原作ではラクスが艦橋で種割れを起こしていましたが、特に何かが強化されるわけでもなかったので、ブチ切れて判断力強化というゼロシステム的なマリュー覚醒となりました。
というか基本、コズミックイラの戦闘ってローエングリンを撃ちまくれば大体勝負はつくし、モビルスーツもそこまで必要が(自主規制)
終盤でキラ復帰します。戦況は変更しても、舞い降りる剣は改変してはいけないと思ったものです。
「ゴットフリート照準!前方モビルスーツ部隊!」
絶え間なく弾幕による対空砲火を展開しつつ、主砲を放ち敵機を撃破するアークエンジェル。迫りくるザフトの部隊は、艦の砲撃により次々と撃ち落されていく。
「まさか……スピットブレイクの目標がアラスカだったなんて……!」
「パナマからの援軍は間に合うんですよね……!?」
「さぁな。下手に増援を送っても、今度はパナマの防備が手薄になるだろうから……」
「そんなっ……!」
ザフト軍が発令した大規模侵攻作戦、オペレーション・スピットブレイク。その攻撃目標は南米パナマ基地であると想定されていたが、ザフトの部隊は突如として攻撃目標をアークエンジェルが駐屯するアラスカへと変更したのであった。
「マスドライバーを抑えるのが目的じゃなかったのかよ。」
「俺ら連合の大将首を獲れば、戦争が終わると思ったんだろ。」
「そんなのシミュレーションゲームでの話だろ!?」
作戦の都合上、連合の主戦力はパナマへと割かれており、アラスカの防衛部隊だけでザフトの攻勢を防ぐことは困難な状況となる。
「無駄口を叩かないで!バリアントの排熱が終わり次第、僚艦への援護を再開して。」
自軍から強奪された4機に比べれば、多数のザフト量産機を相手にすることは容易であった。主砲がジンを吹き飛ばし、誘導兵器と対空砲火がディンを蜂の巣に、側部電磁砲はグーンを海の藻屑へと変えていく。
しかし、それを遥かに上回る数の暴力により、艦は次第に苦戦を強いられようとしていた。
「メインゲートに敵モビルスーツ接近!」
「艦長、僚艦から複数の援護要請が!」
多勢に無勢であることに変わりはなく、僚艦は次々と沈められ、防衛すべき基地の門にはアークエンジェルの砲火を突破した敵機が殺到する。
「うっ……くぅっ……!」
「きゃぁぁぁっ!!!!」
「イーゲルシュテルン3番、沈黙!」
「艦稼働率、80%に低下……!」
被弾を繰り返し、沈黙していく兵装。火器砲塔を満載した最新鋭艦とはいえ、圧倒的な物量の敵を凌ぐことは困難であった。
「2時の方向よりモビルスーツ部隊接近。」
「僚艦オレーグとの通信、途絶しました!」
「9時の方からも敵機が……艦長!」
「敵をこれ以上メインゲートに近付けさせるわけにはいかないわ。接近する敵機の撃破を優先してっ!」
窮地に陥る友軍と、陥落寸前の防衛対象。マリューは致し方なく基地へと向かう敵機の攻撃を指示し、僅かでも敵の侵攻を遅らせるため敵部隊に砲火を集中させる。
「んぅぅっ……!」
「イーゲルシュテルン1番2番に被弾!左舷に弾幕が張れません!」
「イェルマーク通信途絶、ヤロスラフ、轟沈!」
「艦長、このままでは本艦も……!」
沈みゆく僚艦たち、ブリッジに走る衝撃と共に破壊されていく自らが指揮をする艦。軍人としての責務を果たすことなく斃れるという現実が、マリューに突き付けられる。
「敵を一機でも撃たなければ……!」
敵とは何か。眼前に押し寄せるコーディネイターが駆るモビルスーツのことか。あるいは連合に仇なすザフト、あるいはプラントに住み人々のことか。
なぜ敵を撃ち、軍の命令に従う必要があるのか。想い人を化物と誹り、嘲笑い、好まざる存在と排そうとする者たちのために命を捧げる意味とは。
キラを失ったマリューは、生きる意味と同時に戦う意義を失っていた。しかし、自らが死を迎えようとするこの戦場において、彼女は生きる意味を見出そうとする。
「艦稼働率……60%まで低下……!このままでは航行にも影響が……!」
「うわぁぁぁぁっ!!!も、もうイヤだぁぁぁぁっ!!!!」
「落ち着けっ!パナマからの援軍を信じるんだよ!」
艦橋の部下たちが絶望に塗れ、恐慌状態に陥ろうとする中。マリューはただ一人、前方から押し寄せるザフトの大軍を見据える。
そして、彼女の中に芽生えた生存本能。『種』を残すという人としての絶対的な力が下腹部に疼きを与え、全身に熱を伝えながら何かを弾けさせる。
「左30度回頭、ローエングリン1番2番起動。」
「えっ……!」
「まだあれは使えるでしょう。早くしなさい。」
「は、はっ!」
その『何か』が弾けた後、マリューは普段よりも遥かに冷静な声音で操舵手、及び火器管制官に命令を下す。
「前線にいる全ての味方艦に一時後退するように伝えて。死にたくなければ命令に従えとも。」
通信士を担っていたミリアリアは、思わずマリューのほうへ顔を向ける。そこにはいつも通り、艦長席に座る彼女の姿があった。しかし、その目、その瞳には生気を失ったかのような、尋常ではない何かを感じるのであった。
「ローエングリン1番2番充填完了。」
「発射と同時に右へ60度回頭。前方に存在する全てを薙ぎ払う。」
『敵』という言葉を使わずに命を下すマリュー。その豹変ともいえる彼女の音声と命令に、艦橋には死地ということを忘れるほどの緊張感が走っていた。そして
「―――――!!!」
敵を撃つ、そう言葉を放っていた彼女の口から、発射の号令が下される。次の瞬間、騎士の名を冠する破城砲は、艦の前方に存在する全てを禍々しい光で吹き飛ばすのであった。
◇
アークエンジェルが防衛するメインゲートへと殺到していたザフト軍。その多くは陽電子破城砲の一撃で爆散し、空には僅かばかりの静粛が広がる。
「敵前線部隊、7割の消滅を確認。」
「後方展開していた敵の潜水空母は?」
「全て健在です。」
「相手が立て直す前に打って出るわ。各艦に対潜戦闘の用意をするよう指示を出して。」
多くの敵機を撃墜した余韻などに浸る間もなくマリューは艦橋で次の指示を下していく。
「しかし、それではメインゲートの防衛が……!」
「基地の防衛はもういいわ。本艦はこれより、敵部隊を突破して戦闘空域を離脱します。」
「えぇっ……!?」
唐突に下された指示に対し、艦橋の乗員たちは困惑する。そんな彼らに対し、マリューは優しさに溢れる声で言葉を続ける。
「大丈夫よ。あなたたちには一切の責任がないから。これは艦長である私の判断。この艦と乗員の命を優先するための……」
彼女は内心、凄まじいまでの激情に駆られていた。しかし、その感情の渦を生きる術を見出すことに注ぎ込み、苛烈な命令を冷静に下すのであった。
「各艦にも伝えて。生き残りたければ、本艦に付き従えと。」
「は……はいっ!」
「本艦はこれより敵本隊を中央突破します。ローエングリンは起動状態のまま待機。その他全火器を展開し、僚艦と共に離脱を最優先とする。」
何かを守るためではなく、自ら生き長らえるための戦い。軍人としては不適格、それどころか軍法に照らせば銃殺刑は当然ともいえる行為であった。
しかし、その判断に至って戦いへ望むマリューに後悔はなかった。想い人が守ろうとした艦を、決して戦いで沈めさせはしないとい確固たる意志の基、彼女は生きるための戦いに臨もうとしていた。
◇
「バリアント2番、沈黙!ゴットフリートを除く左舷の全火器が使用不能です!」
「スラスター損傷。艦の速度、維持出来ません!」
「敵モビルスーツ接近、数12!」
だが、脱出すらも許さぬというザフトの強い殺意を感じるように、アークエンジェルと僚艦に対する攻撃は苛烈なものであった。
「メインゲートに向かう敵は無視して!本艦と味方に接近する敵機を最優先に!」
僚艦と共にあらん限りの火力を展開しつつ、ザフト軍本隊の戦線を突破しようとする。破城砲の一撃を目の当たりにした敵は、その銃口をアークエンジェルに集めつつあった。
「友軍の損害状況は!?」
「本艦の離脱に追随した艦は、全て健在です。」
「敵軍の砲火がこちらに向いている分、意外と生き残ってはくれているのね。」
複数の友軍艦がアークエンジェルの弾幕が薄くなった箇所へと位置取り、敵機の迎撃行動を継続。艦の損害は増えながらも、一行は戦闘空域から確実に離れようとしていた。
「っ……!メインゲート突破された模様です!」
「ゲートを攻撃していた一部の部隊が転進、本艦へと向かってきています!」
「くぅっ……!」
正面突破を試みた艦にとって、転進して向かってくる敵部隊からは背後を撃たれる格好となってしまう。無論、後方に構うことなど出来るわけもなく、マリューは出来る限りの正面に砲火を集中させようとする。
「急いでっ!後ろから撃たれてしまえばお終いよ!」
そう言えども、離脱と突破を試みる部隊への攻撃は凄まじく。防戦することが手一杯となっていく。そして、次第に敵軍による包囲は狭まり始め、アークエンジェルは進退窮まろうとしていた。
「後方よりモビルスーツ。ジン4機……さらにデュエル!」
「ちぃっ……逃げ出そうとする敵は見逃さないっていうのかよ……!」
「ジンは僚艦に任せて!本艦の火力はデュエルへ!バリアント1番、ヘルダート照準!」
割くことが可能な最大の火力を難敵へと向け、迎撃を試みる。しかし、僚機が不在のアークエンジェルを前に、デュエルはその本領を発揮しようとしていた。
「クソっ!バスターよりも重武装のクセに上手く避けやがって!」
「艦長、友軍艦より支援要請が!」
見知った相手だと言わんばかりにアークエンジェルを翻弄するデュエル。そして、その僚機として共に訪れたジンが一斉に襲い掛かる。
「ジン相手とはいえ、取り付かれでもしたら……!」
「死角に回り込まれないよう艦を転回させて。ゴットフリートの射線を確保して撃ち落すのよ。」
辛酸舐めさせられ、この戦場においても多数のザフト軍機を撃破してきたアークエンジェルに対し、彼らの猛攻はさらに激しさを増していく。
「ヘルダート、装弾数20を切りました!」
「バリアントの排熱、間に合いません!」
「くぅぅっ……!」
手負いの敵艦を沈めるべく、包囲するモビルスーツ部隊が肉迫する。そして遂に、一機のジンがアークエンジェルの艦橋前へと位置取り、その右手に携行する突撃銃の銃口をマリューたちへと向ける。
「っ……!?」
その瞬間、艦橋にいる誰もが死を覚悟した。戦いを制するのは個の力ではなく数の暴力。それを体現する形のまま、アークエンジェルはその一撃で指揮官を失い、アラスカの海へ沈もうとしていた。
マリューは死の直前、敵の銃口を見据えてその一点を睨み続ける。最後まで生きる意志を示すことが、想い人に対するせめてもの贖罪であるかのように。
そして、ジンが構えた銃口から一発の弾丸が放たれる。その一撃が、マリューと共に大天使の名を冠する艦の最後をもたらすのであった。
だが、そのジンが引き金を引こうとした直前、遥か上空から一発の光弾が突撃銃を射抜く。火器を破壊された機体は、光弾が飛んできたであろう空へと目を向ける。
その次の瞬間、上空から急速に接近する機影は一閃と共にジンを切り伏せ、頭部を破壊して戦闘能力を奪い取る。
「えっ……なに……?」
死を覚悟していたマリューであったが、自らがまだ生きていることに戸惑いを覚えつつ、艦橋から見える光景を見つめる。
そこにはただ一機でアークエンジェルの前へと立ち塞がり、青い翼を備え、ストライクの意匠を感じさせるモビルスーツが舞い降りる。
『こちらキラ・ヤマト。アークエンジェル、援護します。』
そして、艦橋にはその単独飛行を続ける機体から、マリューが聞き知った声が響き渡るのであった。