貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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敏腕経営者は助言する

 

 この世界に転移してきて10か月ほど。

 こんな俺を拾ってくれた藍香さんのおかげで、俺は今まで前の世界となんら変わりなく生きる事ができていた。

 

 行く予定だった大学にも通えて。

 適度に大学生活と、バイトをして。

 きっと俺は、ちょっと変わったこの世界でも、普通に生きていけるんだと思っていた。

 

 けれど。

 

 この数か月で、それは勘違いだったと思い知らされた。

 

 「はぁ~……」

 

 大きなため息をついて、俺は自分の部屋のベッドへと身を預ける。

 ベッド横のデジタル時計に目をやれば、そろそろ日付が変わろうか、という頃合い。

 今日はボーイズバーのバイトだったけれど、あんまり集中できなくて、早めに帰してもらったのだ。

 そしてすぐにシャワーを浴びて、今。

 

 集中できていない理由は分かっている。

 自分が仲良くしていた少女達に次々へ想いを告げられたから。

 この前は、唯一恋愛感情を向けられていないと思っていた汐里ちゃんにも……。

 

 「女子高生って、すすんでるんだな……」

 

 もしかしたら、汐里ちゃんだけかもしれないけれど。

 冷静に考えれば汐里ちゃんから紹介してもらった本とかゲーム、けっこう過激なの多かったし、当然と言えば当然なのかもしれない。

 そこまで考慮できなかった俺が悪い、か。

 

 好意を向けられることは、素直に嬉しい。

 だけどこのままなにも決めずに、なぁなぁで過ごすことは、したくない。

 というより、できない。

 

 でも、どうすれば良いんだろう。

 由佳と汐里ちゃんは、そもそも年齢的に、考えてダメじゃないか?とか。

 星良さんは、お客さんという関係な以上、交際とかはまずいんじゃないか、とか。

 恋海とみずほは、2人同時に付き合うなんて、倫理的にどうなの、とか。

 

 でもこういう事を考えていて、一番まずいなと思うのは。

 

 「付き合いたくない、とは、一人も思わないんだよな……」

 

 皆、良い所を知っているから、彼女達のいろんな面を知って、仲良くなったから。

 誰一人として、嫌いな子なんていない。いや、恥も外聞もなく言うなら、皆好きなんだ。

 

 だから、答えを出すことが本当に難しい。

 

 コンコン、と、玄関の扉を叩く音が聞こえる。

 こんな時間に来客……となれば、候補は1人しかいない。

 扉の前まで行けば、想定通りの声が聞こえてきた。

 

 「将人、まだ起きてる?」

 

 「藍香さんどうしたんですか?俺なんか忘れ物とか」

 

 「いや、そうじゃなくてね。あんたがあまりにも上の空だったから、心配になったのよ」

 

 「うっ……すみません」

 

 「別に責めたいわけじゃないわ。入っても大丈夫?」

 

 「はい!」

 

 扉を開けて、藍香さんを迎え入れる。

 俺の部屋はそんなに物が多くないし、ちょこちょこ掃除もするタイプだからすぐに人を招いても大丈夫なのが、小さな自慢なのだ。

 

 折り畳み式のテーブルを開いて、座布団を敷く。

 

 「たしか紅茶とか色々あったわよね?キッチン借りるわよ?」

 

 「あります!おっけーです、すみませんむしろ」

 

 「私相手にそんなかしこまらなくて良いわよ相変わらずね」

 

 いつも藍香さんはそう言ってくれるけど、恩人だからなあ……。

 藍香さんがいなかったら、今の自分はいないわけで。

 

 しばらくして、紅茶の入ったマグカップを2つ持った藍香さんがキッチンから戻って来た。

 

 藍香さんが腰を下ろしたのを確認して、マグカップに口をつける。

 ……うん、美味しい。ティーパックだけど。

 

 「で?どうせあんたが悩むってことは、女の子絡みでしょ」

 

 「うっ……まあ、そうです、ね」

 

 一発で図星を突かれて、思わず苦笑いしかできない。

 

 「まあ、初めて会った時から、分かってたことだけど……将人は色々と緩すぎるからねえ。狙われるのも当然というか」

 

 「そんな緩いつもりないんですけどね……」

 

 自分が特別そういったことに緩いとはあまり思えていない。

 バーの先輩達も、多分そんな感じだし……。

 

 「ふーん。じゃあ例えばだけど」

 

 藍香さんが、持っていたマグカップを机の上に置いた。

 

 「私がさっき、将人の紅茶にだけ睡眠薬を入れたとしたら?」

 

 「え?」

 

 一瞬、思考回路が止まる。

 目の前に座る藍香さんの目が真剣で、笑い飛ばすような空気でもなくて。

 

 「い、いやいや、だって、そんなことしないじゃないですか、藍香さん」

 

 「そう?分からないわよ。私と将人はまだ会って1年も経ってないの。ここまで面倒を見たのも、貴方の見た目を気に入ったからで、バーで働かせたのも、将人の良さを存分に皆んなに知ってもらったあと、自分が楽しむためだけだったとしたら?」

 

 ……絶対にない、と言い切れないのが悔しかった。

 藍香さんと出会って確かにそんなに長いわけではないけれど、そんなことをする人じゃないって、分かっているはずなのに。

 自分の認識の甘さ故に引き起こしてる状況を考えれば、そんな楽観的なことを言って良いのかすらわからなくて。

 

 藍香さんが席を立って、俺の隣に腰を下ろした。

 大人の女性らしい、気品のある香水の香り。

 藍香さんだから、嫌な感じはしないし、ただ黙って座っていることしかできなかった。

 

 「ってことで、いただきます」

 

 藍香さんの顔が、近づいてくる。

 ここまでしてもらっているんだ。何をされたって、文句なんか言えないし――

 ぎゅっと、目を瞑る。

 

 

 「いてっ!」

 

 

 額に走る痛み。

 目を開けば、人の悪い笑みを浮かべた藍香さんは、俺にデコピンを放った直後だった。

 

 「ま、冗談よ」

 

 「本当に心臓に悪いんでやめてくださいよ!」

 

 「ふふふ、でもそのわりには嫌がらないのね」

 

 「……ここまでしてもらってる藍香さんに、逆らうのは違うかなって……」

 

 「優しいのね。私があと10コくらい若かったら遠慮なくいただいてたでしょうけど。生憎、私は将人を立派に育てると決めたからね」

 

 よいしょ、と見た目に似合わない言葉をつぶやいて、藍香さんが元の位置に戻る。

 

 「話を戻すけど。あなたは優しいから、これからもきっと色んな女の子からアプローチを受けると思う。それをいなすためには2つ方法がある」

 

 藍香さんが、人差し指を立てた。

 

 「1つ目は、性格を矯正して、女の子を極力避けること。なるべく干渉しない。優しくしない。関わらない」

 

 ……確かに、その行動はこの世界では正しいのかもしれない。けど、俺は――

 

 「そんな顔しないの。分かってるわ。将人がそれをできないことくらい。だから、もうひとつ」

 

 俺の気持ちを見透かしたように、藍香さんがポンポンと俺の頭を叩いた。

 

 そして、2つ目、と再び指を立てる。

 

 「もう、早く相手を作っちゃいなさい。1人でも2人でもなんでも良いから」

 

 「え」

 

 「結局、自分を愛してくれて、いつも一緒にいる存在がなによりの女除けになるのよ。だから、これ以上悩み増える前に、先に付き合って、恋人作っちゃいなさい」

 

 ……それは、奇しくも自分が考えていた事と一致していた。

 誰かと、付き合う。恋人になる。

 

 昔それを経験した時の記憶は、今でも尚俺のトラウマとなっているけれど。

 いつまでもそれを理由に逃げ続けるわけにはいかないんだ。

 

 「あなたが思っているより、付き合うのも悪くないわよ。……それに、信じてみても良いんじゃない?あなたのことを本気で好きと言ってくれる、その子達のことを」

 

 「信じる、ですか……」

 

 確かに、勝手に決めつけていた。

 自分が特別扱いできるかわからないから、また前のような二の舞になるかもしれないと。

 

 でも、今俺の周りにいるあの子達の好意を受け止めて、本当にそんな結果になるだろうか?

 自意識過剰かもしれないけれど、そんな簡単に幻滅されるとは、あまり思えなかった。

 

 「そう、ですね。そう、します」

 

 「うん。それが良いわ。あと、そんなに先延ばしにするのもどうかと思うし……3月までには決めなさい」

 

 「え」

 

 ちょうど、年を越すまであと少しというところ。

 確かに、もう告白を受けている身としては、むしろ3月までは先延ばし過ぎと言われてもおかしくない。

 ただ期限を設けてもらわなければ、だらだらと答えを出せずに苦しむ未来も容易に想像ができた。

 

 「が、頑張ります」

 

 「よし。良く言った。それでこそ私の見込んだ男の子よ」

 

 3月までに、答えを出す。

 誰と、恋人になるのか。

 

 選ぶなんておこがましいし、正直皆魅力的な女の子だ。俺には、もったいないくらい。

 けれど俺がちゃんと自分の意見を伝えないと、未来ある彼女達を立ち止まらせてしまうから。

 

 答えを出そう。

 

 

 「あ、れ」

 

 明確にやるべきことが決まったからだろうか。

 急に眠気が襲ってくる。

 ……え、こんな急に?

 

 「あ、そうそう。さっき冗談って言ったけど、本当に睡眠薬は入れておいたから」

 

 「な……んですと」

 

 にっこりと笑みを見せる藍香さんが取り出したのは中身のなくなった小瓶。

 

 「睡眠薬っていうか、ただの市販の睡眠導入剤だけどね。それでも一番強いの買ってるのよ私」

 

 そう言いながら、藍香さんが俺の身体をひょい、と持ち上げて、ベッドの上に乗せる。

 ……この世界の女の人って力強いのデフォルトなの……?

 

 「目のクマも酷いし、悩んで無理しすぎよ。やること決まったなら、今日はゆっくり寝なさい」

 

 毛布と布団を優しく被せてくれて、否応なく俺の意識は溶けていく。

 撫でられる頭が、心地よい。

 

 生まれてからすぐ施設で育った俺は、真の意味で家族のぬくもりを感じたことはない。

 出会ってまだ1年も経っていない藍香さんを、母親代わりと思うのは早すぎるけど、でも。

 この人がいるから、生きていられるのは紛れもない事実で。

 感謝なんて、いくらしたって足りないくらいだ。

 

 誰と恋人になるのか。まだ答えは出てない。

 

 けれど、この人とはずっと、こんな関係でいたい。

 藍香さんと、この世界で出会えて俺は本当に幸せだったと思うから。

 

 

 「おやすみ、将人」

 

 

 意識を、手放す直前。

 

 さっきは少し痛みが走った額に、柔らかく何かが触れた気がした。

 

 






ご無沙汰しております。こーたろです。

掲載にもだいぶ間が空いてしまい、申し訳ございません。
未だに読んでくださる皆さまに、感謝を。

ここから物語はラストスパート。
確実に今年中には完結いたしますので、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。

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