シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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 デジタル視点です。なんか日記帳っぽくなったけどこれはこれでいいかなって。
 聞いたことある名前がたくさん出てきますが、半分くらいはもう出番ありません。多分。なのでフレーバー程度だと思ってください。



22話 デジタルと入学式

 おっす、あたしはアグネスデジタル。

 芝とダートを両方走れるだけのどこにでもいるごく普通のウマ娘!

 そんなあたしが、幸運にも中央のトレセン学園へ入学することが出来ました!

 しかも仮とはいえチームへの入部も決まっている、これは常日頃積んできた徳のおかげでしょうか。

 ……と、いけないいけない。調子に乗るとしっぺ返しが来ますからね。ノット慢心、レッツ謙遜で行きましょう。

 

 緑の美人さんに迎えられ、校門をくぐれば多くのウマ娘ちゃんたちの往来がありました。

 さすが中央、都内やリトルリーグで見かけるよりも多くのウマ娘ちゃんがいます。

 当然ですが、皆さんめっちゃ輝いて見えます!

 

 王冠を被った自信に満ち溢れたウマ娘ちゃん。

 同年代とは思えないくらい身体つきのよいウマ娘ちゃん。

 憂いた瞳が美しいクールなウマ娘ちゃん。

 栃栗毛の髪が黄金のように輝くウマ娘ちゃん。

 鋭い目つきでパソコンを操作しているウマ娘ちゃん。

 怪しい目つきと怪しい笑いを溢すウマ娘ちゃん。

 長く艷やかな黒髪を靡かせたウマ娘ちゃん。

 高貴なオーラを振りまくウマ娘ちゃん。

 長身で厳格な雰囲気を漂わせるウマ娘ちゃん。

 荒々しさを隠そうともしない眼帯をしたウマ娘ちゃん。

 小柄ですが眼鏡の奥に強い信念を感じるウマ娘ちゃん。

 

 あーもう、みんなみんな推したくて頭爆発しそうですね!

 でも耐えます。ここで気絶なんてしようものなら皆さんの入学式の思い出に汚点を残してしまいます。

 あたしはどうなってもいい! ウマ娘ちゃんたちを曇らせることだけは避けなければ!

 ……ふう、なんとか持ち堪えました。よくやったあたし。

 さて、入学式が始まります。踏ん張っていきましょう。

 

 ……あれ、式中ってもしかしてウマ娘ちゃんに囲まれちゃいます?

 

 ……ふう、いやー入学式は強敵でしたね。なんとか耐えましたよ。最前列で助かりました。今日ほど自分の名前がアから始まることに感謝した日はありませんね。

 もしも四方八方ウマ娘ちゃんに囲まれたとしたら……息遣い、小声、匂い……アアアァァァァァァ―――よし、妄想にも耐えました。

 しかし、耐えるばかりでせっかくの生徒会長様のお言葉を聞き逃してしまうとは一生の不覚! 生徒会室に原稿とか置いてないですかね?

 

 入学式が終わればオリエンテーション、クラス毎に分かれて学内の施設案内ですね。ここからは先生方ではなく先輩ウマ娘ちゃんたちが案内してくれます。

 

「案内係のマーベラスサンデーでーす、みんな入学おマーベラース☆」

 

 あたしたちのクラスを案内してくれたのはマーベラスサンデーさんでした。

 独特のテンションながらも説明はしっかりしており、何故か最後はマーベラスで締めていました。

 そうか……宇宙とは、生命とは、うまぴょいとは、マーベラスとは――――はっ!? なんでしょういま一瞬謎の空間にアクセスしてしまったような……。

 

マーベラース

 

 

 

 さて次はカフェテリアを貸切ってランチタイムです。

 案内の先輩方は席を外し、ここでようやく新入生同士で親睦を深めることができますね。

 おしゃれな空間に美味しい料理。そりゃあ会話も弾みます。

 みんな良い人ばかりで、あたしもすぐに打ち解けました。なんとか仲良くやっていけそうです。

 ……でも、まだ仮とはいえチーム入りが決まっていることは大っぴらに話さないほうがいいですよね。

 午後には皆さん体操服に着替えてグラウンド、コースへと集まりました。

 引率は座学の先生からトレーニングを見ていただく教官殿に交代しています。

 今日のメインイベント、新歓レースの始まりです。

 新入生歓迎だから新歓なのですが、実のところやることは実力テストみたいなものです。

 ダートと芝に分かれ、さらに中距離とマイルに分かれて新入生同士でレースをします。

 長距離と短距離がないのは、まあ手間を省くためでしょう。純ステイヤー、純スプリンターなんて滅多にいませんから。いや、スプリンターの方は少しずつ増えているんでしたっけ?

 

「皆さん集まりましたね? では新歓レースを始める前に、皆さんの先輩を代表してマチカネタンホイザさんからお言葉をいただきます」

 

 マチタンキタ―――(・∀・)―――!!!

 教官の言葉と拍手で迎えられ、前に出てきたのは昨年のURA賞で最優秀ウマ娘ちゃんに選ばれ、今年からドリームトロフィーリーグへ移籍したマチカネタンホイザさんです。

 マチカネタンホイザさんといえば、

 秋のメイクデビューで見事一着を飾りその後は惜敗が続くも確実に掲示板に乗り続けてクラシックではライス先輩とともにミホノブルボンさん相手に激闘を繰り広げました菊花賞では最後は抜き返されたとはいえミホノブルボンさんを一度抜いて二位に躍り出るという脅威の末脚を見せ三着シニア級ではダイヤモンドステークスに目黒記念と長距離重賞を立て続けに勝利してステイヤーとしての素質を披露しかも目黒記念ではライス先輩に先着して一着という大金星次走の天皇賞(春)以降は四着五着が続いてしまいましたが満を持して出走したジャパンカップは急病により出走取消はファン一同涙を吞んだものですしかし快復後は中距離GⅡであの女傑と呼ばれるヒシアマゾンさん相手に見事勝利同期の多くが引退や移籍でトゥインクルシリーズを去る中一人走り続けついには復帰したライス先輩とミホノブルボンさんさらにエアグルーヴさんたちを相手に勝利する天皇賞(秋)とか頭爆発もんでしたよねしかも同年のジャパンカップは海外ウマ娘ちゃんを抑え込んでの雪辱の一着を取った瞬間なんて脳内グランドクロスもんですよ史上初の秋シニア三冠のかかった有記念では惜しくもライス先輩に敗れるもあの最終直線のデッドヒートの熱さときたら天地開闢からの宇宙創成が起きてもおかしくは――は!?

 いけない、推しを目の前に危うく暴走するところでした。

 落ち着けデジタル。心はヒートしていても頭はクールでなければ。

 ひっひっふー……よし、冷静を取り戻したぞ。今はタンホイザさんのお言葉を清聴する時。

 どうやらちょうどお話を始めるところだったようです。

 

「えー皆さん、トレセン学園ご入学おめでとうございます。……あれ、高等部に編入された方も入学でいいんでしたっけ? まあいいや。どうも、マチカネタンホイザと言います。

 新入生の皆さんに一言を、と頼まれましてちょっとお時間いただきますね。

 皆さんはそれぞれ自分の夢をもってこの学園に来たと思います。クラシック三冠、トリプルティアラ、シニア三冠、ダート王、最強マイラー、光速スプリンター、色々ありますね。そんな夢を目指す中で大切なことはですね、私が思うに『諦めない』ってことです。

 ……あ、いま精神論じゃんって思いました? でもですね、経験上これって凄い重要なんですよね。私の周りにも中々勝てなかったり、レースの相手がすっごく強いウマ娘だったり、ケガに悩まされたり、いろんな子がいました。でも、諦めてたまるかーむむぉん!って言って立ち上がった子たちは最後には笑顔でしたよ。今日寝て、明日起きたら突然スピードが上がってたり、スタミナが高くなってるなんてないですよね。でも、諦めないって思うことはすぐに、誰にでもできます。天才じゃなくっても、名門の出身でなくてもできます。

 諦めないは、今すぐできて最後の最後で頼りになるものです。皆さんも諦めず、夢に向かっていってください。

 以上、マチカネタンホイザでした」

「大変すばらしいお話でした。新入生の皆さん、マチカネタンホイザさんに盛大な拍手を」

 

 ブラボー! おおブラボー!!

 あたしの中のジェントルメンがスタンディングオベーションですよ。

 周りのウマ娘ちゃんたちも拍手しています。

 照れくさそうにタンホイザさんが下がると、再び教官がマイクを手にします。

 

「それでは新歓レースを始めます。カフェテリアで親睦も深まったでしょう。ですが皆さんは同じ学園に通う仲間であると同時にレースでは互いに競い合うライバルです。これが学園に入って最初の真剣勝負になります」

 

 さて、この新歓レースは実質実力テストと言いましたが、何故かというとこのレースはトレーナーさん方もバッチリ見ているんですよね。

 さっきまで誰もいなかったはずですが、タンホイザさんの演説が終わるころには見学者がずらり、先輩ウマ娘ちゃんも何人かいますが、トレーナーバッジを付けた大人たちがほとんどです。

 それに気付いた他のウマ娘ちゃんたちの顔にも緊張が走ります。

 このレースの結果次第では即スカウトもあり得るわけです。そりゃ緊張もしますし、逆にやる気を滾らせる方もいるでしょう。

 あたしはまあ、仮入部済みなのでそこまでですが……いえ、一刻も早く仮の一文字が取れるよう真剣に走りますが!

 ……実のところ、この新歓レースであたしは密命を帯びているのです。

 ズバリ、新メンバー候補の選定。トレセン学園のチーム最低人数は……なんかこの下り詳しく話さなくてもよさそうですね。

 とにかく、あたしはこのレースでこのキラキラのウマ娘ちゃんたちの中からさらにひと際キラキラしてる方を見出し、マルカブに推薦するのが使命なのです!

 まあ最後にスカウトするか決めるのはトレーナーさんですし、本来ならトレーナーさんが見に来るべきなのですが、今マルカブはグラス先輩の皐月賞が目前、下旬にはライス先輩の天皇賞(春)を控えていてそこまで手が回らないのです。

 まあ代わりに時間的猶予のあるエル先輩が見に来ているのですが。

 

「お兄さま、ライスやグラスさんのレースを言い訳にスカウト後回しにすると思うから、エルさん、デジタルさん、お願いね」

 

 ライス先輩の言葉が蘇ります。

 ええ、推しのお願いとあらばこのアグネスデジタル、火の中から水の中どこまでも!

 教官により組分けが発表され、各自分かれていきます。

 あたしはまずダートの1,600mです。これまた名前のおかげか早々に出番がやってきました。

 同じレースを走るのは六人、高等部のウマ娘ちゃんもいます。デビューする年は本格化の時期や本人の実力によるので同期が年上なんて珍しくありません。

 スタートです。

 あたしはいつもどおり中団――六人しかいないので四番手です――に控えて脚をためます。

 さすが皆さんトレセン学園に入るだけあってリトルリーグとは次元が違います。

 ですがあたしだってこの一ヶ月マルカブの皆さんと一緒にトレーニングしてきたんです。

 先輩方の顔に泥を塗るなんてできません!

 

「いりゃああああ!!」

 

 ダートをつま先で掻き上げるようにして蹴る。

 推進剤に点火したマシンのようにあたしの身体が前へ前へと加速していく。

 ついに先頭を捉えました。二人で横並びになっての追い比べ。

 この勢いのまま差し切ってああ!!! イイ!! 今あたしから逃げ切ろうと歯を食いしばり必死の思いで走ってるウマ娘ちゃんの横顔がイイ!!このウマ娘ちゃん諦めてません最後の1mいや1mmが過ぎるまで勝負は分からんと言わんばかりの形相タンホイザさんの言葉は早速ウマ娘ちゃんたちの心に根付いていまゴールやんけえ!

 ゴール板を駆け抜けると同時、実況席から声がします。

 

「ただいまのレース、一着はアグネスデジタルさん! 見事な末脚でした。頑張った他の新入生にも拍手声援をぜひ!」

 

 なんとか勝てたようです。危なかった……思わず推しの横顔に気を取られて負けるところでした。

 さて、このままダートを走るウマ娘ちゃんを見ていたいところですがあたしは芝も走るのでそうも言ってられません。

 血涙を抑え、ダートからの候補選びはエル先輩に任せます。

 芝レースの方へ向かい、教官に芝も走りたい旨を伝えます。

 一瞬目を丸くされましたが、すぐに察したようで入る組を教えてくれました。よく考えたらトレーナーさんの方で話を通しておいてくれたのでしょう。

 

「おいお前」

 

 列に入ると黒髪で眉にピアスをつけた、猛犬のようなウマ娘ちゃんに話しかけられました。

 怒ってるわけではなさそうですが思わず腰が引けてしまいました。

 

「な、なんでしょう……?」

「お前さっきダートの方走ってたろ、どうしてここにいる?」

「はわ……えっとですね、あたし二刀流というかオールラウンダー目指してまして。なので芝の方も走らせてもらうんです」

「ふぅン……」

 

 それで興味がなくなったかのように彼女は前を向き直りました。

 ……なんか、これはこれで新鮮な反応でした。

 やがてあたしの番がやってきました。

 一緒に走るウマ娘ちゃんの中には先ほどのピアスのウマ娘ちゃんと、王冠を被ったウマ娘ちゃんがいました。

 スタート。

 あたしはダートの時と同じく終盤のスパートで差し切るために四番手ほどに控えます。ピアスのウマ娘ちゃんは最後方、王冠のウマ娘ちゃんは先行なのか二番手に付けていました。

 終盤に入りスパートをかけます。ダートでは砂を掻くように走りましたが、芝だとそうはいかないので踏み込みを変えます。足だけでなく、トモや腿も使って体を前に押し出すように走ります。

 加速していくあたしの身体。しかし、あたしを後方から差していく影がありました。

 

「…………っ!」

 

 息を吞む、とはまさにこのことでしょう。

 獰猛な笑みを浮かべたあのピアスのウマ娘ちゃんがあたしを抜いていきます。

 ストライドの大きいフォームで駆けていくその姿は獲物に飛び掛かる猟犬、いやもはや餓狼のようでした。

 彼女はぐんぐんと前へ行き、やがて先頭に食らいつこうとします。

 しかし、逃げ切ったのは王冠のウマ娘ちゃんでした。

 

「テイエムオペラオー! テイエムオペラオーさんが逃げ切ってゴールイン! エアシャカールさんは惜しくも二着となりました。頑張った他の新入生にもどうか拍手を!」

 

 華麗そして優雅。手を抜いたわけではないでしょうがどこか余裕を持った走りでレースを制しました。

 二着となったもののエアシャカールさんの走りも凄まじいもので、おそらくですが、この二人は新入生の中でも頭一つ抜けているのではないでしょうか。

 それこそ、早々にスカウトからデビューが決まるくらいには。

 あ、ちなみにあたしは一位に二バ身差つけられて三着でした。

 

「はーはっはっは、声援感謝するよ! 今後も君たちの期待に答えることをこの勝利に誓おうじゃないか! 

 ああ、初日から学園の皆を虜にしてしまうなんて……なんて罪深いボク! 美しすぎるボク!!」

「チッ、仕掛けのタイミングが遅かったか? いや中盤の位置取りむしろコース取りにロスが……」

 

 高らかに笑うオペラオーさんと、ブツブツと敗因を分析するシャカールさん。なんとも対象的なお二人です。

 ……というか、キャラ濃いですね二人とも。

 

 新歓レースは続きます。あたしは引き続き芝レースの様子を見てスカウトに持っていけそうな実力者を探します。

 

 さすがはトレセン学園、全国どころか海外からもウマ娘ちゃんを集めているだけあっているわいるわ逸材の山!

 

 流星のような末脚を見せたアドマイヤベガさん。

 それに挫けず食らいついていくメイショウドトウさん。

 大きなストライドで豪快な走りを見せるナリタトップロードさん。

 穴の空いたレンコンさん。……失礼。

 綺麗な黒髪をなびかせながら余裕の走りを見せたマンハッタンカフェさん。

 機械のような正確な動きでレースを制したシンボリクリスエスさん。

 対象的に荒々しくも他を圧倒したタニノギムレットさん。

 うおでけえ……じゃなかった小柄ながらも懸命に走って勝利をつかんだゼンノロブロイさん。

 

 特に印象が強く残ったのはこのウマ娘ちゃんたちでしょうか。

 どのウマ娘ちゃんをスカウトするかはトレーナーさんが決めることですが、今挙げた方たちは新歓レースを観に来たトレーナーさんたちの目にも止まったでしょう。のんびりとはしていられないかもです。

 やがて最後の組が走り終わり、新歓レースが終わりを告げました。

 これであたしたち新入生の初日は終わり。寮の自室に行くもよし、親しくなった学友同士で外の街を練り歩いてもよし、自主トレに励んでもよしです。

 当然あたしは自主トレ、というかマルカブの先輩方と混じってのトレーニングです。

 一ヶ月以上他の新入生たちより早くトレーニングしていたというのに、そんな先取り分も呆気なく蹴散らすような凄い方たちが集まっているのです。うかうかしてたらみんなに置いていかれてしまいます。

 

「…………」

 

 あたしとの併走を終えたエル先輩が何やら彼方へと視線を向けていました。

 視線を追うと、トレーニングコースから外れたところにこちらを見るウマ娘ちゃんがいました。

 ノートPCを持った、猛犬のような相貌をしたあの方は、

 

「エアシャカールさん……」

「知り合いかい?」

 

 トレーナーさんも気づいたようで、あたしに訊ねてきました。

 

「新歓レースで一緒に走った高等部の方です」

「ライスたちのことずっと見てるよね……?」

「むむむ……スパイ活動中デス?」

 

 エル先輩の言う通り、シャカールさんは手に持ったノートPCとこちらを交互に見てはキーを打っているようです。よく見ればすぐ近くに三脚で立てたスマホカメラがあります。あたしたちのトレーニング風景を記録しているのは間違いないでしょう。

 確かに研究のためレース映像を記録することは多いですが、トレーニングの様子まで録画するのはどうなんでしょうか。チームによっては秘蔵のメニューとかありますし、まだ担当トレーナーもいないデビュー前のウマ娘ちゃんの行いとはいえ、良い顔をする人は少数でしょう。

 

「どうしますか、注意してきましょうか?」

 

 グラスさんが伺いを立てますが、トレーナーさんは首を横に振りました。

 

「いや、今日は普通の併せだから一々目くじらを立てる必要はないよ。それにほら」

 

 トレーナーさんが促すとシャカールさんがそそくさと機材を片付けていました。見ているのがバレたから、なんて性格ではないでしょう。

 

「どうやらフォームやタイムを計っていたみたいだ。先輩の動きをわざわざ記録するなんて熱心な子だ……一言くらい断ってもいいとは思うけどね」

 

 トレーナーさんに気にするなと言われたらそうするしかありません。

 先輩方もすぐに気持ちを切り替え、再びトレーニングを始めました。

 あたしも置いて行かれないよう頑張らないと!

 

 

 

 ◆

 

 

 

「うひぃい~~疲れた~~!」

 

 トレーニングにも終わり、片づけを終えて寮に戻って夕食・お風呂を済ませたあたしはそのままベッドに倒れこみました。

 初日から押し寄せる尊みの激流、見せつけられた中央のレベルの高さ、そして本格化しだしたチームのトレーニング。もうキャパオーバー寸前ですよ。

 先輩方はさらに自主トレをするそうです。さすがにあたしは二本レースしたのでそのまま返されました。

 普段の座学に加えてトレーニングをしてさらに自主トレもするとか、先輩方のバイタリティー半端ないです。

 

「いやいや、弱音なんて吐いてられない! あたしだってチーム・マルカブの一員なんですから、早く一人前のウマ娘にならないと!」

「おやおや、入学初日から随分とやる気に満ちているじゃないか……いや、この学園に来たなら当然か」

 

 隣からの声に思わず飛び起きました。

 いつの間にいたのでしょう。というかもしや独り言聞かれましたか!?

 対面のベッドに腰かけていたのは栗毛の髪にどこか怪しい光の宿った瞳のウマ娘ちゃんでした。

 

「あああすいません、ルームメイトなのに挨拶もせず! あたしは――」

「アグネスデジタルだろ? 新歓レースでダートも芝も走った変わったウマ娘だ、覚えているよ。

 私はアグネスタキオン、高等部だが君と同じ新入生だよ」

 

 アグネス……あたしと共通する名前ですが血縁者ではないですね。クラスに一組か二組はいる、苗字が同じ他人のようなものです。

 ですが一つ思い当たります。たしかアグネスの名を冠す名門があったような気が。

 しかしあたしと同じ新入生ですか……あれ?

 

「あのーつかぬことをお聞きしますが、アグネスタキオン先輩って新歓レース出てましたか?」

「タキオンで構わないよ、先輩なんて畏まる必要もない。新歓レースは……サボった」

「え、スタッフ研修生として入ったとかではなく?」

「ああ、正真正銘トゥインクルシリーズを目指すウマ娘さ」

「ええ……」

 

 思わず絶句してしまいました。だって新歓レースはいわば自己紹介、自分の実力をアピールする絶好の場です。それをサボるなんて、何を考えているんでしょうか。

 

「何を考えている、そう言いたげだね。教官たちにもいろいろうるさく言われたが要するに、まだその時ではなかったというだけさ」

「その時ではない……?」

「別に理解する必要はないよ。求めてもいない。……ま、私は自分の研究、君はトレーニングとお互い忙しい身だ。ここは不干渉といこうじゃないか。じゃあおやすみ」

 

 一方的に会話を打ち切り、タキオンさんはそのまま眠ってしまいました。

 さすがは中央。人数が多いだけあって個性派も勢揃いのようです。

 あ、疲労がピークに達した。瞼がストライキを起こして強制的に寝させようとしてきます。

 

 こうして、あたしことアグネスデジタルのトレセン学園生活一日目は幕を閉じたのでした。

 ああ、偉大な先輩に凄まじい同期、右も左も上も下もウマ娘ちゃんに囲まれて過ごせるとか、この幸運をくれた神様にマジ感謝です。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 二週間後、ついにその時がやってきました。

 トゥインクルシリーズを走るウマ娘ちゃんたちの超本番、クラシック級GⅠ皐月賞です。

 

『今年も中山レース場に、ジュニア級から勝ち上がってきた十八人の世代を代表たるウマ娘たちが集いました。クラシック三冠の第一戦、皐月賞が始まります。

 最も早いウマ娘が勝つと言われるこのレース、果たして勝つのはどのウマ娘か。クラシックの初戦を制するのは、そして三冠への挑戦権を得られるのはただ一人!』

 

 聞こえてくる実況に会場の興奮もエスカレートしていきます。

 ついにパドックが始まり、今年の世代を代表するウマ娘ちゃんたちが姿を見せました。

 

 前哨戦、弥生賞を勝って今回も一番人気のスペシャルウィーク先輩。

 その弥生賞では惜しくも二着、リベンジに燃えるセイウンスカイ先輩。

 三番人気とはいえその末脚は油断できないキングヘイロー先輩。

 そして、

 

 そして――――

 

 

 

 その中に、グラス先輩の名前はありませんでした。

 

 恨みますよ、神様。

 

 

 

 

 




 まだ、今はまだ雌伏の時……。

 尺の都合で省きましたがウララとかファインも入って来てます。
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