シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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レース回。
リアル競馬エアプなのでおかしな展開合っても目をつぶってもらえると助かります。



3話 ライスとブルボン

 5月中旬。シニア級が出走できる、春シーズン最初のマイルGⅠであるヴィクトリアマイルが始まる。

 会場である東京レース場に私とライスは来ていた。

 出走するためではない。今後マイル戦線へ参入するつもりもない。それでも、このレースは見に来る理由があった。

 声援が降り注ぐ中、ターフを駆けるウマ娘たちの足音が地鳴りのように響く。コーナーを曲がり、最後の直線に入る姿に歓声が沸く。

 

『ブルボン先頭! ブルボン先頭! ミホノブルボン独走状態だ!!』

 

 サイボーグ、坂路の申し子、そんな異名で知られるライスの友人が、十人を超えるウマ娘たちを引き連れ疾走していく。

 ミホノブルボンはクラシック三冠のうち、最後の菊花賞でライスに敗れたのちにケガで長期離脱していた。

 そんな年単位の離脱からの復帰初戦がまさかのGⅠ。業界関係者からは無茶無謀との声もあったが、そんな声を吹き飛ばすような走りを見せていた。

 クラシックを震撼させた、機械のように正確なラップタイムがここでも刻まれていく。努力の鬼は、ここに復活したのだ。

 

『ミホノブルボン一着のままゴール!! かつてのジュニア級王者が、クラシック二冠ウマ娘がターフに帰ってきました!!』

 

 爆発のような歓声に思わず耳を抑える。ヒトの私がこれほどなのだから、ウマ娘であるライスはもっとキツイだろう。

 案の定、ライスは長い耳を畳んだうえで両手で抑えている。

 離れようかと聞くが、ライスは首を横に振った。友人の復活劇を、最後まで見届けたいのだろう。

 ミホノブルボンがウィナーズ・サークルに入り、マイクが手渡される。

 勝者の言葉を聞き逃さぬよう、歓声も徐々に治まっていく。

 

「皆様。声援ありがとうございました。再び皆様の前で勝利を飾ることができました。

 ミホノブルボン、トゥインクルシリーズへと帰還しました」

 

 「ブルボーン!!」「おかえりー!」「凄かったよー!」

 観客から声が上がる。一度のケガが原因で引退する者も多いレース業界。クラシックを席巻したスターウマ娘の復活に、皆興奮が抑えきれない。

 続いてインタビューが始まる。多くのメディアがカメラを向け、記者たちがメモやレコーダー片手にミホノブルボンの言葉を待っていた。

 ……あ、乙名氏さんがいる。今日こそ大人しく……できるわけないか。

 

「ミホノブルボンさん! 復活からのGⅠ制覇おめでとうございます。

 よろしければ、今後の展望についてお聞かせください!」

 

 歓声に負けないよう、インタビュアーが声を張り上げる。

 再びマイクを握るミホノブルボンを見て、観客席が静まり返っていく。

 

「かつて私が設定した目標はクラシック三冠。ですが、その夢は力及ばす果たせませんでした。

 ……ですが今、私には新たな目標があります」

「そ、それは一体……!」

「私の次なる目標は、芝のレースにおける全距離G1制覇です」

 

 ざわっ、と戸惑いの声が聞こえだす。彼女の宣言が意味するものを、皆が受け止め切れていない。

 

「そ、それはつまり!」

 

 いち早く復活したインタビュアーが言葉を紡ぐ。

 

「短距離、マイル、中距離長距離の各GⅠを一つ以上勝つということでしょうか!?」

「肯定。もっとも、各種一つだけ、と拘るつもりはありませんが」

「ミホノブルボンさんはすでにマイルGⅠの朝日FS、中距離GⅠの皐月賞と日本ダービーを制しています。目標達成まで、あと二つということですね!」

「いえ、本日の勝利は一つ目。目標達成まであと三つです」 

 

 え、と今度こそインタビュアーが停止する。

 質問が来るより先にミホノブルボンが答えを告げる。

 

「年単位の休養をしていた私にとって本日のレースはリスタート。まさに一からのやり直しです。

 かつての栄冠に縋っての目標達成を私は望みません。

 改めてお伝えします。私、ミホノブルボンは、本日より、芝の全距離GⅠ制覇を目指します」

「つ、つつまり次のレースは!」

「はい。目下の目標は秋の短距離GⅠスプリンターズステークス。次に中距離GⅠの天皇賞(秋)。そして翌年には……」

 

 ミホノブルボンの顔が観客席を向く。観客を見渡すように……いや、誰かを探すように視線を動かしてこちらを――ライスを見て、止まる。

 

「長距離GⅠ、天皇賞(春)。そこでライバルとの決着を。そして私の夢の達成とします」

 

 雷鳴のような歓声がレース場に響き渡る。

 ミホノブルボンの途方もない夢への期待、繰り広げられる激戦の予感。予想不可能なドラマの下書きに魅せられた観客たちの声が洪水となって止まらない。

 ふと、ライスを見る。

 震えている。恐怖ではない。武者震いだ。

 ブルボンの声と視線は、確かにライスの芯にまでに届いていた。

 

 ――私はここにいる。戻ってきた。あなたは、どうだ?

 

 小さな体躯に闘志が漲り、アメジストの瞳が燃えていた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 インタビュー後、ウイニングライブ前の控室を訪れた。

 扉をノックするとすぐさま開かれた。

 

「よう」

 

 現れたのはグラサンに帽子、裸の上半身にパーカーを羽織っただけの奇抜な恰好の男。

 ミホノブルボンを担当する黒沼トレーナーだ。部屋の奥には待機中のミホノブルボン。こちらを確認すると頭を下げた。

 

「先ほどは失礼しました」

「なんのことかな?」

「インタビューの際、勝手にライスさんが天皇賞(春)に出ざるを得ないような発言。不適切でした」

 

 ああ、それか。確かにまだライスの復帰予定は公表していない。

 しかし観客はレースにドラマを求めるもの。彼らはすでに春にぶつかる二人の姿を幻視しているだろう。

 

「復帰レースの勝利によりステータス興奮を獲得。そしてライスさんの姿を見て、感情を抑えることができず、あのような発言をしてしまいました」

「俺からも謝罪する」

「いいですよ別に。来年の天皇賞(春)を目指していたのは確かですし」

 

 復帰時期は明らかに早まったけど。 

 隣のライスはもうレースに出たくてうずうずしている様子だ。

 

「ブルボンさん……」

「ライスさん……」

 

 ライスが前に出て、ブルボンと向き合う。

 

「今日のレース、すごい格好良かった。皐月賞や日本ダービーの時とも変わらないくらい」

「ありがとうございます」

「そんなブルボンさんにライバルって言ってもらえて、ライスすっごく嬉しかった。

 だから、ライスも頑張るね。頑張って……」

 

 瞳に再び炎が宿る。

 

「天皇賞(春)は、ライスが勝ちます」

「いいえ、今度は私が勝ちます」

 

 握手を交わし、宣戦布告。

 これはもう止められないな。

 できることならライスの適性に合ったレースに出したかった。しかしこの気持ちを燻ぶらせておくのは逆に体に悪いだろう。早急にライスの復帰レースを考える必要がある。

 レーススケジュールを巡らせながら、私たちはミホノブルボンのウイニングライブを堪能したのだった。

 

 あと、栗東寮はその夜、寮を上げてのパーティだったらしい。

 

 翌日、朝刊の紙面には案の定ミホノブルボンの復活についての記事が大半を占めていた。

 復帰レースのGⅠ制覇に加えて新たな目標として定めた芝全距離GⅠ制覇。メディアにとって格好のネタだろう。

 記事を見ていると一枚、見覚えのある顔が飛び込んできた。というか私とライスだ。

 いつの間に撮られたのだろう。記事にはかつてクラシックで競った両名が、春の長距離で再戦することを期待する文面が書かれていた。

 

「まったく急かしてくれるな……」

 

 新聞を畳みながら、端末を起動する。

 開くのはトゥインクルシリーズのレース出走登録ページだ。

 

「登録に間に合って良かった」

 

 これからのレーススケジュール、ライスの調子、そしてチームとしての体裁。色々と考えた結果、ライスの復帰レースは……

 

 

 

 ◆

 

 

 

 5月末。日本ダービーがやってきた。ウマ娘たちの一生に一度、そして世代の頂点を決めるレースだ。

 東京レース場はミホノブルボン復活の熱をそのまま引き継いだかのように朝から沸きあがっていた。

 結果としては、皐月賞ウマ娘が続けてダービーを制覇し、二冠ウマ娘となった。

 ナリタブライアン以来の三冠への挑戦だ。次は秋の菊花賞。私とライスにとっても思い出深いレースだ。

 ……いけない、嫌な記憶が蘇ってくる。

 頭を振って過去を振り払う。今日私がここにいるのはダービーウマ娘の誕生を見るためではない。

 私の愛バが、ついにターフへの復帰する日なのだ。

 

 GⅡ 2500m 目黒記念

 

 ライスシャワーの復帰レース。

 皆もそれを知っており、ダービーが終わっても帰る様子がない。ミホノブルボンに続き、再びターフの上に立つ彼女の姿を一目見に来たのだ。

 

 

「復帰がいきなりGⅡか。随分と強気だな」

「GⅠを復帰レースにした人に言われたくありませんね」

 

 そうだな、といつの間にか隣にいた黒沼さんが笑った。

 その傍にはミホノブルボン。彼女もライスの復帰を見に来たのだろう。しかし、その表情は少し暗い。

 理由は察せられた。

 

「別に君に煽られて復帰を急いだわけじゃない」

 

 ミホノブルボン復活のヴィクトリアマイルから二週間。ライバルの復活に応えるようにライスは復帰を決めた。彼女から見たら、自分の発言で無理に出走を決めたように見えるだろう。

 まあ、もっと時間をかけて調整したかったのが本音ではある。予定ではもっと先、秋の重賞あたりを考えていた。

 しかしミホノブルボンの宣戦布告で闘志に火が付いたライスは、メキメキと調子を上げていた。

 言ってしまえば、ミホノブルボンのおかげでこの速さで復帰できたのだ。

 

「目黒記念は2,500m。一応長距離の区分ではあるが、ライスシャワーの適性からは短いんじゃないか?」

「大丈夫ですよ」

 

 ライスの世間からの評価は、適正距離が4,000mと言われるほどの純ステイヤーだ。実際彼女のスタミナは群を抜いており、主な実績も長距離GⅠだ。

 だが、別に中距離が苦手というわけではない。そう思われるほどに長距離が得意というだけだ。

 実際、2,200mのセントライト記念や、今日と同じ距離の日経賞だって勝っているのだ。

 実戦から離れたブランクの心配は確かにあるが、距離に問題はないと思っている。

 パドックが始まる。シニア級のウマ娘たちが出るレースだけあって実力のある子たちが出ているが、それでもGⅠ戦線を走っている子は少ない。

 あえて警戒するなら……

 

「マチカネタンホイザか」

「いい仕上がりだな」

 

 相変わらず帽子から耳を飛び出させる、個性的な被り方をしているウマ娘が観客に手を振っている。

 GⅠのタイトルこそないが、重賞を複数勝ち、GⅠ戦線を長く走っている子だ。

 ケガする前のライスから一着を取ったこともあり、実力も十分。油断はできない。

 マチカネタンホイザに続いて、ライスが出てくる。

 今日はGⅡのため、勝負服ではなく体操着だ。

 姿を見せたライスに、観客たちが一斉に声を上げた。

 

「おかえり!」「待ってたよ!」「がんばれー!」

 

 降り注ぐ声援に思わず目頭が熱くなる。ミホノブルボンに劣ることなく、皆が彼女の復帰を望んでいてくれたのだ。

 打ち震えているのはライスも同じようで、深くお辞儀をすると、目元を抑えながら早々にゲートへ向かう。

 途中、マチカネタンホイザをはじめとするウマ娘たちにも声をかけられるライスの顔には明るい笑顔があった。

 

「いい光景だ」

「ええ。これを見れただけでも、頑張ってきたかいがありました」

「だが、勝負は勝負だ」

 

 黒沼トレーナーの言葉に身が引き締まる。

 そうだ。今日はライスの復帰レースだが、勝ちを譲ってくれる子など誰もいない。むしろかつてのGⅠウマ娘に勝って、次のレースの主役を目指している。

 ライスもそれは分かっているのだろう。ゲートへ入るころには、その眼からあふれるのは涙ではなく燃える闘志であった。

 

『日本ダービーの興奮も冷めやらぬ中、本日の最終レース、GⅡ目黒記念が始まります』

『やはり注目は今回が復帰レースとなるライスシャワーでしょう。パドックでも大きな声援で迎えられました』

『つい二週間前にはライバルであるミホノブルボンが鮮烈な復活勝利を果たしました。ライスシャワーは続くことができるでしょうか』

『仕上がりは良さそうに見えます。しかしどうしてもブランクはあるでしょう。出走するのはGⅡとはいえ、経験豊富なシニア級ウマ娘たちです』

  

 実況と解説の声はおおよそヴィクトリアマイルと近い内容だ。復帰は喜ばしい。だが全盛期とは程遠いだろうという評価。

 皆が見るのは夢か、それとも厳しい現実か。

 答えを出すように、鉄のゲートが開かれた。

 今日の出走ウマ娘は16人。逃げが3人、先行6人、差しが5人、追込2人だ。

 飛び出した逃げウマ娘が先頭を争う。内枠であることを活かして最短を走る1番、あえて内を避けて二つ外側を走る3番、大外の16番。

 5番のライスは1番と3番の後ろにつけた。逃げを風除けにしつつ、自分の存在を相手に突きつける位置取り。そして先行勢の中では先陣を切っている。マチカネタンホイザは中団、8~10番手についていた。

 やがて16番が先頭争いから降りる。ライスのやや後ろに下がり、足をためることにしたようだ。

 逃げがレースを引っ張り、集団が縦長に伸びていく。

 ペースとしては速め。スタミナのあるライスには都合がいいが、仕掛けどころを誤れば一気にバ群に飲まれるだろう。

 レースが後半に差し掛かり、各ウマ娘に動きがあった。

 追込が位置を上げだし、差しと先行がラストスパートに向けて位置を調整する。

 3番の逃げの顔色が良くない。ハイペースのため限界が近いのか、それとも背後についたライスのプレッシャーに気圧されたか。

 先頭が最終コーナーに入る。ここでライスがプレッシャーを抑える。

 背後からの圧が消えて、3番がライスから逃げるように前に出る。

 

 ――掛かった。

 

 加速した状態でコーナーに入る3番が遠心力で振られて外に膨らむ。

 なんとか最短でコーナーを曲がる1番と3番の間に隙間ができる。ちょうど一人分、割り込むには十分な間。それを見逃すライスではない。

 

『最終コーナーを回って最後の直線へ! ここでライスシャワーが二人をかわして先頭に立った!』

 

 上がる歓声に後押しされるようにライスがラストスパートをかける。逃げの二人との差は徐々に開いてく。

 決まったか。そう思った瞬間、後方から一気に突っ込んでくるウマ娘がいた。

 

『マチカネタンホイザ! 後方からマチカネタンホイザだ! もの凄い末脚でライスシャワーに食らいつく! 残り200m!!』

 

 かつてはライスに先着したことのあるマチカネタンホイザだ。ぐんぐんと差を詰めやがてはライスの横に並ぶ。

 

「はああああっ!!」

「まだまだああああっ!!」

 

 決死の表情でライスが声を上げる。マチカネタンホイザももう一押しとばかりに吼える。

 負けない。勝ちたい。

 二人の意地が真っ向からぶつかり合う。

 そしてついに、二人がほぼ同時のタイミングでゴール板を駆け抜けた。

 2バ身差を開けて三着がゴール。数秒の間をおいて続々とゴール板を通過していく。

 失格もケガもなく、無事完走したウマ娘たちが拍手で迎えられた。

 そして、

 

『結果確定しました!

 ……一着はライスシャワー! 目黒記念を制し、漆黒のステイヤーが堂々復活です!』

 

 爆発のような歓声が沸いた。

 割れんばかりの拍手が鳴り響き、ライスの勝利を称える声が会場中から上がる。

 思わず私も拳を握る。自信はあった。それでもライスの努力が結実した瞬間は、何度経験しても胸が高鳴る。

 ライスのもとにマチカネタンホイザをはじめとするウマ娘たちが集まる。彼女の健闘と復活を祝っている。一方で次は負けない、勝つのはわたしだ。そんな言葉を交わしているのが表情から読み取れる。

 

「いいレースだったな」

 

 黒沼トレーナーのつぶやきに、火照った頭が冷えていく。

 

「ええ。激戦でした」

 

 マチカネタンホイザとはハナ差の先着だった。

 わずかな首を上げ下げ、踏み込み一つでひっくり返るものだ。

 これがGⅠだったらどうだったか。ミホノブルボンが出ていたら、どうだったか。

 周囲の興奮を他所に、今回のレースの反省や課題を積んでいく。ライスのレースはこれで終わりではないのだ。

 とはいえ、ライスの頑張りを称えるのを忘れてもいけない。

 黒沼トレーナーとの挨拶もそこそこに、ライスを迎えに行く。関係者通路を通ってターフに降りると、どうやらライスへのインタビューが始まるところだった。

 ターフ上のウィナーズ・サークルでインタビューを行うのは慣例的にGⅠだけのはずだが、どうやらライスの復活を祝っての特別仕様のようだ。

 ……おそらくメディア側の提案だろうけど、事前に教えてほしいものだ。

 

「ライスシャワーさん、久しぶりのレースでありながら見事な走りでした。勝利おめでとうございます!」

「は、はい……! ありがとうございます」

「先ほどのレース展開についてですが――」

 

 レースも久しぶりなら当然インタビューも久しぶりだ。疲労も相まってライスの応答が固い。

 その姿もほほ笑ましく感じるのはライスの人徳、いや魅力か。

 だとしてもこのままではライスも辛いだろう。インタビューの邪魔にならない程度に、ライスの視界に入る。

 ライスの視線がこちらを見て、安堵の表情。私が近くに控えていることに気づいてくれたようだ。

 固さが取れ、堂々とした態度でインタビューに答えていく。

 

「ずばり、次走についてはいかがでしょうか?」

 

 これこそがメインだったのだろう。聞き逃さぬよう、自然と場が鎮まる。

 とはいえ、答えは決まっているだろう。

 天皇賞(春)。ミホノブルボンがライスとの再戦を望むレース。皆がそう答えるのを望んでいる。

 だが――

 

「―――」

 

 ライスがちらりと私を見た。許しを求めるような視線に私は頷き、声に出さず伝える。

 かましてやろう。

 

「……! はい、ライスの次のレースですが……」

 

 ライスが力強く前を向き、会場を見渡しながら宣言する。

 

「ライスはやっとレースに戻ってこれました。みんなが喜んでくれているように、ライスもすごく嬉しいんです。だから、もっともっといろんなレースに出たいと思っています!」

 

 拍手が上がる。それは同意と同時に、あまり焦らすなと言っているようにも思えた。

 

「春までなんて待てません。いいえ、待たせません。ライスの次の目標は……」

 

 一瞬の静寂。そして、

 

「天皇賞(秋)、です!」

 

 爆発のような歓声が再び響き渡る。

 拍手は雷鳴のようにに、歓声は地鳴りのように会場を震わせた。

 さて、あのサイボーグなんて言われているダービーウマ娘はどんな顔をするだろうか。

 きっとそれは明日の朝刊を見ればわかるだろう。

 

 ようやくここまでやってきた。ライスの止まった時計が動き出した。

 今度は止めぬよう、童謡のように長く動かすのが私の仕事だ。

 

 

 その夜、美浦寮を上げてのパーティだったのは言うまでもない。

 

 

 

 

  

 





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