貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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バスケ部JCは試合に出る

 

 日曜日。

 朝からお日様の下に出て、小鳥のさえずりを聞くのは、一体いつぶりだろうか。

 

 「ふわぁ……」

 

 寝ぼけまなこをこする。

 現在時刻はなんと朝7時。

 

 こんな時間に起きたのは、きっと高校生ぶりだろう。

 この世界に来てからはこんな時間に起きたことは無い。

 

 大学に入ってからというもの、俺の生活習慣は乱れに乱れている。

 

 ぐーっと上に伸びをして、大きく息を吐いた。

 空気は乾いていて大変気持ちがいい。

 公園の新緑が、身体中をめぐっていくような気分になる。

 

 目的地について、俺は荷物を置いた。

 なんか見慣れない貼り紙が貼ってあった気がしたけれど、眠すぎてよく見えなかった。

 

 「準備運動、しとくかなあ……」

 

 軽く屈伸運動をして、その後ジャンプ。

 うん。身体の動きは悪くない。

 

 今日ここにきたのはもちろん理由がある。

 理由がなかったら俺の身体はこんな時間に起きれるようになっていない。

  

 「将人兄さん!」

 

 元気の良い声がして後ろを振り向けば、もうすっかり見慣れた女の子が、紺のエナメルバックを背負って立っている。

 

 「由佳、おはよう」

 

 「はい!おはようございます!」

 

 朝から元気。笑顔が輝いている。

 

 今日は由佳と朝練の約束をしていたのだ。

 

 なんでもこのあと大会らしく、その前のウォームアップに付き合ってくれないか、とのこと。

 正直朝早すぎて起きれないかも……とあまりにも情けない連絡をしたら、朝6時にモーニングコールをしてくれた。

 なんて気が利くんだー(棒)

 

 由佳のアップに付き合うことに異論はないし、むしろ付き合ってあげられるならしてあげたいと思っていたから、良いんだけどね。

 

 「すみません!こんな朝早くに来ていただいて……!」

 

 「いいよいいよ。俺もたまには健康のために早起きしないとね……」

 

 ぺこぺこと頭を下げながら、由佳も荷物を置いて準備運動を始めた。

 大体1時間くらいを予定している。やりすぎてもこの後の大会に支障が出るし、本当にウォーミングアップ程度だ。

 

 「どう、緊張してる?」

 

 「うーん……あんまり、してないかもです。お兄さんより強いってことは無いでしょうから」

 

 な、なんという度胸……。

 俺はとんでもない怪物を生み出してしまったのかもしれない……。

 心の中で対戦相手校に謝罪した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふっ!」

 

 「おっ、良いフォーム」

 

 由佳から放たれたボールが、スパッとリングに吸い込まれた。

 綺麗なシュートフォーム。中学生でここまでの動きをできる子が一体どれほどいるのか。

 

 「よしっ、良い感じ」

 

 右手を開いたり閉じたりする由佳の表情は、真剣そのもの。

 普段の可愛らしい一面とのギャップも、この子の魅力だなあと思う。

 

 公園に設置された時計を見た。

 もうすぐ朝の8時になろうとしている。

 

 「由佳!終わろうか。やりすぎても良くないし、これくらいでちょうど良いと思うよ!」

 

 「……!はい!ありがとうございました!」

 

 バスケに夢中で時間を気にしていなかったのか、由佳は時計を見て驚いていた。

 本当にバスケバカなんだからもう。

 

 由佳が水筒に入ったスポーツドリンクを飲んでから、ボール等を片付ける。

 ちょっと表情が強張っている気がするから、本人は意識していなくてもやっぱり緊張しているのかもしれない。

 

 あ、そうだ。

 

 「由佳、ちょっといい?」

 

 「……?なんでしょうか」

 

 俺は自分の鞄から、目的の物を取り出す。

 手に取ったのは、俺が以前使っていた黒のリストバンド。

 試合用に購入した物だけど……事情があってほとんど使えなかった物だ。

 

 「いらなかったら断ってくれていいんだけどさ。これ、もしよかったら使って」

 

 「!い、いいんですか?!」

 

 「もちろん。ほとんど使ってないから新しいよ。あー、でもこれ裏に俺のイニシャル入っちゃってるから、嫌だったら――」

 

 「使います!!そのまま!!使わせて下さい!!」

 

 お、おおうすごい食い気味に来たな。

 リストバンドを由佳に手渡すと、すぐに彼女はそれを腕に嵌めた。

 宝物をもらったくらいのレベルで目を輝かせてる。

 

 そ、そんな良いものじゃないんだけど……。

 

 「本番でいきなり使うと違和感あるかもだから、事前練習でつけてみて違和感あったら外してね。何も問題なければつけてもいいと思う」

 

 「はい……!ありがとうございます!本当に、本当に大切にします……!」

 

 あ、圧がすごい。

 全然良いものじゃないんだけどなあ……まあでも、喜んでもらえたなら悪い気はしない。

 

 

 「今日、頑張ってきますね!」

 

 

 弾けるような由佳の笑顔は、やっぱり可愛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 由佳がぶんぶんと手を振って大会に向かった後。

 

 「さて……」

 

 実は、由佳の出場する大会がどの学校で行われるかは調べがついている。

 それに、一般人が観戦することが可能であることも。

 

 「見に行くか~」

 

 由佳の試合出てる姿、見てみたいし。

 気分は完全に妹の試合を見に行く兄だった。妹いたことないけど。

 

 

 

 一旦家に帰って、シャワーを浴びる。

 シャワーから出た瞬間に猛烈に眠気に襲われたけど、気合でなんとかもちこたえた。

 今寝たら確実に夕方まで寝てしまう。それだけは避けなければ……。

 

 由佳が出る大会の会場の学校は、自転車で行ける距離だった。

 交通費かからないのはありがたいね。少し休んで遅い朝食をとった後、俺はもう一度外に出る。

 

 ちょっとボロめの自転車に跨って、夏の炎天下もものともせず俺は勢いよく漕ぎ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自転車で30分ほど。

 目的地にたどりついた俺は、駐輪場に自転車を止めた。

 

 普段のボールが地面を叩く音に加えて、バスケの大会特有のブザーの音や、バスケットシューズのキュキュッという音が聞こえてくる。

 入口でスリッパを借りて、俺は観戦ができるようになっている2階へ向かった。

 

 「おお~結構広いな……」

 

 体育館は思っていたよりも広く、中央で2分して2か所で試合が行われていた。

 確か由佳の学校の名前は……。

 

 「お、あっちだな」

 

 時間も丁度良かったらしい。

 アップが終わって、今まさに整列しているところだった。

 

 由佳は身長も中学1年生にしては大きいので、整列してるところだけではどの選手かわからないかな……なんて思ったのだが。

 それは杞憂だった。

 

 「あいつ……」

 

 髪型よりも、背番号よりも先に。

 左手につけた黒のリストバンドが、真っ先に目に飛び込んで来た。

 

 ちゃんと違和感ないか確認したのだろうか。無理してつけなくても良いのに……と思いながらも、つけてくれていること自体はちょっと嬉しい。

 

 しっかりと観戦できる位置まで来て……由佳の表情が見えた。

 いつにも増して、真剣な表情。集中できていそうだね。

 

 せっかく集中してるのに俺に気付いて変に緊張させたら悪いので、おそらく保護者の方とかがいる前方にはいかず、後方の席に座って試合を眺めることにした。

 

 

 

 

 

 

 結果から言うと、やっぱり由佳は異常だった。

 あの子上手すぎる。開始直後から点数取りまくって手が付けられなくて相手側がダブルチームしいて来たんだけど、由佳はパスワークも良い。

 

 味方も3年生の子達は上手だからフリーでボールもらえればまあ、決める。

 以前由佳をいじめてたのは2年生達で、3年生は良い人ばかりなんですって言ってたし、チームワークもよさそうだ。

 3年生の方も喜んで由佳にボールを託しているように見える。

 

 

 どんどんと点差が開いていくのを見ながら、俺は戦慄していた。

 もしかして……ウチの子強すぎ?!

 

 

 「あ、あの~……」

 

 由佳による蹂躙劇を気分よく見ていたら、前方にいた保護者の方……?から声がかけられた。

 気弱そうな男性。

 

 「?なんでしょうか」

 

 「ウチの中学の応援ですか?」

 

 「あ~まあ、そんな感じ、です」

 

 「良かった!それならどうぞ、前で観戦されていきませんか?」

 

 さっきっから保護者の方々がちらちら俺の方を見ていたのはそういうことか。

 うーん。確かにここまで点差開けばもうあんま関係ない……のか?

 

 せっかくだしもうちょっと近くでプレーを見たい気もする。

 

 「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」

 

 席を立って、前の方に移動。

 ここからだと、試合の様子も良く見える。

 

 「えっ!かっこ良い子~!誰の応援ですか?」

 

 「あらカッコ良い!誰かのお兄ちゃん?」

 

 「こんなイケメンのお兄さんがいる子なんていたかしら?!」

 

 なんだなんだすごい絡まれるぞ!

 

 「由佳……前田由佳さんの……兄、みたいなものです」

 

 「え~!由佳ちゃんお兄さんいたの?!」

 

 「どうりで由佳ちゃんも可愛いのね!」

 

 お母さん方のものすごい食いつき加減に若干辟易しながら、俺は再びコートを見る。

 

 後半に入って点差はもうかなりつきはじめている……けど由佳が手を緩めることはない。

 

 相変わらず由佳にはダブルチーム。

 それでも得意のクロスオーバーでディフェンスの間を作り、キレのあるドライブで突破。

 ヘルプに来た相手のディフェンスを十分に引きつけてからパス……と思いきやこれがパスフェイク。

 見事に引っかかったディフェンスの隙をついて、由佳のミドルジャンパー。

 由佳が軽やかにジャンプした。

 

 そこは、俺も好きな位置。そこの位置からのミドルの成功率が良くて、俺はよくそこからシュートを打っていた。

 ――どこか由佳に自分を重ねてしまう。由佳はもう、俺なんかよりずっと立派なプレイヤーなのに。

 

 

 綺麗なフォーム。外れるはずがない。俺は打った瞬間に入ることを確信した。

 

 

 スパッという気持ちの良い音と共にリングにボールが吸い込まれる瞬間。

 

 

 

 驚いた表情の、由佳と目が合った。

 

 

 ブザーが鳴って、相手チームのタイムアウト。

 ただ、いくらここから策を練ったところで、この差と残り時間は絶望的。

 由佳のチームの勝ちは、揺るぎないだろう。

 

 ……ベンチに帰っていく由佳がすごいチラチラこっち見てる。

 ひらひらと手を振っておいたが、やっぱり最初から見える位置にいなくてよかったなと思う。余計なプレッシャーになっちゃったかもしれないしね。

 

 露骨にリストバンドのほうの手を見せてくる由佳が可愛らしい。

 

 わかったわかった。大丈夫だよ。ちゃんと見てたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もう1試合を見終わって、俺は帰ることにした。

 保護者の方々からめちゃくちゃダル絡みされたり、休憩中に押し寄せてきた以前由佳と一緒にバスケ教えた勢の元気いっぱいな質問攻めにあったこともあって、非常に疲れた。

 女子中学生恐るべし。

 

 2試合目も由佳は大活躍。

 今日の試合を2つ勝ったことで、3年生の引退も伸びたらしい。

 3年生と一緒に喜ぶ由佳の姿が、眩しかった。

 

 きっとこの後もミーティングやらなにやらで忙しいだろう。

 朝から活動して疲れたし、俺は帰って寝ようかな……。

 

 下駄箱にスリッパを返して、俺は外に出て――。

 

 

 「将人兄さん!」

 

 

 ……と、思ったら。

 振り向くと、そこには今日のヒーロー。

 

 「由佳、お疲れ様」

 

 「あ、えっと、あの、来てくださって、ありがとうございました」

 

 「いいのいいの。むしろごめんね黙って来ちゃって」

 

 「いえ!嬉しかったです……あの」

 

 由佳が、少し下をむいてもじもじしている。

 少し間があってから、意を決したように由佳が顔を上げた。

 

 「あの!もうあと15分くらいでミーティング終わるので……一緒に帰りませんか……?」

 

 正直、さっきまでは疲れていたので早く帰って寝たい気持ちでいっぱいだったけど。

 今日のヒーローにこんな風に頼まれては、断る気には全くならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 校門付近で待っていると、由佳が走ってきた。

 なんか後ろにいた先輩や保護者の方々がなにやら大声で叫んでいて、由佳が顔を真っ赤にしながら突っ込んできたものだから、何事かと思ったけれど。

 勢いよく由佳がそのまま俺の背中を押すものだから、仕方なく俺はその場を後にした。

 

 由佳の荷物を俺の自転車のかごに乗せて、夕暮れの道を2人で歩いている。

 

 「もう……どうして言ってくれなかったんですか?」

 

 「いや言ったらなんか由佳にプレッシャーかけそうじゃん?」

 

 「むー……」

 

 むくれた顔も可愛い。バスケをやっている時とは大違いだ。

 きっと相手チームからしたら悪魔に見えただろうに……。

 

 「そうだ、将人兄さん、バスケしてから帰りませんか?」

 

 「ええ?!由佳流石に疲れてるんじゃ……?」

 

 「軽くです!軽く!」

 

 確かに、ここからいつもの公園はさほど遠くない。

 

 しかし由佳は2試合こなした後だ。

 流石に疲れているところで無理はさせたくないし……それに。

 俺は夕暮れが眩しい空を見る。

 

 「もう暗くなっちゃうんじゃない?」

 

 「じゃあ急いでいきましょう!」

 

 そう言うが早いか、由佳は俺が持っていた自転車を指さす。

 

 「私が漕ぎます!お兄さんは後ろに乗ってください!」

 

 「いややるとしたら逆う!」

 

 「え、そうですか?じゃあ乗せてくれますか?」

 

 う……上目遣いでそう頼まれては、なんとも断り辛い。

 まあええやろ!今日由佳は頑張ったからね。

 

 「わかったよ!じゃあ行くから乗って!」

 

 「やった……!ありがとうございます!」

 

 由佳が後ろに乗ったのを確認して、自転車を漕ぎ出す。

 ぴったりとくっついてくる由佳の体温を背中に感じながら。

 

 吹き抜ける風が、心地良い。

 

 「~~♪」

 

 振り向かなくてもわかる。

 由佳は大変気分が良いようで、俺の腰に回す手がとても強い。

 

 ――まあ、こんなのもたまには悪くないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件は、公園についてから起こった。

 

 俺と由佳は無事公園に到着し、俺は自転車を止めに駐輪場へ。その間に由佳は先にボールを持ってコートへ向かったのだが。

 

 コートの目の前で、由佳が立ち止まっている。

 

 

 「……どうしたの?」

 

 振り返った由佳の顔が青ざめていて、俺は思わずぎょっとする。

 いったい何が……?

 

 

 「将人兄さん……これ……」

 

 由佳の声は、半分涙混じりだった。

 

 

 コートの入り口。

 そこには貼り紙があった。そういえば、朝もなにかあったような……。

 

 由佳の後ろから、その貼り紙に書いてある内容を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには『バスケットコート取り壊しのお知らせ』と書いてあった。

 

 

 

 

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