シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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24話 ライスと彼女たちの天皇賞(春) 前編

 トゥインクゥゥゥル・チャンネェェエエル!!

 どうも皆さん、ウマチューバーやってます、フリージャーナリストの藤井です!

 今日はですね、春の長距離GⅠ、天皇賞(春)目前ってことでですね、なんとトレセン学園に突撃取材したいと思います!

 あ、皆さん安心してください。今回はちゃんと事前に許可取ってますんで、去年みたいに岩塩で殴られるようなオチはありませんよ。

 え、もう一回殴られろ? ローレルに殴られて羨ましい? そこだけ代われ?

 あんた達ね、他人事だと思って好き勝手言い過ぎじゃありません? 痛いんですからねアレ!

 

 さてね、オープニングで掴みはオッケーと言うことでそろそろ行きたいと思います。

 今日はですね、過去に天皇賞(春)を制したウマ娘たちに注目しているウマ娘とか、天皇賞(春)についてとか、いろいろ聞こうと思っています。

 それじゃあ、レッツラゴー! ……え、古いのこれ?

 

 いやー今日もトレセン学園はウマ娘たちで賑わっておりますね。特にもうすぐ春のファン大感謝祭ですから、その準備もある様子。

 さて、インタビュー相手の元へ行く道すがら軽く天皇賞(春)について簡単に説明しましょうかね。往年のファンの皆さんには常識かもしれませんが、最近レースに見始めたって人もいますからね。

 天皇賞(春)。芝のGⅠでも最長距離の3,200mになります。一応GⅡのステイヤーズステークスやGⅢのダイヤモンドステークスの方が長い距離ですが、GⅠでは言った通り最長になります。

 八大競争の一つとされ、開催回数も百を超えていてまさに歴史と伝統の詰まった大レースですな。

 開催場所は基本は京都レース場、会場の改修で阪神レース場になることもありますが、今年は変わらず京都レース場での開催です。

 傾向として、距離が長いだけあってスタミナ自慢のウマ娘が有利ですね。それもあってか、最も強いウマ娘が勝つと言われるクラシック級最後の一冠、長距離GⅠ菊花賞の勝者が勝つことが多いため、まさに現役チャンピオン決定戦なんて言う人もいます。

 まあこのへんは距離適性もあるので、あくまでクラシックディスタンスからステイヤータイプのウマ娘の中でのチャンピオンと思っていればいいですかな。

 

 ……と説明している間にお相手が見えてきましたわ。

 ご紹介します! あの怪物オグリキャップ相手に激闘を繰り広げ、葦毛伝説として今なお語られる天皇賞春秋連覇の白い稲妻! ドリームトロフィーリーグで活躍中のタマモクロスさんです!

 

「おおなんやえらい仰々しい紹介やな藤井ちゃん」

 

 いやーレジェンドウマ娘にインタビューするんですからこのくらいバシッと紹介決めませんとカッコつかないでしょ!

 

「そういうもんなんかな。……ていうか、それやったら『オグリ相手』はないわ。まるでうちがオグリに何度も挑みかかったみたいやん。逆やで? オグリがうちの後ろをチョロチョロついてきたんや」

 

 そりゃあすいませんでした。

 えっと、じゃあインタビュー始めさせてもらっていいです?

 

「ええで、それじゃあよろしく頼んます」

 

 こちらこそよろしくお願いします。

 それではまず、タマモクロスさんの天皇賞(春)への思い出をお願いします。

 

「せやな、うちにとっては天皇賞(春)からGⅠ連勝街道が始まったやったわけやし思い入れ深いレースや」

 

 前哨戦の阪神大賞典から天皇賞(春)、宝塚、そして伝説の葦毛対決となった秋の天皇賞と続いたわけですね。

 今年の天皇賞(春)で注目しているウマ娘はいますか?

 

「うーん、やっぱりミホノブルボンやな。適性に縛られんと夢のために長い距離のレース走ったり、ケガに悩まされたり、それで今は復帰後から芝の全距離GⅠ制覇やろ? ここは天皇賞(春)をビシッと決めて夢に王手賭けて欲しいわ」

「待ちなタマ公! おめーさんちょっと贔屓が過ぎるんじゃあねえかい!?」

「うわあ!? なんやイナリ、今はうちのインタビュー中やぞ!」

 

 あーいえいえ、イナリワンさんにも後でインタビューする予定だったんです。

 同時は予定外でしたけど、タマモクロスさんがよければこのまま……。

 

「なんやそうやったんか。んじゃあイナリ、あんたは誰に注目しとるんや」

「あたしが応援するのは断然ライスシャワーでい! 連覇でこそないけど次勝ったら春天三勝! 大ケガからの大復活に、ミホノブルボンとのライバル対決! こんなの聞かされて、江戸っ子の血が騒がないって方が無茶ってもんよ!」

 

 質問の順番が逆になりましたが、イナリワンさんの天皇賞(春)への思い出をお聞かせ願えますか?

 

「おうよ! あたしにとって春天といやあ日本中にこのイナリワンの名を轟かせたレース! 地方出身だの主な戦績がダートだの、つまんねえこと言いやがる世間をあっと言わせたあの瞬間は、全身の産毛が逆立ったもんよ!」

 

 タマモクロスさん、イナリワンさんともに天皇賞(春)の勝利がその後の活躍にもつながる重要なレースだったというわけですね。

 

「そうやな。それを言うと……ブルボンに注目するって言った手前なんやけど、今年からシニア級に上がってきた連中も無視できんな」

「むむむ……あたしやタマ公みたいに、春天で一旗揚げようって企むウマ娘もいるかもしれないってわけだ」

 

 最強決定戦であると同時に、これからの時代を牽引するスターが登場する可能性もあるということですね。

 

 

 その後も、藤井からの質問に答えていく小さなスターウマ娘二人。気の合う仲ゆえか、時折漫才のようなやり取りが繰り広げられ、二人分の持ち時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 今日は貴重なお話聞かせていただきありがとうございました。

 

「おう、ギャラの方はたんまり頼むで!」

「いつでも聞きに来な!」

 

 さあいきなり平成四強のうちお二人からお話を聞けましたね。

 インタビュー相手はまだまだいますよ。さあ張り切っていきましょう!

 

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「マヤが注目してるのはー、フクキタルさん! 京都新聞杯とか菊花賞はマヤも見てたんだけど、いつもはすぐ分かることが全然わからなくて、そしたらすっごい走りをして勝っちゃうんだもん驚いちゃった!

 だからね? 天皇賞(春)でもマヤが分からなかったら、もしかしてもしかするかも!」

 

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「注目、というより個人的に応援しているのはキンイロ――ええ、例の阿寒湖の。惜しいところまで行くけど勝てない、ということに一方的にシンパシーを感じてます。

 目立った勝利こそありませんが実力は十分勝ちを狙えるかと。その……気性がアレなのはそうですが。

 ……あと、どうしてそんなに距離を取ってるんです? 岩塩? あ、あれは不審者と間違えたからと……謝罪もしたじゃないですか!」

 

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 見ていた動画を止める。

 スマホの中で静止した画像には、二週間後に迫った天皇賞(春)について語られていた。

 流れてくる視聴者からのコメントにはそれぞれが抱く想いや期待が書かれていた。

 復活のステイヤー、夢を目指すサイボーグ、奇跡の一発、念願の勝利。自分たちが贔屓するウマ娘たちへのコメントに溢れていた。

 

「………………」

 

 その中に、メジロブライトの名は無かった。

 インタビューしたウマ娘たちからもその名前が上がることはなかった。

 仕方ないことだ。

 昨年のクラシックで掲示板にこそ乗ったが、勝てたのは重賞が二回。全体から見れば立派な成績だといえるが、彼女が背負うメジロの重責を考えたら誇れるものではなかった。

 もし仮に、メジロマックイーンがインタビューを受けていればメジロブライトの名を挙げただろう。

 しかしそれは真に勝利の可能性を見出しているからではない。メジロ家だから、勝たねばならないと発破をかけただろう。

 それでいい、とメジロブライトは思った。

 史上初の天皇賞(春)二連覇。彼女が成したその偉業は長いメジロの歴史の中で燦然と輝いていた。

 その輝きの一端を、自分も取る。

 英雄も怪物も天才も奇才も、追いつき、追い越してみせる。

 

「もう、のんびりとは言っていられませんね……」

 

 スマホをしまって歩き出す彼女の瞳には、静かな炎が灯っていた。

 

 

 ◆

 

 

 屋内のジムにて、あるウマ娘が周りの視線を集めていた。

 ミホノブルボンがバーベルスクワットをしていたからだ。

 そのまま教本に載せられるような理想的なフォームで、秒も狂わぬ一定のリズムでやっていた。

 まるで機械がやっているような正確さと、修羅のような苛烈さに皆言葉を失っていた。

 

「百九十八……百九十九……二百。三百キロバーベルスクワット完了、三十秒の休息ののちランニングへ移行………休息完了、発進します」

 

 汗も拭わず駆け出すミホノブルボン。その背中がジムから見えなくなって、ようやく他のウマ娘から声が上がる。

 

「ブルボンさんヤバくない?」

「さすがはサイボーグ……」

「いやサイボーグとか関係なくね? あんなんやってたらまたケガしちゃうよ……」

 

 身を案じる声を余所に、ミホノブルボンは走り続けていた。

 その瞳には、大阪杯で敗北したサイレンススズカの背が焼き付いていた。

 

(あのスピードに追い付くには……!)

 

 ペースが上がる。

 すでに無敗の称号は返上していたが、彼女が他の逃げウマ娘に敗北するのはアレが初めてだった。

 一度も前に出るどころか、影さえ踏めない完敗。差を詰めるどころか離されていく絶望。

 今まで追われる立場だったミホノブルボンが、相手に認識されることなく後塵を拝したのだ。

 その事実が、悔しさが、熱となって彼女の身を焦がしていた。

 

「ブルボンさん!」

「……ライスさん」

 

 耳朶を叩く声に、スピードを落とす。

 停止したところで小さな影が近づいてきた。ライスシャワーだ。

 

「ブルボンさんすごい汗だよ、大丈夫?」

 

 ライスシャワーがタオルとドリングを差し出してきた。

 彼女の顔にも汗が浮かんでいた。

 

「……もしかして、何度も呼び掛けていただきましたか?」

「う、うん。でもブルボンさんどんどんと行っちゃうから……やっぱりブルボンさんは速いね」

「いえ、サイレンススズカの方が速かったです」

 

 思わず、そう声に出していた。

 二人の間に気まずい空気が流れる。

 先に頭を下げたのはミホノブルボンだった。

 

「すいません、突然……」

「ううん、ライスこそ余計なお世話だったね」

 

 でも、とライスシャワーが真っ直ぐにミホノブルボンを見る。

 

「次の相手は、ライスだよ」

「…………そう、でしたね」

 

 はっとしたミホノブルボンが眼前の少女を見る。

 自分に比べて小柄な体躯。けれどその身に余分はなく、3,200mを走り抜けるために鍛え上げた鋼の肉体。

 そうだ、次のレースにサイレンススズカはいない。いるのは最強のステイヤー。自分に初めて黒星を刻んだ、漆黒の追跡者。

 

「雑念を払っていただき感謝します。あなたは、余所見をしていて勝てる相手ではありません」

「うん、スズカさんの走りもすごかったけど、ライスも、今はブルボンさんについて行くことだけを考えているよ?」

「それは、油断できませんね……」

 

 小さく笑いあう二人。けれどもその瞳には、雷光のような闘志が迸っていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ハンニャカ~ホンニャカ~エコエコオットセイ~」

 

 夜。寮の門限も近いなか、学園近くの神社で必死に鈴を揺らしながら奇声を上げるウマ娘がいた。

 マチカネフクキタル。

 昨年のクラシック菊花賞バにして、天皇賞(春)への出走を表明している一人だ。

 

「シラオキ様~どうかこの私にご加護を~大吉を~!」

 

 彼女がやっているのは必勝祈願だ、彼女流の。

 傍から見れば一心不乱に鈴を揺らす姿は奇怪の一言だが、運気運勢を特に重視する彼女は必死だった。

 

「ああああああまさかライスさんと走ることになるなんて! 有記念で見たあのプレッシャーをまた受けないといけないなんて!」

 

 マチカネフクキタルの中で、ライスシャワーが有記念にて見せた走りはある種のトラウマとなっていた。

 もっとも、あれはマーク相手がマチカネタンホイザだったので、脚質が近い彼女も巻き添えになっただけで、ミホノブルボンをマークするだろう今回はそこまでプレッシャーはかからないだろう。

 マチカネフクキタルのトレーナーもそう説明したが、彼女にはもう一声確証が欲しかった。具体的には、プレッシャーを受けないお守りが欲しかった。

 当然、こんな時間に神社に来て手に入るわけもない。もはや悪あがきに近かった。

 

「はああああ~~~こんなことしてちゃダメなんでしょうけど、不安です! どこかにラッキーアイテムとか落ちてないでしょうか、この際形とか見た目とか気にしませんから!」

 

 イッタネ?

 

「え?」

 

 突然背後から聞こえた声に振り返る。当然、誰もいない。境内への階段の先から見える夜空に、金の月が輝いてるだけだった。

 風が吹く。春にしては、妙に冷たい風だった。

 

「え、ちょ、ちょっとやだな~神社で心霊現象とかシャレにならないですよ。ああこれは大人しく帰れと言うお告げでしょうか! うう……もうすぐ門限ですし、そうしましょう」

 

 カラ元気を振り絞り、帰路につくことを決断する。

 下へ降りるために階段へと向かって一歩二歩、そして、

 

「フンギャロ!?」

 

 何かに躓いた。

 足元を見ると金のブレスレットが落ちていた。メッキなのか、所々塗装が剥げて地金の灰色が見えていた。

 

「あれ、こんなの来るときありましたっけ? ……はっ!? こ、これはもしやシラオキ様がしつこい私に下さった幸運の腕輪!?」

 

 まじまじと観察する。擦れていて読み辛いがアルファベットの刻印が彫られていることに気付いた。

 

「S、U、N……これはサンデーでしょうか? ……おお! そういえば、天皇賞(春)の開催は日曜日! すなわちサンデー! これはもう間違いないありません!」

 

 早速! と腕輪をつける。妙にしっくり合ったサイズ感。まるで、腕輪の方から肌に吸い付いてくるようだ。

 

「おおなんかいい感じですね! これはなんだかいけそうな気がしますよ~~!」

 

 さっきまでの弱気はどこへやら、ご機嫌な足取りでマチカネフクキタルは寮へと帰っていった。

 

 ……ヤッタネ

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ついにこの日が来た。ライスが三度目の勝利を目指す天皇賞(春)がやってきた。

 私達チーム・マルカブは揃って控室に集まっていた。

 

「こ、ここここが出走前のウマ娘ちゃんたちの控室! ああああ数多のウマ娘ちゃんたちの残り香が、残留思念が! あたしの五感を揺さぶる!!」

 

 早速デジタルのテンションが高い。

 出走者とその関係者しか入れない部屋だから彼女も入るのは初めてだろう。しかし応援でこれでは自分が出走する時大丈夫だろうか。

  

「お待たせ、準備できたよお兄さま」

 

 更衣室から黒のドレスのような勝負服を着たライスが出てきた。

 デジタルの奇声をBGMにライスのコンディションを見ていく。

 直前まで追い込んでいたが足が熱を持っている様子はない。疲労も上手く抜けているようだった。

 

「仕上がりはバッチリだ……今日は待ちに待った天皇賞(春)、ミホノブルボンとの決着だ。頑張っておいで」

 

 ライスが頷く。彼女たちが願ったミホノブルボン最後の一冠を賭けたレースにこそならなかったが、菊花賞以来の長距離レースでの勝負には変わらない。

 ミホノブルボンとしては数年越しのリベンジであり、ライスからしたら三度目の天皇賞(春)制覇がかかっている。連覇でないとはいえ、同一GⅠ三勝は史上初だ。……いや、そんな長くトゥインクルシリーズを走り続ける者の方が少ないのだが。

 

「最優先でマークするのはミホノブルボンだけど、他のウマ娘たちも無視してはいけないよ。菊花賞ウマ娘のマチカネフクキタルははまった時の末脚のキレは油断できないし、前哨戦の阪神大賞典を勝ったメジロブライトも家名を背負っている以上本気で来る」

「うん。今日のライスは、追われる立場なんだよね……」

 

 天皇賞(秋)や有記念は、ライスの適性距離より短いとする声が多かった。

 だが今日はまさに彼女のホームグラウンド、主戦場足る長距離レースだ。過去にはあのメジロマックイーンを真っ向から打ち破っている。

 こちらがミホノブルボンをマークするように、他の出走者たちがライスをマークすることも考えられる。

 

「先月の高松宮記念ではサクラバクシンオーが短距離王者としての威厳を見せつけた。同じように、長距離王者としての力を見せつけよう。

 ……行ってらっしゃい」

「うん。行ってきます」

「先輩、ご武運を」

「頑張ってください!」

「客席から精一杯応援させていただきます!!」

 

 後輩たちの言葉を背に受けながら、ライスが控室を後にした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ライスさん」

 

 控室を出てターフまでの地下バ道で、ミホノブルボンと出会った。

 

「……ブルボンさん」

 

 ライスシャワーは自分と相反するような白い勝負服姿のミホノブルボンを観察する。

 向こうもコンディションはバッチリなようで、先日会った時のような焦りは見られなかった。

 見紛うことなき強敵。マークの最優先対象とする見立ては間違っていなかった。 

 

「今日は……いえ、今日こそ勝ちます」

 

 宣戦布告をしたのはミホノブルボンから。

 真っ向からライスシャワーも返す。

 

「ううん、今日もライスが勝ちます」

 

 闘志がぶつかり合い火花を散らす。

 そんな、周りのウマ娘が近づけないほどの熱を発する強者の間へ、

 

「申し訳ありませんが、勝つのは私です……」

 

 堂々と割って入る者がいた。二人のGⅠウマ娘が視線を向ける。

 ふんわりした長い鹿毛のウマ娘がいた。白とライトグリーンの勝負服、その目は眠いのか半開きだが溢れんばかりの闘志が燃えていた。

 そのウマ娘の名は――――

 

「メジロブライトと申します。お二人と走るのは初めてですね、どうかお見知りおきを」

「メジロブライト……データベースにヒット、あのメジロライアンと同じチームでメジロ家のウマ娘」

「はい~その通りでございます。……天皇賞(春)は我がメジロ家の悲願。マックイーン様以来の春の楯は、私がいただきます」

「残念ですが勝つのは私です。夢のために、そしてライバルへのリベンジのために」

「ライスも、天皇賞(春)は思い入れのあるレースです。絶対に、譲れません」

 

 メジロブライトの雰囲気は一見穏やかな雲のようだった。しかし間近でその闘志を見た二人はすぐに気づく。そのふわふわとした奥には、間違いなく天に轟く雷が控えていることを。

 前哨戦を勝ち上がり、そして家の重責を背負うその姿は、間違いなく優勝候補の一人だった。

 

「ふっふっふっふっふ……お三方とも、随分とやる気満々ですな」

 

 怪しい声とともに、四人目が輪に加わった。

 三人が声の方を向いて、三人とも首を傾げた。

 

「マチカネフクキタル……さん?」

 

 見知った顔だが、ライスは思わず首を傾げた。

 セーラー服にも見える勝負服姿のウマ娘は、間違いなく昨年の菊花賞を制したマチカネフクキタル。しかし、違和感があった。というか、目の色がおかしかった。

 

「えっと、大丈夫?」

「大丈夫、とは? 今の私は絶好調ですよ! この、幸運のブレスレットを拾ってからは!!」

 

 ジャキ――ン、と効果音が響きそうな勢いで見せつけてきたのは薄汚れた金のブレスレット。メッキが所々剥げて地金が覗く、どこから見ても貧相なアクセサリーだった。

 

「これを拾ってからなんだか力が妙に溢れるんです。ご飯もいつもよりたくさん食べられるしトレーニングも捗りました! これぞシラオキ様から授かった春天必勝のラッキーアイテム! これを身に着けた私はもうマチカネフクキタルではない!」

「ほわあ……では、どちら様でしょうか?」

「スーパーマチカネフクキタルです!!」

「…………ライスさん、救急車を。マチカネフクキタルさんの頭がおかしいです」

「い、言い方! ほ、本当に大丈夫なんだよね、フクキタルさん……?」

「心配ご無用! むしろ、皆さんは自分の心配をするべきでしょう。何故なら、このスーパーマチカネフクキタルがこのレースを制するのですから!」

 

 ほーほっほっほっほ、と高笑いを浮かべて一足早く、マチカネフクキタルはターフへ向かっていった。

 残された三人は呆然としつつも、すぐに意識を切り替えて後を追う。

 

 

 春の祭典、現役最強を決める天皇賞(春)。

 夢、希望、悲願。多くの譲れない想いを胸に抱いたウマ娘たちがゲートに入る。

 

 そして、春の門は開かれた。

 

 





補足
藤井:シンデレラグレイに登場する記者。オグリがダービーに出れるよう奔走したりした人。現代基準にしたらSNS駆使してそうってイメージだけでチューバ―として登場(偏見)。
昨年はマヤノトップガンに突撃取材しようとしたらサクラローレルに不審者と思われて岩塩攻撃されたという設定。

あとフクキタルがこの後不幸になるとか、酷い目に会うとかはありません。
ホントダヨ・・・・・・?
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