シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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 お久しぶりです。
 デジタルがヴァルゴ杯勝ってくれたので初投稿です。B決ですが。
 今回から夏合宿、前回と違ってイベントいくつかあるので複数話かかります。
 一気に終わらせたかったけれど、ちょっと時間かかりそうなので一旦キリの良いところまで、三日間一話ずつ投稿させていただきます。

 あと、色々悩みましたがデジタルのデビューを史実より一年早めます。なので本作におけるアグネスデジタルは覇王世代です。



31話 夏合宿と闖入者たち

 

「ちょっとトレーナー君! これどういうことよ!!」

 

 降り注ぐ日差しが強くなり始めた七月のある日。

 トレセン学園の中庭に絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

 なんだなんだと周囲や校舎の窓から野次ウマが視線を向けた先、一人のウマ娘が男性トレーナーに詰め寄っていた。

 共にレースの勝利を目指す身、ウマ娘とトレーナーが言い合いになるのは決して珍しいことではない。

 しかし、今回はウマ娘がウマ娘だけに注目が集まっていた。

 マルゼンスキー。

 デビュー戦を大差勝ちし、その強さから他のウマ娘が競走を避けるなど別次元の強さと逸話を持つスターウマ娘。

 生徒の間でも、気さくで明るく、ステキな大人のお姉さまとして慕われている彼女が珍しく感情を露わにしている。

 そして普段からトレーナーと仲睦まじい姿を見せつけている彼女にしては珍しい剣幕だった。

 

「ヒドイ、ヒドイわトレーナー君!」

「ま、待ってくれマルゼン!」

 

 トレーナーの静止も聞かず、マルゼンスキーが紙を突き付けた。

 

「何よこの、電車の乗車券は!?」

 

 ……ああ、いつものやつか。

 この時点でほとんどの野次ウマは興味を失った。

 しかし当人たちは真剣なので話は続く。

 

「そんなに私のタッちゃんで行くのが嫌なの? それならそう言ってくれればいいのにこんな……こんなコソコソして!」

「違う、違うんだマルゼン!」

「何が違うのよー!」

「君と……一緒に行きたかったんだ……これに」

 

 そう言って男性が懐から取り出したのは四つ折りになったチラシだった。

 広げて折り目を正してからマルゼンスキーへと見せる。

 

「これって……!」

 

 目を丸くしたマルゼンスキーが見たのは花火大会のチラシだった。

 場所は合宿所の最寄駅から二つほど手前の場所だ。ちょうど、トレーナーが取っていた乗車券がそこまでの切符であることに気づいた。

 

「電車の切符は、一度下見に行こうと思って買っておいたんだ。マルゼンの車って大きいだろ? 当日駐車する位置とか、見晴らしの良い場所を探しておこうと思って……」

「え、え? それって……いやだ私ったら早とちりして……ト、トレーナー君ごめんなさい……」

「いやいいんだ。俺も慣れないサプライズなんて考えて、マルゼンを不安にさせてしまった」

「そんなことない! 私が話を聞こうともしないから……」

「マルゼン……」

「トレーナー君……」

「マルゼエエエン!!」

「トレーナーくううん!!」

 

 人目も憚らず抱き合う二人(バカップル)。そのままトレーナーを支点にくるくると回るマルゼンスキー。どこからともなく聞こえてくる〇田△正。

 先ほどまでの剣吞な空気はどこへやら。今や中庭は砂糖が沈殿した紅茶のごとき甘ったるさに満ちていた。

 こりゃたまらんと周りが逃げ出す中、当の二人は一通りイチャついてからルンルン気分で去って行った。

 

「………………あー」

 

 一人、校舎の窓から全てを見ていた生徒が呟く。

 

「夏だねー…………」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「夏デスね!!」

 

 ミーティングが終わったタイミングで、何を思ったかエルが叫んだ。

 

「エル、急にどうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもありません! 宝塚記念も終わり、ついに七月! ということはつまり……合宿の時期デス!

 トレーナーさん! 今年も当然マルカブは参加ですよね!」

「ああ、そのつもりだよ。デジタルとドトウも正式にチーム入りが決まったしね」

 

 春のファン大感謝祭で開かれた、デビュー前のウマ娘限定模擬レース。

 そこで結果を出したデジタルとドトウはその勢いのまま正式な選抜レースでも見事勝利。晴れて学園からデビューを見据えてのチーム入りが認められた。長らくついていた(仮)がとれたのだ。

 同時に、ついにマルカブのメンバーが正式に規定の五人に到達。大手を振ってチームを名乗れるようになった。

 

「デジタルとドトウは秋のメイクデビューを狙うよ。ライスたちは秋のGⅠ戦線に向けて、みんなで頑張っていこう」

『はい!』

 

 今年の夏合宿は気が抜けない。

 新人二人のデビューもそうだが、ライスとエルはGⅠを一勝しつつも最後は苦い思いをして春シーズンを終えた。しかもその因縁の相手は秋でもぶつかる可能性が十分にある。

 グラスも春全休という長いブランクからの復帰だ。

 この夏の積上が、彼女たちの秋の戦績に強く影響するだろう。

 

「チームメンバーも揃ったからね。今年は専用の宿泊施設が使える」

 

 昨年は三人しかいなかったので、寮のように他のウマ娘たちと同じ施設を使うか自前で準備するしかなかったが、五人になった以上、学園から宿泊施設を斡旋してもらえる。

 リギルのような高級ホテルとまではいかないが、それでもサポートスタッフが何人か詰めた宿泊所だ。去年に比べればかなりの好待遇だろう。

 もっとも、それでも自前で安宿を用意するチームもある。そのチームトレーナー曰く、うちの連中は贅沢すると調子に乗るから、らしい。

 

「充実した夏にしよう」

 

 課題が多く見つかった春だった。

 秋を見据え、マルカブの夏が動き出す。

 

 

 

 ◆

 

 

 

『海だー!』

 

 テンションの上がったウマ娘たちの声が響いた。

 空の色を写したかのような青い海、照りつける太陽で輝く砂浜。今年も合宿所は絶好のロケーションでトレセン学園を迎え入れた。

 チームを組んでいない、専属トレーナーがついたウマ娘たちは乗り合いのバスから宿泊所へ歩いていく。

 一方でチームは学園から斡旋されたか、自前で確保した施設へ向かった。

 あるチームは高級ホテルへ。あるチームは味のある民宿へ。そして我がマルカブが向かったのは学園から斡旋された旅館だった。

 風情のある、歴史のこもった老舗旅館。しかし手入れは行き届き、伝統を守りつつも目立たぬようネット設備や防災機器など現代機器が配備されていた。流石はトレセン学園が選んだ宿、こんな機会でもなければ一生手の出せないランクだった。

 

「いいところですね!」

 

 日本文化が好きなグラスは目を輝かせた。

 旅館の人に案内してもらった先は大部屋の和室だった。

 合宿期間中、みんなにはこの部屋で寝泊まりすることになる。

 

「うわっ! 窓から海見えますよ海!」

「絶景デース!!」

「あわわ……こ、こんな部屋に泊まれるなんて夢のようですぅ……!」

「みんな、貸切じゃなくて一般のお客さんや他のチームも泊っているから羽目を外し過ぎないようにね」

 

 個室でないことに不満が出ないか心配だったが、マルカブのメンバーはほぼ中等部。旅館というのも相まって、自分だけの空間よりもみんなでわちゃわちゃしているほうが楽しいようだ。

 私? 当然別室である。

 施錠できるようになっているので問題ない。

 無いったら無い。

 

「じゃあみんな、荷物を置いたら早速トレーニングだ。二十分後に砂浜に集合!」

『は~い!』

 

 休養は心の栄養。バカンスで気分をリフレッシュするのも良いが、本来の目的は実力アップだ。

 浜に出ると、既に気持ちの逸ったウマ娘たちがトレーニングを始めていた。

 それを見たライスたちの目の色も変わる。秋に向けた競争はすでに始まっているのだ。

 

「よし。じゃあ準備運動から。ここは芝じゃなくて砂だから脚を取られやすい。いつもよりも入念にね」

『おー!』

「おー!」

「……おー」

 

 ……あれ? 声が二つほど多く聞こえたな。

 

「やあやあチーム・マルカブの諸君! ちょっとよろしいかな?」

 

 続いて聞こえてきた芝居がかった声。

 目を向けると、瞳に怪しい光を宿した栗毛のウマ娘と、黒毛の目つきが鋭いウマ娘の二人がいた。

 みんなも視線を向ける中、デジタルとドトウが目を丸くして叫んだ。

 

「あれ? タキオンさん!?」

「シャ、シャカールさん! どうしてここに……?」

「二人とも知り合い?」

「はい、寮で同室のアグネスタキオンさんです。……あ、あたしもアグネスですけど、特に親戚とかじゃないですよ!」

「私の同室で、高等部のエアシャカールさんですぅ……」

 

 名前を聞いて思い出す。

 エアシャカールは時折トレーニングの様子を覗きに来るウマ娘だ。PCやカメラを向けて念入りに見てくるので記憶に残っている。

 一方アグネスタキオンを直接見るのは初めてだが、トレーナー会議で要注意ウマ娘としてよく名前が挙がるウマ娘だ。

 優秀なウマ娘を何人も輩出してきた名家の出だが、性格や振る舞いはマッドの一言。

 度々怪しい実験をしては騒ぎを起こし、自作の薬品を他人に飲ませようとするなど問題行動が多い。

 学園の指導に非協力的なのはエアシャカールも同様だが、二人ともいざ模擬レースに出れば他者を圧倒する走りを見せ周りを黙らせる。

 実力を以て我道を貫く、才能ある問題児たちだ。

 

「えっと……もしかしてマルカブへの入部希望かな?」

「残念だが違うねぇ……いや、幸運というべきか。私とシャカール君を一緒に受け持つとか胃と精神が鋼でできていても無事では済まないよ!」

「自信満々に言わないでほしいな……」

「おいタキオン。無駄口叩いてねえでさっさと本題に入れ」

 

 逸れかけた話題をエアシャカールが引き戻す。

 やれやれと頭を振ってから、アグネスタキオンが再度口を開いた。

 

「単刀直入に言うとだね、合宿期間中、私とシャカール君もトレーニングに協力させて欲しいのだよ」

「それは……チームに入りたいとは違うのかい?」

「違うね。マルカブを貶すようなつもりはないんだが、私もシャカール君も現状トレーナーを必要としていない。独自のアプローチで鍛えている。端的に言えば、データと化学による研究だね」

「うちのメンバーで成果を試したいと?」

「それもあるし、合宿に参加できるレベルのウマ娘からデータを取って回りたいというのもある。

 これはそちらにもメリットのある話だ。私たちの研究が有用なのは私たち自身で証明している。……聞いているだろう? 教官の指導に従わないくせに、模擬レースでは結果を出す気性難がいると」

「問題視されてる自覚はあるんだね」

「研究には客観的に物事を捉える必要があるからね。

 ……話をメリットに戻そう。マルカブには秋までに解決しておきたい課題があるはずだ」

 

 アグネスタキオンの視線が、私から隣のライスたちに向かう。

 

「日本ダービーでハナ差の敗北」

「む……」

「圧倒的逃げウマ娘への対策」

「う……」

「足元の不安」

「……あなたがいれば、皐月賞の棄権はなかったと?」

 

 ヒヤリとする発言がグラスから飛んだ。

 が、アグネスタキオンは怯むことなく首を横に振った。

 

「君たちの英断を、過ぎてから砂をかけるような真似はしないよ。そこまで私は傲慢じゃない。

 ……しかし、目下君の課題が足元の補強なのは事実のはずだ」

「それは……そうですが」

 

 本音を言えば、二人の技術に興味があった。

 アグネスタキオンが挙げたようにライスたちが戦う秋シーズンは強敵だらけだ。

 自分の経験が役に立たないとは思わないが、新たな知見があるなら試したいという気持ちがあるのも確かだった。

 

「あの、トレーナーさん……!」

 

 考え込んでいると、デジタルが袖を引っ張ってきた。

 

「ちょっといいですか?」

 

 アグネスタキオンたちに背を向ける。自然とライスたちも寄ってきたので、意をせず輪になった形でデジタルの言葉を待つ。

 

「おふぅ……! 潮風にのってウ、ウマ娘ちゃんたちのかほりが……!」

「大丈夫?」

 

 日差しに頭をやられたか。

 

「し、失礼しました。えっとですね、これは直接聞いたんじゃなくてあたしの想像なんですが……タキオンさん、脚があまり丈夫じゃないみたいなんです」

 

 誰かが息を呑む音がした。

 

「本当かい?」

「だから想像ですって! ……よく部屋にタキオンさん宛の荷物と届いてあたしが代わりに受け取ることあるんですけど、海外からのものが多いんです。それでタキオンさんの棚とか見ると本がいっぱいあって、内容は骨とか筋肉とか多くが医学系なんです」

「デジタルさん海外の本が読めるんですか?」

「専門的な用語は無理ですがそれ以外は。海外のウマ娘ちゃんを追っかけるのに語学は必須なので!

 ……あ、いえ、ですからタキオンさんの研究が危ないものってことはないかなと」

「タキオンの研究は自分の脚を丈夫にするためってことデス?」

「おそらく。学園で教官のトレーニングを拒否するのも、タキオンさんにとっては負荷が強すぎるするのかもしれません」

 

 ……確かに学園の教官がつくるメニューは均一で、個々のウマ娘に合わせたものではない。

 デジタルの考えが当たっているとして……いや、観察力のある彼女がそういうのならそうなのだろう。

 そう考えるとアグネスタキオンというウマ娘への印象が変わってくる。

 

「あ、あの、それならシャカールさんも、学園で噂されるような怖いウマ娘じゃないんですぅ……!」

 

 デジタルに影響されたか、ドトウも声を上げだした。

 

「シャカールさん、いつも何かを真剣に調べたり考えたりしていて、邪魔をされるのが嫌でちょっと冷たい態度を取ってると思うんです。

 それに時々、夜はうなされているんです。……どうしてかは分かりません。でも、毎日のデータ集めと関係するのなら――」

「どうしても勝ちたいレースがある?」

 

 頷くドトウ。

 同室である彼女たちの証言を信じるなら、アグネスタキオンもエアシャカールも足掻いているのだ。どうにもならない何かに対して。

 そういうのを知ってしまうと、応援したくなるのがトレーナーだ。

 

「おーい! 相談は終わったかーい?

 実際、私たちとマルカブは公平……ウィンウィンの関係を築けると思っているよ。私たちは研究が実践を踏んで発展する、君たちは異なる知見からのトレーニングでレベルアップする。お互い損なしだと思うんだがねぇ!」

 

 待ちくたびれたのか、アグネスタキオンからダメ押しの声が届いた。

 みんなの顔を見渡す。

 デジタルとドトウは強く頷き、エルは新しいトレーニングに興味があるようで笑ってサムズアップした。グラスはまだ警戒しつつも、仕方ないかと頷いた。

 ライスは、

 

「一つ聞いてもいい?」

 

 一人先に輪を外れ、アグネスタキオンと対峙した。

 

「……なんだい?」

「マルカブのトレーニングに協力するって言ったけど、じゃあタキオンさんたちのトレーニングはどうするの? 合宿中、サポートスタッフとして過ごす? それとも……トレーナーさんの指示に従う?」

 

 ライスの問いは、私たちのいる空間を一瞬で張り詰めさせた。

 互いに譲れない一線、壁のようなものが屹立するのを感じた。

 

「私もシャカール君も、自分のトレーニングは自分で組んできている。これまでもそうだったからね。……マルカブのトレーナーを貶す気はないよ。ただ、これは譲れない。私たちの信条のようなものだからね」

「そう。だったら、さっき言った公平な関係にはなれないよね」

「……どういう意味だ」

 

 エアシャカールが口を開いた。

 鋭い眼光、大抵の者なら委縮してしまいそうな迫力。しかしライスは動じない。この程度のプレッシャー、GⅠレースに出れば散々浴びるものだ。

 

「一つ目、私たちがレベルアップできると言ったけどその確証はどこにもない。タキオンさんたちは自分たちのやり方に自信があるみたいだけど、決して公的に認められたわけじゃない。

 だからタキオンさんのいうお互い損なしは、私たちが強くなって初めて成立する。そしてタキオンさんたちはデータ集めや私たちで実験ができるから絶対に損が無い」

「…………それだけか?」

「二つ目、チームに関わる以上、周りはチームに入ったのだと思うよね。じゃないと、学園に強制送還される」

「そうだねぇ」

「そして合宿が終わればタキオンさんたちは何事もなかったかのようにチームから離れる。これが二つ目。チームメンバーの増減はみんなが考えているよりも重いよ」

 

 ……なぜだろう。一瞬ライスがこちらを見た気がする。

 

「学園を去るわけでもないのにチームからメンバーが抜けるっていうのはトレーナーさんの、チームとしての指導力を疑われるの」

 

 ライスの言うことは大袈裟ではない。基本的にチームへの入部はウマ娘とトレーナー双方が合意したうえで成立する。なのにメンバーが抜けるということはなにか問題があったということ。

 それがウマ娘側かトレーナー側か。責を問われるのはトレーナー側が多い。

 これは移籍も同様で、先のサイレンススズカのチーム異動など円満に解決したのが奇跡的だ。

 リギルというトップチームの揺らぐことのない強固な地盤が無ければもっと拗れていただろう。

 

「タキオンさんたちがマルカブに関わって、そして離れるだけでチームの評判に影響がある。二人を受け入れる時点でライスたちは一点損をするってことにならない?」

 

 ライスの意図を理解したのか、エアシャカールが面倒そうに頭を掻きむしった。

 

「あー……おいタキオン!」

「もう少し待ちたまえ。シャカール君は損切の判断が速すぎる。

 ……ライスシャワー君。君の言うチームの評判については想定していなかったよ。何分、私たちは揃って周りからの評価なんて気にしないからねえ」

 

 すまないね、と謝罪するアグネスタキオン。

 しかし、彼女の顔に諦めの感情は見当たらなかった。

 

「妥協点を見出したい。全て呑めるとは言わないが、できる限り配慮したい」

「……お兄さま」

「ありがとうライス」

 

 前に出る。

 ライスがリーダーとして場を整えてくれた。後は私の役目だ。

 

「確認だ。君たちは無断で参加した合宿中、学園に送り返されるのを避けたい。そのためにマルカブを隠れ蓑にしたい」

「あけすけに言えばそうなるねぇ。トレーニングは自分でやるから、期間中の自由と万が一の逃げ場が欲しい」

「正直、君たちが提案するトレーニングを組み込むのはやっていいと思っている」

「ほう……?」

「試せるものは試したい。それくらい今年の秋シーズンは激戦だ。

 ……だから残る問題は君たちの扱いだ。話を聞くに、こちらの管理下に置かれるのは嫌なんだろう?」

 

 頷くアグネスタキオンとエアシャカール。

 自分たちのやり方を信じている、というよりなまじ優秀なためそこらのトレーナーでは彼女たちの能力について行けないのだろう。

 私なら、などと思いあがったことは言わない。

 今必要なのは、アグネスタキオンが言う通り互いの立場をギリギリで保てる妥協点だ。

 

「一つ目。チームに入ったふりだとか、いるはずがない君たちを匿うことはしない。学園側を騙すリスクを負うより、多少不利でもいることを正当化させる。君たちは臨時のサポートスタッフとしてチームにねじ込む」

「……まあ、私たちの行動の自由が約束されるのなら構わないよ。シャカール君も問題ないだろう?」

「ああ……」

「二つ目。ライスも言ったけど、チームに入っていることを装うのなら上辺だけでもこちらの指示に従って欲しい」

「具体的には?」

「まずどこか宿泊先を用意していたと思うけど、マルカブ(うち)が泊る所を使ってもらうよ」

「別に構わないが……いいのかい? 急な人数増なんて」

「どうにかねじ込むよ。あとトレーニングが自前なのは構わないけど、メニューくらいは確認させてほしい」

 

 ふむ、とアグネスタキオンが後ろにいたエアシャカールの方を向いて視線を交錯させる。

 ……まさかとは思うが、頭が良すぎでメニューが全部頭の中にあるなんて言わないだろうな。

 

「……了解だ。こちらも君たちの評判を落とすことが目的ではない。迷惑をかけないよう気を付けるよ。

 とはいえ私たちは協力者。可能な限り対等な立場で頼むよ」

「ああ、こちらも君たちの研究というのを利用させてもらう側だ。お互い、充実した夏になるよう努めよう」

 

 私とアグネスタキオンで握手を交わす。

 突然の闖入者だが、ある意味好機だと私は捉えていた。

 そして一種の賭けでもある。

 来る秋シーズン。GⅠ戦線で勝利するには、あのサイレンススズカや黄金世代たちに勝つ必要がある。

 彼女たちもこの夏で力をつける中、二人の助力が実を結べばマルカブは他のチームよりも一歩リードできる。

 日本ダービーに宝塚記念。

 二度の敗北で私の中に、いやみんなの中に生まれた勝利への欲。

 この炎のような想いを胸に宿し、マルカブ(わたしたち)の夏が始まった。

 

 

 

 ……とりあえず、たづなさん(ラスボス)へ説明をしにいかないとな。

 

 

 




 作者のスペック上あまり頭良さそうな会話ができない不具合。
 
 アンケートへの回答ありがとうございました。
 現在、結果に合わせた内容を書いているところなので、本日23:59をもって回答締め切りとさせていただきます。
 票数も動かなくなってきましたし、現状ダブルスコアなのでほぼ決まりでしょう。
 今回の連日投稿ではアンケート話までいかないので、しばらくお待ちください。
 
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