本来はラクスが現れてキラを慰めますが、マリューさんが憤慨したまま号泣するキラを落ち着かせるという感じです。こんなにブリッジを離れていて大丈夫なのだろうか。
キラとマリューの関係にスポットを当てていますので、それ以外の人物に関してはかなり端折っている感じです。これは二次創作だから許されるというか、二次創作ならやるべきことだと思うものです。
事態は最悪な状況へと陥っていた。アークエンジェルと合流を試みた第8艦隊の先遣部隊は、ザフトの攻撃を受けて全滅した。
アークエンジェルもまた窮地に立たされたものの。艦内で保護していたラクス・クラインの存在をザフト側へ伝え、人質同然の扱いをして追撃から逃れたのであった。
手段を選ばずに生き延びたマリューたち。その過程に彼女の意思は介在していなかったものの、前線でザフト軍と交戦していたキラは憤慨した様子で帰還を果たす。
「ラミアス艦長、言いましたよね。子供を……ラクスさんを戦争になんか巻き込みたくはないって。」
「………」
艦内の通路で顔を合わせてしまったキラとマリュー。彼はすぐに彼女を糾弾し始める。
「どういうつもりですか?僕が戦っていた間に、あんなことをして……!」
「あの状況では、ザフトに向けてそう伝える以外に助かる方法がなかったわ。アークエンジェルが沈めば、ラクスさんの命もないと……」
「だからマリューさんも彼女を人質にしていいと……そう思ったんですか!?女の子を盾にして戦争に勝ちたいんですか!?」
激したキラは矢継ぎ早にマリューを問い詰める。明らかに冷静さを欠いていた彼の言葉を彼女は黙って聞き容れていく。
「僕だって命懸けで戦っているんだ……!本気で戦って……それでも守ることが出来なくて……!」
「キラくん……」
声を荒げるキラの目に浮かぶ涙。その姿を目の当たりにしたマリューは声を掛けずにはいられなかった。
「キラくん……大丈夫?」
「大丈夫なわけないでしょ!?僕が……僕が守れなかったから……フレイが悲しんで……アスランにも……!うぅっ……うっ、うぅっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
渦巻く感情が声となり漏れ出し、涙となって流れ出す。マリューは彼を落ち着かせるため、共に休憩所のある場所へと向かうのであった。
◇
「フレイさんが、そんなことを?いくらお父様を助けることが出来なかったからって、そんな……」
若干の落ち着きを取り戻したキラは、マリューに対して話を切り出す。彼の話を聞き、彼女は憤りを覚えるものの、冷静にキラの言葉を聞き続ける。
「でも、僕自身が『違う』なんて言えないんです。フレイの言ったことも正しかったから。戦場にアスランがいたから、僕は迷って……彼女のお父さんが乗った艦が沈むのを……!」
コーディネイターであるから、同じコーディネイターとは本気で戦っていない。そう言われたことに対し、キラは否定をすることが出来なかった。理由に差異はあっても、彼は相手の命を奪う戦いを拒み続けているのであった。
「僕がアスランと本気で戦って……殺し合うなんて……!でも、アスランも僕のことを……!」
敵対してしまった親友から浴びせられた『卑怯者』という誹り。ラクスを人質としたアークエンジェルの行為に憤慨したキラの友人は、彼に対して怒りをぶつけるしかなかった。
「だからあなたも、私に向かってあんなこと言うしかなかったのね。」
「分かってます。ラミアス艦長がそんなことをする人じゃないって……そういうことに怒ってくれる人だって……でも、僕は……!」
そしてキラもまた、やり場のない怒りをマリューへと向けるしかなかった。そしてそれは同時に、彼にとって彼女が感情を露わに出来るほどの相手であることを意味していた。
腰を掛けたまま蹲り、再び嗚咽を漏らし始めるキラ。そんな彼の背中を擦りながら、マリューは口を開く。
「あなたは守ってくれているわ。私たちを、この艦のことを。私のような不甲斐ない艦長でも、アークエンジェルが沈まないでいるのはキラくん、あなたのおかげなんだから。」
「うぅっ……ぐすっ……!」
何も守れてないわけではない、そうキラに語り掛けるマリュー。自らを否定しようとする彼に対し、彼女はキラを肯定する言葉で慰めるのであった。
「フレイさんのお父さんを守れなかったのは、あなただけのせいじゃないわ。私たちにも力が無かったから、彼女を悲しませることになった。一人で背負うことなんてないんだから。」
マリューもまた、キラと同じく自らの無力感に怒りを感じていた。一人の少女を盾として生き延びるしかなかった己の無力さに、彼女は軍人としてキラ以上に打ちひしがれていた。
「今もう休みなさい。そうすれば、もっと落ち着くから……ね?」
幼子をあやすように頭を撫で、背中を擦ってキラに寄り添おうとするマリュー。彼を傷つけた罪悪感を抱えたまま、彼女は年上としての振る舞いを続けるのであった。
◇
しかし、それでも事態が好転することはなかった。キラはストライクを使い、ラクスを無断でザフトへと引き渡してしまう。
好機と見てアークエンジェルへと襲い掛かるザフト軍。しかし、ラクスの取り計らいにより追撃は中断され、艦は再び窮地を脱すことが出来た。
「被告、キラ・ヤマトを銃殺刑とします。」
「っ……!?」
軍法に照らし合わせれば、帰還したキラを処刑するのは当然の判断であった。しかし、現在は軍属とはいえ、本来は民間人である彼を軍法で裁く必要はなく、マリューの下した裁定は形式上のものに留まる。
「もっとも、いまキラくんを失ってしまえば、今度こそのこの艦は沈むことになるでしょうからね。」
「自分で自分の艦を撃つ真似をするバカがどこにいるって話だからねぇ。」
キラに顔を向けながら、マリューとパイロットのムゥ・ラ・フラガ大尉は軽口を叩きながら、唖然とする彼に声を掛ける。その一方で
「今回は見逃される形になりましたが、今後はこのように都合の良い状況が来るとは考えられません。本部に戻り次第、ラミアス艦長の判断についてを……」
「そんなこと言ったって、少尉だって坊主を処刑するつもりなんてなかったんでしょ?」
「そ、そういうことを言っているのでは……!」
艦内で最も軍人らしい女性士官、ナタル・バジルール少尉はムゥの軽口に些か狼狽える様子を見せる。そしてまた、彼女がラクスを人質として扱いザフトの足止めをした張本人でもあった。
「ナタル、あなたの判断を責めるつもりはないわ。私が出来なかった判断を、あなたがしてくれた。結果的にそれで助かったのだから、それでいいじゃない。」
「艦長は……甘すぎるのです。」
職業軍人の血筋なためか、正規クルーの中でも堅物という言葉が相応しいナタル。そして彼女もまた、キラに顔と身体を向けて口を開く。
「本当にすまなかった。私の判断で君が誹りを受けたことに関しては、申し訳なく思っている。」
「いえ……僕はもう、大丈夫です……から。」
マリューはもちろんのこと、ムゥや他の正規クルーに対してよりも、キラはナタルに対して苦手意識を持っていた。しかし、彼女の厳格さを目の当たりにして、マリューたちが異質であることは薄々理解することが出来た。
◇
艦内の簡易的な軍法会議は閉廷。ナタルとムゥが退出し、キラとマリューは2人きりとなる。
「どうして、戻ってきてくれたのかしら?」
「どうしてだなんて……そんなの……」
キラがラクスを連れてストライクで出撃したと判明した時、マリューは死を覚悟していた。貴重な戦力と人質を同時に失う以上、アークエンジェルにはザフトへの投降か轟沈の選択しか残されていなかった。
「お友達がいたから、ラクスさんを連れて行ったのよね。そうじゃなきゃ、あんな無茶はしないでしょうし。」
「………」
マリューはキラの胸の内を理解していた。だからこそ、こうして彼が帰ってきたことに安堵ともに違和感を抱えていた。
「放っておけるわけないじゃないですか。この艦には友達がいて、ヘリオポリスから逃げた人もいて、ラミアス艦長のことだって……」
言葉を続けながら、問いかけてきたマリューを見て沈黙するキラ。彼女は彼が何を言いたいのかも分かっていた。
「わかりませんよ、そんなこと。でも、この艦にはまだ……僕の大切な人たちがいるから。」
キラが口にした『大切な人たち』という言葉。その中には彼の友人だけでなく、知らずのうちにマリューも入っているのであった。
「キラくん、本当にありがとう。私たちのために戻ってきてくれて、本当に……」
「………」
決して軍人の顔とはいえない表情で、キラに感謝を伝えるマリュー。彼女にとっても彼は、生き延びるための戦力として以上の存在となっていることを、まだ彼女自身も気付こうとはしていなかった。