貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?) 作:こーたろ
恋海とのデートが終わり。次にデートをすることになったのは由佳だった。
……仕方ないんだけど、こうして次々デートに誘うのは罪悪感があるな……。
でも、これも答えを出すために必要なことだ。
由佳とのデートの行き先は、決めやすかった。
由佳との思い出はやっぱりバスケが多いので、できればバスケがしたい。その上で、ちゃんとデートもできる場所……。となった時に、俺が思いついた候補はひとつだけで。
「将人さん!着きましたよ!」
「ちょっと待って由佳!」
強く手を引っ張られながら、地下鉄の駅構内から出て、地上へ。
今日は真冬ながら晴天。階段を昇りきれば、眩しい太陽がすぐに目に入った。
「あっちですよね?!」
「そうそう、あの大きな建物がそうだよ」
由佳が指さしたのは、大きな白い建物。
都内だとかなり珍しい、大型の複合商業施設だ。
改めて見ると、その大きさが良くわかる。これなら一日中遊んでも飽きることはないだろう。
「ほら、将人さん早くいきましょう!」
こちらに振り返った由佳が、笑顔で手を差し伸べてくる。
グレーのミニスカートに黒のタイツ。茶色のダッフルコートも可愛らしい。
……最近の中学生は本当に中学生に見えないというか……。
というよりもむしろ、これは由佳が頑張って背伸びしてくれていると考えた方が良いだろう。俺とデートだから、普段よりも大人っぽい服装を選んできてくれたということ。
それくらいは、理解してあげなきゃダメだろう。
「どうしました?」
「……なんでもないよ、行こうか」
こてん、と小首をかしげる由佳。
初めて会った時は本当にバスケ少女くらいにしか思っていなかったのに、1年足らずで急に魅力的な女の子になってしまった。
……いやまあ、最初から魅力的ではあったけどさ、それは女性としてっていう意味ではなかったから。
こんなに可愛くて素敵な女の子になったことに驚きつつ……俺は由佳の手を取って、目的地へと歩いていくことにした。
まず、昼食をとるためにフードコートへ。
「すごい!いっぱいお店ありますよ!」
「なんでも選んで良いから」
建物の1階に広がる、フードコート。お昼より少し前に来たから、席にはまだ若干の余裕がある。
俺たちは2人がけの席を確保して、立ち並ぶお店の前へと向かっていった。
「……今日は私お金自分で出しますからね!」
「え、出そうと思ってたのに」
「ダメです!……いつまでも、甘えるわけにはいきませんから」
ぷい、と前を向いて自分の財布を握りしめた由佳。
中学生である由佳にはあんまりお金出させたくなかったんだけど……由佳は意外とこうなると頑固だ。
今回は諦めて、夕飯を食べるときにでも俺が払うことにしよう。
「美味しいです~!」
「良かったよ」
結局、俺はうどん、由佳はオムライスを頼んだ上で、由佳が物欲しそうに眺めていたのでたこ焼きも買うことにした。
目をキラキラさせながらオムライスを食べる由佳を見ると、こちらも嬉しくなる。
「オムライス好きなの?」
「はい!大好きです!」
笑顔でスプーンを口に運んでいく由佳。こういうところは年相応だなあ、と思っていると、急に由佳がはっ、としたようにこちらを見てきて。
「い、いま子供っぽいって思いましたよね?」
「ええ?!」
確かにちょっとだけそう思ったけど、瞳を潤ませてそう言われてしまうと、肯定しにくい。……かといって、噓をつくのも違うなと思ったので。
「……確かにちょっと思ったけど、良い意味で……というか」
「子供っぽいに良い意味なんかあるんですか……?」
「いやいや、ほら由佳バスケの時とかさ、すごく達観しているというか、大人びてるから、こういう側面もあって良いなって思っただけだよ」
「……そ、それなら良いですけど」
恥ずかしそうに、ちょびちょびとオムライスをつつく由佳。個人的にはさっきまでの勢いよく食べる由佳の方が好きだったから。
「気にしないで、たくさん美味しく食べてよ。さっきまでの美味しそうに食べてる由佳を見てる方が、俺は嬉しいよ」
「……そんなこと言われたら、嫌って言えるわけないじゃないですか」
ちょっとだけ困ったように笑った由佳。
「じゃ、じゃあこのたこ焼きも食べちゃいますからね!」
「うんうん、どんどん食べな」
再び美味しそうに咀嚼を開始した由佳。
うんうん、こっちの方が断然良いね。
昼食を終えた後は、上の階に昇ってショッピングモールへ。
「わ~!これめちゃくちゃ可愛いです!」
「確かに、由佳に似合いそうだよ」
アパレルショップに来た俺と由佳。意外にも、由佳くらいの子が来てもおかしくないようなショップはたくさんあるもので。
ターゲット層が割と近しいお店を選んで、店内を見て回っていた。
「ちょっと子供っぽいかな……」
「そんなことないと思うけどね?」
由佳が手に取ったのは、薄いピンクでフリルがあしらわれた、長袖のTシャツだった。
「もし気になるなら、着てみれば?」
「そうですね!」
由佳がそのシャツを手にもって、店員さんのもとへ。試着室に案内されるようなので、俺も由佳のことを、外で待つことにした。
すると、由佳を試着室に案内し終えた店員さんが、笑顔でこちらに話しかけてくる。
「妹さんのを選んであげてるんですか?」
「……っと」
少しだけ視線を試着室に移す。
きっと、この会話は中で着替えている由佳に聞こえているだろう。試着室はカーテンで仕切られているタイプ。遮音性はない。
中にいる由佳の動きがぴたっと止まったような、そんな幻覚すら見えたので。
「……デートなんです」
「あら!それはそれは……素敵ですね」
少しだけ驚いた後、店員さんは笑顔でそう言ってくれた。
関係性については、伏せた上で。今日は由佳とのデートだから。端的にそれだけ伝えてみた。
しばらくするとカーテンがさっと開いて、先ほどのTシャツを着た由佳が出てくる。可愛いデザインだとは思っていたし、やっぱり似合っている。
「将人さん、どうですか?」
「良いね、似合ってるよ」
「えへへ、ちょっと候補にして、他も見ますね!」
元気にそう言うと、由佳が再び試着室に戻っていく。
……ちょっとだけ、由佳の頬が赤いような気がした。
一旦Tシャツは保留して、他の店を見てみることに。由佳が気になっていたアクセサリーショップにて、俺は1つのヘアアクセサリーが目に入る。
花柄のヘアピン。だけど、いつも由佳がつけているものよりは、少しだけ大人っぽいデザインで。
手に取ってみる。……きっと今の由佳がつけたら、可愛いだろうなと思った。
「将人さん?」
「由佳、これどう?」
「!良いですね」
由佳はそのヘアピンを手に取って、髪の部分に軽く当てて。
「……似合いますか?」
「……うん、思った通り、似合うよ」
「買います!」
「即決?!」
るんるんと効果音がつきそうな足取りでレジに向かっていく由佳。
そんなにすぐ決めてしまって良いのかという心配はあるものの、あそこまで機嫌よくしている由佳を引き止めるのも忍びない。
結局、会計を済ませた由佳が笑顔でこちらに歩いてきた。
「そんなにすぐ決めちゃってよかったの?」
「はい!将人さんが選んでくれたものなので!」
笑顔でそう言われてしまうと、もうこれ以上こちらから言う事もなくて。
店を出てショッピングモールを歩きながら、由佳が「だって」と呟いてこちらに振り返る。
「今日は『デート』ですもんね」
「……やっぱり聞こえてたか」
「えへへ」
どうやら、試着室前での会話は聞こえていたらしい。
ちょっと気恥ずかしいけれど、喜んでくれてるみたいだし、良いか。
嬉しそうに、歩を進めていく由佳の背を、俺も急いで追いかけた。
「ここですね!」
「そうそう」
ショッピングを終えて、俺たちはこの複合商業施設の最上階にたどり着いた。
この施設の特徴は、この最上階にいろんなスポーツが遊べるアミューズメント施設があること。
もともと今日の最後は、ここでスポーツをする予定だったので、この場所を選んだ節がある。
俺と由佳は受付を済ませた後、さっそく色々な競技ができる屋上へ向かった。
「将人さん将人さん、バッティングみたいです!」
「お、良いよ~」
由佳にも、俺が元々野球をやっていたことは話した。右腕を怪我していたことは由佳に気付かれていたので、その原因を話した形。
それにしてもバスケを見てるだけで怪我に気付く由佳の観察眼は恐ろしい。
俺は125kmと表記されたバッティングケージの中に入ると、用意されているバットを手に取った。
「頑張ってください!」
「そんな気張るようなものでもないけど!」
後ろのネット越しに、由佳が見ている。
まあでも、カッコ悪いところは見せたくないし頑張るか。
「わあ!すごい!」
野球なんてしばらくやっていないけれど、体は動きを覚えているもので、簡単に打ち返すことができた。
打つ分には怪我もあまり影響しないんだよね。
20球を打ち終わって、後ろを振り向くと、由佳がキラキラとした目でこちらを見ていて。
「すごいすごい!私もやります!」
……なんだか、初めてバスケを一緒にやった日のことを思い出すな。あの時も、こんな感じでキラキラした目を向けてくれたっけ。
ケージを出て、今度は由佳の番だ。
「じゃあ球速どうしよっか、90くらいで打ってみる?」
「ぐぐぐ……まあそのあたりで手を打ちましょう」
「なんでそんな不満そうなの……?」
これはもとから知っていたけれど、相変わらず負けず嫌いだよな……まあスポーツやる人間なんて負けず嫌いの方が良いと思ってるけど。
90kmと表示されているバッティングケージに入って、由佳がバットを握る。
「あ、当たらないです!」
ただ、やっぱり難しいようで由佳がスイングするバットは空を切るばかり。
このままだとちょっと可哀そうなので、ちょっと危ないけど、ケージの中に入ることにした。
「将人さん!?」
「良いから良いから。このままで、バットの出し方教えるね」
ずっといたら怒られるだろうし、2球くらいアドバイスしたら出よう。
軽く由佳の構えているバットに手を添えてボールが来たタイミングでバットを振る軌道を補助してあげる。
かきん、と音を立てて、ボールが前に転がった。
「あ、当たりました!」
「そうそう!こんな感じでバット出すと良いよ」
「はい!」
その元気な返事は、バスケをやっている時と変わらなくて。
やっぱりこの子は教わる素質があるな、なんて思うのだった。
バッティングを終えた後も、俺たちは色々なスポーツを楽しんだ。やっぱり素の運動神経が良い由佳とだったので、何をやっても楽しく。
しばらく遊んで良い時間になってきたところで、俺たちは最後にやろうと言っていたスポーツができる場所へ。
「やっぱり、最後はここですね」
「そうだね」
目の前に広がるバスケコート。
今は利用者がいて、その人たちが終わるのを待っている。
「って言っても私、靴もこれだし、服もこれだし……全力ではできないですけど」
「俺もそんなに全力でやる気ではないから大丈夫だよ」
「……って言いつつ、それなりにはやっちゃうんですよね」
「気持ちはわかる」
お互い、笑いあって。
ちょうど前の利用者が終わったみたいで、入れ替わりで俺たちの番に。
すると由佳が、さっとコートの中に入って、こちらを振り返った。
夕焼けのバスケコート。
先にコートに入る由佳。
思い出さない方が難しかった。
そして由佳は、あの日と同じように。
「勝負しましょう。将人さん」
今度は少しいたずらっぽく。
俺に向けてそう言ってきたのだった。
「……やろうか」
「……はい!」
「って言っても、1on1はできなくない?」
「あ、確かに……」
俺達の服装はいつもどおりのバスケができる状況ではない。
靴も、ただのスニーカーだ。
「フリースロー対決とかにする?」
「あ、それ良いですね!」
フリースロー。
ゴールから少し離れた位置からディフェンスにつかれることもなく、シュートを撃つこと。
これならば多少動きにくい服装でもできる。
「じゃあ先に5本入れた方の勝ちとかで良い?」
「そうしましょう!」
由佳は嬉しそうにボールを持って所定の位置へと走っていき……。
「あれ?!」
「いつものボールじゃないからね」
由佳の放ったボールは、がつん、という音をたててリングに阻まれた。
ボールもいつものボールではないし、感覚が狂うのも良くわかる。
それでも、由佳はすぐに感覚を調整して、次からの3本はしっかりと決めてみせた。
ただ、俺も俺でフリースローを外さないので、俺との差は埋まらないまま、最終の5本目へ。
「ちょ、ちょっと、提案があるんですけど」
「お、なになに?」
慌てたように、由佳が俺に提案をもちかけてきた。
この負けず嫌いな由佳の性格が、俺は好きだった。
バスケの時は、いつでも負けず嫌い。普段の優しくて、大人しい性格が嘘みたいに。
そんな由佳の事を、俺は好ましいと思ったんだ。
「私次、ここから打つんで、入ったら2本分にしてくれませんか?」
「……まじ?」
由佳が提案したのは、フリースローラインから遠く離れた、3ptライン。
そこからシュートを打てば、3点が入るという難しい位置からのシュート。
「……良いよ」
「やった!ありがとうございます」
由佳は俺の許可を得ると、何度もボールを地面について、感覚を研ぎ澄ませて。
「いきます」
ゆっくりと、息を吐いてから。
由佳がボールを手から離したその瞬間に、なんとなく思った。
このボールは、入る、と。
「……俺は由佳に驚かされてばっかりだよ」
スパっと、気持ちの良い音が聞こえるその瞬間。
俺は由佳の真剣な横顔から、目が離せなかった。
「ごめんなさい、わざわざ家まで送ってもらっちゃって……」
「んーん、むしろ送らせて欲しかったから」
デートを終えて、由佳を家まで送る。
すっかり、もう暗くなってしまった。冬は日の入りが早い。
「……あの、将人さん」
「ん?」
こちらを上目遣いで見上げる、由佳の瞳は、少し揺れていて。
「今日、私スリー決めて、勝ちましたよね?」
「そうだね。本当すごいよ」
「私、どんどん成長しますから……。バスケも、女の子としても」
「……!」
由佳が視線を落として、両手を胸の前で合わせる。
「私、将人さんに出会えて本当に良かったです。私、バスケだけやってるような毎日で、周りともあんまり話が合わなくて……そんな日常に、将人さんが現れて。一緒にバスケをやるようになって……本当に、毎日が、色とりどりになったんです」
そしてもう一度、こちらを見てはにかんだ。
「えっと、上手くまとまらないけど……それくらい大好きってことです」
痛いくらいに、伝わっている。
「……うん、伝わってるよ」
由佳が背伸びをしてきた。
顔と顔が近づいて、思わず目を閉じる。
そしてゆっくりと離れてから。
「……今日勝った分のご褒美、まだもらってなかったので」
「……ちゃっかりしてるなあ」
頬が赤いままの由佳が、にこっと笑って。
そのまま玄関へと駆けていった。
由佳は自分の家の扉を開けてから、最後にもう一度、こちらへ振り向いて。
「バスケ、まだまだ教えてもらうことたくさんあるので!それだけは責任!とってくださいね!」
「言い方!」
「えへへっ!」
ばたん、と。
扉が閉まって、辺りが静寂に包まれる。
「……かなわないな」
はあ、と吐き出した息が白い。
空を見上げれば冬の空に綺麗な星が5つ、瞬いていた。