シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
ちょっと短めかも。
URA賞の表彰式も終わり、一月も下旬に差し掛かった。
正月気分も抜けて本格的に次のレースへ意識が向かいだす時期だ。
雑誌やテレビでも来る春シーズンに向けた注目バについて語っている。
「これは……」
そのうちの一つ、月刊トゥインクルの特集を見ていて思わず声が漏れた。
視線を雑誌から上げる。
チームルームで課題をこなすライスとグラスとエル。いつものチーム・マルカブの姿があった。
私の視線はちょうど背を向けているグラスに向かう。しばしその姿を捉えて、視線を雑誌へ戻す。
月刊トゥインクルにはちょうど四月から始まるクラシック戦線の特集が組まれていた。なんでも今年のクラシックは有望株が多く、いわば群雄割拠もしくは多くの活躍バが見込める黄金の世代だとか。
特に注目されているのが五人。雑誌でもレース時の写真が大きく掲載されている。
URA賞に選出され、名実ともにジュニア級王者となったグラス。ホープフルステークスで圧巻の走りを見せたエル。
エルに敗れたもののジュニア級で重賞勝利を上げ、血筋的にも期待が高いキングヘイロー。まだ目立った実績こそないがレースを支配する特徴的な逃げ戦法を使うセイウンスカイ。先日の白梅賞で二着になるものの鋭い末脚を見せ、なによりあのスピカの新星として注目されるスペシャルウィーク。
この五人こそが今年のクラシックの中心とされている。
そのうち二人を担当できているというのはなんとも誇らしい……が。
「……グラス」
「はい、なんでしょうか?」
机に向かっていたグラスが振り返る。同時にライスとエルもノートから顔を上げてこちらを見る。
ライス、エル、グラス、そして雑誌に写るグラスを見る。
「プールトレーニングの回数を増やそうか」
グラスの尾がピンと跳ねた。クラシックに向けてトレーニングが本格化して嬉しい、ではなさそうだ。
私の言葉の裏を嗅ぎ取ったのか、普段は穏やかな彼女の表情は強張っていく。
「それはどういう意味でしょうか……」
やや震えた声。分かっているが、実際に聞くまでは認めたくない。そんな感じだった。
しかし言わねばならない。自分は彼女を指導するトレーナーなのだから。
「朝日杯の頃に比べてちょっとふと――」
消しゴムが飛んできた。
◆
「悪かったよ……」
「本当に反省していますか?」
赤くなった額をさすりながら謝るが、グラスの視線は冷たい。
ライスとエルもやれやれと頭を振っていた。
確かに直接言うのはダメだったか。しかし彼女はアスリートで、体重の変化はパフォーマンスに大きな影響を及ぼす。自覚することは必要だった、はず。
まあ時期も時期だったから仕方ないのか。
グラスの周りにはライスやスペシャルウィークという大がつく健啖家がいる。彼女自身がそうでなくとも釣られてということもあるだろう。
加えて最近はクリスマスに正月と何かとご馳走が並ぶイベントが続いていた。少し油断してふっくらしてしまうのも年頃の少女らしくて……
「トレーナーさん」
冷たい声が私の思考を止めた。
「それ以上、余計なことを考えないように」
「…………はい」
話題を変えよう。
三人とも課題はひと段落したようだし、チーム・マルカブの全体的な方針を決めるミーティングをすることにした。
トレーナー室では机を挟んでライス、グラス、エルが椅子に並んで座っていた。
グラスとエルには自分の希望方針も書いてきてもらっている。
「まずはライスから。大目標は前決めた通り天皇賞(春)だ」
「うん。ライス頑張るよ」
「確実に出てくるのはミホノブルボン。他は昨年の菊花賞を取ったマチカネフクキタルが有力かな。
あとはメジロ家。名門が長く目標に掲げている以上は誰か出てくるだろう」
昨年のクラシック級で活躍したのはメジロドーベルだが、有馬記念の結果を見るに長距離適性はないのかもしれない。となると他の子だが、今は断言できるだけの情報がないな。
「次はグラスだけど……」
「私は引き続きクラシック三冠路線を目指します」
静かに、けれど有無を言わせぬ迫力だった。
グラスの脚は順調に回復している。走るまでは行かなくてもプールトレーニングくらいは許可が出ている。
クラシック三冠のレースも、ジュニア級での実績もあって出走枠から漏れることはないだろう。
となると課題は落ちた筋力とレース勘を取り戻すことか。
「分かった。じゃあまずは四月の皐月賞だ。グラスの実績ならステップレースを挟む必要もないだろう。ジュニア王者らしく、クラシック初戦へ直行だ」
私の言葉にグラスが頷く。熱を持った瞳でこちらを見てくるが釘も差しておく。
「でも無理は厳禁。そこだけは私も譲れない。いいね?」
「はい。分かりました……」
「最後にエルだけど、本当にこれでいいんだね?」
エルが提出した希望書を見て尋ねると、彼女は胸を張って答えた。
「はい! エルはクラシックは目指しません!」
ジュニア級GⅠウマ娘がこんなことを言えば、同期やメディアは目をひん剥いて驚くだろう。
私も事前に聞いたときは驚いた。
「エルの最終目標は世界のトップレース、凱旋門賞! ですから今年の大目標はジャパンカップにします!」
「……分かった。でもジャパンカップまでずっとトレーニングというわけにもいかないよ。確実に出走するためにも実績を積む必要があるね」
となるとどのレースに出るか。同世代だけで競うのでなく、シニア混合の重賞がいいか。かつレベルが高いところが良い。
「春シーズンの第一目標はNHKマイルカップ、そして安田記念でどうかな?」
「おお! どちらも国際競争のGⅠですね! しかも安田記念はシニア級も出てきます!」
どちらも1,600mのマイルレース。ジャパンカップより距離は短いが、海外遠征を考えればこの距離を得意とするウマ娘たちとの瞬発力勝負の経験は糧となるだろう。
「当然強敵もいるよ。安田記念にはタイキシャトルも確実に出てくる。昨年の短距離王者が相手だ」
「ふっふっふっ……相手は強いほど燃えるもの、望むところデース!」
「三人のおおよその予定はこんなところかな。何か出てみたいレースとかあるかな?」
そう訊ねるとライスがはい、と手を挙げた。
「お兄さま、宝塚記念はダメ?」
「それは……」
ダメではない。が、負担が大きいと思う。
前走に当たる天皇賞(春)から約二ヶ月。ミホノブルボンとの激闘が予想される3,200mの長距離レースから2,200mの中距離。調整が間に合うか。
そしてなにより、宝塚記念は未だ私の中に暗い影を残していた。
彼女が崩れ落ちる光景は未だ私の瞼の裏に焼き付いている。
しかし……
「お兄さま?」
いい加減、断ち切るべきだろう。
ライスは強くなった。ならば彼女を指導する私がいつまでも弱いままではいけない。
「分かった。あくまで本番は天皇賞(春)だけど、調子しだいでは宝塚記念も視野に入れよう。
無事勝って、グランプリ制覇といこう」
「……うん、ライス頑張るね!」
「これでみんなの方針は決まった。
グラスは王道のクラシック路線、エルは海外を見据えた国際競争、そしてライスはシニア級大一番の天皇賞(春)だ。どこを向いても強敵ばかり、油断せずに頑張っていこう」
「うん! チーム・マルカブ、頑張るぞー……」
『おー!!』
◆
さて、方針も決まったところで次はトレーニングだ。
ライスには苦手な瞬発力を、エルには足りない経験を補うために併走をしてもらう。
となるとグラスが余ってしまう。これまではプールトレーニングや筋トレをしているが、そろそろ走っておかないと彼女も不満だろう。
しかしグラスの脚は治りかけのため無理はできない。どうしようかと悩んでいたところに、うってつけの物があることを思い出した。
「トレーナーさん、これはいったい……?」
室内ジムの片隅にそれはあった。
一見するとベッドか棺なのだが、周りにある機械や回線のおかげでSF映画に出てくるポッドのような見た目をしていた。
「VRウマレーターと言ってね。なんでもダイブ型のVR装置? らしい。あまり詳しくはないけど、ようは意識ごとバーチャル空間に入れるんだとか」
「はあ……どうしてそんなものが学園に?」
「理事長がレース用シミュレーターとして導入してね。レースコースの再現はもちろん、オンラインゲームも可能で……つまりはトレーニングで忙しいウマ娘たち向けの娯楽を兼ねた装置かな」
マニュアルを見ると、電脳空間だかメタバースだかを経由して買い物やサービスも受けられるらしい。
……買い物はネット通販と何が違うんだと思うが、この仮想現実を利用した疑似旅行というのは面白そうだな。学園にいたまま海や山、レジャーやアミューズメント施設に行った気になれる。
「学園のウマ娘向けに何機か解放されているんだけど、聞いたことないかな?」
「そういえば……寮でVRがどうのという話をしているのを耳にした気が。アプリゲームのことかと思っていましたが、これのことだったんですね」
「それだね。今回はグラスのリハビリというかトレーニングの一環として使おうと思う」
「わざわざ私のために貴重な一基を……理事長は相も変わらず気前の良い方ですね」
「理事長はね……。ただ、たづなさんから使用した感想レポートを頼まれてる」
「あら、都合よく使われてしまいますね。
……しかし、仮想現実でのトレーニングというのはいまいちピンときませんね」
「当然これでスタミナがついたりスピードが上がるわけじゃない。どちらかというとイメトレの延長線上と考えるべきかな。それと今回はリフレッシュの意味が強い。長いこと走っていないだろう?」
「そう……ですね」
グラスがケガをしてから一か月程度。本能的に走ることを求めるというウマ娘には辛い時間だっただろう。バーチャルで少しでも発散できたら良いと思ったが、グラスはどこか懐疑的だ。
「まあものは試しさ。トレーニングだけじゃなく色んなシミュレーションを登録してあるから楽しんでくるといい」
「うーん……いえ、トレーナーさんのご厚意を無下にするわけにはいきませんね。楽しませていただきます」
思うところはあるようだが、なんとかグラスは承諾してくれた。
「じゃあ二時間くらいしたら様子を見に来るから、楽しんでおいで」
ポッドの中で横になった彼女にそう言って、ウマレーターを起動した。
◆
『ダイブが完了しました』
無機質な女性の声とともにグラスワンダーは意識を取り戻した。
横になっていたはずの身体は立っており、学園にいたはずがターフにいた。制服だったはずがトレーニング時に着る紅白のウェアに変わっていた。
人影のない客席、青々とした芝、雲が及ぶ?晴天。建てられたゴール板や会場の見た目から中山レース場だと分かった。
第一目標である皐月賞を意識した設定なのだと分かった。
「これが仮想現実……不思議な感覚ですね」
まず気になったのはターフにいるが芝の匂いがしないこと。
芝を踏みしめる感触はあるがここまで鮮明に感じただろうか。
とはいえそれも注意深く見ればの話。ようは粗探しをしたら目についた程度だった。
最近の技術に感心しながら、グラスワンダーは走り出した。
最初は軽いジョギング程度のつもりだった。しかし一歩二歩と進む度、グラスワンダーの身体は喜び勇んでスピードを上げていく。
一か月近い療養という名のランニング禁止。必要なことと理解はしていても、内ではやはり走れないことの不満はあったのだ。
「はあ……はあ……っ!」
インを攻めてコーナーを最短距離で曲がる。
力強く芝を蹴り上げ、飛び跳ねるように加速する。
広い直線を右に左に駆け回る。
ため込んだ水を一気に放出するようにグラスワンダーは走り続けた。
鼓動する心臓、流れる汗、熱を持つ身体。
いずれも機械によってそう感じさせられているのだが、グラスワンダーは気にすることなく思う存分に体を動かしていった。
「これがゲームの中なんて、信じられませんね……」
体力の限界まで走り回ったグラスワンダーは、芝の上に倒れこみながら呟いた。
そこそこに抑えるつもりだったが、思っていた以上に走れないことへの不満は溜まっていたようだ。
そして同時に自分もウマ娘としての本能には逆らえないことを思い知った。
しかし走ることに至上の喜びを感じていたのも事実だ。
「そういえば他にもシミュレーションがあると言っていましたね。えっと……」
手を虚空で泳がせていると、電子音とともに空中にウィンドウが出た。
僅かに向こう側が透けて見えるそれには、様々なメニューがあった。が、どうにも操作方法が分からない。
しばしウィンドウとにらめっこしているとヘルプのボタンを見つけた。
『何を調べますか?』
ボタンを押したらさっきも聞いた無機質な声が聞こえた。
ウィンドウに表示されるのは検索フォームとメガホンのピクトグラム。キー入力もできるようだが、デフォルトでは音声入力のようだ。
「シミュレーションの起動方法を」
『検索結果を表示します。音声ガイダンスを開始しますか?』
「いいえ」
表示された操作マニュアルに従ってシミュレーションの選択画面を開く。
神社仏閣や野点、琴や三味線に有名な時代劇などを疑似体験・観光できるメニューが表示された。
トレーナーは色々なシミュレーションを登録したと言っていたが、どうやらグラスワンダーの好みに合わせて和風物を中心に登録したようだ。
嬉しい反面、こういうのは一人ではなく友人も交えてやりたかったというのが正直な感想だった。
「しかし、せっかく用意してくださったのだから……」
感想を聞かれた時にやっていないでは寂しいだろう。
とりあえず、野点体験をやってみることにした。
◆
色々と試す中で頻繁に流れる無機質なガイド音声が気になってきた。
どうにかならないかと探っていると、音声メニューにパターン1という文字とすぐ横に「▼」のボタンを見つけた。
押してみるとボタンの下からパターン2、3、4という列が伸びてきた。
「数パターン用意されていたわけですか……」
とりあえずパターン2を選ぶ。『音声が変更されました』と女性的な声がした。
先ほどより無機質感は和らいだが、まだ気になる。
その後もいくつも音声パターンを試してく。上から順に、少しずつ段飛ばしに。やがて、
『音声が変更されました』
パターン63で流れた音声に、グラスワンダーの手が止まった。
少し若い男性的な声。聞き馴染んだ声が少女の耳朶を叩いた。
「これは……」
何故この声があるのか。ついさっき、この仮想現実に入るまで聞いていた声と似た音声が聞こえたことにグラスワンダーは戸惑った。
もしや、音声を学園関係者からサンプリングしたのか。
本職の声優を使うよりかは安上がりだろうが、実行するとは果たしてどちらの発案か。
グラスワンダーの手が止まる。視線の先には音声確認のためのセリフ欄。
今は「音声が変更されました」とあるが、書き換えることができるようになっていた。
「………………」
長い葛藤の末、グラスワンダーの指がセリフ欄を叩く。編集できることを示すカーソルが表示された。
「す、少しだけ……ほんの少しだけですから……」
レポートを頼まれているのだ。こういう細かい部分の確認も必要なこと。やましいことなどない。
聞かれてもいない言い訳を呟きながら、グラスワンダーはセリフを打ち込んでいった。
◆
意識が浮上する。
駆動音とともにグラスワンダーはポッドの中で目を覚ました。
天板が開くとトレーナーの顔が彼女を迎えた。
「おはよう……はおかしいか。調子はどうだいグラス」
「そうですね……明晰夢を見ているような気分でした」
彼の顔を見ると何故か顔に熱が集まる気がした。
顔を逸らすように時計を見ると予定通り二時間経過していた。外は既に陽が傾き始めている。
トレーニングも終わったのかウェア姿のライスシャワーとエルコンドルパサーもいた。
「楽しめたかな?」
「……ええとても。初めての経験でしたが仮想現実というのも面白いものですね」
「ふむふむ……野点に京都にお寺に神社、琴や三味線体験。見事にグラスが好きそうなもので固めましたねトレーナーさん」
「エルも今度入ってみますか? レポートを出すなら快く貸してくれるそうですよ」
「うぐ……レポートデスか……。考えておくデス」
「じゃあこれがそのレポート、というか感想文かな。今週辺りを目途に出してくれればいいから」
「分かりました」
用紙を受け取るグラスワンダー。一瞬、トレーナーの指に触れそうになって出す手を変えてしまう。
……露骨だったか。でも妙なところで鈍いからなこの人。
トレーナーの顔色を窺いたいが、熱を持った顔が上げられなかった。
「……グラス?」
「な、なんでしょうか?」
「なんか様子がおかしいけど大丈夫? VR酔い? みたいなのもあるらしいけれど……」
「だ、大丈夫です。そうですね……ちょっと寝すぎてしまった、みたいな感じでボーっとしてるのかもしれません」
何故こういう時だけ妙に鋭いのか。しかしグラスワンダーの言葉に、そうか、と納得したそぶりを見せた。
「あんまり多用はしない方がいいのかな。明日になってまだ続くようだったら言ってね?」
「はい。分かりました」
ウマレーターの電源を切り、配線を片付ける。
「私はソフトを返却してくるから今日はこれで解散としよう」
「はいはいトレーナーさん! 門限までまだ時間ありますし、自主トレしてきてよいデスか?」
「いいよ。でもやり過ぎないようにね。クールダウンや柔軟もしっかりすることと、明日どんなメニューをやったか報告してね」
「分かりました!」
歩き出すトレーナーとエルコンドルパサー。少し間隔をあけてついて行こうとするが、グラスワンダーは背後からの視線に気づいた。
「ライス先輩?」
「グラスさん、久しぶりに走れて気持ちよかった?」
「……ええ。仮想現実とはいえ、再現度は高かったですね。本当にターフを走ったようでした」
「そっか……良かった。ライスも使ったことあるけどこれ使い方ちょっと難しいよね。スマホやパソコンとはちょっと違うから……」
「ああそうですね。手だと少し入力が難しくて、でも音声入力なら――」
「パターン63?」
「え、なっ――!?」
背筋が、まるで氷塊でも滑り落ちたかのようにヒヤリとした。同時に頭の奥が熱くなってくる。
不意打ちだった。冷静さを保てずたたらを踏むさまはさぞ滑稽に見えただろう。間違いなく、この黒いウマ娘はグラスワンダーが何をしていたのか察している。
痴態、のつもりはない。しかし親しい者に明かすのも躊躇われた。
しかし当のライスシャワーはグラスワンダーを責めるわけでもなく、慈愛じみた表情で微笑んでいた。
「すごいよねこれ。風景や感触もだけど、音の再現度も高いなんて。でも音声はトレーナーさんたちの声をサンプリングするあたりちょっとケチな感じもするよね」
たづなさんのアイディアかな? とライスシャワーは笑う。
「気にすることないよ。結構みんな同じようなことはしているから。マヤノちゃんとか、シチーさんとか……ライスもね?」
「そ、そうなんですか……?」
意外な……いやそうでもないかもしれない。思い出すように天井を見上げるライスシャワーの顔はどこか蠱惑的に見えた。
「うん。だからグラスさんを責めるとか、弱みを握ったなんてつもりはないんだよ? グラスさん真面目だからそういうことをする自分を嫌いになっちゃうかなって……。
ライスが言いたいのは、気にしなくていいよってこと。本当に、それだけ」
そう言ってライスシャワーが横を通ってトレーナーたちの後を追う。
小さな背中を見てグラスワンダーは思った。
この人には敵わないなぁ……。