シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
最近何かと忙しくて全然書き溜めが出来てないです。
新シナリオやったりリッキーのストーリーみたり新シナリオやったり……。
このままだと忘れられそうなので1話だけ投稿させていただきます。
あと、話中でも出てきますがお兄さま宛への質問を募集します。
もしあれば活動報告にコメントください。
感想欄でも構いませんが、お兄さま宛への質問のみの場合は活動報告へお願いします。
※追記
上の書き方だと感想投稿の規約に触れそうなので、質問については活動報告のみとさせて頂きます。ご指摘いただき、ありがとうございます。
既に感想欄にて頂いている質問(2020/8/29 18時時点)は受付させていただきます。
失礼いたしました。
エルが出走するNHKマイルカップが近づく中、トレセン学園はある一大イベントの準備に追われていた。
春のファン大感謝祭、トレセン学園における体育祭だ。
トレセン学園にも通常の中学や高校と同じく、体育祭や文化祭という行事はある。それはファン感謝祭という名で開催され、トゥインクルシリーズで活躍するウマ娘たちが日ごろ応援してくれるファンへ向けた催し物を企画・運営、そして参加する学園全体を使って行われる大イベントだ。
ファン感謝祭は春と秋の年二回開催され、春は体育系の催しが中心となり、秋が聖蹄祭と呼ばれ文化系の催しが主になる。
一般的な学校の体育祭と違うのは、クラス単位や学年単位での対抗戦などは無く、個人やグループで参加できる点で、あくまでファンを楽しませるのが目的というところか。
レース以上にウマ娘を近くに感じられるということもあり、毎年多くのファンが来園し大盛況となるため、私たちトレーナーも裏方として忙しく走り回ることとなる。
そんな時、たづなさんから企画書を渡された。
「トレーナーによるトークショーですか?」
「ええ。正確に言えば、トレーナーさんへの質問会になりますが……」
妙に手の込んだロゴが入った企画書をめくると、事前にファンから募集した質問に私が答えていくというものだった。当然、学園側が選別してくれるので不適な内容の物は除外される。
なぜ私が選ばれたのかというと、シニア級で活躍するライスやジュニア級で活躍し今クラシック級であるグラスとエル、デビュー前のデジタルとドトウといった各世代のウマ娘を担当しているかららしい。
「この内容ならリギルのようなトップチームのトレーナーのほうが良いと思いますが……」
「東条さんは昨年にナリタブライアンさんと出ていますので。学園としても毎年同じ人に頼むというのは……」
広報役としての仕事も経験しろということか。
企画書を読み進めていくと、どうやらファンの前に出るのは私一人らしい。
「担当ウマ娘は抜きですか。確か昨年はウマ娘もいましたが……」
「はい。昨年は三冠ウマ娘特集ということでトレーナーさんとウマ娘さんの二人一組でしたし、どちらかというと対談形式でしたね」
「トレーナー、というか私だけで人が集まるでしょうか」
昨年はシンボリルドルフをはじめとする三冠ウマ娘という歴史的スターが一堂に介したこともあって大盛況だったと記憶している。
だが今年は私一人。ライスたちがいれば話は違うだろうが、果たしてこれで客足は向くだろうか。
下世話な話だが、ウマ娘たちは皆共通して身目麗しい容姿をしている。それが昨年の盛り上がりに寄与したことは間違いない。
しかしほとんどがヒトのトレーナーたちにそういった共通項はない。
無論、東条トレーナーや奈瀬トレーナーのような容姿端麗やトレーナーもいる。が……うん、考えるのは止めよう。なんだが悲しくなってきた。
ともかく、せっかく企画したのに閑古鳥では企画した者に申し訳が立たない。
そんな私の考えを察したのか、たづなさんが小さく笑う。
「大丈夫ですよ。この企画は昨年の感謝祭でのアンケートを基にしているんです」
「アンケート?」
「ええ、お見せすることはできませんが」
たづなさんが言うには、昨年のトークショーは盛況だった一方で、感謝祭後のアンケートではトレーナー業務の話を希望する回答が多かったらしい。
具体的には、現役でトゥインクルシリーズを走るウマ娘を担当するトレーナーから。
そして恐れ多いことに、今注目されているウマ娘たちが所属するチームトレーナーである私が選ばれたということらしい。
「ウマ娘さんたちを応援する一方で、トレーナー業に興味を持つファンも多くいますから。正直なことを言ってしまえば、これを機にトレーナー志望者を増やしていければなと」
「ああ、トレーナー不足は永遠の課題ですからね」
なにせ全国で何千というウマ娘がトレセン学園に入学するのだ。それに対してトレーナーの数は試験の難易度もあって中々増えない。しかし加齢や一身上の都合により引退するトレーナーは毎年一定数出てくる。互いの数の差は広がり続けるばかりだろう。
「それで……どうでしょうか?」
「構いませんよ。私でどれだけ集客できるか分かりませんが」
「ふふふ、大丈夫ですよマルカブさんなら。……それに、聞きに来るのはウマ娘さんもいるでしょう。将来のチームメンバーを見つけるくらいの気持ちで頑張ってください」
「えっと……もうメンバー不足ではありませんよね?」
「……………………」
にっこりと、圧のある笑顔が返ってきた。
そうか。あくまで最低ラインを超えたから催促が無くなっただけで、メンバーをこれ以上増やさなくていいとはならないのか。
◆
「ということで、私はそのトークショー? というのに出ることになったよ」
『おぉ~~!』
感謝祭での話をすると、チームルームにライスたちの声が響いた。
「ついにマルカブも学園からオファーされるほどになったんデスね!」
「や、やっぱり皆さん凄かったんですねぇ」
ドトウの言葉にデジタルも同意するように頷いていた。
「みんなはどんな種目に出るのか決まったのかい?」
「ライスは小学生以下相手にレース教室に出てくれないかってお願いされたから、それに参加するつもり。あとは障害借り物競争にも出る予定なんだ」
「え!? あの毎年途中リタイア者続出のマラソン競技ですか!?」
「あーうん……でもリタイアが多すぎるってことで今年は試験的に距離を短くしたんだ。障害も飛び越える奴じゃなくて、平均台だったり網くぐりみたいな簡単なものにして、距離も合計で2,500m」
「それで最後に借り物競走だったか。質問会の時間とも被ってないから、終わったら応援に行くよ」
「本当? ありがとうお兄さま!」
「エルはフリースタイルレースに出る予定デス! 内容を変えていくつか開催されますが、全部出ますよ!」
「エルったら、レース本番も近いんですから無理はしないでくださいね。
私は体育館で行われるウマ娘カルタに、午後はクラスメイトの模擬店を手伝う予定です」
「あたしとドトウさんも模擬レースですね!」
「出走者をデビュー前のウマ娘に限定したものだね」
「は、はい……! チームの評判を下げないよう頑張りますぅ……!」
「大丈夫デス! ドトウも頑張ってますからきっと勝てます!」
「そそそうでしょうか……。
うう、でもどうしてデビュー前の子限定なんでしょう? ファンの方々を楽しませるなら、先輩方のレースを開いた方が……」
「ああ。あれはあれで需要があるんですよ。
ウマ娘ちゃんってメイクデビューしてОP戦や条件戦を勝ち上がり始めて注目されだすんですけど、こういうイベントで活躍した子に目をつけて『オレはデビュー前から注目してたんだぜぇ!!』ってドヤ顔できるんですよ」
「なんか、妙に生々しい話だね……」
それぞれ自分の興味のある種目に出るようだ。
できれば全部見に行ってあげたいが、さすがに時間的に厳しいな。特にデジタルの模擬レースは教官たちからの評価にもつながるので見ていてあげたい。
……なんとか時間を作ろう。
「よーし、チーム・マルカブ! ファン大感謝祭でも頑張るぞー」
『おー!!』
◆
そうして、ついに感謝祭当日がやってきた。
校門には華やかに装飾された看板が立ち、来園者たちを出迎えた。
普段は入れないトレセン学園にファンたちは興奮の色を隠せないでいた。
入り口で渡されたパンフレットに書かれたプログラムを見て、各自興味ある種目や催しが開く場所へと向かっていった。
マルカブの面々もすでに各自参加する種目や催しのためバラけていた。
「ようマルカブの」
私もトークショーに出るため控室へ向かっていた途中、声を掛けられた。
「おや、ヒロさん。どうかしましたか?」
ゴルフウェアにジーパンという、来園客と見紛うような恰好をした壮年の男性。セイウンスカイの担当トレーナーだ。豊富な経験と親しみやすい人柄から、多くのトレーナーがヒロさんと下の名前で呼んでいる。
「相変わらず固そうな格好してんなーっと思ってな」
「ヒロさんが軽すぎるんですよ。お客さんの中混じったら見分けつかないですって」
「いいんだよ普段からこれだから。感謝祭だからって固くなる必要はないって、たづなちゃんも言ってたでしょ」
カラカラと笑うヒロさんだったが、ふと表情が真剣なものに変わる。
「なあ、エルコンドルパサーは本当に日本ダービー出ないのか?」
その問いは、これまで何度となくされてきたものだ。
「……ええ。エルの次走はNHKマイルカップ、そこから安田記念の予定ですよ」
「そうか、そりゃ残念だ……」
「意外ですね。普段のヒロさんならライバルが減ってラッキーくらい言うと思いましたが」
「まあそういう時もあるさ。でも、今回は勝つ自信があるからな……!」
日ごろ、飄々としているヒロさんの振る舞いからは考えられない言葉だった。
トレーナー業の酸いも甘いも味わってきたこのベテランにそこまで言わせるほどのものが、セイウンスカイにあるというのか。
「皐月賞を勝ったってのに世間は
「それはつまり……」
エルを相手取っても勝ってみせるというのか。
セイウンスカイの栄光にケチをつけられないよう、黄金世代の代表として数えられるエルの出走を望んでいるのだ。
「ま、さすがに無理強いはできねえからな。出る気がないなら仕方ない。
……決着は、秋につけるとしようぜ」
一方的な宣戦布告をして、ヒロさんは雑踏の中へ消えていった。
成人男性にしてはやや小柄なその背中はすぐに見えなくなる。が、彼の言葉は確かな熱を残していった。
日本ダービー。世代の頂点を決めるその栄冠をチーム・マルカブは三代かけて未だ得られていない。
エルが出走したら……私とて欲ある人間。その想像は幾度もしてきた。
しかし、
「エルの大目標はジャパンカップだ。寄り道は……しない」
私の言葉がヒロさんに届くわけもない。
自分に言い聞かせるように告げてから、私は再び歩き出した。
◆
「皆さま、お待たせいたしました。定刻となりましたのでトレーナーとファンの皆様の交流、トレーナー質問会を始めさせていただきます。
今回、質問に答えていただくのはチーム・マルカブのトレーナーさんになります!」
司会役を買って出たサクラチヨノオーの声に観客たちが拍手を巻き起こす。
「チーム・マルカブには三度目の天皇賞(春)制覇を成し遂げたライスシャワーさんや昨年に最優秀ジュニアウマ娘に選出されたグラスワンダーさん、そしてホープフルステークスを勝利したエルコンドルパサーさんがいらっしゃいます。まさに今年のトゥインクルシリーズを賑わすスターウマ娘が所属するチームです!
貴重な機会となりますので、聞き逃さないようしっかりと耳を向けてくださいね!
それでは入場いただきましょう! どうか盛大な拍手でお迎えください。トレーナーさん、どうぞ!」
司会の言葉を合図に舞台袖からステージへと出ていくと、豪雨のような拍手に迎えられた。
……意外と見学者が多いな。
すし詰めというほどではないが決して少なくない。割合は……若い男性が多いか? トレセン学園の生徒ではないだろうがちらほらとウマ娘の姿もある。
たづなさんの言う通り、トレーナー業に興味を持つファンというのは一定数いるようだ。
「今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします」
挨拶もそこそこに、今日の流れが説明される。
私たちの後ろには大型モニタが設置され、ここに私の顔が映っている。これで後ろの方にいるお客さんも見えるというわけだ。
加えて私にマイクが渡された他、スピーカーを通してこの場にいない人も話だけは聞けるようだ。
サクラチヨノオーの手元にはくじ引きで使われるような箱があった。あの中に質問が書かれた紙が入っており、彼女が引いた質問に私が答えることとなる。
「それでは早速、質問させていただきます!」
元気な声とともに、サクラチヨノオーが箱に手を入れた。
Q.トレーナーを志したきっかけは?
A.子供の頃見たレースですね。多くのトレーナーがそうだと思います。
Q.親もトレーナーか学園関係者?
A.いいえ。
ただ実家はウマ娘が身近にいる地域ではありました。
Q.担当になる前のファーストコンタクトは?
A.とりあえず、三人に共通しているのは自主トレしているところを見かけたのが最初でした。
Q.トレーナーとして最も気を付けていることは?
A.やはり担当ウマ娘のケガですね。
トレーニングもレースも、身体に負荷がかかるものなので十分に注意してます。しかし注意していても起きてしまうのが難しいところです。
Q.トレーナー業としての座右の銘は?
A.無事是名バ、ですね。先代のチームトレーナーもよく言っていました。
レースやライブが終わって、学園に帰って次の日元気な姿を見てやっと安心できます。
Q.スカウトに失敗したことはありますか?
A.それはもうたくさん。ウマ娘もできれば優秀なトレーナーに指導してもらいたいですからね。
希望する路線のすり合わせも必要ですし、楽にスカウトできるってことはないと思います。
Q.ライスシャワーの今後の予定と、警戒しているライバルは誰ですか?
A.次走は宝塚記念を考えています。
私にとっても彼女にとってもある種因縁あるレースですので万全をもって臨みますよ。
警戒しているのは……サイレンススズカでしょうか。今一番勢いのあるウマ娘です。
前に彼女と走ったのは秋天でしたが、あの頃とは比べ物にならないですから。
Q.グラスワンダーの今後の予定と、警戒しているライバルは誰ですか?
A.トレーナーとして力及ばず春は全休となってしまいましたが、まだクラシックを諦めていません。
それは彼女も同じです。夏にしっかりと鍛えて、秋には復帰して見せます。
警戒すべきライバルは今注目されている黄金世代たちですね。誰か一人には絞れません。
Q.エルコンドルパサーの今後の予定と、警戒しているライバルは誰ですか?
A.NHKマイルカップからの安田記念、秋はジャパンカップを目標としています。
警戒すべきライバルはグラスと同じく黄金世代ですが、エルの場合はシニア級と多くぶつかるのでタイキシャトルやエアグルーヴと言った歴戦のウマ娘たちも注視すべきですね。
こうして多くの質問が届き、私がそれを答えることで午前中は過ぎていったのだった。
※作者注
もし、お兄さま宛の質問なんかあれば活動報告にコメントください。それ用の活動報告を上げておきます。
ある程度経ったら番外編として上記のようなQ&A形式で出します。
一向に来なかったら察してください。
内容については以下の点に注意いただければ。
・お兄さま視点での回答になります。
・学園が事前に中身確認しているというていなので、風紀的にアウトなものは答えられないです。
・お兄さまへの質問なので本作の今後の展開について要望を伺うものではありません。
・質問された方のユーザー名は出しません。
・ぶっちゃけ上からふたつは作者の匙加減です。
決して強要するものではありません。もしあればで構いません。
◆
午後の部はデビュー前のウマ娘限定の模擬レースから始まった。
デジタルが言っていたように一足早く見所あるウマ娘を見つけたい人が多いのか、そこそこの客足だった。
一レースで出走するのは五~六人ほど。距離は芝・ダート共に長くても2,000mまで、ある程度距離ごとに区分けされており、各自で適性合わせてレースを決める形となる。
まだ経験が少ない故、駆け引きなどは少なく力任せじみたレースが多いが、それでも会場は盛り上がっていた。
「デビュー前の若きウマ娘たちの模擬レースも大詰め! ウマ娘たちが最終コーナーを回って直線に入りました!
芝の中距離部門2,000m競争、今メイショウドトウさんが先頭でゴールイン! 後方が追い上げるなか粘り強い走りを見せました!」
「砂塵を巻き上げ、大外から駆け上がってきたのはアグネスだ! アグネスだ! アグネスデジタル一着! 1,600m競争、勝ったのはアグネスデジタルさん!
しかも彼女は芝のマイル部門でも勝利しています。まさかの芝とダートの二刀流! メイクデビューが楽しみです!」
観客に混じって、私も勝利した二人に拍手を送る。
デビュー前、ほとんどは担当トレーナーもついていないウマ娘たちが相手とはいえデジタルもドトウも得意の距離で勝利することができた。
特にデジタルは本人の希望通り芝とダートでの二勝だ。珍しいオールラウンダーの登場に周りの観客も興味深そうに見ていた。
二人とも日ごろのトレーニング成果がしっかりと出ていた。この勝利は彼女たちの自信に繋がるだろう。
「トレーナーさ~ん! やりましたよあたしたち!」
「な、なななんとか勝てました~」
「良かった。二人ともいい走りをしていたいよ。
ドトウも、ちゃんと胸を張ろう。それが勝った者の役目でもあるよ」
「は、はい~!」
これなら教官たちからの評価も良くなるだろう。
仮の一文字が消えて、二人が正式にマルカブに入部できる日も遠くない。
デビューの時期を考えようかな。
そんな思いを巡らせながら、私は彼女たちの健闘を讃えたのだった。
◆
感謝祭も終盤。ついにライスが参加する障害借り物競走が始まった。
例年過酷な内容のためリタイア者が続出し、年々参加者が減っていた競技だが、今年は試験的に難易度を落としたこともあって十名ほどが参加していた。
観客も、ライスのほかにミホノブルボンやメジロマックイーン、スペシャルウィークが参加していること、実況解説がトウカイテイオーとアイネスフウジンというダービーウマ娘が努めることもあってかなりの人数だった。
競技はつつがなく進行し、最後の借物競争へと移行した。
そして、
「えっと…………」
「ライスさん、どうかここは譲っていただけませんこと?」
「ダメ、絶対。マックイーンさんのお願いでも譲れないの」
私は右腕をライスに、左腕をメジロマックイーンに絡めとられていた。
一見、両手に華に見えるが腕にかかる力は強い。しかも少しずつ自分たちの方に引っ張っている。
「マックイーンさん、借り物は自分のトレーナーさんから借りてきたらどうかな?」
「残念ながら、私のトレーナーがお持ちでないものでしたので」
ほら、とメジロマックイーンが見せたのは借り物競争のお題が書かれた紙だ。
紙には『ネクタイをしている人』とあった。ネクタイではなく、ネクタイをしている人指定だった。そしてファン感謝祭というお祭りにネクタイをして来る人は少ない。せいぜい取材に来たメディアくらいだろう。
スピカのトレーナーは……
「トレーナーさん! アメ、アメ借してください!」
「ぎゃあスぺ! 渡す、渡すからポケットまさぐるな穴開くだろ!」
当然つけていない。というかよく持ち歩いているあめ玉目当てにたかられていた。
一方でライスはお題の内容を見せてはくれない。が、意地悪をするような子ではないのでおそらく当てはまるのが私しかいないのだろう。
相手が被ったのだから二人仲良く私を連れてゴール、とはならないだろう。
ライスもメジロマックイーンも普段は仲良しだがレースとなればステイヤーとしてしのぎを削るライバル。ウマ娘としての闘争本能が競走中の馴れ合いを許さないのだ。
「「……………………」」
私を挟んで睨み合う二人。そして変わらず掴んだ私の腕をそれぞれ自分の方に引っ張っている。
徐々に力が強くなっているのは気のせいか。いや気のせいではないだろう。
「二人とも大岡裁きって知ってる?」
「ええ、例え裂けようとも引っ張り合い、より多い量を取った方が勝つのですわ」
どこの蛮族の風習だ。
メジロマックイーン、熱くなる余り普段の冷静さを失っているようだ。
頼れるのはライスだが、
「知ってるよ。でも、お兄さまが一瞬でもマックイーンさんのところに行くのも我慢できないの」
ダメらしい。
「ライスさん、以前から思っていたのですが私に対してだけ当りが強くありませんこと?」
「マックイーンさんこそ、お兄さまのスカウトを断っておいて馴れ馴れしいと思うの」
『おーっとメジロマックイーンとライスシャワー! 一人の男性を取り合い修羅場バの様相だー!』
『他人の痴情のもつれは見ている分には最高の肴なの! でも流血沙汰にならない程度に抑えて欲しいの!』
確かに他人事だが何てこと言うんだあのダービーコンビ。
しかし、このままでは体が裂けるチーズのようになってしまう。
いや、それよりもこのままでは―――
「あの、二人とも……」
「トレーナーさん、少しお静かに」
「うん。お兄さま、これは重要なことなの」
「いやそうじゃなくて―――」
私の言葉を遮るように歓声が沸いた。
『今、ミホノブルボンが借り物として自身のトレーナーを引き連れゴールイン!』
『借り物の内容を確認するの! ブルボンさん、指定された借り物は?』
「はい。オーダー『お腹を出している人』です」
「いや……まあ、確かに見えてはいるが」
観客の興味は完全にゴールしたミホノブルボンに移っていた。
後続もどんどんゴールしていき、ライスとメジロマックイーンは完全に取り残されていた。
「…………ライスさん」
「なに、マックイーンさん」
「ここは争わず、二人でゴールとしませんか?」
「そう……しよっか」
◆
色々あったが、春のファン大感謝祭も無事終わった。
茜色に染まった空の下、片づけが進む中、私とライスは揃って反省をさせられていた。
「なにをしているんですかライス先輩、トレーナーさんも……」
「すみません……」
「面目ないです」
グラスの呆れた声に、私たちは謝るしかなかった。
グラスは参加したウマ娘カルタで見事勝利、エルも参加した競技には悉く一位を掻っ攫ってきた。
デジタル、ドトウも模擬レースで勝ち星をあげており、一着の冠を持ってこれなかったのはライスだけだったのだ。
「しかもイチャイチャしてたら負けたって聞いたデスよ」
「い、イチャイチャはしてなかったよ!?」
「傍からはそう見えたということでしょう」
ほら、とグラスがスマホで見せてきたのは早速SNSに投稿された今日の感謝祭の写真だ。
競技に参加する躍動感あふれるウマ娘たちの写真が並ぶ中、例のライスとメジロマックイーンが私を引っ張り合う写真があった。
他の写真についたコメントが『カッコいい』なのに対して、ライスたちの写真には『可愛い』とか『仲良しかよ』とか、取り合う様子を笑うコメントがついていた。
「先輩もシニア級を代表するウマ娘の一人なんですから、ファンの皆様の前でもしっかりしてください。
トレーナーさんも、こういう時こそしっかりと手綱を取るべきでしょう」
「「おっしゃる通りです……」」
「分かりましたかドトウ? グラスは怒らせたらダメなんデス」
「き、肝に銘じますぅ……」
「エ~~ル~~?」
「ケ!? 逃げるデスよドトウ!」
「え、ええ~~!?」
走り出すエルとドトウ、それを追うグラス。デジタルも少し逡巡した後、グラスたちを追いかけていった。
「そういえば」
ライスと一緒に残されたところで、気になっていたことを切り出す。
「結局、ライスの借り物のお題は何だったの?」
「ふぇ!? え、え~~っと……」
目を泳がせていたライスだが、やがて観念したかのようにポケットからお題の書かれた紙を取り出した。
折りたたまれたそれを広げ、私に見せてきた。
「た、『大切な人』…………です」
「…………」
胸の奥がじんわりと温かくなった気がした。
「そうか、ありがとう。ライス」
照れくさくて、自然と口角が上がってしまう。
追及することもできず、グラスたちが戻ってくるまで笑い合う私たちなのだった。
次こそ宝塚記念まで進めたいです。