貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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ツンデレ系OLは歪む

 

 

 土曜日の夜の感情って複雑。

 明日もお休みだから今日は夜更かしできるぞーって思ったりもするし、ああ、お休みが1日終わってしまった。って気持ちにもなる。

 

 まあなんにせよ、基本的に私は大切な休日だからこそ、自分のために使いたい派の人間なのだけど。

 

 

 「めぐは最近どうなのよ~!」

 

 「ええ~?変わんないよ?でもそうだな~同棲って意外と難しいなって思うかな~」

 

 「きゃ~!いいないいなあ~私も彼氏と同棲したいな~」

 

 「……」

 

 今日は、大学の頃仲が良かったメンバーに誘われて、ちょっとだけ良い居酒屋で夕飯兼飲みみたいな会。

 私以外は全員彼氏持ちで……正直肩身が狭い。

 あんまり来たくなかったのだけれど、一番仲が良かった、まいから強く誘われて断りにくかった。

 

 もうご飯から飲みに移行して1時間程が経つけれど、会話は彼氏との話になりつつあった。

 こうなるってわかってたから来たくなかったのよね……。

 

 「え、実際どうなの?同棲って……毎日やっちゃうの?」

 

 「やば。流石に下世話すぎ。でも気になる」

 

 元々エグい話が好きだったメンバー。当然こういう系統の話にもなるわけで。

 

 「そういうのって言いにくいものなんじゃないの?」

 

 「何言ってんの!星良だって気になるでしょ?あんたもこういう話好きだったくせに」

 

 「そーよそーよ!同棲してる奴には義務があるのよ!リアルな話聞きに来たんだから!」

 

 はぁ……。

 他人の情事とか聞かされてもなあ……。

 

 一応彼氏の顔は見せてもらった。確かにそこそこカッコ良いとは思う。

 まあ、まさとの方がカッコ良いけど。

 

 友人達の下世話な話を聞き流して、私は運ばれてきた料理を口に運ぶ。

 

 「星良は?最近どうなの?」

 

 「え?私?」

 

 いつの間にか、私に話が振られていた。

 この子達は私が元カレ……元カレと言うのも寒気がするけれど。元カレにされた仕打ちと、別れた話を知っている。

 だからあまり、会いたくなかった側面もあるのだけど……。

 

 「最近は、割と楽しいわよ」

 

 「え!なに男?!」

 

 「星良男できたの?!写真見せて!!」

 

 「……あんたらすぐ男って判断するのやめなさいよ……まあ間違ってないんだけど……」

 

 お酒に酔って顔を赤らめた友人達が、食い気味に迫って来る。

 色恋沙汰好きすぎでしょもう……。

 

 仕方なく、私はこの前のデートの時に撮ったまさとの写真を見せてあげた。

 この前のデートの時に、ご飯を食べ終わって紅茶を飲んでるまさとにスマホを向けたら、笑ってピースしてくれた。可愛すぎ。天使。

 

 「え、かっこいい。なんかゴリゴリのイケメンってより清涼感を感じるイケメンだわ」

 

 「優しそ~~いいなこんな人どこで知り合ったの?」

 

 まさとを褒められて、私も鼻が高い。

 そうよね。当然当然。まさとはカッコ良くて優しくて天使なんだから。

 

 お酒も回ってきて気分が良くなった私は、ついしゃべりすぎてしまう。

 

 「その子ね、バーで働いてるのよ。週一でね。だからその出勤日に会いに行ってるわ」

 

 「え?……」

 

 「……バーって、ボーイズバー的な?」

 

 「?そうよ」

 

 なんか3人が目を合わせている。何?何か変なこと言ったかしら。

 遠慮がちに、まいがスマホを返してきた。

 

 「あーっと、星良はこの子と付き合ってるの?」

 

 「んーん。まだ付き合ってないわ」

 

 「えっと……星良この子に月いくら使ってるの?」

 

 何?なんか変な空気になってきたわね。

 お金なんて、大した問題じゃないと思うのだけど。

 

 「お金?……大した額じゃないわよ。毎月給料の半分くらいじゃない?」

 

 「給料の半分?!」

 

 なによ大きな声出して……。

 毎週通ってるから多分そんなもんだと思う。それにこの前はデートで奮発したし、今度プレゼントも買ってあげようかなって思ってる。

 まさと、喜んでくれるといいな……。

 

 「星良」

 

 「……何?」

 

 まいがさっきまでの楽しそうな表情はどこへやら、真剣な表情で私の手をとってきた。

 他2人も心配そうな表情でこちらを見ている。

 

 「この人は、やめておこう。私が今度彼氏にお願いして合コン開くから、そこに来て」

 

 「……はい?」

 

 合コン?全然興味が無い。

 今はまさと以外の男に使うお金は無い。

 それになに?やめておこうって。

 

 「星良、厳しいこと言うけどね、金ヅルにされてるんだよ星良は」

 

 「あ~その心配ね。大丈夫。まさとはそういう子じゃないわ。週一出勤だし、私しか常連がいないの。だから私が払ってあげなきゃダメなのよ」

 

 なるほどなるほど。理解した。

 この子達は、まさとが有象無象のボーイと同じであると思っているんだ。

 その心配ならいらない。まさとは特別。私は大丈夫。

 

 「星良……」

 

 ……だからその表情をやめなさいよ。

 

 

 「星良、やっぱりダメだよ。合コン必ず来て。それで、その人は諦めよう。星良のためにならないよ」

 

 ……私の為って、何?

 ふつふつと、私の中で怒りが沸いてきた。

 

 「私の為ってなによ?私の為を思うなら、どうして応援してくれないの?!あなたたちに、何がわかるの?!」

 

 「星良……落ち着いて」

 

 「冗談じゃないわよ!私がどんな目に遭ったかわかってるでしょ?!苦しくて、辛かった時に、助けてくれたのがまさとなの!あの子はそんな子じゃない!どうしてわかってくれないの!?」

 

 お金を使いすぎてないかいっつもまさとは心配してくれる。

 優しい言葉をかけてくれる。本当はやりたくない仕事のはずなんだ。

 

 だから私がちょっとでも助けになれればと思ってお金を払うことの何がいけないの?

 

 「……変な心配はしないで。まさとはそういう子じゃないから。今順調なの。水を、差さないで頂戴」

 

 依然として、まいも、他の2人も、悲しそうな表情でこちらを見ている。

 

 やめてよ。

 

 そんな顔で、見ないでよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと日付はもう跨いだだろうか。

 飲みの帰り道、私は街灯の灯る夜道を一人歩きながら今日友人達に言われたことを思い出していた。

 

 

 『騙されてるよ』

 

 『金ヅルになってるんだよ』

 

 『仕事だからだよ』

 

 

 ――違う。

 

 違う違う違う違う違う違う違う!!!

 

 

 まさとはそんな子じゃない。私が誰よりも知ってるんだ。

 心優しい子。笑顔が可愛くて、守ってあげたくなる子。

 

 断じてあの子達が言うような、世の中の一般的なボーイじゃない。守銭奴のように、女心を弄んで金を搾り取るような子じゃない。

 

 そのことは、私が一番良く知ってるんだから。

 私は、間違ってない。

 

 スマホを開いて、SNSのアプリをタップした。

 そこには、先ほど送ったまさとへのメッセージ。

 

 

 《星良》

 『友達と飲んで来たわ』

 『今度合コン誘われちゃった。あんまり気が進まないんだけど……』

 

 ……大丈夫。まさとならきっと止めてくれる。

 俺がいるじゃないですかって言ってくれる。

 

 SNSのトーク画面の背景に設定したまさとの写真をうっとりと眺めていると、メッセージに既読がついた。

 思わず、画面を戻す。

 

 きっと返信が、送られてくるだろうから。

 

 

 「っ……!」

 

 メッセージが、来た。

 

 

《将人》

『お疲れ様です!楽しかったですか?』

『お~!いいじゃないですか。良い人、いるかもですよ!』

 

 

 

 ……どうして?

 

 なんで止めてくれないの……?

 良い人なんか、いないよ……。

 私にはあなたしかいないんだよ……?

 

 まさとしか、いないんだよ……。

 

 

 

 スマホの画面に、水滴がいくつも落ちた。

 

 雨は降ってない。

 

 それは、私の目から零れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金曜日。

 

 金曜日だけは残業しないって決めていたのに、クソ上司のせいで残業させられた。

 マジであいつだけは許せないわ……。

 そんな事情もあって、私は急ぎ足でお店に向かっている。

 

 この一週間は、もやもやしながら過ごすことになった。

 けれど、私の気持ちは変わってない。私にはまさとしかいない。あの店でまさとにお金を出せるのも、私しかいない。

 

 だから、一つ決めたことがある。

 

 付き合ってから、友人達には報告しよう。

 今はまだ、彼氏ではないから心配しているのだ。じゃあ付き合ってしまえば問題ない。

 その時は彼女達もきっと祝福してくれるはずだ。

 

 だから、私とまさとは次の段階に行かなければならない。

 

 同伴はやったから……次はアフター、とか。

 

 優しいまさとなら、きっと許可を出してくれるはずだ。

 

 気分が高揚する。

 まさとと、ちょっと良いところでご飯を食べて。良い雰囲気になって。

 ちょっと勇気を出して、家に来ないか誘ってみて。

 そして、一夜を明かす時。それはどんなに素敵で……ロマンチックなんだろうか。

 

 そこに辿り着くためにも、今は準備が必要。

 まさととの距離をもっと縮めなければいけない。

 

 

 お店に到着。

 結構遅くなってしまった。この時間だと、まさとは受付とかやっているのだろうか?

 

 もうまさとに会ってもいいように身だしなみを整えて、お店のドアを開く。

 

 「いらっしゃいませ、お嬢様……あ、いつもありがとうございます」

 

 受付は、まさとではなかった。

 けれど、毎週来るようになったからか私の顔は恥ずかしいことにボーイの人達に知られてしまっている。

 

 「え~っと……」

 

 「まさとですよね?」

 

 「あ、はい。そうです」

 

 恥ずかしいながらも、ちょっとした優越感もある。

 このお店で、まさとを指名するのは私だって決まっているかのような――。

 

 

 

 

 

 「ごめんなさい、まさと今接客中でして……。他のボーイで良ければご案内できるんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――え?

 

 

 まさとが、接客中?

 

 誰に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 私以外の、誰に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさとの事を待つ名目で、私は一旦店の外に出た。

 気持ちを整理する時間が必要だし、まさと以外の接客を受けるつもりはない。話してみるのもいいかもと思ったことはあるけれど、何故か罪悪感があった。

 

 まさとが、誰かに接客している。

 

 私の、せいだ。

 私が来るのが遅れたから。

 やっぱり残業なんかどうにか理由をつけて帰って、すぐに来るべきだったんだ。

 

 他の女がまさとによりつく時間を与えてしまった……!

 

 思わず私は地団駄を踏んだ。

 二度と金曜日に残業はしない。仮病でもなんでも使って帰ってやる。

 

 腕時計を見る。

 そろそろいいだろうか。

 

 お店に戻ろう。

 

 歩いてお店まで戻る。

 よほど延長とかしていなければ、もう終わる頃合いだ。

 

 大丈夫。ただのもの珍しい客だったんだ、きっと。

 今日だけ、たまたま。

 私の方が、きっとまさとに多くお金を使ってるし、愛情もたくさんもらってる。

 だから、大丈夫。

 

 

 そう自分に言い聞かせて、お店の前まで行くと――。

 

 丁度まさとが、お客さんを見送っている。

 

 

 

 その、視線の先。

 

 見てしまった。その女を。

 

 

 

 私には、見覚えがあった。

 

 ()()()()()

 あの女を私は知っている。

 

 髪型は違っても、すぐにわかった。

 

 ドラッグストアで、まさとに優しくしてもらってた、娘……!

 

 黒い感情が胸の奥底で渦巻いた。

 見てわかった。前は薄汚い娘だと印象を受けたが、違う。

 

 快活に笑う、ツインテールの少女。

 

 それを見送る、まさともまた笑っている。

 

 ああ。まさとが、笑っている。

 

 どろ、と感情のバケツから何かが溢れ出した。

 

 

 

 

 

 ダメ。

 ダメダメダメダメ!!!

 

 絶対にダメ!

 

 

 そこは、そこは私の――!!!

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、またね、将人」

 

 「うん、また」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はその場で膝に手をついた。

 

 「う……おぇ……」

 

 吐きそうだった。

 

 どう考えたってわかる。

 

 あっちの方が、お似合いだ。

 

 明るくて快活な若い子と、カッコ良いまさと。

 2人のやりとりが、眩しく見える。

 

 

 誰が見たって、私と比べたらお似合いなのは向こうだって答えるだろう。

 

 

 ……でも。

 決めたんだ。

 

 手鏡を出して、もう一度身だしなみを整える。

 顔色は酷い。けどこれはどうしようもない。

 

 

 諦めない。どれだけ汚くて醜くても、私はまさとしかいないって、決めたんだ。

 

 渡さない。

 渡さない渡さない渡さない渡さない。

 

 

 

 

 ふらふらと歩いて、まだあの娘の背中を見送っているまさとの後ろに立つ。

 

 

 なんて――声をかけよう。

 

 ああ、そうだ。

 

 いきなりあの娘の否定から入ったらだめだ。

 

 まさとにも、事情があるかもしれないから。

 それにまさとに悪い印象をもたれてしまうかもしれない。

 むしろ、褒めてあげるくらいで行かないと。

 

 

 だから、そうだな。

 これでいきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「可愛い子ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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