シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
芝のレース最後を締め括る有馬記念。その当日だというのに私はレースとは関係ない事情によってやたらと忙しかった。
まずは昨日ライスに言われたスイーツ店に早くから並んで限定ケーキを確保。
戻ってきてライスのコンディションを確認してから移動の準備、そしたらグラスが「今日は私も行きます」と言い出した。
私としては僅かでも脚へ負担がかかるようなことはさせたくなくて、エルと一緒に学園で待っていてもらうつもりだった。
しかしグラスは頑として頷くことはなかった。
「一年の締め括りとなる有馬記念、しかもチームの先輩が出走するのにモニタ越しの観戦なんて耐えられません」
部屋の中にいたなら耳を貸さずに出れた。しかしすでにグラスはエルに支えれられて外まで来ていた。
外に放り出しておくわけにもいかず、抱えてでもカフェテリアに連れて行こうとしたが、グラスはまるで動かない。正に巌、中身が詰まった大岩のようだった。
口にしたら尻尾で叩かれた。たとえ比喩でも、重さを連想されるワードはNGらしい。
「トレーナーさん。グラスのことはエルが見てますからどうか連れて行ってあげて欲しいデス!」
「エル……それは自分も見に行きたいからじゃないよね?」
「そ、それは……ピュ、ピュピュゥゥウウウヒュー」
「口笛が適当すぎる……!」
思わず頭を抱えてしまう。
しかし一方でグラスの気持ちもわかる。有馬記念はその年を代表ともいえるシニア級やクラシック級だけでなく、世代を超えてファンに愛されたウマ娘だって出走できる。
いわばここ数年分のトゥインクルシリーズの総決算だ。
当然、レースを走るウマ娘ならば一度は出走を夢見るレースの一つ。選手としてその目で直に見たいのだろう。
「……今日の中山レース場は特にヒトが多い。そして今の君はジュニア級とはいえGⅠウマ娘、騒ぎ出す観客もいるんだよ」
「帽子なりで格好を変えます。尻尾も隠しますし、もしもの場合はエルもいます」
「せめてチームルームで見ていて欲しいな」
「個室からだと上からかモニタになります。できれば客席、特に前で見たいです」
グラスは頑固なところがあるが、我儘というか欲を前面に出すことは珍しい。それだけ今日のレースに対する気持ちが大きいということだろう。
応えてはあげたい。しかし万が一を考えると避けたかった。
「ねえお兄さま。こういうのはどうかな……?」
どう落としどころをつけるかと思案していると、ライスがおずおずと手を上げた。
その手が握るスマホに表示された番号に、私は思わず苦笑した。
◆
「……で、俺が呼ばれたわけか」
「すいませんね黒沼さん」
中山レース場の客席最前列を陣取る私たちチーム・マルカブの隣に立つ、ミホノブルボンと黒沼トレーナーに頭を下げた。
結局、エルが変装する気がなかったためグラスも普段通りに制服でいた。
ミホノブルボンも含めればGⅠウマ娘が三人、客から見れば話題のスターウマ娘がすぐ近くにいるのだからサインなり写真なりお願いしたいだろうが、すぐそばに立つグラサン半裸の男を見て諦めていた。
しかし、十二月でもその恰好は寒くないのだろうか。
「案山子扱いは思うところあるが、これで借りは返したからな」
「貸しなんてありましたっけ?」
「……ブルボンのせいでライスシャワーの復帰を早めてしまっただろう」
「別に気にする必要ないと言ったはずですが……まあ、それで気が済むのなら貸していたということで」
「ああ。これで心置きなく競える」
「律儀ですね。……競えると言えば、ミホノブルボンはなぜ有馬記念の回避を? 投票結果では出れたはずですが」
「秋シーズンの初めに走り過ぎたからな。投票してくれたファンには悪いが今は休養とスタミナ作りだ」
それに、と黒沼トレーナーがニヤリと笑う。
「俺たちの本番は天皇賞(春)だ」
「なるほど。掲げた全距離芝GⅠ制覇の内、長距離GⅠはそこでということですか……」
自分で言って気づいた。
天皇賞(春)は四月の後半に開催される。その一月前には中距離GⅠである大阪杯がある。
結果次第では、ミホノブルボンの夢の最後が天皇賞(春)となるだろう。
……再現しようというのか。三冠を狙うミホノブルボンとライスが菊花賞を争ったように、夢の最後の一冠をライスシャワーを相手に競うつもりか。
「黒沼さん、貴方は……」
「複雑なことは考えていないさ。ただ、ブルボンが敗れた長距離の舞台でライスシャワーにリベンジする。それだけだ」
「ですが……」
観客はドラマを求める。ミホノブルボンが最後の一冠を前に敗れた時、どんな反応があるだろうか。
特にシニア級が出られる長距離GⅠは天皇賞(春)と有馬記念しかない。
来年もチャンスはあるともいえるが、逆に一年間お預けともいえる。
「お前の懸念ももっともだ。だが頼む。これは、俺とブルボンのリベンジでもある」
「リベンジ……」
それはライスに勝つ、というだけではない気がした。
黒沼トレーナーの真意は分からない。
だから、ライスだったらどう返すかを考えた。
「分かりました。全力でお相手します」
「ああ、恩に着る」
「では貸し一つということで」
「……調子がいいやつだな」
軽く小突かれた。
「トレーナーさん! ライス先輩たちが出てきましたよ!」
エルの声で視線が前へ。
彼女の言う通り、コース上にウマ娘たちが姿を現していた。
◆
ターフに集う十六名のウマ娘たち。いずれも今年に限らず、今のトゥインクルシリーズを代表する者たちだ。
出走を前に各自が声を掛け合っている。
「……マベちん、分かる?」
「マーベラース! マヤノとまた走れるのもマーベラスだけど、他に出てる人たちからもマーベラスを感じてとってもマーベラス!」
今回の出走者の中でもライスシャワーやツインターボ並に小柄な二人が身を寄せ合い笑っていた。
マヤノトップガンとマーベラスサンデー。同時期にデビューし、片や菊花賞や天皇賞(春)を制したステイヤー、片やケガに悩まされながらもついに今年宝塚記念を制したグランプリウマ娘。
ここにはいない、サクラローレルを加えて三強と呼ばれ、トゥインクルシリーズを盛り上げた猛者であった。
二人はすでにこのレースを最後にドリームトロフィーリーグへの移籍を決めていた。今日はトゥインクルシリーズでのいわばラストランだ。
一世代を牽引してきた者らしく王者として勝つか、新世代に引導を渡されるか、もしくはさらに古豪のウマ娘が意地を見せるか。二人の関心はそこにあった。
「みんなバチバチーって感じ。油断してたら負けちゃうかも」
負ける気なんて全くないけど、と呟くマヤノトップガンの視線の先。自分たちより前から走り続けた者たちがいた。
「なんだよーブライアンもテイオーも出てないじゃん。せっかくターボが出走するのに!」
「まあまあターボ。二人ともウィンタードリームトロフィーの準備で忙しいんだよ。
代わりと言っては何ですが、今日はこのおマチさんが相手になりましょう!」
「何いってんのさ、マチタンだって今日はライバルだからね。ターボ、マチタンからだって逃げ切ってやるんだから!」
「おぉ! 言うねえターボ。だったら今日はカノープスでワンツー決めちゃいますか! もちろん一着は私だけど」
言ったなーとツインターボとじゃれ合うマチカネタンホイザへ、ライスシャワーが声をかけた。
「タンホイザさん」
「あ、ライスさん! 秋天以来ですね」
「ライス、久しぶり! 今日はターボがまた勝つからね。オールカマーみたいに!」
「ふふ、同じ手は二度も食わないよ」
かつてオールカマーでツインターボに作戦勝ちを許しているライスシャワーだ。
表情は笑っているが、青い逃げウマ娘を軽視する気はなかった。
「タンホイザさんも、今日はライスが得意なレースだから負けませんよ」
「たはは……なんか今日はみんなから同じようなこと言われるなあ……。
ってあれ、ライスさんて中山のレース得意でしたっけ? どっちかというと京都のイメージですが……」
「えっとね……ライス、三冠とか三連覇とか、そういう記録がかかった日のレースは得意みたいなんだ」
「おおう自分からそのネタ言うんですか……んん? じゃあ今日のついてくついてくの標的は私ですか!?」
「ふふふ、よろしくね……」
「ひ、ひえええ~~~!!」
一方で、メジロドーベルもエアグルーヴに話しかけていた。
「エアグルーヴ先輩。同じレースを走れて光栄です」
「ドーベルか。あまりかしこまるな。お前も私と同様、ファン投票によって選ばれた出走者だ。それに勝ったGⅠの数ではもうそちらが上だ」
「そんな……先輩は今でも私にとっての理想です!」
メジロドーベルの言葉は本気だった。
周囲からの期待や重圧をものともせず、凛とした姿でレースに臨むエアグルーヴはまさに理想だった。
「そう言ってもらえるのは嬉しい。しかし私ばかりを見るな……。
秋の天皇賞にジャパンカップ、強者は果てしなく多いと自分の視野の狭さを気付かされた。お前はもっと色んなものに目を向けるといい」
「先輩………」
尊敬するウマ娘からの忠告をメジロドーベルは胸に刻む。そして、
「ところで……あの客席の最前列にいるのはお知り合いですか?」
「……………違う」
珍しく、エアグルーヴが目を逸らした。
「大きな横断幕出してますけど。何が書いてあるかは日本語じゃないので読めませんが、先輩の方を見てませんか? すごい勢いで手を振ってる……」
「ドーベル。世の中、見なくていいものもあるんだ」
「先輩、なんか苦労してるんですね……」
少し離れたところでは、マチカネフクキタルがタイキシャトルに詰め寄っていた。
「タイキさん! 本当に有馬記念に出てくるなんて大丈夫なんですか!?」
「イエース、ノープロブレムデス! バクシンオーが言ってましタ。1,200mも三回走れば長距離! ワタシも1,200mと1,600m走りましたから、きっと2,500mも走れまス!」
「どんな超理論ですか!? 二回走って合わせて2,500mなのと、一度に2,500m走るのは別の話ですよ!」
「フッフッフ……それもノープロブレムデス。スプリントと同じ感覚で走るんではなく、途中まで抑えて走ればОK! 2,500mの半分は1,250mだから実質スプリントデース!」
「いやその理屈もおかしいですって! またバクシン理論ですか!? ……というか、タイキさんはチーム・リギル所属ですよね。リギルのトレーナーさんには反対されなかったんですか!?」
「オウ……それについてはちょっぴりプロブレムデース。おハナさん、スズカがいなくなってから元気ありまセーン」
「そ、そうなんですか……」
それはつまり、弱ったところをゴリ押して認めさせたということか、とマチカネフクキタルは同期の剛腕に舌を巻いた。
一方で気になったのは名前の出たサイレンススズカだ。
学園で会った時に話を聞いた限り円満で移籍したのだと思っていた。が、やはりあの移籍騒動はエリート街道を進んできた東条の心には暗い影を落としていたようだ。
「フクキタル。ワタシ今日は、いえいつもデスガ……本気デス」
気づけばタイキシャトルの表情から明るい笑みが消えていた。太陽のように明るい彼女が、烈火の様に燃えていた。
遊びやお祭り気分で出走するのではない。適性も経験も関係なく、タイキシャトルは勝ちに来ているのだと悟った。
「分かりました。ならもう何も言いません。本気でやりましょう」
ここからは友ではなくライバル。グランプリ栄冠を争う敵だ。
「私だって菊花賞を勝ってここに来ました。GⅠウマ娘であり、ステイヤーの端くれ。タイキさんには負けられません!」
「ОK! 全力で戦いましょう、フクキタル!」
ゲート準備完了のアナウンスが流れる。
各自、譲れない想いを胸に宿してゲートへと入っていく。
最後の一人が入り、一瞬の静寂。
そしてゲートは開かれた。
◆
『各ウマ娘一斉にスタートしました。真っ先に前に出るのはご存じツインターボ! 今日もターボエンジンは全開、グングンと一人大逃げの態勢。
二バ身から三バ身差ほど開いてマヤノトップガン、さらに二バ身後ろにエアグルーヴ、タイキシャトル、メジロドーベルらが先行しております。その後ろ二バ身開いてマーベラスサンデー、マチカネタンホイザとフクキタル、後ろからライスシャワーが追う形で中団が形成されております。後方に待機するのは――』
ペース配分など知ったことかとばかりにスタートダッシュを決めたツインターボに、特に他のウマ娘たちが驚くことはなかった。
ツインターボの開幕大逃げはいつものことだ。どうせ垂れてくると高をくくるのは危険だが、今すぐ対応を考えなければいけないものではない。
それよりも、前方に位置取ったウマ娘たちは背後から伸びてくるプレッシャーに慄いていた。
(これは……)
それはマヤノトップガンやエアグルーヴすら、思わず冷や汗をかくほどの圧。その発生源は、中団に待機する漆黒のステイヤーだ。
(レース映像で見たことはあるが、これほどか!)
(すごいプレッシャー、こんなの浴びながらペース維持なんて大変だー!)
まるでこちらの一挙手一投足、それこそ呼吸から脚運びのリズムまでも読み取らんとする眼光。そこから発するプレッシャーは自身より前に走る全てのウマ娘に影響を及ぼしていた。
(黒い刺客……ただ記録を阻んだことからついた蔑称のようなものだと思っていたが……)
天皇賞(秋)はライスシャワーより後ろを位置取っていたから感じなかった。だが今ならその二つ名が決してやっかみや嫉妬から来たものではないと理解した。
一瞬でも隙を見せればつけ入られる。気を抜くことを許さず、スタミナと精神力を削り取るプレッシャー。まさに刺客、いや狩人だ。
(これが菊花賞ウマ娘、そして天皇賞(春)を二度も制したステイヤーの走りか……!)
肌が粟立つ。恐怖ではない。それほどまでの強敵と会えたことによる興奮だった。
一方で、ライスシャワーが放つプレッシャーの影響を受けていたのは、彼女のすぐ前を位置取ることになったマチカネフクキタルだ。
(こ、こここここここれがライスさんの
(ひょわわあああああ~! すっごいよね、今までは横か後ろで見てるだけだったけど、いざ受ける側になったら大変だこれ!)
言葉とは裏腹に、一番平然としているのはマチカネタンホイザだ。
間違っても彼女が鈍いとかではない。彼女のこれまでの経験が、ライスシャワーのプレッシャーを受けても自分の走りをブレさせないのだ。
(菊花賞で走った皆さんは同期、出走回数は違ってもデビューから二年目なのは共通でした。でも、今日の皆さんは……!)
改めてマチカネフクキタルは、格上だらけのレースに出ているのだと自覚した。
やがてレースは後半へと突入する。
無理に仕掛ける者はなく、未だ先頭はツインターボが維持していた。一方で、ライスシャワーのプレッシャーを受けてペースを維持できず体を上げてしまうウマ娘たちが出てきた。
息も絶え絶えに後ろに下がるウマ娘たちを横目に、ライスシャワーの視線はマチカネタンホイザへ向いていた。
彼女と仕掛ける瞬間を合わせられるように自身の末脚という牙を研いでいく。
そして、レースは終盤へと差し掛かった時、マチカネタンホイザが動いた。
(今――!!)
『さあまもなくツインターボが先頭のまま第三コーナーへ入ります。おおっと後ろに控えていたウマ娘たちが一斉に仕掛けた!
マヤノトップガンとタイキシャトルがツインターボに食らいつく! しかしツインターボも粘る! 三人が並ぶ形で第四コーナーへ入っていく!
タイキシャトルがツインターボを抜いた! いやツインターボが差し返す! マヤノトップガンも譲らない! コーナーから最後の直線へ、三人によるデッドヒート!
ああっと外からエアグルーヴだ! マーベラスサンデーも来ている! メジロドーベルはついてこれないか!? そして奥から、奥から、奥から来たぞマチカネタンホイザだ!! ライスシャワーが鬼の追走! 少し後ろをマチカネフクキタル!
最後の直線に入りました残りは300m! ここでエアグルーヴ抜け出した、いやマーベラスサンデーだ! マーベラスサンデーが先頭に立った! 続いてエアグルーヴ! タイキシャトルとツインターボが必死に追うがここまでか!? マヤノトップガンが食らいついてく!
残り200mを切った! 勝利はこの二人の争い――いや、マチカネタンホイザだ! ライスシャワーも来ている! 四人並んで横一線! 大激戦だ! 誰も譲らない!
残り100m! ここで、ここでマチカネタンホイザが先頭――違う、ライスシャワーが続く!横に並んだ二人。かつて共にクラシックでしのぎを削った二人が、先頭を走っている!!』
覚悟していたことだが、今年の有馬記念は激戦だった。
先頭を走る二人はまさしく必死の形相で走っている。
セットした髪は乱れに乱れ、一歩踏み出すごとに体中から汗が吹き出し落ちていく。
心臓と肺は悲鳴を上げて、脳は一秒ごとに停止信号を出していた。
脚は熱く、まるで血も肉も骨も神経も、全て燃えているかのようだった。
それでも、マチカネタンホイザは走ることを止めない。
グランプリ勝利、世代の覇者、GⅠ三連勝、秋シニア三冠、そんな称号は二の次だった。
その身を動かすのは希望。
ただ、こんな特別な家柄でもなく、宿命もなく、普通のウマ娘である自分を応援してくれるファンの声に応えたかった。自分に希望を見出したみんなに見せたかった。
走り続ければ、努力すればこんな大舞台まで来ることができるのだと。友人に、トレーナーに、後輩に、ファンに、貴方たちの目に狂いはなかったのだと言ってやりたかった。
だから、
「私があああああああああ!!!」
ライスシャワーもその走りを緩めたりしない。
ついにここまで来たのだ。ここまで戻ってきたのだ。
命の危機、絶望、過酷なリハビリ。深い傷を負ったのは自分だけではなかった。大切な人から、かつてのような笑顔は消えてしまった。
二人になってしまったチーム。復帰して、迷いながらもようやく動き出した時計の針。
そんな自分たちを慕ってきてくれた後輩たち。
この身を動かすのは夢。ライスシャワー自身だけでなく、共に歩んできた者から預かってきた夢。
グラスワンダーの無念と再起に賭ける夢、エルコンドルパサーの強さと栄光を求める夢、トレーナーの無事に戻って来て欲しいという夢。彼らから受け取った夢、それを叶えるのがライスシャワーの夢でもある。
見せるんだ。
――君より大きなケガをした先輩ウマ娘は、今こうして無事にグランプリを走っていると。
見せるんだ。
――君が選んだチームのリーダーは、今こうして世代の代表たちの前を走っていると。
見て欲しいんだ。
――貴方が育てた担当ウマ娘は、今こうして再びターフの上を力強く走っているのだと。
ここがゴールではない。ここからがスタートなのだ。
ゴール板を駆け抜けて、彼らの元に戻って、そこから真に、未来への物語は始まるのだ。
だから、
「勝つんだあああああああああ!!!」
重なる二つの咆哮。想いの強さが追い風の様に背中を押していく。
◆
最終コーナーに入るころには、柵を引きちぎらんばかりに握りしめていた。
直線に入ったら思わず身を乗り出していた。
多くのGⅠウマ娘を抜き去り、最後の先頭争いになったのを見て叫んでいた。
周りの目など気にならない。ただ言わなければと、使命感のようなものしか頭になかった。
「ライスウウウウウウウウウウウウ!!! 頑張れええええええええ!!!」
グラスもエルも隣で叫んでいる。
ミホノブルボンすらも声を張り上げていた。
……ライス、君は本当に強くなったんだな。自信がなくて、選抜レースに出る勇気もなかった君が、瀕死ともいえる重傷を負った君がこうしてグランプリで勝つか負けるかの勝負をしている。
不運を嘆き、自分の弱さを嫌う君はもういない。
一方で私は弱くなってしまった。君が勝利することよりも、無事に帰って来てくれることを願っていた。勝つためのトレーニングではなく、ケガをしないためのトレーニングへの比重を傾けていた。
それでも君は私の傍にいてくれた。私を信じ、私の悪夢を晴らすために戦い続けてくれた。
だから私も信じよう。強くなった君を、みんなを笑顔に、希望を与えるために走るという君の夢を。
だから、
「勝つんだ、ライスシャワアアアアアアアアアアアア!!!」
叫んだ瞬間、少女がゴール板を駆け抜けた。
◆
『今、二人並んでゴールイン! こちらからでは勝者は分かりませんでした……後続もゴール、確定していきます。
……一着二着は現在判定中になります。
三着はマーベラスサンデー! 四着エアグルーヴ! 五着マヤノトップガン!
六着は……ああ、一着が確定しました! 一着は……
ライスシャワー! 一着はライスシャワー!!
漆黒のステイヤーが念願のグランプリ優勝! 冬の中山に、見事に青いバラが咲きました!!』
歓声と万雷の拍手が沸く中、満身創痍の少女が高く手を上げた。
その顔には冬の寒さも忘れさせる、太陽の様に輝く笑顔があった。
六着 マチカネフクキタル
七着 タイキシャトル
八着 メジロドーベル
九着 ツインターボ
3章はもう少し続きます。
が、毎日投稿は一旦終わりとして書き溜めに入らせていただきます。
投稿のたび感想ありがとうございます。
返信できておりませんが、全て目を通して励みとしております。