貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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文学少女JKはバレる

 

 

 

 「やっぱりゴムって用意しておいた方が良いと思う?」

 

 全員が一斉にゴミを見るような目線で私の事を見た。

 なんだなんだその目は。

 

 

 夏休みが始まっても、夏期講習という意味の分からない理不尽な講習が、私達女子高生を縛っている。

 今はその夏期講習の授業を終え、いつものメンバーでランチタイム。

 流石に午後に授業を用意するほど学校側も鬼ではないので、昼を食べずに帰る生徒が過半数だ。

 

 だから今は私達の周りに生徒はほとんどいない。

 

 さて、話を本題に戻そう。

 

 「やっぱりこういうのって女側が用意しとくべきって言うじゃん?私はそれを男に買わせる描写でゾクゾクするタイプのオタクなんだけど、流石に王子様にそんなことさせらんないしさ?やっぱ用意しとくのが礼儀だよねって話」

 

 やっぱり?いざそういう状況になった時にありませんってなったらだめじゃん?

 じゃあできないわとか言われたら悲しいじゃん?

 

 飲むヨーグルトをちゅーちゅーストローで吸っていたまなが、呆れながらその容器を机に置いた。

 

 「……暑さで頭イカれた?」

 

 「いやまってまな、これがコイツの通常運転だから」

 

 「それも失礼だろオイ」

 

 全員私に対する敬意がたりないんじゃないのカナ??

 

 対面に座った初美もサンドイッチを咀嚼し終えて諦めたようにため息をつく。

 

 「まあ家庭教師がイケメンってことはまあ認めるしかないか」

 

 「ただのイケメンじゃない、超絶イケメンだから」

 

 「あ~蝉と同じくらい黙って欲しい~」

 

 「いや蝉の方が風情感じられるからまだマシだね」

 

 「みーんみんみんみんみんみん!!!!」

 

 危ない危ない、キレすぎて逆に蝉になってしまった。

 

 一斉に耳を塞いでいたメンバーが、ゆっくりとその手を耳から離す。

 

 

 「だいたいさ、家に毎回来てくれてこんな距離近いのに手出せないお前がヘタレだわ」

 

 「あのねえ。三秋の彼氏っつー関係と違ってこっちは家庭教師なワケ。そんな簡単に手出せないでしょうが」

 

 けっ、彼氏持ちは余裕そうでいいよな全く……。

 

 「それで?唯一の彼氏持ちであるところの三秋様に置かれましてはゴムの方はご準備されてるので?」

 

 「言い方キモ過ぎ」

 

 「昼飯中に出す話題なのかそもそもそれ……」

 

 ええい黙れ黙れ!返答次第によってはもしかしたら私も今日帰りに購入しなきゃいけなくなるだろ!!

 もう私と将人様はその段階なんだよ!(自分調べ)

 

 私は真剣な眼差しで三秋を見る。

 三秋も呆れたようにもう一度ため息をついてから。

 

 

 「まあ、家にはあるね」

 

 そう言った。

 

 「っくぅ~~!!!」

 

 「いやどういう反応なのそれ」

 

 そっかあ~やっぱあるのかあ……正しい淑女はそれくらいね、準備しないと、ね?

 ほら、万が一があるからサ……。

 

 

 「そっかあ……やっぱ買うかあ……」

 

 「絶対にねえから買わなくていいよ」

 

 「わかんないでしょ?!いつ間違いがあってもおかしくないんだよ?!」

 

 「そう思ってるのは汐里だけや」

 

 相変わらず、こやつらは私と将人様の距離感を理解していないらしい。

 もう好感度はかなり上がってるはず。告白したら80%くらい成功するくらいの好感度だろう(自分調べ)。

 

 「私が処女卒業したら全員バカにしてやるからな……」

 

 「この前汐里がグループ退会して帰ってくるまでの間で、全員で汐里がその家庭教師と付き合うことができるかどうか賭けたんだけど」

 

 「は??なにしてくれてんの??」

 

 以前、私が将人様とのツーショットを撮った際にあまりにこやつらが失礼だったので一度私はグループを退会した。

 まあすぐ戻ったけど。

 

 あの短い時間でそんなことしてたの?許せないんだが?

 

 だけど私は寛容な女。

 なにせ今だけは清楚で器も大きくて可憐なヒロインなのだから。

 

 「それで?誰が私が付き合うことに賭けたの?美味しいご飯、食べさせてあげるよ……」

 

 私が優雅に言い放つ。

 この余裕。立ち振る舞い。まさにメインヒロイン。

 

 

 すると初美がつまらなさそうにスマホから一度顔を上げて。

 

 

 

 

 

 

 「誰も付き合う方に賭けなかったから成立しなかった」

 

 

 「お前ら全員覚えてろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は土曜日。

 家に帰ると、お母さんが将人様に出す用の紅茶を準備していた。

 

 「ただいま~」

 

 「あら、お帰りなさい。将人君が来る日なんだから、早くシャワー入りなさい」

 

 「言われなくてもわかってるよ~」

 

 将人様が来る日は、お母さんも浮かれてる。

 全く、いい歳なんだから恥ずかしい事しないでよね……。

 

 私は手早くシャワーを浴びて、私服に着替える。

 最近は暑くなってきたから、なるべく涼しい服を着たいけれど、清楚キャラを演じる上であまり肌の露出が多いのはどうかなと思い、薄い生地のタイプのロングスカートとかで我慢してる。

 

 リビングに出て一息つけば、もうそろそろ将人様が来る時間だ。

 私は自分の部屋に戻って支度をする。

 

 課題はやった。期末の結果もSNSでは伝えたけれど、実際に見てもらおうと思って返って来た答案と全体の結果の記された紙も用意してある。

 

 あとは……。

 

 「これを毎回忘れそうになる。バレたら終わりだからしっかりやらないと」

 

 本棚。ここに私のオタクグッズ全般全てを隠してある。

 見つかったら終わりの、パンドラの箱。いやパンドラの本棚。意味違うか。まあなんでもいいや。

 

 だからその前に突っ張り棒を使って厚手のカーテンをしてあげる。

 毎回やるのは面倒だけど、まあこれくらいの労力ならなんてことない。

 

 

 ピンポーン、と来客を知らせるインターホンが鳴った。

 

 未だにどきっとする。この瞬間は。

 

 一回深呼吸。

 今日も完璧に演じなければ。将人様とこれからも一緒にいるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は期末の復習。

 

 

 間違えた問題を中心に、将人様が問題を作ってくれていた。

 相変わらずの完璧っぷり。好き。

 

 「いやでもだいぶ成績上がって来たね!俺としても嬉しいよ」

 

 「将人さんの教え方が上手だからです。ありがとうございます」

 

 う~ん完璧。最近私の清楚キャラも板についてきたように思う。

 まさに将人様の隣に立つ女に相応しい……。

 

 「あれ、でもここは間違ってるね、ちょっと見直してみようか」

 

 「……っ」

 

 でもこの、テキストを覗き込まれる時の距離感には慣れない。

 というか慣れることあるんか?なんかいい香りするし……シャンプーだけでこんな良い香りがするんだろうか?

 フェロモンとか出てない?出てるよねきっと。

 

 一瞬で脳内がピンク色に染まる。

 

 「――だから、って……聞いてる?」

 

 「も、もちろん聞いてます!」

 

 本当に危ない。意識を刈り取られそうになるよこれは……。

 

 でも以前は一緒に写真を撮ってくれたりとか、後ろから覆いかぶさるようにして教えてくれたこともあったけど……それは無くなった。

 将人様の中でどんな変化があったのかはわからないけれど……それだけは少し寂しくも感じる。

 

 ……ちょっとマテ茶。

 とすれば、あれだけのスキンシップをしてくれる段階で手を出せばよかったのではないか?

 

 あの時期だったら、ちょっとこちらから偶然、間違って触ってしまったとしても、お咎め無しだったのでは……?

 

 もし仮にそうだとしたら、めちゃくちゃ勿体ないことをしていたことになる。

 

 この男らしくていやらしい身体の至る所をぺたぺた触って……その、背中、とか。お尻くらいなら……。

 

 

 『ちょ……ダメだよ、俺たちは家庭教師と生徒なんだから』

 

 『そんなこと言って……実は誘ってるんでしょう?将人さん』

 

 『そんなつもりじゃ……あっ……(以下自主規制)』

 

 

 でゅふふ。おうふ失敬。拙者オタクではござらんので……。

 

 

 

 

 

 そんな桃色の妄想をしていたからだろうか。

 私は将人様の言葉も、行動にも意識が行っていなかった。

 

 

 ハッキリ言ってしまえば、油断していたのだ。

 

 

 

 

 「汐里ちゃん?聞いてる???」

 

 「ええ?!――あっ!」

 

 

 不思議そうに覗き込まれた瞬間。

 

 私は驚いてバランスを崩してしまう。

 

 ただでさえ椅子半分くらいに座っていたのもあって、私の身体は将人さんの逆方向へ倒れそうになってしまった。

 

 

 (ヤバ……!)

 

 とっさに机にしがみつこうとしてももう遅い。

 

 このままじゃ、倒れ――。

 

 

 「危ない!」

 

 

 将人さんが、身体を支えてくれようとする。

 どこまでもカッコ良い人。

 

 それでも将人さんから手を借りるまでの一瞬の時間、私の身体は体重の預ける先を失って落下する。

 左手が、行き場を失って――。

 

 

 

 

 

 ガシャン!と音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いてて……汐里ちゃん、大丈夫?」

 

 

 目を開ける。

 

 身体はなんともない。将人さんの左手が、私の背中を支えてくれているから。

 

 

 椅子も倒れてない。

 すんでのところで将人さんが倒れるのを防いでくれたのだろう。

 

 

 じゃあ、今の音は?

 

 左手に、感触。

 何かを握っている。これは――。

 

 

 「え~っと何がどうなってたんだ……って」

 

 

 

 一瞬で血の気が引いた。

 

 

 私が握っていたのは、突っ張り棒。

 それによって、落ちるカーテン。

 

 

 

 それは、(篠宮汐里)を守る、防壁。

 

 

 

 遮る物が無くなった本棚と、将人さんが向かい合っている。

 

 

 

 

 

 

 

 (あ、終わった)

 

 

 

 

 

 

 

 この瞬間、私は将人様と一緒にいる権利を失った。

 

 

 

 

 

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