貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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ツンデレ系OLは伝えられる

 

 

 「はぁ……」

 

 一人暮らししている家に帰ってきて、初めにしたことはため息だった。

 

 年末年始、一応実家に帰って数日を過ごしたものの、その数日はとても楽しいとは言い難いもので。

 

 「なーにが早く結婚しろだよ余計なお世話ね」

 

 冬用のコートを脱いで、クローゼットにしまい込む。

 実家に帰って言われたのは、やれ彼氏はいるのかだの、やれ早く結婚しろだの。

 

 それしか言う事ないのかしら。

 まあ男性が減ってきている世の中だからこそ、親戚の人達が忠告してくれているのは、分かるけど。

 

 ただ、なんの生きがいも無く生きていた頃から比べれば、だいぶマシになった方だと思う。

 

 私服を買うようになった。

 髪の手入れもやるようになった。

  

 それも全て、将人のおかげ。

 

 将人と出会う前は、本当に悲惨だったと今でも思う。

 生きる意味を感じなかったし、ただ漫然と日々を過ごしていた。

 あのままだったら……と思うとぞっとする。

 

 久しぶりに会った親戚達からも、元気そうで安心した、とは言われたしね。

 ……流石に理由は言わなかったけど。

 

 

 お風呂に入って、ドライヤーで髪を乾かしていると、スマホに通知。 

 この通知音は、将人からだ。当然、将人からの連絡だけ音を変更してあるのですぐに気付ける。

 

 《将人》『明日も出勤してますよ~!僕実家ないんで、ずっとこっちにいました笑』

 《将人》『あ、全然気遣わないでくださいね!今の環境全然好きなので』

 

 「……可愛いんだから」

 

 明日は金曜日だけど、まだ年末年始の範疇ではあるから、将人がもしかしたら出勤してないのかもなと思ったが、どうやらいるらしい。

 お店自体も明日からみたいだし、丁度良かった。

 

 《星良》『そっか、じゃあ明日会いに行くわね』

 《星良》『そうやって、まず相手を気遣える貴方が好きよ』

 

 最近よくこんなことをなんの恥ずかし気も無く送れるようになったなと思う。 

 良い変化なのか、と言われたら正直微妙な気はするけれど、どす黒い感情で追いかけまわしていた頃よりはマシかな。

 

 髪を乾かし終わって、ベッドへダイブ。

 仕事が始まるのは明後日からで、明日はまだ休み。 

 せっかく将人に会えるのだし、何を着ていくか決めておかないとね。

 

 とはいえ起きるのはだいぶゆっくりでも大丈夫なので、今日は疲れた身体をちょっとでも休めるためにも、午前中は惰眠を貪ることにしようかしら。

 

 そう思っていると、将人から再び通知。

 いつのまにやら、だいぶ時刻は深夜と呼べる時間帯に入っていたみたいだ。

 

 《将人》『はい!待ってます!』

 《将人》『いやそんなんじゃないですって……笑』

 

 全く、照れ屋さんなんだから。まあそこが宇宙一可愛いんだけど。

 おそらくこれでメッセージは終わりだろうと思い、ちょっと時間を置いて返信をしようとベッドの上にスマホを置こうとして。

 

 もう一度、通知音が鳴る。

 なんだろう、と思って、もう一度スマホを手に取った。

 

 《将人》『あ、そういえば明日話さなきゃいけないことがある、ので忘れないように今の内にそれだけ伝えておきますね』

 

 ビクリ、と身体が固まった。

 話さなきゃいけないこと……?

 まだ中学生とか高校生の私なら「え、告白……?!」ってそわそわすることもできたかもしれない。

 けれど、今の私はそんなことではないと、分かるから。

 お風呂で温めたばかりの身体が急に冷えていくのが分かった。

 

 なんだろう。

 バーを辞める……?いや、それだけならまだ良い。

 最悪の場合、彼女ができたのでもう会わないで下さいとか……。あり得る。

 今まで彼女がいなかったのがおかしいくらいの子なのだ。 

 

 そうでなくても、好きな人ができたので関わらないで下さい、とか……。

 思いつくのは全て、自分にとって嫌なことばかり。

 これは私がネガティブだからというのも、もちろんあるかもしれないけれど。

 客観的にあり得る事象を考えた時に、私にとって嬉しい話である可能性なんて、1ミリしかないのだ。

 

 冷えた身体を誤魔化すように、布団にくるまる。

 もし、明日話される内容が、私の想像通りだったとしたら。

 

 「明日、会えるのが最後……?」

 

 決まったわけじゃない。

 もしかしたら本当になんてことのない話かもしれない。

 そう気持ちを誤魔化そうとしても、悪い想像は止まらなくて。

 

 気付けば、濡れてしまった枕を私はベッドの隅に追いやっていた。

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 「あけましておめでとうございます、星良さん」

 「ええ、あけましておめでとう、将人」

 

 私はいつも通りの時間に、バーに来て将人と会っていた。

 結局、夜は全然眠れなかったけど、午前中一杯寝ていたからなんとか体力は保っている。

 

 けれど、将人に会う時間が近づくにつれ動悸が酷くなって、今も平静を装うのでいっぱいいっぱいだ。

 

 「……あれ、星良さんちょっと顔色悪い?体調悪かったりします?」

 「いえ、そんなことないわ、平気よ」

 

 将人にも気付かれてしまったようで、誤魔化すために頼んでおいたハイボールを呷る。

 

 いくらお酒で誤魔化しても、限界があると私は思ったから。

 

 「それで、話ってどうしたの?」

 

 早速、切り出すことにした。

 

 「あ~……えっとですね……」

 

 いきなりその話題を振られると思っていなかったのか、いつもと同じスーツ姿の将人が話しにくそうに、天を仰ぐ。

 なんだかその時点で、私に良いことではないなと思ってしまって、更に心臓がきゅっ、と縮んだ。

 

 「あの、星良さんって、僕の事その……好いてくれている、ってことで、あってますかね……」

 

 「へ?」

 

 一瞬、面食らう。

 けれど言ってる意味はちゃんと頭で理解してて、「ああこの言い方めっちゃ気持ち悪いなえっと……」と言い直そうとしている将人に申し訳なかったから。

 

 「ええ。何も間違ってないわよ、私は世界で一番貴方のことが好きな女よ」

 

 「急にすごい剛速球ですね?!」

 

 お酒を飲んでないのに顔が赤くなる将人が可愛い。

 この反応を見るためにいつも一週間仕事を頑張っているのだ。

 

 少し間を置いて。

 将人が、一つ咳払いをした。

 

 「えっと、そう言ってもらっているのに、いつまでもこう……なにもお返事を返さないのは、良くないんじゃないかと思ってまして」

 

 「……っ」

 

 やめて、とすぐに思ったのは、なんでだろう。

 

 「実は、前に話したように、星良さんの他にも、そう伝えてくれている子がいるので、いつまでも引き伸ばしているのは、気が咎めると言いますか」

 

 その続きを聞きたく無くて、下を向くことしかできない。

 

 「だから、えっと……今年の3月までに、自分なりに答えを出そうと思っているので、それまで、待っていてくださいという、話でした」

 

 「……3、月……?」

 

 「はい。それまでに整理して、考えて、答えを出します」

 

 顔を上げて、将人の瞳を見た。

 その表情は、真剣そのもので。

 私が、人生で初めて本気で好きになった人だと、再確認すると同時に。

 

 私の心には――絶望が押し寄せていた。

 

 「えっと、ほら、私前に言ったじゃない。キープでも良いって。別にそんな急がなくても……」

 

 「やっぱり、俺にはそんなことできないですよ。星良さん素敵な人だし。いつまでも答えを出さないのは、不誠実だと思って」

 

 ダメだ、将人の意志は固くて、揺らごうとしない。

 胸の内から気持ち悪いほどの寒気が押し寄せて、必死で、将人の手を握った。

 

 「ね、ねえ。じゃあその3月が過ぎたら、その。バーを辞めるとか……」

 

 「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい星良さん、大丈夫、大丈夫ですから」

 

 背中を、さすられる。

 まずい。これじゃあ昔のまま。

 一旦落ち着くために、もう一度ハイボールを一口飲んだ。

 

 「今の時点で、バーを辞めるとか、そういうことは考えてません。そもそも、ここで働かないと暮らしていけないですし」

 

 「そ、そう……」

 

 一応、今日が将人に会える最後の日になる、という最悪の事態は回避できた。

 だからと言って、分からない。

 将人はこう言ってくれているが、仮に将人が選んだ女の子が、バーには出勤しないでくれ、と言ったらどうだろうか。

 私が将人の同級生だったとして、こんな場所でこんな女に接客していると知ったら、少なくとも良い気持ちはしないだろう。

 

 ぎゅっと、自身の身体を抱き締める。

 嫌な想像は、その後もずっと、頭の中を巡り続けていた。

 

 

 

 お酒を飲んで気を紛らわせて、とにかく今日が最後ではないと分かったから、暗い顔はなるべくしないように、将人との一日を楽しんで。

 いつものように、「また来週ね」と伝えて、店を後にした。 

 

 そして電車を降りた後の帰り道、改めて私は考える。

 

 「3月……」

 

 あと、3ヶ月。

 私に与えられたタイムリミット。

 これで私が、「選ばれるように頑張らなくちゃ!」となれる女なら、どれだけ良かったか。

 

 「ははは……あり得るわけないじゃない」

 

 あり得ない。

 私が選ばれることなんて、1ミリも。

 

 思い出してみる。将人と出会った事。

 そして、将人に対して、私がした事。

 

 ストーカーして、みっともなく縋って、いつ絶縁されてもおかしくないような状態なのにも関わらず、将人が優しいから切り離されなかっただけだ。

 

 ヒールで、湿ったアスファルトを蹴ってみる。

 少しも、気分が晴れることはないと分かりながら。

 

 将人の近くにいる女の子は、知っている。

 大学生の子は、眩しかった、可愛かった。私なんかよりもよっぽど、彼とお似合いだ。

 

 第一、許されるはずがないのだ。

 私は、彼をストーカーしていたことを、彼に言ってない。

 もちろん、もうそのメモは消したし、結局、何にも使っていない。

 けれど、ストーカーして、彼の本名を、住所を、知ってしまったという事実は、何も変わらない。

 

 〝資格”が無いのだ。

 私だけは。彼の隣に立つ資格が。

 

 それを分かっていたから、私は「キープでも良い」なんて言って、みっともなく縋りついた。

 なんとか一緒にいさせて欲しいと、醜くも願った。

 

 空を見上げれば、曇り空が広がっている。

 見えない。月も、星も。

 

 3月。

 あと3ヶ月で、審判の時は来る。

 私が、将人と一緒にいられる時間は、あと3ヶ月。

 

 「まあ、そうよね。私なんかが、手の届く人じゃなかった、だけ……」

 

 声が、出なかった。

 

 嫌だ。

 またあの頃のように、生きる意味さえ見つけられない日々に戻るのが。

 

 ……じゃあ、いっそ、無理やりにでも……。

 

 「やめて……やめて!」

 

 汚らしい感情を、必死で振り払った。

 もうこの黒い感情に振り回されることだけは、しないと誓ったから。

 

 その時は、潔くいなくなろう。

 彼にとって、その方が絶対に良いのだから。

 

 ……とにかく、あと3ヶ月は、彼との時間を目一杯楽しもう。

 それが、人生で最後の楽しい時間になるかもしれないから。

 

 深呼吸して、歩き出す。

 必死に、気持ちを切り替えたふりをして。

 

 ……良かった。

 今いるのが深夜の、誰もいない住宅街で。

 

 ……こんな醜い女の嗚咽なんて、誰も聞きたくないのだから。

 

 

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