「ハァッ、ハァッ、ハァッ…………!」
ここは、日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。
ここには、ウマ娘にとっての全てがある。
夢を勝ち取るウマ娘たちの裏には、数多くの支持者がいる。
その中でも、トレセン学園の屋台骨といえる者がいた。
全ての学園関係者が語る。
彼無しでは、トレセン学園は成り立たないと。
バタン!
「助けてくれ!」
今日も、彼の元に急患が舞い込む。
「うぅ………お腹痛いです…………」
「頑張ってスペちゃん。もうすぐ保健室よ。」
「ありがとうございますスズカさん…………」
スペちゃんことスペシャルウィーク、スズカさんことサイレンススズカは保健室に向かっていた。
スペは大きく膨らんだお腹を摩りながらゆっくり歩を進める。
「だから言ったのよ。オグリさんに挑むなんて自殺行為だって………………」
「くっ………じゃがいもへの愛情なら負けないつもりだったのに…………私、やっぱり1から自分を見つめ直します!」
そういいながら、何とか保健室に辿り着いた。
「ほらスペちゃん。着いたわよ。えっと、先ずはノックをして…………」
スズカがノックをしようとしたその時、
「こいつの選手生命を潰す気か!」
扉の奥から怒号が響いてきた。
「ひっ……………!」
「い、今のって………?」
スペとスズカが扉から後退ると、トレーナーらしき男が力任せに扉を開け、走り去って行った。
「クソっ!二度とあんなやつに頼るか!」
「はわわ…………」
「ウソでしょ……………」
2人がアワアワとしていると、中から白衣を着た男が出てくる。
この学園で知らぬ者はいない、保健医だ。
「ったく…………あ、スペか。入んな。スズカ、助かったよ。」
「あ、あのっ……………」
「いつもの食い過ぎだろ。そこで待ってろ。」
そういうと保健医は、2人分の椅子を出し、奥のベッドへ向かう。
「足の痛みは?」
「大分引いてきました。あの、さっきはその…………」
「………本当にすまない。こういうのには慣れてなくてな。感情的になっちまった……………」
「いえ、いいんです。私も、あの人とはちょっと、合わないかなって思ってたんで…………」
「………まだ回復には早い。しばらく寝てろ。」
「はい。ありがとうございます…………」
シャッ、とカーテンを閉め、スペたちの元へ戻る。
「さて、今回は食い過ぎだな。オグリと何勝負したんだ?」
「じゃがいもです…………ってそんなことはいいんです!」
「良くないでしょう。ほら、先生の言うこと聞いて。」
「ハハハ。そういうヤツらがいてくれると助かるよ。ほれ薬。それ飲んでしばらく寝てろ。」
スペの肩を担ぎ、ベッドに寝かせる。
「じゃあ、放課後迎えに来るわね。」
「はい………ありがとうございます。」
カーテンを閉め、出入口に戻る。
「ほらこれ、お駄賃だ。」
そう言うと保健医は、ポケットからペッツを取り出し、渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「お前も怪我しないようにな。それじゃ。」
「あ、あの先生。」
扉を閉めようとする保健医にスズカが話しかける。
「あの、無神経かもしれないんですけど、さっきのって………」
「あぁアイツな。…………あのトレーナーの無理なトレーニングメニューで足首を捻挫したらしい。あの様子なら1週間後にはいつも通り走れてるだろうが、あの様子じゃトレーナーは外れただろうな。余計なことをしちまったよ。」
「だから先生は、謝っていたんですね。」
「見苦しいもん見せちまったな。」
「いえ。私こそごめんなさい、変なこと聞いちゃって。」
予鈴のチャイムがなり始めた。
昼休みの終わりを告げるチャイムだ。
「あっ、それじゃあ行きますね。」
「おう。お大事に〜。」
元気に廊下を走るスズカを眺めながら、保健医は扉を閉めた。
この学園の屋台骨、それこそこの保健医である。
経歴こそ不明なものの、特殊医師免許、薬剤師免許、按摩師免許等を1発で合格した、日本医学界のダークホース。
彼は一体、なぜ医者を志し、そしてトレセン学園で働くのか。
その一部始終を、ご覧頂こう。
ピッ
「こんなもん許可した覚えはねーぞ…………ったくテレビ番組め。」
一人、保健室でごちる。
これは、ウマ娘の健康に命をかける保健医の先生のお話。