シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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ハロウィンドトウは覚悟していた。
ハロウィンデジタルは予想外でした。

序盤だけ掲示板。すぐにいつもの形になります。


32話 合流と別離

 

【わたしの夢は】トゥインクルシリーズ春シーズンを振り返るスレPart.△△【バンブーメモリー】

30:名無しのレースファン ID:J9ec71Tvd

 サイレンススズカ強すぎ問題。

 これが昨年クラシック無冠てマ?

 

32:名無しのレースファン ID:/ODxJfliQ

 ホント何してたんだトレーナー

 

34:名無しのレースファン ID:EE5dv384T

 晩成というか遅咲きだったんだろ

 

37:名無しのレースファン ID:qSyWr0uOY

 去年の秋天終わったあとチーム移ってから連勝だろ?

 珍しくリギルやらかした?

 

38:名無しのレースファン ID:dyx1grim0

 やらかしっていうかリギルの方針と相性よくなかったんだろ

 スピカがリギルより育成上手いとは思えん

 

43:名無しのレースファン ID:sHBRnYFy8

 スピカはテイオーとかマックイーン見る限り長所ひたすら伸ばす感じだしね

 その分成績にも谷間ができる

 どこでも一定の成績保てるリギルとは違うわな

 

47:名無しのレースファン ID:n/Y4eww5E

 あの二人に谷間があるわけねーだろ!!

 

52:名無しのレースファン ID:qaB8kPS0s

 >>47 そういう意味じゃねーよwww

 

53:名無しのレースファン ID:TukmGXYLu

 二つの世代の激突とか騒がれてたけど、春終わってみればスズカ一強だよな

 ライスにもブルボンにも完勝とかもう敵なしだろ

 

55:名無しのレースファン ID:eQ1JoBq1y

 ライスはまだ距離って言い訳があるし

 2200とかあの子にとっては短距離みたいなもんだろ

 

60:名無しのレースファン ID:lSgV4uKFr

 >>2200とかあの子にとっては短距離みたいなもんだろ

 まあサクラバクシンオーが出てたしな……

 

65:名無しのレースファン ID:KWlh+nIkD

 >>>>2200とかあの子にとっては短距離みたいなもんだろ

 >>まあサクラバクシンオーが出てたしな……

 屁理屈を補強するな

 

70:名無しのレースファン ID:VoT6qUU33

 スズカって長距離行けるん?

 

73:名無しのレースファン ID:x+7vO03Rq

 あの逃げなら2400でもギリだろ

 適性はマイル~中じゃね? 

 

76:名無しのレースファン ID:wr1Qaa5B8

 長距離であの大逃げして勝てたらマジで怪物だわ

 

77:名無しのレースファン ID:uDcDpERca

 ???「安田も有も大して差はないんだが?」

 

81:名無しのレースファン ID:RC7grTJQR

 >>77 葦毛の怪物は帰ってもらえます?

 

84:名無しのレースファン ID:y1slkjM/B

 >>81 帰らせるなお茶菓子を出してもてなせ。あわよくばサイン貰ってきて

 

89:名無しのレースファン ID:/rAOdV85s

 スズカの次GⅠは秋天かな?

 

93:名無しのレースファン ID:+Gc0N3A/b

 スプリンターって感じもしないからそこだろうね

 

97:名無しのレースファン ID:FmEztpBLt

 というかダートやスプリンター以外はみんなそこ目指すだろ

 

101:名無しのレースファン ID:Q08nQ8/Nn

 ライスとかブルボンも?

 

103:名無しのレースファン ID:2lMIJ5YTq

 中距離GⅠ欲しい陣営はみんな出るだろ。

 サクラバクシンオーは知らん

 

104:名無しのレースファン ID:iA+i1o5+l

 秋天もスズカ勝ったら大阪杯、宝塚記念に続いて中距離GⅠ三連勝か

 シニア三冠にはならんけど大記録やろ

 

107:名無しのレースファン ID:5XY0fAmqN

 大記録……三連……黒い……う頭が

 

109:名無しのレースファン ID:Rehi3vAvp

 フラグ止めろ

 

 

 

 ◆

 

 

 

 合宿初日から、アグネスタキオンとエアシャカールという協力者を受け入れた我らがマルカブ。

 サイレンススズカや黄金世代という次がいつ来るのか分からない強豪が集う時代。いまの私に無い知見を持つ二人の助力は必ずやライスたちの力になるだろう。

 が、一点問題がある。

 この夏合宿は一応、秋のメイクデビューや重賞戦線を視野に入れたウマ娘たちの実力向上を図るものだ。そのため参加できるのはデビュー済か、選抜レースで実力を示してデビューの見込みがあるウマ娘に限られる。

 担当トレーナーが付いていたりチームに入っていればいいというわけでもなく、実際、最近マチカネフクキタルと一緒にいるマンハッタンカフェも、まだ選抜レース前ということで合宿には参加していない。

 つまり、アグネスタキオンとエアシャカールも本来ならこの合宿に参加はできない。

 なので、

 

「参加メンバーの申告漏れですか……」

 

 たづなさん(このヒト)からの追及を潜り抜ける必要があるのだ。

 

「ええ、こちらの不手際で申し訳ありません」

「アグネスタキオンさんと、エアシャカールさんですか……」

 

 書類を見ていた目がこちらを向いた。

 根回しなどしていないので、下手に策を弄さず謝り倒していこうと思ったがどうなるか。

 

「サポートスタッフ枠としての参加なんですね?」

「はい。彼女たちは独自のトレーニング方法をしているので、それを取り入れようかと」

 

 選抜レースに出ていないウマ娘が合宿に参加する方法、それがサポートスタッフとしての参加。つまりはトレーナー側としての参加だ。

 彼女たちが考案したメニューを取り入れるのは本当だし、彼女たちは自主トレをするから私の指導を受けるわけではないので嘘はついていない……ことになるはず。

 

「…………」

 

 沈黙が続く。

 たづなさんは役職こそ理事長秘書だが、トレーナーだけでなく学園全体を取り仕切る才媛だ。そんな彼女を騙すとか言いくるめるなんて誰ができるだろう。

 ここでダメと言われたら、アグネスタキオンたちには悪いが諦めてもらおう。

 やがて、たづなさんが意を決したように頷いた。

 

「分かりました。旅館の方にはこちらから連絡しておきますね」

「ありがとうございます!」

 

 ホッと胸を撫で下ろす。

 第一関門突破である。

 

「でも今後は気を付けてくださいよ。急な増員なんて旅館の方も困るんですから」

「おっしゃる通りです。本当、すいませんでした」

「それと、サポートに入られる二人ですが」

 

 たづなさんの顔が近づいてくる。

 私にしか聞こえないくらいの声で、

 

「周りとの関わり方をよく知らない子たちです。こういう小細工だけじゃなくて、そちらも教えてあげてくださいね」

「………………はい」

「では、合宿頑張ってくださいね♪」

 

 笑顔のままたづなさんは去っていた。

 ……気づいているけど見逃してくれたということか。やはり油断できないヒトだ。

 とにかくこれで二人が合宿にいることはできた。

 ライスたちの下へ戻り、トレーニングを見るとしよう。 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 午前中のトレーニングは基礎トレを重点的に行った。合わせてエアシャカールとアグネスタキオンにメンバーのデータを観測させ、午後のトレーニングに活かす。

 途中、アグネスタキオンが調合したというドリンクで疲労回復とともに体質の改善もしていく。が、味が不評で歓迎はされなかった。

 私も飲んでみたがなんというか、とりあえず毒のないものを全部まとめて煮込んだような味だ。身体への害はないが、精神的には苦行であった。

 アグネスタキオンは、そのあたりは改良点だなと興味深そうにメモを取っていた。

 そうして時間はあっという間に過ぎ、昼になった。

 昼食のため、浜辺近くの食堂でテーブルを囲んだところで言った。

 

「午後の本格的なトレーニングの前に、二人にもマルカブの秋予定について共有しようと思う」

「予想はできるが……ま、情報共有は必要だな」

「そうだねぇ、同じ中距離区分でも2,000mと2,400mでは取り組むメニューは変わってくる。認識に齟齬があってトレーニング効果を薄めては目も当てられない」

 

 協力者二人の賛同が得られたところでメンバーのスケジュールを告げていく。

 

「まずデジタルとドトウは九月のメイクデビューを目指す。デジタルが1,600mのマイルで、ドトウは2,000mを考えている。その後はОP戦や重賞を挟んで十二月のジュニア級GⅠを大目標にするよ」

「あたしはダートの全日本ジュニア優駿、ドトウさんはホープフルSですね!」

「ホープフルSは去年エルが勝ったレース! 二年連続マルカブの勝利を飾るデスよ!」

「は、はいぃ! チームの看板に泥を塗らないよう頑張りますぅ!」

「ライスの目標かつ初戦は秋の天皇賞、ステップは挟まずに直行するよ。出走者は昨年走った面子に加えて、今年からシニア級に上がったウマ娘たちも出てくるだろう」

「うん! ライス、頑張るよ……!」

 

 サイレンススズカにミホノブルボン、エアグルーヴにメジロ家のブライトとドーベル、マチカネフクキタルも考えられる。

 サクラバクシンオーは……どうだろうか。本人は出たがりそうだが、こればかりは読めない。

 そしてなによりも、スピカのメジロマックイーンが秋から復帰するはず。春の天皇賞を二連覇した彼女だが、秋の方は未勝利だ。彼女にとっては是が非でも欲しいタイトルだろう。

 

「秋天の後は調子を見ながらだけど有記念で締めくくろうと思う。

 次にグラス。グラスの大目標は菊花賞、秋の初戦はそのトライアルであるGⅡセントライト記念だ。その後は様子を見て、良ければ有記念を狙う。

 春が全休で終わってしまった悔しさを秋にぶつけていくよ」

「はい。ジュニア級王者として相応しい走りをしてみせます……!」

「おや、有記念はライス君も出るんだろう? 二人出しするのかい?」

「ああ。もちろん、二人が良ければだけど」

 

 一つのチームから同じレースに二人以上出すことは珍しくない。その分、八百長の疑いが無いかチェックは厳しくなるが。

 スピカやカノープスのように互いを競わせ、切磋琢磨させるという目的で出すチームもある。

 そして私たちマルカブもそれと近い関係性が出来つつある。

 ライスとグラスが互いに顔を見合わせる。両者の顔には、迷いではなく闘志に満ちていた。

 

「ライスはいいよ」

「私も、ライス先輩とは走ってみたいと思っていました……!」

「よし、これで決まりだ。……最後にエル」

「ハイ!」

「目標は以前から変わらずジャパンカップ。でもその前にもう一戦、シニア級も走るレースに出ておきたい」

 

 元々は安田記念で積むはずだった経験だ。日本ダービーやNHKマイルカップで世代の中での実力は示した。上の世代相手にも通用することを示したい。

 

「どこにするんだい? ジャパンカップにステップレースはなかったはずだけど……」

「GⅡ毎日王冠を考えているよ。秋天のステップレースでかつ、マイルCSを見据えて出走するウマ娘も多いからレベルもGⅠと比較しても遜色ない」

「おお! 所謂スーパーGⅡデスね!」

 

 燃えてきました! と奮起するエル。彼女にとっては初めての格上との競争だが、力負けはしないだろうと踏んでいる。

 なによりも、ここで躓くようでは海外からの強豪が集まるジャパンカップは太刀打ちできない。

 

「……目標が決まったンならそれに合わせてメニューを出すぞ」

「ああ、お願いするよ。……の前に、みんな午後に向けてちゃんと食べておくように」

『は~い!』

「……ねぇシャカール君、ここに書いてある『黄金色船盛り焼きそば』って気にならないかい?」

「ならねェ。勝手に食ッてろ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 午後のトレーニングは中々充実したものになった。

 午前中に観測したデータを使ってエアシャカールが自作したプログラムから出力されたトレーニングメニューは、私から見ても効率的に能力を向上できるメニューであった。

 そこに今のライスたちの課題とすべきポイントを重点的に改善するメニューを加えていく。

 改良によって若干マシになったアグネスタキオン特製ドリンクも合わさり、トレーニングが進む。

 

「とりあえずの内容はこンなもンだろ。あとは様子見ながら反復な。……いま端末に送ったぞ」

 

 一通りメニューをこなしたあたりで突然エアシャカールが言った。

 メール受信の通知音がポケット入れたスマホから聞こえた。

 見ると今ライスたちがやっているものとは別のトレーニングメニューが書いてあった。

 ……ああ、エアシャカールの自主トレメニューか。確かに事前に見せる約束だったな。

 しかし前後の文脈が足りない。察することはできるが、なるほど、たづなさんの言っていたことがよく分かる。

 頭の回転が速すぎる分、そして効率化を求める当りエアシャカールはコミュニケーションの手順を数段飛ばす癖があるようだ。

 とはいえ、今その話をしてもしょうがないだろう。

 

「……ん、了解。場所はここを使うかい?」

「いい。別メニューやるヤツが近くにいたら邪魔だろ。余所でやる」

「そんなことないけど……分かった。気を付けてね。時間になったら一度戻って来てね」

「…………」

 

 返事は無く、エアシャカールは去って行った。

 小さくなる背中を見てアグネスタキオンがふむ、と思案顔だ。

 

「では、シャカール君も行ったようだし私も別行動とさせてもらおうかな」

「トレーニングかい? だったらメニューを……」

「いや、今日はトレーニングしないよ。それよりも、試薬の被験体を探しに行きたい。反応のサンプルデータは多いほどいいからね」

「被験体って……まあ分かった。ライスも言っていたけれど――」

「チームの評判を悪くするようなことは慎むよ。私も、せっかくの機会を初日で失いたくはないからね」

 

 そう言ってアグネスタキオンも去って行った。

 エアシャカールと違い若干の不安があったが、まあまずは彼女の良識を信じるとしよう。

 私も二人のことを気にしてばかりはいられない。

 彼女たちが作ったメニューは独特で、教本だけでは得られない知見だ。これを理解しないと、私もただの置物になってしまう。

 この合宿は、ある意味私の合宿でもあるのかもしれない。

 そんな思いを頭の片隅に置きながら、ライスたちのトレーニングを進めるのだった。

 

「また個性的な連中と仲良くなったようだな」

 

 休憩中、黒沼トレーナーが話しかけてきた。

 連中、というのはアグネスタキオンとエアシャカールのことだろう。

 どうやら特にコソコソすることなく、堂々と動き回っているようだ。

 

「ええ、トレーニングメニューについて色々協力してもらっています」

「協力ね……たいていのトレーナーはあいつらの気性についていけないんだが、そのへんお前は肝が据わっているな」

「正式にトレーナーになるわけじゃないからでしょう」

 

 本当にチームに入るのなら、私ももう少し干渉する。そしてそれは彼女たちが望む関係ではないだろう。

 本契約しようものなら、私も他のトレーナーたち同様振り回されるのは目に見えている。

 そう言うと、黒沼トレーナーが不敵に笑った。

 

「ついに本気になったということか」

「……? 私たちはいつも本気ですが」

「前のようにってことさ。……それより、今夜一杯どうだ?」

 

 口元で杯を傾ける動作。飲みの誘いだ。

 

「珍しいですね、黒沼さんが誘ってくれるなんて」

「他のトレーナーとはそうでもないさ。お前の場合、担当が担当だから誘いにくかっただけだ。

 ……しかし今回は春シーズンお互いサイレンススズカにやられた者同士、愚痴の言い合いでもしようじゃないか」

「いいですね。どうせならスピカの方も呼びますか?」

「いや、あいつは東条のツケを清算するまで誘わん」

「黒沼さんらしい」

「ふ……後で場所はメールする」

「ええ、お願いします」

 

 軽く手を上げて、黒沼トレーナーは去っていった。

 夜が少し楽しみにしながら、トレーニングを続けるのだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「花火大会ウェー―イ!!」

 

 夜。トレーニングが終われば門限までは自由時間だ。

 チーム、寮、階級を超えてウマ娘たちで交流が行われる。

 早速、ダイタクヘリオスをはじめとするギャル系ウマ娘たちが持ち込んだ花火を使って砂浜に嬌声が響いていた。

 青、緑、赤、白と色とりどりの炎が躍る。

 春シーズンの悔い、トレーニングの疲労を一時忘れ、友との交流に身を任す。

 

「やあやあ火に当たって熱いだろう。ドリンクをどうぞ」

「あ、ありがとう。ん――うわっ!?」

「ぶ――わはははははは!! ちょ、ミラクルが光ってるし! なにそれウケる! どうなってんの!?」

「んーやはりそうなるか。発光作用のあるものは使っていないはずなんだけどねぇ……」

「なにそれ、ちょっと怖いんだけど大丈夫なの?」

「他にも何人か光ったけれど特に害はなかったよ。発光も小一時間すれば治まるから安心して欲しい」

「光る時点で割と害だと思うんだけど……」

「ちょっとタキオン私にもそれちょーだい!」

「え、ヘリオス本気……?」

「構わないよ。被験……飲んだ感想は多いに越したことはないからね」

 

 

「ドトウ! もっと、もっと高く炎を掲げるんだ! 色鮮やかな炎と月がボクをもっと美しく照らし出す!!」

「は、はいぃ~! オペラオーさんの輝き、しっかり演出しますぅ!」

「二人とも~、危ないからほどほどにね~。あ、アヤベさん次何にします?」

「なんでもいいわ。適当なところで私抜けるから」

 

 

「花火使いでもエルは最強! グラス、どちらが長く線香花火を点けていられるが勝負デス!」

「ふふふ……エル、この育てに育てた火種に勝てますか?」

「ケッ!? なんですかその大玉線香花火は!?」

 

 

「ライスさん、少しよろしいでしょうか?」

「ブルボンさん? ……うん、大丈夫だよ」

 

 思い思いにウマ娘たちがはしゃぐ中、ミホノブルボンに呼ばれてライスシャワーはその喧騒から外れた。

 賑やかな光の群れを尻目に、夜の浜辺を二人で歩く。

 月明かりに照らされた海からくる白波が、心地よい潮騒となって耳朶を震わせた。

 

「ライスさんは、秋はどのレースに出ますか?」

 

 花火ではしゃぐウマ娘たちの声が遠くなったところで、ミホノブルボンが訊ねた。

 

「ライスはまず、秋の天皇賞かな」

「その次は?」

「様子を見ながらだけど有記念かな」

「そうなのですね……」

「……ブルボンさんはどこを走るの? やっぱり秋の天皇賞?」

「…………いいえ」

 

 意外な返答だった。

 天皇賞(秋)は秋シニア三冠の一戦目であり、中距離(クラシックディスタンス)における王者決定戦とも言われるレースだ。

 復帰以降、中距離のGⅠを勝っていないミホノブルボンにとって喉から手が出るほど欲しい栄冠のはずだ。

 

「そ、そうなんだ……じゃあエリザベス女王杯? それともジャパンカップ?

 ジャパンカップだとエルさんとぶつかるね。うわーエルさんも大変だ!」

「そのいずれにも、私は出ません」

 

 ミホノブルボンの足が止まる。釣られてライスシャワーも止まった。

 ミホノブルボンが海に背を向け、ライスシャワーのほうを向いた。

 身長差のある二人の視線が交錯した。

 

「私は、秋のレースには出ません……」

 

 冷たい声だった。

 もう決まったことで、覆せないのだと知らしめるようだった。

 

「―――海外遠征を、打診されました」

 

 強い風が吹く。波が大きく立ち、しぶきが上がった。

 

「一度のレースのためではありません。しばらく……少なくとも数年、私は海外に拠点を置きます」

 

 周りの音が聞こえなくなるほどの衝撃だった。

 

「もう、あなたとは走れない………………」

 

 

「…………………………………………え?」

 

 

 別れが、春だけとは限らない。

 

 

 

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