一応はフレイが志願したことで学友たちが残る展開ですが、本作のキラはそこまでフレイと泥沼な関係とはなりません。お父さんを失くした可愛そうな女の子というポジションに留まります。
次回からは地上編。とはいってもキラマリュが題材ですので、大幅にカットをしていきます。大規模な戦闘描写は、アラスカに到達するまで書いていないんですよね……(MSが不得手な物書き)。
キラの奮戦とマリューたちの活躍により、アークエンジェルは第8艦隊の本隊と合流することに成功する。
軍属となっていたキラと彼の友人たちもまた、任務を終えたことで除隊申請の許可が下りることとなった。しかし
「えっ!?フレイが軍に……!?」
「ああ。そういうわけだからさ、俺たちも彼女を放っておけなくて残ることにしたんだ。」
「まぁそうはいっても、あとは地球に降りてアラスカ入りするだけだろうからな。」
キラの想い人であった少女、フレイ・アルスターが軍に志願したことで、彼の友人たちは残ることを決意していた。
「大丈夫だって、ストライクが出る機会なんてもうないだろうし。」
「キラは先にオーブに戻って。すぐには無理かもしれないけど、私たちもいずれ帰ること出来ると思うから。」
戦場で最も命を張っていたキラを労う友人たち。だが、キラもまた自らに心残りがあることを振りきれずにいるのであった。
◇
「本当に、いいんでしょうか?」
「なぁに?まだ迷っているの?」
ドックで鎮座するストライクの前に立つマリュー、機体の整備を終えたキラ。2人は互いに出会った時の頃から、共に戦い抜いたことを振り返す。
「あなたはこれまで十分に戦ってくれたわ。戦い抜いて、私たちを守ってくれた。もうこれ以上、戦う必要なんてないわ。」
キラを戦いから解放しようとするマリューの本心。だがそう言う彼女に対し、キラは不安を拭い去ることが出来ずにいた。
「アークエンジェルは、すぐにアラスカへ降りるんですか?」
「ええ。準備が出来次第すぐに降下をするわ。それで私たちの任務も一旦は終了ね。」
「でも、その前にザフト軍が来てしまえば……」
執拗に追撃してきたザフトの部隊を退けたキラであったが、彼らがアークエンジェルを諦めているとは考えていなかった。
想いを寄せていた少女と友人たち。そして、共に死線をくぐり抜けてきたマリュー。彼ら、そして彼女の身を案じながらキラは戦場から離れようとしていた。
「私たちのことは心配しないで。彼らも第8艦隊全てを相手することはないでしょうし。」
「でも……」
「戦場に出れば、あなたはまた友達と戦うことになる。そしてまた、苦しむことになる。私はもう……キラくんにはそうなってほしくないわ。」
「マリューさん……」
自らの命よりも、キラを気に掛ける言葉を口に出すマリュー。その姿にキラは思わず、彼女を名前で呼んでいるのであった。
「キラくん、今まで本当にありがとう。後のことはもう、全部私たちに任せてちょうだい。」
艦を任された身として、彼女は改めてキラに礼を述べて深々と頭を下げる。それは一人の少年を戦いへと巻き込んだ軍人が示すことの出来る、唯一にして最大限の誠意であった。
「マリューさん……僕は……!」
あくまでも一人の軍人としてキラに別れを告げようとしていたマリュー。しかし、そんな彼女に対して、キラは思わず自分から抱き着いてしまう。
「えっ!?ちょっ、ちょっとキラくんっ……!」
人は多くなかったものの、ストライクの前という些か目立つ場所で大胆な行為へと及んだキラ。一方のマリューは困惑の色を浮かべながらも、彼を拒むことはなかった。
「絶対に……死なないでください。僕が守れなくても……絶対に……!」
「……ありがとう。とても嬉しいわ。キラくんも気を付けてね。」
出来ぬ約束だとしても、キラの気持ちだけは受け取るマリュー。そして彼女は、自らを抱きしめる彼らの身体を優しく包み込むのであった。
◇
「第8艦隊、損耗率60%を突破!」
「敵艦、敵MS、最終防衛ラインに到達。メネラオスと交戦を開始。」
アークエンジェルがアラスカへと降下する直前、ザフト軍クルーゼ隊は最後の攻勢を仕掛けてきていた。
連合から強奪した4機に加え、多数の機体と複数の母艦で構成された部隊を前に、第8艦隊は苦戦どころか甚大な被害を受け続ける。
「このまま降下シークエンスに入ってしまえば、敵機から狙い撃ちにされますっ!」
「分かっているわ。でも本艦が降下を中断して迎撃しようとすれば、それこそ敵の思う壺よ。」
劣勢となり窮地へと陥るアークエンジェル。副官のナタルは降下の中断をマリューに促すが、マリュー自身は難色を示す。
「それにこの状況では、戻ったところで出来ることは……!」
降下準備が整う中、マリューは上官と友軍に背を向け、自分たちだけ生き延びることに躊躇いを感じる。しかし、そう悩んでいる最中に通信が入る
『何をしているのだ。早く降下をするんだ。ザフト艦の一隻や二隻、我々だけで食い止めて見せる。』
「ハルバートン提督……!」
『君たちは連合の……いや、我々の未来に必要な種なのだ。近い将来、その種が実るために私たちは命を惜しみなどしない。』
多くを守るために生き延びろ。それがマリューたちの上官から下された最後の命令であった。
「耐熱ジェル展開。アークエンジェルはこれより、地球への降下シークエンスに移行する。」
後ろめたさを拭いきれずとも、生きるためにマリューは艦を戦闘宙域から離脱させ、大気圏へ向かう。
「敵部隊、防衛線を突破!」
「デュエル、バスター、本艦に接近!」
「艦長!迎撃命令を!」
逃がしはしないという意思を見せ、肉迫してくる敵機。低軌道上であるがために、艦の制御は限られ迎撃は困難な状況であった。
「………」
「艦長っ!」
「えっ……第1デッキカタパルトが……!?」
進退窮まった直後、驚きの声を上げる管制官。そして次の瞬間、ストライクの名を冠する機体は地球と宇宙の狭間に飛び出していく。
「そんな……どうして……!?」
驚きの声を上げるマリュー。しかし、発進したストライクはスラスターを全開にして接近する敵機へと向かう。
『僕が敵を引き離します。アークエンジェルは、そのまま降下を進めてください!』
ブリッジに響くストライクからの通信音声。その声は紛れもなく、艦を降りたはずのキラの声であった。
「キラくん、どうしてまだ……!」
「ラミアス艦長!降下シークエンスの継続を!」
「え、ええ……!総員に告ぐ、本艦はこれより大気圏への突入を開始する。」
ストライクの迎撃により、本来の降下作業へと戻ることが出来たアークエンジェル。艦底部に耐熱ジェルが展開され、艦内の温度は大気圏熱により急激に上昇していく。
「うぅっ……!メビウスとストライクの収容は!?」
マリューは滲み出る汗を拭う間もなく、出撃していた2機の所在を確認する。
「メビウス・ゼロ、フラガ機の着艦を確認しました。」
「ストライクの居場所は!?」
「ダメです!デュエル、バスターとなおも交戦中!キラ、早く戻ってきてっ!」
このまま予定軌道のまま降下を続ければ、ストライクの回収は困難となる。それはマリューを含めた艦内の乗員が理解している事であった。
「ノイマン少尉、艦をストライクに近付けて。」
「なっ……!?しかし、それでは予定の降下軌道から……!」
操舵手に命を下したマリューに、ナタルが驚きの声を上げて意見する。しかし、マリューもまた彼女に対して言い返す。
「本艦とストライクは不可分の存在よ。あの機体を失ってしまえば、この艦の存在意義だってないも同然なのだから。」
任務を遂行する軍人としては一見真っ当ともいえる言葉。しかし、マリューはストライクに乗るキラこそが何よりも失うことの出来ないものであった。
彼女の言葉に、安堵の表情を浮かべるキラの友人たち。一方でナタルは不服そうな顔をしつつも、キラの身を案じるマリューに理解を示し、それ以上何も言うことはないのであった。
「確かに私は……甘いのかもね。そう……艦長失格と言えるくらいには。」
大気圏の熱と降下の衝撃、轟音に晒される艦内で、マリューは一人小さな声で呟いていた。