キラマリュを題材としていますが、作中の大半はマリュー視点で話が進みます。終盤の戦闘シーンなどでは、キラも活躍をしたりもします。ローエングリンゲーになっている感じが(ry
そして後半は丁寧なフラグ建築となっています。2人の距離が大幅に縮まりますが、次回はオーブ出国後の戦闘回です。お察しくださればと思います。
ストライクとアークエンジェルの不戦により、砂漠での激戦を制し、海上での攻撃を退け、アークエンジェルはザフト勢力圏からアラスカへの航路を進んでいた。
「バリアント1番、沈黙!艦稼働率、70%に低下!」
「バリアント2番も砲身熱量が限界を超えています!」
しかし、艦はついに地上へと降下したクルーゼ隊の分隊、ザラ隊に捕捉され苦戦を強いられていた。
「7時の方向よりブリッツ接近。」
「フラガ少佐のスカイグラスパーは!?」
「ダメです、艦後方でバスターと交戦中!」
多勢に無勢。僚機は敵機に釘付けとなり、アークエンジェルは次第にその艦体の被害を拡げていく。
「ブリッツを取り付かせるな!ストライクに迎撃を……!」
「ストライクもデュエル、イージスへの攻撃で……!」
「撃破など考えなくていい!グゥルを狙って無力化しろと伝えるんだ!」
ストライクの兄弟機である4機のモビルスーツ。コーディネイターが搭乗することで、艦隊を全滅に追い込めるほどの力を有した機体たちに対し、アークエンジェルは善戦していた。
「ん?4時方向に艦隊?これは……オーブ軍!?」
「えっ……!?」
ザラ隊との激戦が続く中、艦はザフト勢力圏でも中立国オーブの領海へと接近していた。
「領海線から離れて!近付けばオーブ艦隊からの砲撃に晒されるわ!」
「しかし……このままでは進路を変更することも……!」
地球連合軍の所属艦であるアークエンジェルが、連合非加盟国であるオーブの領海へ侵入することは、領土侵犯による攻撃を受けることに繋がる。
マリューは眼前のザフト軍を相手としつつも、連合軍の軍人として国際法を尊種する義務と、この危機を脱する双方の事態に苛まれていた。
「ストライクの現在地は!?」
「本艦上空でイージスと交戦していますっ!」
「イージス……キラくん……!」
キラの友人が搭乗している赤いモビルスーツ。他の敵機は割り切って撃破していたものの、キラがイージスを墜とせるのかは疑問であった。
彼が友人と本気で殺し合いをすることは出来ない。マリューはそれを理解して上で、キラを戦場へと送ってはいた。しかし
「後方よりバスター接近っ!」
「っ……!?」
「艦長っ!」
戦場においては余計な思索が命取りとなる。マリューはその基本を忘れ、指示に寸分の遅れを生み出していた。
「バリアント、撃てっ……」
そう命令を下そうとした矢先、艦全体に強い衝撃が走る。艦の背後を取った敵機の砲撃により、アークエンジェルは航行が不可能となる被害を受ける。
「メインエンジン被弾!艦の航行制御不能!」
「くぅっ……!」
制御を失ったアークエンジェルは、速度を落としながらも意図せぬ方向へと降下していく。そして、連合、ザフトの双方の侵入が許されないオーブの領海へと着水したのであった。
◇
マリューたちとオーブ首脳陣が交渉した結果、アークエンジェルはオーブ国内、モルゲンレーテ社の修繕作業を受けることに成功する。
「では、艦の修繕をよろしくお願いします。」
「うむ。そちらもよろしく頼みますぞ。」
交渉の部屋から退席するマリューとナタル。ナタルは独断でオーブと交渉したマリューに苦言を呈す。
「本当によろしいのですか。オーブに対する技術供与など、司令部の耳に入れば……!」
「だったら、あなたはあのボロボロの状態のまま、アラスカへ向かうつもりなのかしら?途中でザフトと戦闘になることも想定してね。」
「くぅっ……!」
軍の機密情報を意図的に漏洩させるという観点で、ナタルの言葉は正論を述べていた。一方でマリューは艦と乗員の命を預かる身として、現実的な妥協点を見ているのであった。
「ま、技術供与とはいっても、アークエンジェルはオーブが作った船だからね。欲しい技術なんてのはどうせ、ストライクに乗っていたキラが持っているものだろう。」
2人と共に歩くムゥが、マリューを擁護するように楽観論を口にする。
「それも問題……いえ、艦よりもストライクのほうが大きな問題です。大体彼は正規の軍人でもなく、本来はストライクに乗ることも許されない民間人なんですよ!」
「そう……ね。言い方は悪いかもしれないけど、キラくんに戦争の道具を作らせることなるのは間違いないわね……」
ナタルの言葉にマリューは妙な納得をしてしまう。キラをより戦争の深い部分に関与させることに、彼女は些かの躊躇いを持つのであった。
「とはいっても、直接自分で誰か撃つわけじゃないんだ。人殺しの機械を作ると考えれば抵抗を感じるかもしれないが、モビルスーツは誰かの命を守るための兵器でもあるんだからな。」
「その辺りは……あの子なら割り切ってくれるでしょうね。それに、オーブという自分の国の為であるなら尚更……」
マリューは確信していた。キラが艦のために自分たちの思惑通りに動くことを。それと同時に、そう考えてしまう自身への嫌悪を漏らす。
「本当に……軍人である自分が嫌になるわ。あの子を利用することで生きようとする自分のことも……」
◇
オーブへと入港したアークエンジェルのクルーは地球へと降下して以来、初めてともいえる安息を手にすることが出来ていた。
オーブ出身で軍属となっていたキラの友人たちは、図らずも実家へと戻ることとなったために両親たちとの面会が許可される。
技術供与のためモルゲンレーテへと出向していたキラにもまた、両親が面会のために行政府へと訪れていた。しかし
「やっぱり、会うつもりはないのかしら。」
「………」
ストライクのコックピット内で整備された機体の調整に勤しむキラ。傍で訪ねてくるマリューの問いにも答えないまま、彼は黙々と作業に従事していた。
「時間は十分にあるのだから、そんなに張り詰めなくていいのよ?」
「いえ……こうしているほうが、落ち着きますから。」
頑なに両親とは会おうとしないキラ。マリューは親を顔を会わせない以上に、彼が軍の作業に従事していることへ不安を抱いていた。
「オーブを離れたら、次はいつ会えるのか分からないのよ。ご両親だって心配しているだろうし、少し顔を見せるくらいでも……」
「……ダメですよ。今は……絶対に会っちゃダメなんです。」
「ダメって……どうしてそこまで……」
自らを戒めるような言葉を返してくるキラ。そして彼は、気心の知れた中であるマリューに対して本音を吐露する。
「いま会えば、絶対に聞いてしまうから。『どうして僕をコーディネイターにしたのか』って。」
「あっ……!」
その一言でマリューはすべてを理解した。自らがコーディネイターであることを理由に苦しみ続けた彼にとって、両親に対する感情は複雑さを極めているのであった。
「ごめんなさい……私、その……キラくんのこと……!」
彼女は半ば忘れていた。彼がコーディネイターであることを。マリューにとってのキラは頼れる戦友、あるいは年下の子供であり、異なる人種であるということを気にすることなどなくなっていた。
「マリューさんはコーディネイターのこと、どう思っているんですか?」
「ど、どうって……?」
「軍人だから敵を撃つのは当然なのは分かっています、それでも……一人の人間としてコーディネイターを、僕たちのことをどう思っているか気になるんです。」
マリューは困惑するしかなかった。地球でもとりわけコーディネイターの少ない大西洋連邦出身の彼女にとって、彼と接触する機会は皆無だったからである。
「ずるい言い方になるかもしれないけど、私たちが戦っているのはコーディネイターという存在ではなく、ザフト軍という組織。人種や理念、主張といったものを深く考えたことはないわ。」
少なくとも彼女にとって、コーディネイターは憎悪や差別の対象ではなかった。確かに自身の部下を殺したのはコーディネイターではあったものの、それはザフトという括りの中にいる者たちの行いであると割り切ることが出来ていた。
「軍に入ったことは後悔していないけど、入る前にもっとあなたたちことをよく知るべきだったとは思っている。考えてみれば、自分が戦うことになる相手のことなんて、全くわからなかったのよね。」
「全然知らなかった……ってことですか?」
「恥ずかしいけど、そうなっちゃうわね。でも、下手に知ってしまえば銃を手に取ることが出来なくなる。キラくん、あなたがそうであるように。」
敵となる相手のことを知るべきではない。しかし、知っていれば違う道を選べたかもしれない。マリューはキラを見て、そう思うのであった。
「私はまだ、あなたの以外のコーディネイターのことをよく知らないわ。でもね……キラくんのことは好きよ。」
「えっ……!?」
「あっ……!その……好きっていうのは、恋人とかそういう関係じゃなくて、嫌いじゃないっていう意味のことだから……!」
驚きを見せるキラに対し、不用意な発言であったことに気付いて釈明するマリュー。だが、そんな様子の彼女に対し、キラは作業の手を止めて言葉を返す。
「僕も……マリューさんのことは好きですよ。僕が同じコーディネイターと、アスランと戦うことになっても、気持ちを分かってくれてましたから。」
「え、ええ……そうね。私に出来たことなんて、そんな大したことじゃないと思うけど……」
互いの内に秘めた思いを露わにして、気まずい空気だけが残る瞬間。マリューは年上として、この空気を変えるべく再び話を切り出す。
「ねぇ、ご両親とは会わなくても、オーブに残りたいとは思わないのかしら。」
「え?残るって……?」
マリューの問いにキラは困惑の表情となり問い返す。彼女は彼に改めて、戦士としての覚悟を問いかけていた。
「ここで艦を降りれば、もうあなたは戦わなくて済むわ。イージスに乗っている彼とも……ね。」
「………」
ほぼ叶うことがない、困難な話であったとしても、マリューの言葉はキラにとって魅力的なものであった。
このまま艦に残り、オーブを離れれば再びザフトとの戦闘になる。そして、それは友人と再び銃を向け合うことを意味していた。
「でも、僕が艦を降りたらマリューさんたちが……」
「そうね。アークエンジェルだけで、彼を退けることは無理だわ。だからいっその事、私もキラくんと一緒に艦を降りちゃうかしら。」
「えぇっ!?」
驚きしかなくなったキラの反応。艦長を務める者とは思えぬ発言に、彼は言葉を失っていた。
「ふふっ……!冗談よ。私一人が、そんな身勝手ことは出来ないもの。」
「はぁ……驚かさないでください。アークエンジェルは、僕が最後まで守りますから。」
キラは呆れながらも、マリューたちを守り抜くと誓う。彼にとって彼女の存在は、友人と同じかそれ以上の存在となっていた。
「ありがとう、キラくん。でもね……私、本当に……」
「マリュー……さん?」
軍人として、あるいは戦場で命を預け合う仲としての信頼を確認した2人。しかし、マリューは一人の人間として、キラに対しての想いを打ち明けようとする。
「この戦争が終わったら、その……キラくんと……」
「………」
叶わぬ願いと分かっていた。それでもマリューは秘めた思いを口に出そうとしてしまう。
「やっぱりやめておくわ。今はとにかく、無事にアラスカへ辿り着くことだけを考えましょう。」
「……はい。」
マリューの心情を察し、キラもまたそれ以上彼女に何も言うことはなかった。2人は互いに特別な感情を抱きつつも、それが越えてはいけない一線なのだと感じているのであった。