しゃいらー!!   作:那由多 ユラ

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しー 『SAO生活記録 ♯1』


 

 

 

 会議が終わり、パーティ単位の編成が決まったあと、私達は四人それぞれが何を出来るのかなんかを話し合う打ち合わせのために、町の隅にある古びた店のテーブル席についた。

 

 大して美味くもない夕食を食べながら、ひとまず扱う武器から教え合う。

 私とキリトは片手剣、アスナはレイピア。そして摩攞羅は、短剣と片手剣と両手剣と槍。一つの武器を極めた方が手っ取り早く強くなれるこのゲームにおいて、摩攞羅のスタイルはひどく遠回りな道のり。キリトもアスナも、言葉を失っていた。

 

「うっはは。よく言うじゃん。敵を知り、己を知れば百戦百勝。美少女よりも男のフェラの方が気持ちいいのと一緒」

 

 ……知らねぇけど、なんで女のお前がそれを知ってんだよ。キリトもアスナも変な顔で固まってんじゃねーか。

 

「あー……。話を変えようぜ。どうせ戦闘に関わることは戦ってみなけりゃどうせわかんねぇよ」

 

 キリトと摩攞羅は私の動画も見てるだろうから、知ってるかもだけどな。

 停止していたキリトとアスナに私から声をかければ、びくついたように、再生ボタンを押したように食事の手を動かして手を瞬たかせた。

 

「さっきも言ったが、手伝ってほしい事があるんだ。私を知ったお前らに拒否権はねーぜ」

 

「そういえばそれ、あたしも聞いてない」

 

 計画の一角を担う予定の摩攞羅は、思い出したように首を傾げてそう言った。

 

 そうだったか? ……そうだったな。

 

「じゃあちゃんと聞けよ。私らの将来に関わる話だぜ」

 

 

 

 

 一年後か、二年後か。五年後か十年後かも知れねぇが、SAOがクリアされ、私ら全員が解放されれば、それはもう歴史的なニュースになるだろうさ。

 

 だがそのニュースは一万人の被害者が出たってだけのものになるだろう。私らがゲームの中で一体何をしていたのか、どう暮らしていたのかなんてのは、自称専門家のど素人の妄想が、あたかも事実のように語られて、それで終わりだ。プレイヤーの数年の戦い、功績は全てデータの海に沈み、何を言ったところで厨二病の虚しい妄想にしか聞こえない。

 

 でも今この状況を、『SAO事件』の一行で片付けられるなんて、納得できねぇだろ。

 

 そこで都合よく、このゲームに私と摩攞羅がいる。

 

 私達で今を語るのさ。ノンフィクションのファンタジーをおもしろおかしく、スクショなり録画なりと一緒に配信する。

 

 お前らは殺伐とした世界を生きた上での人間性を表明でき、私と摩攞羅は数年停止していたチャンネルに人を集める事ができる。

 

 悪い話じゃねぇだろ? 日記代わりになんかあればスクショを撮っておいてくれればいい。データは帰ってから私に送ってくれ。

 

 

 


 

 

 

 ソードアート・オンラインサービス開始より、およそ二年の時を経て、六一四七人のプレイヤーが無事ログアウトできた。何があったのか、撮影協力者の一人、アスナが目を覚ますのにずいぶん時間がかかり、なかなか予定通りには始められなかった。が、ついに今日から、私と摩攞羅のチャンネルでSAOの日常を配信する事ができる。

 どっから嗅ぎつけたのか知らねぇが、アスナが眠っている間に各界隈の大人達が集まって、SAOのアバターで入れる専用のVRスタジオやらオープニング、エンディング映像なんて大層なものまで用意され、あちこちのネットニュースで宣伝されてしまい、配信開始前から一万人近い人数が待機していた。

 

「よう、ボンクラ共。久しぶりだな」

 

――姉貴……、久しく見ないうちに可愛くなりやがって

――帰還おめでとう! ずっと待ってた!

――二年間ゲーム漬け、税金も払わず暮らしてたクズのチャンネルはここですか?

 

「タイトル見りゃ、もうこれからの配信で何をするかなんてわかってるだろうが、そう。私達がSAOの中で何をしてたのか、動画や画像と一緒に語らっていこうと思ってな」

 

――さすが姉貴、転んでもただじゃ起きねぇな

――洛叉さんは視聴者集まって嬉しいんだろうけど、でも倫理的にどうなん?SAOのせいでVRMMOがトラウマになってる人もいると思うんだけど。そういう人たちにも配慮できないようじゃ、こんな配信をする資格なんてないと思う。

――お前ら、酔い止めは飲んだか?

 

「安心しろ。今日は撮影協力者と初めて会った日に撮った映像を見てもらうだけだからな。そもそも、撮影しながらバトったりとかする余裕なかったわ」

 

――確か、マーラちゃんもSAOにいたんだっけ

――SAOにいた奴らは不可思議の二人に会ってるのか……

 

「んじゃ、各々楽しんでくれたら嬉しいぜ」

 

 二年が経っても未だ現役のライブ配信ソフト、OBSで配信画面を切り替え、映像データを再生する。

 映るのは、古びた飲食店で映像保存用のアイテムを前に四人が並ぶ映像。中央二つにキリト、アスナが座り、その両隣で挟むように私と摩攞羅が座っている。

 

『よう、ボンクラ共。私だ』

 

『やっ、オス豚共。今日で大体、一ヶ月。あたしらはSAOでも元気に生きてるよー』

 

 今のアバターと服装こそ違うものの、全く同じ顔のアバターが宣う。

 

『これからSAOの中で私らが何をしていたのか記録して、それを帰ってから配信しようと思ってな。この動画はその第一回の特別版ってとこだ』

 

『ちなみになんとテイク2(ツー)。見返して見てみたらキリトくんが一言も喋ってなかったんだよ』

 

『しっ、仕方ないだろ! こういうの見たことはあってもやったことはないんだよ!!』

 

――キリト……、くん?

――全員可愛いな

――は? 何こいつ、女顔のくせしてハーレムしてたの?

――キリトちゃん可愛い

――黒の剣士さんチッス

――マーラちゃんが一番天使だろいい加減にしろ

――こいつビーターじゃねぇか

 

『まあまあ、とりあえず自己紹介しよ? あたしとラクシャちゃんはまぁともかく、君らは完全に初めましてなんだからさ』

 

 摩攞羅は緊張しつつも憤るキリトを宥めつつ、話題を進める。

 

『えっと、アスナです。三人とは、今日、第一層の攻略会議の時にパーティを組みました』

 

――美人さんやわぁ

――ネトゲとは無縁そうな人なのに

――マジで顔面偏差値高いな、この映像

――SAOって全プレイヤーが現実の外見でプレイしてたらしいけど、こいつらはなっからチーターじゃねぇか

 

『あー……。片手剣使いのキリト。ソロだ。アスナと同じく、今日初めてパーティを組んだ』

 

――ボッチか

――ボッチなんやね

――おじさんが友達になってあげようか?

 

『会議でみーんな、五、六人で集まってたのに、二人だけは仲間はずれになってたんだよねー。だから二人のとこにあたしとラクシャちゃんも入れてもらったの』

 

――要するにボッチの集まりじゃねぇかww

――こんなに顔が良くてもボッチになるんか

――マーラ様がいなきゃ全員一人ぼっちだった可能性もあったわけだ

――ちんこ様マジキューピッドww

――マーラ様言うなし

 

『自己紹介はこれで十分だな。そんじゃあ、本題に行きたいんだが、あいにくと今回は大した内容じゃねぇぞ。紹介するのは今日の夕飯だ』

 

――まさかの食レポ!?

――確かに、言われてみれば気になるけどさぁ

――ゲームの中で飯食う意味ってあんの? 胃に入るわけでもあるまいに

 

『あんま期待すんなよ。下層じゃ大した飯は食えねぇらしいからな』

 

 映像の私はそう言って、確かにこの頃は主食になっていた黒パンを出した。ぼっそぼそで大して味もしないが、工夫すれば毎日でも食べれる飯になる。……撮影時の私はその工夫の概念すら知らないわけだが。

 

『なんとこれ、一個1コルで買えるんだわ』

 

『ああ、結構うまいよな、それ』

 

『『は?』』

 

 キリトの言葉に、女子二人のひっくい声が重なって漏れる。

 

――草

――キリトちゃん、まさかの味覚音痴?

 

『キリト君、本気でこれが美味しいと思ってるの?』

 

 アスナの信じられないと言いたげな顔に、キリトは苦笑を浮かべる。

 

『もちろん。この町に来てから、一日一回は食べてるよ』

 

『……キリトくんは、料理の作りがいのある男の子だね』

 

 背と顔はともかく、最年長であるとはいえ、あの摩攞羅が、後に甘い暴力(サディスティックバイオレンス)と恐れられたあの摩攞羅が、男のフォローに回っている……!

 

『く、工夫がいるんだよ……』

 

 キリトはそうぼやきながら、アイテムストレージを開く。

 

――マーラちゃんが男の子のフォローしてるだと!?

――もしやキリトちゃんがヒロイン枠?

――キリトくんのなら俺でもいける

 

 テーブルの黒パンの隣に、ことん、と置かれたのは、素焼きの小さな壺。キリトは指先で壺の蓋をタップし、その指で黒パンに触れた。

 

『……クリーム?』

 

 山盛りの白いクリームが、パンの上に乗る。

 アスナが思わずつぶやいたが、この時は私も摩攞羅も、ちょっとばっか新発見をした気分だった。

 

――美味そうやんけ

――リアルでもこの量乗せたら贅沢だな

――カロリーの暴力……

――開発者絶対頭悪い

――毎日三食一本満足バー食ってなきゃできない発想

 

『ほら、食ってみろって』

 

 キリトはどこで買ったのか、小さいナイフでパンを四等分に切り分けた。

 アスナと摩攞羅が恐る恐る手に取り、遅れて私とキリトも取り、口に運ぶ。

 

『お、うめぇ。これどこで売ってんだ?』

 

『逆襲の雌牛ってクエストの報酬だよ。コツさえ掴めば二時間で終わる』

 

 私とキリトが舌鼓を打ってる中、摩攞羅とアスナはそんなに甘味に飢えてたのか、一心不乱に、指についたクリームまで舐めとる勢いで食らっていた。

 

――どんな味?

――牛乳か、バターか、練乳か……

――美少女が口元をミルクで汚す姿、萌え

 

『クリームの味はどうだろ、近いのはヨーグルトかな? パンとヨーグルトを一緒に食べたことないから、ちょっと新体験だね』

 

『ええ、本当に、美味しい……』

 

 摩攞羅は大人気なく、対照的にアスナは大人しく微笑んだ。

 

『んじゃ、今日のとこはこんなところだな。未来の私たちが配信できることを祈って、チャンネル登録よろしくと言い残させてもらうよ』

 

『明日の配信はあたしのチャンネルで、誰かを招いておしゃべりしてると思うよ』

 

――……この人達、遊びながらも本気で生きてたんだな

――この未来に全く絶望してない感じ、流石姉貴だわ

 

 ここで動画は終わる。三十分に満たない、私のチャンネルにしては短い動画だが、それでも需要はあったように思える。

 

「んじゃ、ちっと短いが今日の配信はここまでな。明日は摩攞羅のチャンネルで、ゲストにアイドル的美少女を招く予定なんだ。期待してくれていいぜ」

 

――おつかれっしたー!

――アーカイブ残りますか?

――キリトちゃんやアスナさんは今後出ますか?

 

「アーカイブ残すに決まってんだろ。キリトもアスナも、そのうち出るぞ。多分」

 

――そういえばマーラちゃんは?

――マーラ様、どこやった?

 

「摩攞羅ならこの後に配信するっつって寝てる。私もこの後、VR版バイオハザードやるから、今度は酔い止め飲んでからこいよ」

 

――あれ、マジで出たんか……

――SAO、モンハンと肩を並べる鬼畜ゲーって噂だな

――姉貴ならリアルでもゾンビくらい殺せそうだけどな

 

「うっせぇよ。もう切るぞ」

 

 

 

 

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