貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?) 作:こーたろ
「か……由佳……由佳!」
「ほえ?」
窓の外をぼーっと眺めていた私の意識は、後ろの席に座っている友達の声で戻された。
授業中だったことを思い出して、慌てて前を向くと、黒板の前にいる先生がこちらを見ていて。
「前田……授業聞いてたか?」
「え?!……あ、え~っと……ごめんなさい」
「……ったく。部活で忙しいのは結構だが、ちゃんと授業も聞くように」
「すみません……」
周りの視線が、私に集まっているのが肌でわかる。
うう、恥ずかしい……。
改めて机と向き合い、空白が目立つノートに、黒板に書いてある内容を板書していく。
……私が最近集中できていないのは、部活が理由なんかじゃない。
『実はね、由佳に話さなくちゃいけないことがあって』
ついこの前、将人さんから言われた事。
3月までに、答えを出すと言われてしまった。
それは、私にとってはあまりにも早くて。
……だって、わかっていた。
今までずっと、妹としてしか見られていなかったこと。
それがようやく少しずつ、女の子として見てもらえるようになっていたのに。
学年も変わらない、3月までじゃ私に勝ち目なんか無さ過ぎて。
「……っ」
油断すると、すぐ涙が出てきそうになる。
嫌だった。
将人さんとお別れになるかもしれないという事実が胸を締め付ける。
将人さんと一緒にいたい。
付き合ってほしい。
恋人として、隣に立っていたい。
ずっと、一緒にいたいのに。
部活動にも、明確に影響が出てしまっていた。
「由佳!」
「あっ……!」
パスのキャッチミス。
普段なら絶対にやらないようなミスで、ボールを奪われてしまう。
そのまま相手の速攻になって、点数を失った。
「休憩~!」
キャプテンの号令で、一度休憩に入る。
私は体育館のすみっこに、タオルをもったままうずくまった。
バスケをやっている時間も、思い出さない方が難しい。
いやむしろ、授業中なんかよりよっぽど、バスケをしているときの方が思い出してしまう。
だって、バスケは将人さんとのつながりを強く意識してしまうから。
今までもずっと、将人さんのプレーをお手本にして、バスケをしてきたから。
左手につけたリストバンド。
裏には「MK」の印字。
上手くなった自分のスキルも、将人さんと一緒に積み重ねてきたもので。
「由佳」
「……キャプテン」
顔を上げると、ポニーテール姿のキャプテンが、水筒をもって立っていた。
差し出されたそれを受け取って、ありがとうございます、と小さく言う。
さっきのミスにしても、今日はずっと私の調子が悪い。
それを心配して、声をかけてくれたのだと思う。
「どしたの、暗い顔して」
「ちょっと……落ち込むことがあって」
「あのお兄さん関連か」
「?!」
私の隣に腰を下ろしたキャプテンが急にそんなことをいうものだから、びっくりしてしまう。
確かにキャプテンは……というより部活のみんなは、将人さんが試合を見に来てくれたことがあるので、存在は知っている。
だとしてもそれが原因だと当てられるとは思っていなくて。
「な、なんで」
「由佳の悩みで一番最初に思いつくのはそれだったから?相当お熱だったもんね?」
「~~~~!」
恥ずかしくて、思わずタオルで顔を覆ってしまう。
そんなにわかりやすいかなあ?!
少し、間があって。
「なに、フラれちゃった、とか?」
「……それに、近いというか」
キャプテンにぽつぽつと、事情を説明する。
それを聞き終わると、キャプテンは「それはつらいな」とつぶやいて、少し考えてから。
「私は彼氏同級生だから、由佳の気持ちを理解してあげることはできないけど……仮にあのお兄さんに彼女ができたとしてもさ、嫌いになる必要はないと思うんだよね」
「……え?」
「いや、だって今は歳の壁があるわけじゃん。だから、好きでい続けて、由佳が今よりもっと魅力的になったら、お兄さん由佳のこと好きになってくれるかもしれないし」
キャプテンは、私の目を見て笑う。
「時代は変わってるよ。別に彼女がいる男を好きになっちゃいけない理由なんてないし……ってかそもそも知り合った時はいなかったわけだし……。それにさ、どうせ諦められもしないでしょ?」
「諦められは……しない、と思います」
正直、将人さん以上の人なんていない。
それはきっと変わらないと思う。
「でしょ?知ってるよ私、由佳が男バスのメンバー虫けら見るみたいな目で見てるの」
「そんなことはないですよ!?」
そこまでではないよ!?
将人さんの方が上手いのなんて当たり前なんだし!
「ま、そんな感じでさ、もしダメだったとしても、好きでい続ける気持ちを否定する必要はないんじゃないかなって思うよ。それに、由佳かわいいんだから意外と普通に付き合えるかもしれないし!」
「そ、れは……」
「ない話ではないでしょ!由佳大人びてるし……見た目だけじゃなくて、むっつりなとこも」
「キャプテン!」
きゃー怖いーと言いながら、キャプテンが皆のもとへ戻っていく。
む、むっつりなんかじゃないんだから。
思わず立ち上がってしまった状態で、手のひらをぐーぱーしてみる。
確かに、もし選ばれなかったとしても、諦める理由にはならない。
会えなくなるとかは絶対にない、とも言ってもらったし。
そう考えるとちょっとだけ、肩の荷が軽くなったような気がした。
その週の、日曜日。
私は将人さんとバスケをしに、市民体育館まで来ていた。
「由佳動き良くなったね」
「ありがとうございます」
今日は、調子が良い。
キャプテンに話を聞いてもらって少し楽になった私は、しっかりと身体も動いていた。
選抜チームにも選んでもらってるし、もっとうまくならないと。
「じゃあ最後に1on1やろうか」
「お願いします!」
いつも練習の最後に1on1。
最近は、将人さんからご褒美がもらえるという私の下心パワーでなんとかしてたけど……今日はしっかり攻めて勝ちたい。
そんな気分だった。
バウンドパスでボールをもらって、私のオフェンス。
スリーは撃たない。将人さんの横に切り込んでいくドライブ。
「相変わらず速いな……!」
そうは言いながらも、将人さんは必ずついてきて、私の進路をふさぐ。
すかさず私はバックステップを入れて距離をとる。
「させるか……!」
私がフックシュートという武器を手に入れたことをしっているから、将人さんはこのバックステップにもついてくる。
ついてくるということは……。
「……マジかよ」
そこに隙もできるということ。
フックシュートを囮に、私は軸足だけを固定して反対の足を動かすピボットを使いゴール下まで侵入。レイアップの要領で、シュートを決めた。
「……選択肢が増えたから、ますます止めるのが難しくなってきたね」
「えへへ、ありがとうございます」
今度はディフェンスの姿勢をとりながら、私はボールを持つ将人さんをまっすぐに見た。
「私、成長しますから」
「え?」
それは、私なりの決意表明。
「今は、意識してもらうのが難しくても……どんどん成長して、今みたいにバスケも……そして、女の子としても、意識してもらえるように、成長しますから」
将人さんは少しびっくりしたような表情をしてから……。
……なぜか、ちょっと顔を赤らめて。
「あの、ごめん一個だけ訂正しても良いかな……?」
「え?」
思いもしない反応に、私も一旦ディフェンスの姿勢を解いてしまう。
「……あの、もう意識は十分……してます」
「……!」
「っていうかあんなことたくさんされて意識しないのは無理っていうか……そこはもう……はい……いやこんなこと言うのおかしいけどさ!」
どうしようもなく、胸が熱くなる。
……じゃあ、私のやることはひとつ。
「じゃあ、今日も勝って、もっともっとたくさん意識してもらえるようにたくさんちゅーします」
「こんな昼間の市民体育館でそんなこと言わないで?!」
顔を真っ赤にしてわたわたと慌てる将人さんを見ながら、私は嬉しくなる。
……迷いを消そう。
3月までは自分を選んでもらえるように。
諦める必要はないんだから。
好きになってもらえるように、全力を尽くそう。
それは今までと、変わらないんだから。