あと冒頭でシャワーシーンがあります。本編でなかったことによる筆者の思念が文章化しました。
マリューと軍医の会話は終盤への伏線となります。SEED、そして続編の種死までを視聴していると、ナチュラルとコーディネイターの差異が曖昧になってくるんですよね。特にマリューさんが白兵戦の化け物スペックですから。
次回は一気にオーブへと舞台を移します。砂漠の虎、モラシム?そんな人たちもいた気がしますね……
大気圏を突破し、地球へと降下したアークエンジェル。しかし、迎撃に出たストライクを回収するために予定降下軌道からは大幅に逸れてしまい、艦はザフト勢力圏内の砂漠地帯へと着艦してしまった。
「………」
船室に備え付けられたシャワー室で汗を流すマリュー。降下時の熱量に晒され、クルーたちは交代をしながら休息を取っていた。
「命令違反……じゃないわよね。」
温水に打たれながら、自らの肉感に溢れた身体を抱いて思い詰める彼女。所属していた第8艦隊は全滅し、部隊で残っていたのは地球に降下をしたアークエンジェルだけであった。
「あの子のためなんかじゃない。これは私の……軍人としての……!」
自らの胸に手を当て、一人の少年に抱き締められた時のことをマリューは思い起こす。彼女は彼に情が芽生えたことで、艦長として間違った判断をしたのではないかと煩悶を繰り返す。
「ストライクとキラくんは……この艦に欠かせないもの。あの子が私たちを守ってくれたから、私もあの子を……」
ストライクのパイロットであるため、貴重な戦力であるため、彼女は彼を選んだのだと自らに言い聞かせる。そして、軍人として非情になることが出来ない自らを雪ぐように、一糸纏わぬ身体を清めようとしていた。
◇
アークエンジェルと共に地球へと降下したストライク。機体と共にパイロットであるキラも収容出来たものの、彼は艦内の乗員たち以上に体調を崩していた。
「うぅぅっ……あっ、あぁぁっ……!」
ベッドの横たわり、うなされ続けるキラ。医師や彼の友人たちが看病しても、その容体は中々快方へ向かうとはしなかった。
「これでも熱は下がったほうです。整備班が機体のコックピットを開いた時は、蒸し風呂を遥かに上回る温度だったようですから。」
医師からの報告をベッドの傍で聞くマリュー。艦橋で指揮を執っていた彼女にとって、その摩擦熱がいかに凄まじい物かは身を以て理解していた。
「おそらく、我々では気を失っているか、あるいは命を落としていたでしょう。彼がコーディネイターであるからこそ、これで済んだというものです。」
「私たちのため……こんなになるまで……」
熱にうなされる彼を前に、感謝よりも先に罪悪感に囚われる。しかし、彼が出撃して敵機の迎撃をしていなければ、自分たちの命もなかったと思い、情けなさを感じる。
「本当に……ごめんなさい。」
なぜ艦を降りなかったのか。目覚めないキラに対し、そう問うことも出来なかった。マリューはただ、苦しむ彼に対し、やはり一人の人間として謝ることしか出来ないのであった。
「それから艦長、もう少しよろしいでしょうか?」
「まだ、何か?」
マリュー共にキラを見ていた医師は小さく頷く。そして、艦の責任者であるマリューに対してのみ伝えるよう、静かに口を開き始める。
「彼の治療をする上で、勝手なことを承知なうえで少し検査をさせていただきました。」
「検査?」
「身体検査や、汗や血液、毛髪といった検体の採取です。申し訳ありません、些か勝手だとは思ったのですが……」
「いえ、それくらいのことなら別に……それで、キラくんに何か?」
遺伝子改良を行っていない人間、ナチュラルが大半を占める連合にとって、遺伝子改良を加えられたコーディネイターの存在は貴重な存在であった。
マリューは治療の一環として行った医師の行為を咎めることなく、彼女はさらに医師へと問う。
「彼は、明らかに普通ではありません。」
「それは……コーディネイターなのだから私たちと違うのは普通で……」
「いえ、コーディネイターとしても普通ではないんです。」
マリューの言葉を遮るように放った医師の言葉に、彼女は思わず閉口する。
「軍医という職業柄、コーディネイター検体はそれなり見ています。体細胞、血液、毛髪……研究対象として得られたデータは大体覚えています。」
医師の言葉を深く詮索しないまま、マリューはさらに彼が放つ次の言葉に耳を傾けながら問いかける。
「キラくんが、普通のコーディネイターではないということ?」
「これほど完璧な遺伝子情報を持った人間など、現在の技術では到底不可能……いえ、母体という不確定要素が存在する限りは未来永劫出来ないはずです。」
「そこまでの……!?」
マリュー自身、コーディネイターと出会ったのはキラが初めてであった。そして、戦闘中に彼がストライクのOSを書き換える姿を目の当たりにし、自分たちと同じナチュラルではないとも察することが出来ていた。
しかし、それ以上に彼を奇異や異端の目で見ることはなかった。彼女と接したキラは年相応の少年であり、優れた才能を持っていることは理解しても一人の子供であると認識していたのであった。
「私としてもこれ以上深く関わるつもりはありません。ですが、彼には我々もザフトにも、多くの人間の理解が及ばない秘密があることだけは確かです。」
「………」
医療に携わる者としての倫理観、あるいは人間としての本能的な恐怖感情から、判明した事実を述べるに留まる医師。
そしてマリューもまた、その事実を知ってもなお、キラを一人の人間として見ようとしていた。
◇
地球へと降下してほぼ丸一日が経過した頃、キラはようやく快方へと向かっていた。
「また、あなたに助けられてしまったわね。」
「放っておけるわけないじゃないですか。友達のことも、マリューさんのことも。」
ベッドの上で体を起こし、傍にいるマリューへそう返すキラ。しかし、体調が回復したはずの彼の顔は曇り続けていた。
「でも、どうして僕のためにこんな……!アークエンジェルがこんなところに降りてしまったのは……」
「それは全て私の判断よ。キラくんが気にする必要はないわ。」
艦が孤立無援となったことにキラの責任はないと言い切るマリュー。しかし、それでもキラは自らを追い込もうとする。
「僕が戻ってこなければ、あの時にストライクで出なければ……僕のことなんか助けようとしなければ……!」
「……っ!?」
誰を守るために自らを犠牲にする。自己の生命を軽視するようなキラの言葉に、マリューは怒りと悲しみに言葉を失う。
「やっぱり僕が守らないと……僕だけしかみんなを守れないから……なのに……!」
軍人ではなく、正規の訓練を受けていなかったキラに背負うものの重さ。それは彼の心身を兵士として作り変えようとしていた。しかし、本来は戦いを好まず拒もうする彼の心は、その責務と剥離していることで精神に支障を来そうとする。
それをマリューが見過ごせるはずもなく、彼女は咄嗟にベッドにいた彼を押し倒してしまう。
「なっ……!?ら、ラミアス艦長……!?」
突然の事に驚き戸惑うキラ。彼とマリューはベッドの上で身体を重ね、密着させたまま寸刻の間無言となる。
「ダメ……絶対にダメよ……!あなたがそんなことを言うのは……絶対に……!」
「で、でも……僕がみんなを守らないと……」
「自分の命と守りたい人の命を、秤に掛ける必要なんてないの。私にとっては、あなたの命もこの艦に乗る人間の命も、みんな同じなのだから……!」
戦場で人命を奪う軍人が、人の命の尊さについて語る滑稽さに苛まれつつも、マリューはキラを抱き締め、そして窘める。
「もうあなたに、戦わないでなんて言わない。でも、これだけは忘れないで。あなたには帰ってくる場所がある。そして私も、キラくんのために戦い続けるから。」
「マリューさん……」
ただ守られるわけではなく、自分たちも戦うことが出来る。キラの孤独感を少しでも取り除こうと、マリューはキラと密かな抱擁を交わし続けるのであった。