさか!」
あ、バレた。隠す気もなかったし、どうせバラすつもりだったから別にいいけど。
「せっかくだ。お前らにも手伝ってもらいたいことがあるんだ。長い付き合いになってもらうぜ?」
具体的には、SAOから生還した後も連むくらいにはな。
キャラ紹介
女。十八歳。高校生。家族構成不明。
登録者三万人を持つ動画投稿者。ゲームの生配信がメイン。
ジャンル問わず対人ゲームが好きで、視聴者参加型の配信を良くしている。
洛叉以上に人間離れしており、敵を殺すためなら自分の死すらも許容できる。
視聴者からは、アバターの可愛らしさからマーラちゃんと呼ばれている。一方、マーラ様という呼び名は禁句。摩攞羅は視聴者のことをオス豚、あるいはロリコンと呼称しており、呼ぶたびに視聴者は鳴き声を上げるのが定番の流れ。コラボ先によくご迷惑おかけしている。
SAOでは複数の武器を相手によって使い分けるという、レアなプレイスタイルをしている。