貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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元気っ娘JDは運命と出会う

 

 

 恋はとても素敵なもので、楽しいもの。

 だから大学に入ったら、素敵な恋をして、勉強もまあ、そこそこ頑張って、幸せな大学生活を送るんだって意気込んでた。

 

 友達もたくさん作って、たくさんの場所に遊びに行って、たくさんオシャレして、たくさんの思い出を作って……。

 キラキラした日々を送るんだって!

 

 大学に入学して2ヶ月。

 今の所、友達はたくさんできたし、サークルでも上手くやれてると思う!

 

 ただ……恋はなかなかどうして上手く行かない。

 カッコ良いな、と思う人はけっこーいる。先輩でも、同級生でも。

 けど、なんだろう。彼氏は欲しいけど、彼氏にしたいと思う人に出会うことは未だに無い。

 

 『付き合ってみたら意外と悪くなかったりするよ!』

 

 『とりあえず付き合っちゃえばいいじゃん』

 

 『大学卒業して年齢=彼氏いない歴は嫌じゃない?』

 

 友達同士の会話で起こる、恋愛観の論争。

 確かに今の時代、付き合ってもらえるだけありがたいので、とにかくアタックしまくって、付き合ってもらえるように頑張るのはありだと思う。

 彼氏がいるっていう状況、確かに経験してみたい気もする。

 

 自分から動かなきゃ、チャンスなんて回ってこないしね!

 

 ――けど、私は最近考える。

 

 (そもそも恋って……好きってなんだっけ?)

 

 カッコ良いな、と思うことと、好きだな、と思うことは違う。

 それはそうだ。テレビのアイドルはカッコ良いなと思うけど、それは別に好きには繋がらない。

 

 じゃあ好きって?

 多分、私が憧れた恋愛って、その人の動作とか、内面とか、言葉とかに触れた時に、どうしようもないほどドキドキして。

 この人と、ずっと一緒にいたいって、強く思うことだと思ってた。

 

 けど、そんなこと、人生で1度だってありはしなかった。

 まあ、現実なんて、そんなもんだよね。

 

 だから皆妥協して、折り合いをつけて、我慢して。

 ちょうど良い人を見つけてる。

 

 だから私もそうしなきゃいけないんだって思って。

 

 ――それで。

 

 

 

 

 

 

 

 「は?付き合ってくださいって本気で言ってる?w」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんで、こんな思いしなきゃいけないんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~久しぶりに効いたなあ……ここまでひどい事言われたのは、流石に初めてかも。

 フラれること自体には慣れっこなんだけどなあ。

 

 けいとさんがいなくなった方向を眺める。

 

 怒りは自然と湧いてこない。

 怒りが湧いてこないのは、私の中で腑に落ちる部分もあるからで。

 

 きっと、そこまで付き合ってほしくもなかったのかもしれない。

 こんなこと言ったら失礼だけど、私の方だって熱なんて持ってなかった。

 

 だから、私も悪い。お互い様なんだね。

 

 ふー、と深く息を吐いて、来た道を戻る――と、物陰に、見覚えのある黒いキャップが見えた。

 

 ……テンション、戻さなきゃだ。

 

 「……頑張れ、わたし」

 

 小さく声を出してから。

 ちょこん、と隣に躍り出た。

 

 

 「盗み聞きとはおぬしも悪よのう?」

 

 「……!みずほ……ごめん」

 

 ちょっと人様には見せられないくらいの表情をしていた私の親友……五十嵐恋海は、私に気付いて申し訳なさそうに頭を下げた。

 んーん。いいんだよ。恋海が優しいのは、知ってるぜ。だからそんな顔、しないで。

 

 「いーのいーの!心配して来てくれたんでしょ?恋海殿のやさしさに、拙者涙涙でござるよ~!」

 

 「みずほ……」

 

 そんな悲しそうな顔をしないで欲しいでござるな~!

 大丈夫大丈夫、私は元気。

 この程度でへこたれるみずほちゃんではないのだ!

 

 「いや~!イケると思ったんだけどなあ!ものの見事に、バッサリ!ぐわああああ私のHPはもうゼロよ~ヨヨヨ」

 

 「……」

 

 うんうん!このくらいのお気楽さが私にはちょうどいい!

 恋海にも、笑ってて欲しいしね!

 

 「なかなかうまく行きませんなあ!恋海殿、ダブルデートは、もうちょい待ってて☆」

 

 「うん……みずほなら、あんな奴より絶対良い人見つかるから」

 

 ……恋海殿は優しいでござるなあ。

 高校の時からの付き合いだけど、恋海と喧嘩したことは一度だってない。

 

 「うおおおおお!やる気出てきたああ!!やったるぞ~!……だから恋海は、今の彼、大事にするんだヨ?」

 

 「うん……」

 

 恋海は、今いい感じの男の子がいるらしい。

 くう~!うらやましいでござるなあ!ちょっと遠目からしか見たことがないから分からないけれど、身長も程よく高くて、カッコ良い感じだった気がする。今度お話くらいはしてみたいものだね!茶々入れたいし!

 

 

 でも、今は。

 

 

 「ね。3限彼と一緒でしょ?もう行った行った!」

 

 「え……でもみずほは……」

 

 「拙者、少々夜風に当たりたいでござる~!彼待たせちゃダメだよ!早く行った行った!」

 

 「……みずほ」

 

 申し訳なさそうな顔をして、恋海が私に背を向ける。

 

 も~なんでそんな複雑な顔するのさ!

 恋海が今幸せなら、私も幸せでござるよ?

 

 恋海もだいぶ幼い頃の恋を引っ張って、苦労したの知ってるんだから。

 

 

 恋海は、一度もこちらを振り返らなかった。

 そのままこっちから見えなくなるまで見送って、私は一息。

 

 

 「は~。ま、こんなもんだよね!」

 

 大きく伸びをする。

 

 ここら辺は講義を行っている教室棟から少し遠く、もう3限が始まろうとしているこの時間帯は人が少ない。

 ゆっくりと、歩き出した。

 

 

 「さ~て!恋海のためにも切り替えて新しい、おと、こを」

 

 

 

 

 

 

 『そんなんで勘違いしちゃったの??www』

 

 

 

 

 

 

 

 なんでだろう、ちょっと声が、出にくいな。

 

 

 

 「さが、す……ことに、しま、すか」

 

 

 

 

 『……流石にキモイんだけど』

 

 

 

 

 

 ――頬を伝って流れるこれは。

 

 ――地面に落ちてしみを作るこれは。

 

 

 お願いだから、止まって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内容が全然頭に入らないまま、午後の授業を終えた。

 正直ほとんど上の空だったと思う。

 一緒に受けている友達が今日は休みで助かった。

 

 今私は学内の空きスペースにある椅子で休憩中。

 

 「玉砕だった、よ、っと……」

 

 同級生の仲良しメンバーに、SNSで告白の報告をする。

 もちろん、言われた事とか、けいとさんの性格とかは伏せて。

 恋海からも心配の連絡が来ていたけれど、今は返す気にならなかった。

 

 きっと、私の心配をするよりも、彼と楽しい時間を過ごしたほうが、恋海的にはいいはずだしね。

 

 スマホを閉じて、背もたれによりかかった。

 窓から、夕日が差し込んでいる。

 

 もう、日も沈みそうだった。

 

 「かえろうかな」

 

 いつもより、足が重い。

 まいったな……明日までに、メンタル回復できるだろうか。

 

 それにしても失敗した。サークルの先輩となるとこれからも顔を合わせなきゃいけないのが一段と辛い。

 考えただけで、憂鬱な気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大学の最寄りの駅から電車に乗ってしばらく……。

 

 私は今、乗り換えの駅のトイレでうずくまっていた。

 どうやら、電車で酔ったらしい。

 

 「ははは……電車で酔うってなに~?私こんなによわっちかったっけな~」

 

 情けない。本当に情けない。

 

 トイレの手洗い場の鏡を見て、自分の顔の酷さに驚く。

 泣きすぎたせいで目の周りはひどく赤く、化粧も崩れ。

 顔は不自然なほど青白い。

 

 (ひっど……こんなの知り合いに見られたら……)

 

 私は髪をツインテールにしばっていたゴムを外す。

 

 (今は、これでいいや)

 

 髪型をただのロングにして、なるべくこんな顔誰にも見られたくないから、マスクをした。

 今は、いつでも元気な戸ノ崎みずほはいない。でも、明日からまた頑張るから許して欲しい。

 

 

 「近くにドラッグストアがあったはずだよね……」

 

 酔ってからでも効く酔い止めが欲しい。

 私は重い足と、倦怠感を訴える身体を引きずって駅のトイレを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に、なにをしているんだろう。

 たかだか男にフラれたくらいでこんなに傷ついて。

 

 たまたま相手の口調がちょっとキツかったくらいでこれでは、私のメンタルもまだまだだ。

 

 『キモイんだけど』

 

 「……ッ!」

 

 頭の中をリフレインする。

 記憶は強い感情を伴ったものほど強く刷り込まれるというが、こんなのあんまりじゃないか。

 

 また、涙が出る。性懲りもなく。

 もうやめてほしい。もう十分泣いただろう。思わず私は無理やり目元をこする。

 また思い出して泣くなんてバカみたいで――。

 

 

 

 

 ――ドンっ!

 

 

 

 肩に、衝撃。

 

 通行人と、ぶつかった。

 

 

 

 「チッ……!前見て歩きなさいよブス……!」

 

 

 

 ……あれ。

 前が、よく見えない。

 視界が、気持ち悪い。

 

 

 コンタクト、落とした?

 

 

 最悪だ。

 私は裸眼の視力が0.1しかない。

 

 

 

 

 「すみません……!コンタクト落としちゃったんです……!ごめんなさい……!」

 

 

 

 

 ああもう……本当に今日は、最悪の日だ。

 

 

 ――そんな、時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「大丈夫ですか?コンタクトですよね。一緒に探します」

 

 

 「え……?」

 

 

 

 声が、かかった。

 男の人の声。

 

 顔を上げる。

 

 視界が涙と視力のせいでぐちゃぐちゃなのでしっかりとは見えないが。

 

 カマーベストに、黒の蝶ネクタイ。

 髪はかっちりとオールバックにまとめた、紳士が立っていて。

 

 

 こんな状況なのに。

 カッコ良い、と素直に思ってしまった。

 

 

 

 

 「すみません、ありがとう、ございます」

 

 

 

 そして私はとっさに、頭を下げた。

 こんな酷い顔を、見られたく無くて。

 

 

 「すみません!ちょっとコンタクト探してますので!」

 

 びっくりする。

 

 こんな女のために、みるからに仕事中であろう男の人が……?

 

 頭が混乱する。

 思考がまとまらない。

 

 不思議な感覚だった。

 

 この雑踏の中。他の雑音がかき消えて。

 

 世界に私と、このお兄さんしかいないような気すらして。

 

 

 

 やけにうるさく鳴り出した、心臓の音がうるさかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あった……!ありましたよ!」

 

 何分くらい経っただろうか。

 

 あっという間だった気もするし、とても長かった気もする。

 

 お兄さんが嬉しそうな声音で私に報告してくると、私の元へと届けにきてくれた。

 

 「はい、気を付けてね」

 

 「ありがとう、ございます」

 

 丁寧にハンカチの上にコンタクトレンズを乗せて。

 その渡し方が、あまりにも丁寧で。

 

 今日あんなことがあったからかな。

 このお兄さんの優しさが、胸に溶け出して……溢れていく。

 私という容器は小さすぎて、溢れ出した感情が、涙となって流れ出した。

 でも、これはさっきまでと同じ、悲しみの涙じゃない。

 

 私は今、笑っている。

 暖かな気持ちになる。

 喜びの涙。

 

 

 ふとそこで、私は自覚する。

 

 ――なんでこんなに胸がドキドキするんだろう?

 

 

 「あ、このハンカチは別に返さなくていいから。じゃ!」

 

 「……え」

 

 お兄さんが、立ち去ろうとする。

 

 え、待って。ダメだよ。

 まだなにも、なにも聞いてないのに。

 

 

 

 ――ダメ!!!

 

 

 

 

 「あ、あの!ちょっと待ってください!!」

 

 

 お兄さんの、動きが止まる。

 

 こちらを、振り向く。

 その姿が、やっぱりとても、とても素敵に見えて。

 

 自分の今のみすぼらしい姿を思い出してしまってちょっと嫌になった。

 今は、いつも元気な戸ノ崎みずほじゃない。

 

 「……ッ!」

 

 名前だけでも聞かなきゃ、とか。

 お礼をもっとちゃんと伝えなきゃとか。

 なんで助けてくれたんですか、とか。

 

 たくさんの言葉が私の頭をぐるぐると回り出す。

 

 そしてその間も、ずっと。ずーーっと。

 

 

 心臓が、バクン、バクン、バクン。

 

 

 うるさい、うるさいうるさい!

 やめて!話させて!

 もう2度と会えないかもしれないのに!!

 

 

 私に勇気をください!神様!!

 

 

 

 

 

 「えっと……ごめん、俺急いでるから!」

 

 「……ぁ」

 

 

 

 

 手を伸ばす。

 みっともなく。

 

 けど、届かない。

 再び世界に音が戻り、日常が帰ってくる。

 

 今の一瞬が嘘だったかのように思えるけれど、私の身体にこもる熱と、右手に残ったハンカチがそれを否定する。

 

 

 (バカ……バカバカバカ!私のバカ……!)

 

 

 名前くらい聞くべきだった。

 せめて名前さえわかれば、ハンカチを返せたかもしれないのに!

 

 それに……!

 

 

 (どうしよう、どうしよう……!)

 

 再びその場に、うずくまった。

 

 まだうるさく鳴り続ける鼓動。

 『どうしようもないドキドキ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ああ、もしかして、これが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ぁ、れ」

 

 

 

 

 ……地面に何かが落ちている。

 拾い上げてみた。

 

 「ボール、ペン?」

 

 それは一見、なんの変哲もないボールペン。

 自分のではない。ということはあれだけ必死に探してくれた彼の物……?

 

 どこかで見たことがある気がして、私はそのボールペンをくるくる回してみて―――

 

 

 

 

 

 

 

 「……ぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボールペン。

 その手に持つ部分。

 

 そこに、ロゴが入っている。

 

 

 

 ()()()()()()()()()のロゴが。

 

 

 

 これは、私の大学で新入生全員に配られるボールペンだ。

 

 

 

 

 

 

 「嘘……え……!じゃあさっきの人は……!」

 

 

 

 

 

 

 私の運命が、動き出した。

 

 

 

 

 

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