最終的にピンク色な感じとなりますが、本作は全年齢作品のため寸止めというところで完結となります。
ゲストキャラは無印SEEDには登場しませんので、あえて名前は伏せてあります。キラマリュ作品における、おまけ要素だと思っていただければ幸いです。
本編は以上となります。残すはあとがきのみとなります。それでは、ここまで本作にお付き合いしていただきありがとうございました。
月日が流れ、マリューはキラ共に海沿いの小さな家で過ごす日々を送っていた。
「私たちを……プラントに?」
椅子に座りアスランからの連絡に目を通すキラ。彼に飲み物を渡しつつ、マリューは向かいの椅子へと座り話を聞く。
「はい。ラクスの声にそっくりな歌手の子がデビューするらしいんです。そのデビューの場にアスランや僕とマリューさんにも立ち会ってほしいとか。」
「ラクスさんに似た声って……一体どれくらいに……」
メッセージと共に添付された映像を端末で確認するキラとマリュー。そこにはラクスと同じ歌声を響かせる、一人の女性がステージに立っているのであった。
「思って以上に似ている……というよりは、本人といってもいいくらいね。」
「ええ。声だけを聴いていれば、ラクスだと間違えるくらいにはそっくりです。」
しかし、映像を確認した2人がその女性をラクスと間違えることはなかった。髪は黒く、顔つきが冴えているとは言えず、衣装の上からでもラクス自身より豊満といえる身体をラクスと間違えることはないのであった。
「歌姫……という雰囲気ではないわね。」
「はい。それでも、身体はマリューさんにも負けないくらい……」
「ん?何かしら?」
「いや、なんでもない……です。」
言い掛けた言葉を取り下げるキラ。その言葉を放った先に何が待ち受けるかを、彼は恐れているのであった。
「プラントの人々は、みんなラクスさんの歌声を求めているのかしら。」
「そう……かもしれません。それでも、彼女はプラントへと戻らずに……」
「ラクスさんのファンは、きっと悲しんでいるのでしょうね。」
「ラクスの……ファン。」
「キラくん?」
マリューが不意に放った『ラクスのファン』という言葉に、キラはかつての記憶を瞬く間に蘇らせるのであった。
◇
ドミニオンと地球軍艦隊の救援に向かい、ザフト軍の新型モビルスーツと対峙していたキラ。眼前の機体、プロヴィデンスは両腕を切断され、その戦闘能力のほぼ全てを奪われていた。
「もうやめろ!これ以上の戦いは……!」
そうキラがコックピット内で叫んだ直後、プロヴィデンスからキラに向けて通信が入る。
「えっ……!この機体から……?」
キラは驚きを隠すことが出来ず、その通信に集中してしまう。
『ふっ……ふふふっ……!キミたちのような者がいても、いずれ世界は……』
「っ……!あなたは……一体……!?」
年齢は定かではないものの、コックピット内に響いた男の声。その声の主は、フリーダムに搭乗しているのがキラであると分かったかのように言葉を発していた。
「くぅっ……!しまった……!?」
その僅かな隙を見せたキラに対し、プロヴィデンスは残されていた脚部でフリーダムを蹴り飛ばす。そして、体勢を崩した機体の周辺へドラグーンが飛来する。それを確認したキラは、自らの油断を悔いる。しかし
「えっ?」
1基のドラグーンが放ったビームはフリーダムではなく、その本体であるプロヴィデンスの胴体へと着弾する。プロヴィデンスのパイロットは、自らの機体を自身で撃ち抜いているのであった。
「どうして……こんな……!」
『手にした自由を抱きながら……世界の憎しみに抗うといい。』
「自由と、世界の憎しみ……?」
抽象的な言葉を前に、キラは困惑していた。しかし彼にはその男の意志を感じる取ることは出来た。
『キミが思うほどに世界は甘くないのだよ……キラ・ヤマトくん……!』
「……っ!?」
自らの名前を呼ばれたキラは驚嘆する。眼前の機体に乗る男は、自らの多くを知っている。それを理解したキラは堪らず声を上げる。
「待ってください、あなたは僕の……!」
『ふふふっ……!だが、そんな甘さも抱いて戦うのも、悪くないだろうな……』
しかし、キラがフリーダムを近寄らせる前にプロヴィデンスは爆炎へと包まれる。核動力を搭載していた機体の爆破威力は凄まじく、フリーダムは爆風によって吹き飛ばされてしまう。
「ぐぅぅぅっ……!」
各部位に損傷を受けながらも、敵機の撃破を果たしたフリーダム。しかし、キラの胸に残ったのはプロヴィデンスのパイロットが放った言葉の数々であった。
「どうして、あなたは僕のことを……。僕が本当に欲しいものは、自由でも世界でもないのに……」
男が何者であるか定かではなかった。しかし、キラは彼が自らの理解者であったのではないかと考える。だが、その疑問に答える者は既にいないのであった。
◇
「キラくん、大丈夫?」
「えっ……あっ、はい。少し、考え事をしてて……」
「やっぱり、宇宙へ上がることには抵抗があるのかしら?」
「……そう、ですね。あのコロニーには、もう一度行かないといけないですから。」
コロニー・メンデルで目にした自らの故郷、そして出生の秘密。キラはそれと向き合う覚悟が出来るまで、宇宙へと向かうことに迷いを持ち続けていた。
「もう、一人で悩んだりしたらダメよ?それじゃあ、私が傍にいる意味がなくなっちゃうんだから。」
「すみません……どうしても、空のことを考えると思い出すことが多くなって。」
自らが生まれるまでに犠牲となった『兄弟』たちの魂が漂っているであろう漆黒の世界に、彼は恐れを抱いているのであった。
「僕一人で世界を変えるとか、守ることなんて出来ないんです。僕はただの結果ですから。」
「キラくん……」
遺伝子上、コーディネイターという存在の頂点となったキラ・ヤマトという存在。しかし、彼自身は自らを至高至上の存在などと思うことなく、一人の人間として生を望んでいるのであった。
「それでも、世界を変えようと足掻かなくちゃいけない。憎しみが残り続ける世界で、僕は戦い続けないと……!」
キラが見つめる先に広がる、窓から覗く青い空。どこまでも大地を果てしなく繋げ、地球と宇宙の境界を曖昧にする終わりなく世界に向け、彼は一人の人間として対峙しようとしていた。
「僕じゃなくて、僕たち……でしょ。あなたはもう、一人で戦う必要なんてないのだから。」
キラが背負うものを理解しつつ、彼を背後から包み込むように抱き締めるマリュー。そんな自らの身体と触れ合う彼女の手を、キラは優しく握るのであった。
◇
「本当にいいんですか?会社の仕事ってずっとやってないといけないんじゃ……」
マリューとキラ、そしてアークエンジェルのクルーの多くは、オーブ国内へと移住、就業をしており、中でも主だった人員は、国内最大の企業モルゲンレーテへの斡旋を受けて就職していた。
「平気よ。私たちが入った技術部門は、毎日のように仕事があるわけじゃないし。何か問題が起きたりしたら、社のほうから呼ばれるのが普通よ。」
キラは改良中のOSの確認を、マリューはフェイズシフト装甲の実験を視察するため、モルゲンレーテへと出向いていた。そして業務を手早く終えた2人は、帰宅する前に街中を散策しているのであった。
「特にあなたは、学生生活のほとんどを戦いに使ってしまったのだから、少しは自由を謳歌してもいいじゃないかしら。」
「自由……ですか。」
自らが意図せずに得た『自由』という概念。しかしキラ自身は、その自由という言葉に囚われてもいた。
「本当にいいんでしょうか。僕だけが……こんなことをしているなんて。」
「あなただけっていうのは、プラントに戻ったアスランくんや、行政府でウズミさんの手伝いをしているカガリさんたちと比べてってこと?」
マリューの問いに小さく頷くキラ。ヘリオポリスで共に過ごしていた学友たちとは離れ離れとなったものの、キラの傍にはマリューが寄り添い、不安定な情勢が続く世界から縁遠い場所にいることに不安を抱いていた。
「もう……私が一緒にいるだけじゃ不満かしら。私より、友達やお姉さんと一緒のほうがいいの?」
「い、いやっ……そういうわけじゃないですから!僕はマリューさんと一緒にいるのが、その……」
自身の居場所に悩むキラに、マリューは不満を露わとする。意地悪な問いに狼狽える彼を見て、マリューは笑みを零していた。
「何もする必要はない、とは言えないわ。ただ、いずれ世界にはあなたの力が必要になる時が来るかもしれない。でも私は、そんな時が来ないことをずっと願っている。」
「マリュー……さん。」
キラの力が必要とされる時。それはおそらく戦う力、キラの戦士としての力が求められる時であるとマリューは考えていた。彼女の中には少なからず、その日が来ることへの恐れが残っているのであった。
「それじゃあ、もし僕が間違った方向に進もうとした時は、マリューさんが止めてくれますか?」
「私が……キラくんを?」
「僕だって、ずっとマリューさんには傍にいてほしい。でも、ただ一緒にいるだけじゃなくて、僕のことをその……もっと……ええっと……」
言葉で表すことが出来なくとも、伝えることが出来る想い。些か頬を赤くしながら口ごもるキラの気持ちをマリューは理解して笑みを浮かべる。
「そうね……ただ一緒にいるというだけじゃ、何も得られないものね。」
そうしてキラと向き合うマリュー。彼女はその時、以前感じた下腹部への疼きを感じる。しかしそれは、かつてのように全身に熱を感じるような感覚ではなく、想い人が傍にいることで感じる温もりなのであった。
「ねぇキラくん、私ね……」
「どうしたんですか?」
街中であるにも関わらず、マリューはキラに対して異性を感じてしまう。雑踏でひしめく最中に、彼女は自身の腹部に手を当てながら感情を吐露しようとしていた。
「あぁっ!?マユのケータイ!」
しかし、マリューが口を開こうとした矢先、人混みの中から少女の声が聞こえたかと思うと、キラとマリューの足元にピンク色の携帯電話が転がってくる。
「この携帯電話……」
「なんだか今、女の子の声がしてたわよね?」
キラがその電話を拾い、マリューと共に見つめる。そうした中、一人の少年が愚痴を呟きながら2人の下へと近寄ってくる。
「もう……マユのやつ、あんなにはしゃいだりするから……」
明らかに探し物をしていると分かる少年。彼に向けてキラは声を上げながら、手も上げつつピンク色の携帯電話を振りかざす。
「ねぇ、キミっ!」
「んっ……?あっ!?」
手を振り上げるキラを見て、少年はすぐに駆け寄ってくる。そしてキラは彼に拾った携帯電話を差し出すのであった。
「ありがとうございますっ!妹がはしゃいでいたら、落としちゃって……」
「うん……僕たちのほうにも声が聞こえたと思ったら、すぐに足元に転がってきたから……」
携帯電話を受け取りながら頭を下げ、キラに対して礼をする少年。そんな彼の顔を、キラは些か不思議そうに見つめるのであった。
「あの……なにか?」
赤い瞳が美しく際立つ、あどけなさが残る少年。その特徴を見たキラは、少年が自らと同じ存在であると理解することが出来た。
「いや、なんでもないよ。それより、妹さんが心配しているんじゃないかな。」
「あっ……!」
キラが少年をはぐらかしていると、彼を追うように少年の妹らしき少女が歩み寄ってくる。
「お兄ちゃん……マユのケータイは……」
「大丈夫だ。この人たちが拾っててくれた。ほら、お前もちゃんとお礼をするんだ。」
「はぁぁぁ……よかったぁ……!あっ、本当にありがとうございました!」
安堵しながら兄から携帯を受け取る妹。少年と同様に、キラとマリューに礼を述べた彼女は、2人を見ながら問いかけてくる。
「えーっと……お兄さんとお姉さんは姉弟?それともカップル?」
「えっ……!?」
「なぁっ……!?」
少女の無垢な問いに対し、キラとマリューは堪らず驚きの声を漏らす。それを見た少女の兄は、好奇心が旺盛過ぎた妹を叱りつける。
「こらマユっ!そんなことを聞くんじゃないっ!すいません…ヘンなことを聞いてしまって。」
「えっ……いや、その……」
頭を下げて謝る少年に対し、言葉を詰まらせるマリュー。そして彼はもう一度謝礼を述べながら、妹の手を引いてその場を後にするのであった。
「本当にすいませんでした。ほら、行くぞマユ。母さんと父さんも待っているんだから。」
「やーん!私は恋人同士だと思ったのにぃ。」
雑踏の中においても、とりわけ騒がしい兄妹が立ち去り。キラとマリューは再び2人となる。喧騒が過ぎ去った2人の間には、些か気まずい空気が流れているのであった。
「きょ、姉弟と……間違われちゃったわね。」
「え、ええ……そ、そうです……ね。」
少女が推定した一方の関係を否定する2人。しかし、もう一方の彼女が推定した関係については、互いに言及を避けようとしていた。
「あ、あの……マリューさん……!」
「えっ……ええっ!あ、なんでもないわよ!別になんでも……!」
既に一度、身体の関係を持ってしまっていたキラとマリュー。しかしそれは、あくまでも互いを慰め合うだけの行為であり、それ以降2人は繋がりを求めようとしていなかった。
「僕……その、マリューさんと……」
「うぅぅっ……!」
人前で口にすることが憚れるような思いを打ち明けようとするキラ。しかしマリューは彼の求めを察して、年上の女らしくキラをエスコートする。
「きょ、今日はもう……帰りましょうか。」
改めてキラを導こうとするマリューの声は上擦っていた。彼女は小さく頷いた彼の手を握り締め、思いを確かめ合うため家路につく。マリューが握ったキラの手は、彼女以上に熱を帯びており、2人が互いに激しく求めていることを感じているのであった。