貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)   作:こーたろ

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バスケ部JCは懇願する

 

 由佳とのバスケ練習は、場所を変えつつ、まだまだ継続していた。

 

 「うわ、それもできるようになったの……?」

 「はい!練習しました!」

 

 由佳の成長速度はすさまじく、最初に会った頃から既に上手だったこともあり、中学生相手では手が付けられないような状況になってしまった。

 外のシュートの成功率も上がっているし、本当に選抜とかに選ばれてもなんらおかしくない仕上がりである。

 っていうかこの前地区の選抜合宿みたいなのに参加したって言ってたっけ。

 お兄さん鼻が高いよ。

 

 「ふっ……!」

 「良いね!なるべくボールは見ないで、左手でディフェンスを制するようなイメージで」

 それでも、まだ俺が教えられることはある。

 そろそろ尽きそうで怖いけれど、流石にまだまだ俺の方が秀でている部分は多い。

 高校生になったら俺くらい普通に超えちゃいそうなので、それまでに伝えられることを全部伝えてあげたいね。

 

 今由佳にバスケを教えているこの場所は、由佳の家からほど近い、市民体育館。

 最近は寒くなったこともあり、屋内での練習が増えている。

 由佳は「外でも大丈夫です」と言うのだが、汗かいた後に冷えると風邪のリスクも高まるし、この季節は屋内が無難だろう。

 

 ただ、市民体育館だと他の利用者もいるし、時間も限られているしで、練習の制限は多い。

 

 「よし、少し休憩しよっか!」

 「はい!」

 

 幸い、他の利用者が1組だけで、今はコートの半分を使えているので、休憩してもコートが取られる心配はない。

 ベンチに置いておいたスポーツドリンクを飲んで休憩。

 由佳も、持ってきた水筒から水分を補給している。

 ちょっと時間を置いてから。

 

 「よし、由佳じゃあ最後に1on1やって終わろうか」

 「はい!」

 

 最近は、練習の最後に1on1をやるのが恒例になっている。

 まあ、一度負けたこともあるし、当然こっちも真剣だ。

 

 由佳がボールを持って、オフェンス側。

 こちらがディフェンスだ。

 

 「あ、あの」

 「ん?」

 

 由佳がこちらにボールをパスして、それを返したらスタートが流れなのだが、由佳がこちらにボールを寄越す前に、少し顔を紅くしながらこっちを見てきた。

 ……嫌な予感が。

 

 「か、勝った時のご褒美は何か、ありますか」

 「あ~……」

 

 今回は誤魔化せると思ったのに……。

 最近、由佳と1on1する時に『俺に勝ったらご褒美』みたいなのが慣例化してきている。

 それ自体は良いんだけど、由佳の要求がちょっと……。

 でもだからと言って、この申し出を受けるのと受けないとでは、由佳の実力発揮度合が段違いなのだ。

 不健全だ!そんなことなくてもちゃんとやる気出しなさい!!

 

 「……まあ、いつも通りで、良いよ……」

 

 しぶしぶいつも通りの褒美を設定すると、由佳の顔がぱあ、と明るくなる。

 

 「じゃ、じゃあ行きますよ!」

 「急にやる気出すぎじゃないかなあ?!」

 

 バウンドパスでボールを渡されると、急に集中して真面目な表情になるのだから困る。

 

 ま、まあやる気出してくれるのは良いことなんだけど!!

 そんなご褒美無くても頑張って欲しいな?!

 

 

 ……結果。

 

 「で、では……」

 「あーうん、やる、やるよ……」

 

 5点先取の1on1で、2発連続で3ポイントを決められるなどして負けました。

 絶対に何かがおかしい。

 

 更衣室での着替えも終えて、俺達がいるのは市民体育館の裏のスペース。

 道路と面していない方の裏口であることから、人通りは少なく、見られることもあまりない。

 体育館から響いて来る音がするだけ。

 

 ご褒美(意味深)をあげる時は、毎回この場所に来ている。

 不健全だよお教育に悪いよお。

 目を輝かせてばっ、と手を広げている由佳を……俺は抱き締めた。

 

 「ふにゃあ……」

 

 由佳はこれが好きらしい。

 俺の方から求められている感じがしてすごく良いのだとか。

 ま、まあ?抱き締めるだけならセーフ……なわけないか。

 罪悪感は感じつつも、もちろん由佳のことは好きなので悪い気もしないのが……本当に良くない。

 

 しばらく、由佳が満足するまで、そのままの姿勢を続ける。

 誰か来たらどうしようというヒヤヒヤがすごい。

 つ、通報とかされる可能性ありますか?

 多分この世界なら、通報とかはされないんだろうけど……。それでも良くない事であるのは確かなので。

 そろそろ満足したみたいなので、由佳から身体を離すと。

 

 「あ、ちょっと待って下さい」

 「ん?」

 

 離れる瞬間、何か俺の顔についてるのを見つけたのか、由佳がじっ、と俺の顔を見てきた。

 

 「目瞑ってもらって良いですか?」

 「うん、大丈夫」

 

 葉っぱとか頭についてたんだろうか、と思って目を瞑ったその瞬間。

 

 唇に、柔らかい何かが触れた。

 

 それが、由佳の唇だと気付くのに、数秒かかってしまう。

 

 「由佳……!」

 「へへへ、今日は勝ったので、許して下さい」

 

 中学生とは思えない、妖艶な笑みを浮かべる由佳。

 

 ……本当に、とんでもない子になってしまった。

 このままではとんでもない悪女になってしまうんじゃないか???

 

 「行きましょう!」

 

 俺の手を引いて、由佳が歩き出す。

 その笑顔を見てしまうと、なんでも許してしまいたくなってしまうから、本当に困ったものだ。

 

 

 綺麗なお皿に盛りつけられたチーズケーキを、由佳が丁寧にフォークで口へと運ぶ。

 

 「これ、すごく美味しいです!」

 「良かった良かった」

 

 バスケの練習を終えて、俺は喫茶店に由佳を連れてきていた。

 あまり遅くになるのは良くないが、まだギリギリ夕方くらいの時間だし、由佳の親御さんにも連絡してもらっている。

 

 もちろん普段から頑張っている由佳への労い……もあるのだけれど。

 今日の本題は、実は別にあって。

 

 「実はね、由佳に話さなくちゃいけないことがあって」

 「……なんですか?」

 

 咀嚼を終え、飲み込んでから。

 俺が少し真面目な雰囲気で話したからか、由佳も身構えるように姿勢を正した。

 

 俺が伝えなきゃいけないこと……それは、今年の3月までに、自分の中で答えを出すこと。

 つまりは、誰かを恋人にするのか、その決断を下すという事。

 

 その話をしていると……先ほどまで花が咲いたようにきらきらとしていた由佳の表情は、段々と暗くなってしまった。

 

 

 「そ、れは……そんなに早くないと、ダメなんですか?」

 「俺、ダメな奴だからさ、由佳への返事もずっと保留しちゃってるし、前に話したけど、他の人に対しても、保留しちゃってるんだ」

 「ダメなんかじゃ、無いです」

 

 初めに気持ちを伝えて来てくれた、由佳に対して、未だに答えを返せていない。

 それはもちろん、由佳が「まだ返事しなくて良い」と言ってくれていたこともあるけれど。

 他の人の気持ちも受けて、そのままにしておくのは、良くないし。

 

 もし仮に由佳を俺が選ばないのなら、こんなに若くて周りからも絶対に人気な由佳を、俺に縛り付けてしまうのも良くない事だから。

 由佳が、地面を見つめながら、ぽつりと呟く。

 

 「でも、それだと、私って、一番、ダメ、ですよね」

 「……」

 

 もちろん、由佳のことだってちゃんと考えて答えを出すつもりだ。

 けれど、由佳自身が、自分は選ばれないと思ってしまうのも、無理はなくて。

 それは、年齢差というあまりにも大きな壁があるから。

 

 「ば、バスケ!」

 「え?」

 

 由佳がばっ、と顔を上げて、何かを思いついたように、言葉を発する。

 

 「私、バスケ上手く、なりましたよね?」

 「それはもう、もちろん」

 「わ、私、バスケと同じで、成長、しますから」

 「……!」

 

 それは……懇願だった。

 

 「将人さんが好きになっちゃうような、素敵な女の人になりますから」

 「もう3年もして、高校生、大学生になったら、将人さんに似合う人になりますから……!」

 

 「だから、まだ、私にもチャンスを下さい」

 

 由佳の瞳が、揺れている。

 それがどうしようもなく、俺の心をかき乱す。

 

 「……ちゃんと、伝わってるよ」

 「……ほんと、ですか?」

 

 嘘はつかない。

 心から思っていることを、由佳に伝える。

 由佳の顔を、正面から見つめた。

 

 「もちろん、最初は由佳のこと、妹みたいに思ってたし、今もそれが無いとは言い切れない、だけど」

 

 思い返すのは、あの日の事。

 由佳が俺をバスケで負かして、想いを伝えてくれたあの日の事。

 

 「あの日から、沢山想いを伝えてくれて、俺自身の考え方を変えてくれたのは、由佳だから」

 

 紛れもない本音だった。

 由佳に想いを伝えられてから、俺の日常は変わっていった。

 

 「ちゃんと、公平に考えるよ」

 「それなら……わかり、ました」

 

 中学生を相手に真面目に考える、なんて。

 普通に考えたら犯罪だし、気持ち悪いことなのかもしれないけれど。

 今まで由佳が必死に伝えてくれた想いを、無下にすることの方が嫌だったから。

 由佳のことも、真面目に考える。

 これは俺が自分で決めたことだ。

 

 「それに、由佳とこれから一切かかわらなくなりますとかは、あり得ないから」

 「絶対、ですよ」

 

 由佳との関係を切るつもりは一切無い。

 これからもどんなにバスケが上手くなるのか、気になるし。

 なによりせっかく、こんなにも仲良くなれたんだから。

 

 それから。

 ようやく少し落ち着いたのか、再びチーズケーキを食べる由佳を、俺は見守り続けた。

 

 

 





♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦


 いつも本作を読んでいただきありがとうございます。
 作者のこーたろです。
 お知らせが2点、ございます。

 1点目は、本作のコミカライズ2巻が、8/26に発売となりました。
 表紙は今話のメインでもある由佳。非常に可愛い表紙になっていますので、是非読んでみてください。そして買ってくださった方は是非、表紙のカバーを外してみてください。その下にはとってもセンシティブな……げふんげふん、可愛らしいイラストが見れますので。是非に。
 伴い、電撃ノベコミ様より、コミカライズとの連動企画で、ショートストーリーをヒロイン全員分書かせて頂きました。
 こちらも素敵なイラストをコミカライズ担当の桃季先生より頂いておりますので、是非ご確認下さい。水着とか浴衣とか見られるよ!

 詳細は作者Xか、電撃文庫のXをご確認くださいませ。

2点目は、作者が新作を書き始めました。
現在15話ほどカクヨムにて掲載中です。
本作と同じく、恋愛感情の重い女の子達を描いておりますので、興味のある方は是非読んでみてください。
https://syosetu.org/novel/383904/
タイトルは『二周目の彼女達が重すぎる!』です。
タイトルの通り、主人公以外のヒロイン達がタイムリープして高校生活2周目を生きることになり、1周目では結ばれることのできなかったヒロイン達が、血眼になって主人公を落としにくるお話です。

もちろん、本作は完結まで必ずお届けしますので、そこはあしからず。
以上、お知らせでした。
最後まで、本作をよろしくお願い致します。
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