PSO2NGS外伝 星巡る幻想曲〈ファンタジア〉 作:矢代大介
「ッ……?!」
訳も分からぬまま、閃光に目を潰されないように薄目を開く。
そうして飛び込んできた光景は、にわかには信じがたいものだった。
突き出した拳のその先で、視界を焼いた青白い光が、意思を持っているかのように渦を巻いている。
集束した光は、さながらクッションのように異形の刃を受け止め、暴力的な勢いを殺す……どころか、わずかずつながら、その切っ先を押し戻してさえいた。
理解の追いつかないまま、しかし胸を突く衝動に身を任せて、固く握り込んだ拳を、さらに強く突き出す。
すると、拳の先で渦巻く光の奔流が、さらに膨張。青白い輝きが嵐のようにうねった直後、異形の敵が振り下ろさんとしていた巨剣が、爆音とともに吹き飛ばされた。
得物ごと吹き飛ばされ、異形がたたらを踏んで後退する。
その姿を尻目に、俺の意識は手のひらに――ついで、奇跡を成した光の残滓へ向いていた。
「今の……〈フォトン〉……?」
火の粉のように舞い散る、青白く輝く光のカケラ。それを目の当たりにした時に口をついて出た、恐らくは何かの名称と思しき単語が、俺の中にあった「何か」を揺り動かす。
記憶の奥底に霞んでいたその名と共に、どこか深いところから、堰を切ったように知識が溢れ出してきた。
そして同時に、先ほどフラッシュバックした光景が、今度は明確な形を持って甦ってくる。
黒煙の上がる街を襲う、今しがた相対するそれとは異なる、漆黒の異形たち。
成すすべなく異形に蹂躙され、命を落としていく人々。
そんな光景を、何もできないまま傍観する俺。そこへ迫る、漆黒の異形たち。
死を悟った俺の胸中に湧き上がった、「恐怖」の感情。そして、それに端を発して胸中に湧き上がる、強烈な「生」への欲求と、生き足掻こうとするその意志に呼応するように放たれる、光の本流。
いつ、どこで起こった出来事だったのかは、もう思い出すことはできない。
だが、この胸に、心に焼き付いた思いの断片と、そこから生まれるあくなき衝動は、この朧げな記憶の片鱗が「かつての俺が目の当たりにした過去の経験」だということを理解するには、充分すぎるほどの熱だった。
「――あぁ、そうだ」
無理に動いたせいで、口の中に溜まった血反吐を、乱雑に吐き捨てる。
ぐし、と拭った俺の口元に浮かぶのは――生への渇望が具現化した、凄絶な笑み。
「こんなところで死ぬなんて、まっぴらごめんだ! 俺は――絶対に生き残ってやる!!!」
異形の攻撃によって大きく吹き飛ばされたおかげで、目的地だった降下ポッドは、すでに目と鼻の先にあった。
体勢を立て直し、今度は二本の足でこちらに迫ってくる異形を背に、残り僅かな距離を走り切る。そのまま、降下ポッドの中に収められていた身の丈ほどの武器を握り、勢いのままに抜き放った。
先ほど視界に収めた時は、これが何であるかもわからなかった。だが今は、この武器の名を、使い方を、はっきりと「思い出す」ことができた。
護拳部まで達する長大な実体の刃の上から、フォトン――今しがた俺が行使した、青白く輝くエネルギー状の物質をコーティングすることで、剛性と切断力を両立。
特殊な機構は一切付与されていない代わりに、質実剛健を地で行く性能を
「また力を貸してくれ――〈コートエッジ〉」
ぽつりとその銘を呟いて、俺は身の丈ほどの長さを誇る肉厚の大剣、こと〈コートエッジ〉を構え直す。
身体の内側でたぎる熱を注ぎ込むように、コートエッジのグリップを強く握りしめれば、青い光を湛えた長大な刃が、一際強く輝いた。
そこへ、追いついてきた異形の、巨大な刃が飛来する。
迫り来る致命の一撃を前にして、しかし俺は逃げず、その場に屹立し続ける。
代わりに動いたのは、両の手と、そこに握られたコートエッジの、その切っ先。
「は、ああぁぁぁッ!!!」
裂帛の気合と共に、迫る巨剣めがけて、コートエッジの切っ先を叩きつける。
金属同士がぶつかり合う、甲高く澄んだ衝撃音が周囲に響き渡り――
――異形の振るった凶刃は、交錯したコートエッジの刃によって、完全に受け止められていた。
「ぬ、っぐ……!!」
切っ先から伝わる途方もない質量に顔を歪めつつも、俺が振るったコートエッジは、火花を散らしながら、異形の巨剣と互角に鍔迫り合う。
否、渡り合っているのはコートエッジだけではない。先刻、俺をいともたやすく吹き飛ばした巨剣と真っ向から打ち合っているにも関わらず、俺の身体は全く動じていない。ダメージと衝撃で軋みを上げているものの、本来ならば潰されてもおかしくない状況にあってなお、俺は五体満足だった。
意識を向ければ、全身を絶え間なく熱が駆け巡ってるのが感じとれる。
「全身を巡るフォトンを用いた、身体能力の強化」。胸の奥からにじみ出てくる、かつて培ったものであろう知識に従うまま、再び全身に力を込めると、逃げ回っていた時とは比べ物にならないほどの強烈な力が、溢れるようにみなぎってきた。
「うおおぉぉッ!!」
力任せに、コートエッジを振り切る。
すると、俺の体の倍ほどもあろう巨大な刃は、その重量をまるで感じさせないような速度で、異形の腕ごと天高くかち上げられた。
「ハァッ!!」
再びたたらを踏んで怯む異形の、がら空きになった胸ぐらめがけて、袈裟懸けの一太刀を見舞う。
ザンッ!! という澄んだ快音を鳴らして、金属質な外殻に、横一文字の傷が付く。遅れて飛び散った火花が煌めくと、異形の怪物が、初めてその身をのけぞらせた。
(――行ける!)
確かな手ごたえに確信を抱いた俺は、息をつかせず二撃、三撃とコートエッジを振るう。
青く輝く剣の軌跡が煌めき踊るその度に、異形の体躯が砕け、切り裂かれる。先ほどまでの劣勢ぶりとは打って変わって、俺の繰り出す攻撃は、着実に異形へとダメージを蓄積させていた。
「!!」
鳴き声とも駆動音ともつかない金切り音を鳴らす異形が、鬱陶しい虫を振り払うかのように、右手の剣を振り回す。
「っ、く!」
受け止められるようにこそなったが、相変わらず致命の一撃となりうることに変わりはない。
そう判断した俺は、その場で身を翻し、回避を選択。振り下ろされる大剣は、俺を捉えることなく、砂地を叩くだけに終わった。
体に残るダメージはいまだ重くのしかかってくるが、そんなコンディションとは裏腹に、不思議と体は軽やかに動く。
どうも自分は、無意識のうちにフォトンを操って、自分自身の身体能力をアシストしているらしい。あるいはこれも、抜け落ちた記憶の残滓が為せる技なのだろうか――なんてことを考えながら、俺は回避の勢いのまま、再び攻勢をかけた。
「らあぁッ!!」
肉薄に合わせて、異形の頭部らしき場所へと蹴りを見舞う。
ダメージは見込めなかったが、勢いの乗った蹴撃は確かに異形を怯ませる。そこへすかさず、コートエッジを袈裟懸けに一閃させれば、深々とした傷が異形の頭部を駆け抜けていった。
「うおおぉぉッ!!」
着地と同時に砂地を蹴り、再び軽やかに跳躍した俺は、中空で縦に一回転しつつ、大上段からの縦一文字斬りを見舞う。
砂地に深々と剣戟の跡を刻んだその一撃は、異形の胸ぐらを捉える。胸部を覆っていた有機的な装甲は、剣戟の衝撃に耐えきれず、跡形もなく粉砕した。
手痛いダメージに見舞われた異形が、ぐらりと体勢を崩し、その場で一瞬膝をつく。
――そこで、俺の視界に、見慣れぬものが映り込んだ。
(……アレは?)
それは、今しがた砕かれた異形の胸ぐらから露出していた、球形の物質だった。
燃えるように紅潮したゲル状の体躯とは違い、異形の頭部に走るスリット状の顔面から漏れる光とよく似た、毒々しさすら感じるほどに眩いイエローに輝いている。
装甲に覆われて防護されていた、ということを鑑みるに、あの球形物体は奴の弱点、あるいはそれに準ずるモノであろうことは想像に難くない。仮にそうでなくとも、わざわざ装甲で防護するほどの部位なのだ。少なくとも、やみくもに斬り合いを続けるよりは、有効打を与えやすいだろう。だったら、やることは一つ!
「はああぁぁぁぁッ!!!」
浜辺の砂を蹴立てて、俺は異形めがけて再び肉薄する。
振りかぶったコートエッジの切っ先をまっすぐに突き出し、異形の胸ぐらめがけて、加速を乗せた渾身の刺突を見舞った。
コートエッジの刃が、露出した球形物体に、深々と突き立てられる。
「!!!!!」
同時に、異形の四肢が強く痙攣する。
悲鳴のような駆動音をかき鳴らした異形が狂乱するようにもがくが、突き刺さった切っ先は、刃を握る俺の手は、異形の胸部を捉えて離さない。
「お、おおおぉぉぉッ!!!」
勝機を悟り、口をついて出る雄叫びと共に――
袈裟懸けに振り抜いたコートエッジが、異形の胸ぐらを、ど真ん中から叩き切った。