この辺りのやり取りは原作であってもいいような気がしたりも。もしかすると、ドラマCDなどでこのような補完がされていた可能性もあるかと。やっぱりないか。
なお、本作でアスラン・ザラが登場するのは以上となります。キラマリュがメインなので。修羅場に放り込んでおけば裏切ったりしないはず。
戦闘を終えたキラは、ラクスに同行していたかつての友人、アスラン・ザラと対面する。顔を合わせての再会はオーブ本島以来であり、その後2人は互いの仲間を失って以来3度目の再会となっていた。
「………」
「………」
当然のごとく、気まずく張り詰めた空気が2人の間には流れる。しかし、互いに敵意が無いことは理解しており、会話を始めるきっかけが欲しいだけであった。
「き、キラ……」
アスランが名を呼び、話を切り出そうとする。しかし、その矢先に2人きりであった空間に騒がしさを抱えた第三者が突入する。
「キラくん大丈夫!怪我は……あっ……!?」
「あっ……!」
「マリュー……さん。」
相対していたキラとアスラン、その2人と顔を見つめ合わせる格好となってしまうマリュー。キラを心配して駆け付けた彼女は、思わぬ場面に遭遇してしまう。
「ごめんなさい。お邪魔だった……みたいね。」
「いやっ、そんなことは……」
戦場以外で顔を合わせるのは初めて、実質初対面であったマリューとアスランは、互いに戸惑うこととなる。その矢先
「さっきは助けてくれて、ありがとう。」
「キラっ……!そんなんじゃない。俺はただ、ラクスの護衛のために来ただけだ。」
「でも、ラクスが僕たちのところに行くってことは知っていたんでしょ?だから……」
互いに銃を突き付け、撃ち合ってしまった間柄。かつて親友であったがために、2人はより深く後悔に沈もうとしていた。
「本当はお前に合わせる顔なんてないって……俺は本気でお前のことを、討とうとしていたから……」
「うん……分かってる。でも、それは僕も同じだから……」
互いに仲間の討たれた記憶を蘇らせ、その後の感情を露わとした殺し合いを振り返る。しかし、アスランはキラに対して言い返す。
「いや、本気で殺してやろうと思っていたのは俺だけだ。キラ、お前はあの時でも……俺のことを……!」
「アスラン……」
互いに機体を失い、痛み分けという結果で終わっていた戦い。しかし、その戦いを思い出す度にアスランは、キラが本当に自らを殺そうとしていなかったと感じていた。
「ニコルを殺された復讐の心だけで……俺はお前だけじゃなく、お前の仲間もみんな……お前の全てを奪おうと……!」
憎しみの連鎖に囚われ、兵士として理想ともいえる力を手にしていたアスラン。憎悪を糧に得た力を振るったことに、彼はキラ以上の後悔に襲われているのであった。
「それでも……僕たちところに来たってことは、そう考えていた自分が嫌だったんだよね。」
「当たり前だろ……あの後、目覚めた時……自分が生きていることを恨みさえした。あんな自分になるくらいなら、いっそ死んだほうがマシだったって……」
「それは……ダメだよ。だって……死んじゃったら、僕がこうして、キミとまた……話すことも出来ない……から……」
自虐的となるアスランを窘めるキラ。しかし、その言葉は次第に拙くなり始め、彼は意識が朦朧とした様子で、遂にはその場に倒れ込んでしまうのであった。
「……っ!キラっ!?」
「キラくんっ!?」
アスランとマリューが咄嗟に声を上げ呼びかけるもの、キラが返事をすることはなかった。そして2人は急ぎ、倒れたキラを医務室へと運び込むのであった。
◇
容体が安定したキラをベッドに寝かせ、マリューとアスランは改めて対面する。
「初めまして……というのも、なんだかおかしい気がするわね。」
「そう……ですね。これまで何度も会ってはいましたから。」
素性を知らぬまま、戦場で幾度となくマリューと出会っていたアスラン。一方のマリューは、彼の人物像をキラから聞いているのであった。
「さっきもキラに言いましたが……俺はあなたたちのことを……」
「気にしたらダメよ。それを言ってしまえば、私もどれほどあなたの仲間を、コーディネイターを撃ったか分からないもの。」
年齢差、性別、あるいはナチュラルとコーディネイターという違い。それらの差があったとしても、マリューは同じ軍人としてアスランの心情を理解することが出来ていた。
「でも……どうしてラクスさんと一緒に?」
その一方で、彼のイージスを駆っての前線での働き、あるいは白兵戦においてもマリューとは互角、コーディネイターの中でも最上位といえる軍人が、ザフトを離反した理由を彼女は問いかける。
「ストライクを……キラを撃った俺は、一体自分が何をしているのかと思いました。友を討ち果たした自分が、その後なにをして生きていけばいいのか分からなくなっていたんです。」
友人であったキラを討ち、復讐を遂げたアスランは、生きる意味と同時に戦う意義を失っていた。
なぜ敵を撃ち、軍の命令に従う必要があるのか。そもそも敵とは何か。プラントの総意、あるいはザフトの意思を代表する一人として引き金を引くことに彼は疑問を持ち続けていた。
「ご存じかとは思いますが、俺の父は最高評議会議長パトリック・ザラです。」
「ええ。お母様のこともキラくんから。」
マリューが気になっていたアスランの親子関係。ラクスの父であるシーゲルの後任とはいえ、長年に渉り軍事部門を統括していたアスランと彼の父の関係が、今回の離反とどのように影響していたのかを彼自身が語り始める。
「ストライクを討った俺にザフトは……父は俺に勲章と栄誉を与えたんです。キラを討った俺に勲章と栄誉を……!」
「………」
同じ軍人でありながら、マリューとアスランは真逆の待遇を受け、そして同じ答えに辿り着こうとしていた。
「俺が戦っていたのは、こんなもののためじゃない。俺が憎んでいたのは戦争だったのに、父が憎んでいたのは敵という名のナチュラルだったと分かってしまった。」
「それで……お父さん、ザラ議長の元から離反を?」
改めて問いかけたマリューに対し、アスランは小さく頷き肯定する。キラを手に掛けた後悔と相反する形で得た名声。それが実の父からもたらされたことに、彼は怒りを越えて虚しさに襲われていたのであった。
「軍の命令に従い敵を討つ。友を討って英雄と呼ばれ、より多くの敵を討てと求められる。ラクスを捕らえろと命令された時、俺はザフトから抜ける決心を固めることが出来ました。」
エターナルの追撃指令を受けた彼は自身の新たな機体、ジャスティスを受領し、他の追撃部隊ともにエターナルに接触。そして、全ての僚機を撃破してエターナルと共にフリーダムのもとへと向かうこととなった。
「俺はずっと、キラがザフトに投降すれば済む話だと思っていました。でも、それでキラが救われるわけでもなく、俺自身が何も変えられないのだと分かったんです。」
「突然の離反に、不意打ち、核搭載モビルスーツの持ち逃げ。軍人としては、到底有り得ない行動かしらね」
「………」
神妙な面持ちでアスランの所業を語るマリューに彼は沈黙する。しかし、彼女はすぐに柔らかな笑みを浮かべ、彼に対して改めて口を開く。
「でも、キラくんの言った通りの子で安心したわ。」
「え?キラの?」
「何でも出来て、いつも自分を助けてくれて、仲良くもしてくれて……全部自分で解決しようしていたって。」
「なっ……!」
かつてアスランはキラのことを気にかけており、彼の多くのことを知っていた。一方のキラもまた、常に彼に助けられながらも、友人としてアスランを見続けており、それをマリューに語っているのであった。
「キラくんを戦わせていたのはアークエンジェルの艦長である全て私の命令よ。彼がイージスと戦うことも、あなたが乗っていると知りながらも戦わせていた。」
「ラミアス艦長……あなたは……」
軍人として敵を討つことに躊躇いは持っていなかった。しかし、キラを戦場へと立たせたこと、そして友と戦わせていたことに彼女は後悔し続けていた。
「本当に……ごめんなさい。キラくんにもあなたにも……私はずっと、苦しむことを強いていたのだから。」
マリューの人間として苦悩を垣間見たアスラン。彼はまだ彼女について多くを知らずにいた。しかし、彼女のキラに対する想いだけは十分に理解することが出来た。
「キラと一緒にいてくれたのが、あなたでよかった。こいつのことを大切に思ってくれている……そういう人がいて、本当によかった。」
「アスランくん……!私はそんな……感謝をされるような人間じゃ……!」
悩める軍人としてだけではなく、キラを大切に思う者として、マリューとアスランは過去のわだかまりを払拭していく。そしてマリューは、キラの親友である彼に対してお願いをする。
「目が覚めたら、もう一度よく話し合ってもらえるかしら。」
「もちろん、そのつもりです。でも、今のキラにはラミアス艦長が傍にいたほうがいいような気も……」
「え、私が……」
アスランの言葉にマリューは目を丸くして問い返す。それに対して彼は何食わぬ顔で言葉を続ける。
「いえ……その、キラとはずいぶんと仲が良いというか、かなり特別な関係を築いているようですから、俺の方が邪魔かな……と思ったんで。」
「なぁっ……!ち、違うわ!全然そういう関係ではないから!き、キラくんはただ……私の……その……私の……あうぅ……!」
頬を赤く染め、言葉を詰まらせるマリュー。既に一線を越えていたキラとの関係をアスランに指摘され、彼女はひたすらに狼狽えるのであった。
「別に何かを言いたいというわけじゃありません。むしろ、キラとそういう関係になるのもラミアス艦長でよかったと思ってますから。」
「でも、そういうあなたもラクスさんとは婚約者同士と聞いたけど、それ以外にも……」
「えっ……?ああ、いや……ラクスとは親同士の縁があっただけで、別にそれ以上のことは……」
マリューの言葉に今度はアスランが言葉を詰まらせる。そうした最中に、医務室には2人の少女が流れ込むように入ってくる。
「キラっ!アスランっ!」
「アスラン、キラも無事ですか?」
「なぁっ……カガリ、ラクスも……!」
ウズミの義理の娘であり、キラとは双子であったカガリ、そしてアスランの婚約者であるラクスが現れる。
「キラは大丈夫だ。ラミアス艦長が見てくれているよ。」
「そ、そうか……艦長がいるなら安心……か。」
「ラミアス艦長、キラをお願いしますね。」
「え、ええ……」
マリューに全幅の信頼を置いた2人の少女。そして彼女たちは、マリューと話をしていたアスランへと顔を向ける。
「カガリさんからお話は伺いました。遭難をした際、共に一夜を過ごしたと。」
「はぁっ……!?」
「お前……ラクスと結婚する予定だったらしいな。それなのに、お前は私を……!」
「ち、ちがっ……俺はカガリとはまだ何も……!」
「まだ、何も?」
底冷えするような声音でアスランの言動を反復するラクス。それと同時にカガリもまた、彼に向けて抗議の眼差しを向けていた。
「アスラン、少しお話があります。よろしいですね。」
「ラミアス艦長、騒いでしまって申し訳ない。キラのことはよろしく頼む。」
「それでは、失礼します。さぁアスラン、こちらへ。」
こうして2人の少女に連行されていくアスラン。マリューはただ一人、ベッドで横となるキラの傍で呆然としているのであった。
「あの子たち……大丈夫かしら?」
マリューとキラの心情を理解することには長けていたアスラン。しかし自らに対する好意を察することを疎かにしていたのであろうと、マリューは感じるのであった。