シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話   作:ブルーペッパー

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これで夏合宿終了、そしていったん投稿ストップになります。
あと今後の展開についてお知らせあるので長めのあとがきがあります。




36話 ドトウと同期たち

 メイショウドトウの自己評価は良くない。

 ドジで、グズで、とにかくまあそんなネガティブな評価である。

 原因を上げるのならば親の転勤が多いので交友関係がリセットされることが多く、引っ込み思案な性格になったことか。自信が無く、周りを気にしすぎて動きが固くなり、結果として失敗してしまう。そしてまたネガティブな思考に偏っていく。

 そんな悪循環に陥りつつあった彼女にとってトレセン学園への入学は転機と言えるだろう。

 なにせ中高一貫の全寮制の学園だ。在学中は親の都合で所属するコミュニティから外れることはない。

 合わせて全国どころか世界から生徒が集まるため交友関係を一から構築する者が多い。

 自分を変えたいというメイショウドトウの願いは、ある種叶いつつある。

 強面なれど優しい──本人は強く否定するが──ルームメイトに恵まれた。レースに勝つという同じ目標を掲げるクラスメイトに囲まれた。

 同級生だけれど、憧れの存在もできた。

 そして、こんな自分に見所ありとチームに誘ってくれたウマ娘とトレーナーがいた。

 強く、才能に溢れ、既にトゥインクルシリーズで結果を出している先輩たち。自分の夢を一緒に探してくれると言ってくれた人に出会えたのだ。

 トレセン学園に来てから、メイショウドトウの日常は輝いていた。

 

「ふぅ……ドトウさん、大丈夫?」

「だ、大丈夫ですぅ……!」

 

 日がまだ昇り切らない夜明け。

 ライスシャワーの朝練に同行していたメイショウドトウは息も絶え絶えながらもなんとか返事をした。

 どれほど走ったか。体感だが中距離に区分される距離は走っただろう。

 

「す、すいません。私のせいでペース落とすことになって……!」

「ううん、大丈夫だよ。ペースが遅いと感じるのはあれのせいだから……」

 

 ライスシャワーが指さす先には赤く点灯する信号機があった。

 ランニング中、おそらく途中にあるもの全て赤で引っかかった気がする。デビュー前のメイショウドトウがシニア級のライスシャワーについて来れたのはそのおかげだろう。

 

「町中を走るといつもこうなんだよね……。でも浜辺をトレーニング以外で走ってると変な癖ついちゃうかもしれないし……」

 

 話しているうちに信号に灯った青が点滅するのが見えた。二人はその場で軽く足を動かして走り出す準備をする。

 

「ドトウさん、ここから旅館までちょっとペース上げるよ。ついてこれる?」

「つ、ついて行き、ます!」

「うん。分かった」

 

 無理をしないで、とは言わない。彼女のやる気を削ぐ気がしたから。

 

「頑張ってね!」

「はいぃ……!」

 

 赤から青へ変わる。念のため車が来ていないか左右確認をしてから、ライスシャワーは力強く駆けだした。

 一瞬で遠くへ行く黒い背中をメイショウドトウは必死に追いかけた。

 背丈はメイショウドトウの方が上。故に一歩で稼げる距離も上のはずだ。

 だというのに、追いつくどころかどんどんと距離が空いていく。

 

(ライス先輩、やっぱり速い……! でも、でもぉ……!)

 

 デビュー前の自分と、クラシックを走り抜き、歴戦のシニアとして走るウマ娘との差を見せつけられる。

 しかし、メイショウドトウは諦めない。

 

(ただ置いて行かれるのは……イヤ!)

 

 歯を食いしばり、必死についてくる後輩を見てライスシャワーは心躍らせた。

 自分に自信が無く、ネガティブな思考。その様子を過去の自分に重ねていた。

 しかしこうして一緒にトレーニングしていると、決定的に違う点があることに気づく。

 メイショウドトウは辛くとも、苦しくとも決して逃げない。投げ出さない。ダメな自分はダメな自分として受け入れて、変わろうと頑張っている。

 ライスシャワーは知っている。

 そういうウマ娘は強くなる。彼女たちのトレーナーが決して見捨てず、強くしてくれることを知っている。

 

「頑張ってね、ドトウさん……」

 

 その努力が実を結ぶ時を想いながら、ライスシャワーはさらに速度を上げていく。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 チームではなく、トレーナー個人と契約しているウマ娘は合宿中学園が用意した宿舎に泊まっている。

 一部家事こそ自分たちで分担する必要があるが、それ以外は学園の寮のように生活していた。

 マルカブのメンバーたちがそんな宿舎の談話室に入ると、一際大きなテレビモニタの前にウマ娘たちが集まっているのが見えた。

 すでに時間は夜遅く、門限はもちろん消灯時間も迫っていた。

 しかし誰も部屋に戻ろうとはしないし、それを咎める者もいなかった。

 今日だけは特別な夜なのだ。

 

「あ、ドトウちゃん! こっちこっち!」

 

 マルカブ一同に気づいた一人が立ち上がって手を振った。真ん中で分けた金の髪が特徴的なウマ娘、ナリタトップロードだ。

 呼ばれたメイショウドトウはチームメイトとナリタトップロードを交互に見るが、チームメイトに促されておずおずとやってきた。

 

「お、お隣失礼します……」

「どうぞどうぞ! こちらこそ呼びつけてゴメンね。もしかしてチームのみんなで見る予定だった?」

「いえ、大丈夫ですぅ」

 

 見ると、他のマルカブの面々も各自クラスメイト達と合流していた。

 特にグラスワンダーとエルコンドルパサーが加わった黄金世代の五人はよく目立つ。

 徐々に集まる面々の豪華さに目を白黒させていると、ナリタトップロードのもう一方の隣に別のウマ娘が腰を下ろした。

 

「隣、いい?」

「あ、アヤベさん! どうぞどうぞ!」

 

 束ねた長い髪と右耳に付けた青いメンコが印象的なウマ娘、アドマイヤベガだった。

 彼女はナリタトップロードと同じく高等部、対してメイショウドトウは中等部だが、三人とも同年に入学し、すでに選抜レースを勝ち抜きトレーナーが付いたりチームに入った身。つまりは同時期のデビューを控えたウマ娘たちだった。

 

「これならオペラオーちゃんも来れたら良かったですね」

「騒がしくなるだけだから結構よ。だいたい向こうはリギルの先輩たちと見るでしょ」

「それもそうですね。……あれ? それだとアヤベさんやドトウちゃんたちはどうしてこっちに?」

「私たちが泊る旅館にはここまで大きなモニタはなくて……。スマホやタブレットで見るよりこっちで見たほうが楽しいってトレーナーさんが……」

「うちも似たようなもの。日本(こっち)フランス(むこう)じゃ時差があってこんな時間だし、騒いだら他のお客さんに迷惑だからってクリークさんが……」

 

「あ、始まるよ!」

 

 誰かの声を合図に集まったウマ娘たちの意識がモニタへと集中する。

 モニタに映るのはレース場。しかし、彼女たちが知るレース場とは雰囲気が異なる。

 

『こちらフランスのドーヴィルレース場になります。例年、この時期雨の多いフランスですが今年は天候に恵まれ良バ場の発表となっております。

 本日のメインレースは短距離GⅠ、モーリス・ド・ゲスト賞! 日本からはNHKマイルカップを制覇したシーキングザパールが出走します!』

 

 名前が挙がると同時にウマ娘たちから歓声が上がる。

 赤をベースに胸には白い星を飾った勝負服姿のシーキングザパールがパドックに姿を現すと応援の声はさらに大きくなった。

 

「スゴイですよね、海外のGⅠなんて……」

「そうね。でも、私たちもデビューしたらいつか行くかもしれない」

 

 アドマイヤベガの言葉に一部のウマ娘たちが反応した。

 未だ事例の少ない海外遠征。デビュー前のウマ娘も、クラシックで競うウマ娘も、シニアでしのぎを削るウマ娘も、一度は夢見る世界の舞台。

 国を、世代を、時代を背負って走る己を幻視するのは誰もが通る道だ。

 その幻想を今、一人のウマ娘が現実にしているのだから、この場に集まったウマ娘たちの興奮は高まるばかりだった。

 

「勝てるかな?」

「勝てるって! だってパールさんだよ!」

「んーこの信頼の高さ」

「言っても海外だよ? 日本と同じようにはいかないって」

「バ場がかなり違うっていうよね」

「パールさん五番人気じゃん。やっぱキツイって……」

「人気と実力はイコールじゃないでしょ!」

 

 根拠のない信頼を寄せる者、自前のレース論を展開する者、海外の壁の高さを恐れる者、上がる声は様々だ。

 そんな声も、出走者たちがゲートに入り発送直前となると静まり返る。

 こちらの沈黙を待っていたかのようにレースは始まった。

 弾けるように飛び出した十二人のウマ娘たち。

 スローペースで進むバ群の中からシーキングザパールが押し出されるように飛び出した。

 

「逃げだ!」

「いけー! パール姉さん!!」

 

 スタート直後とはいえ、日本のウマ娘が先頭に立ったことで談話室は沸き立った。

 中長距離やダートを主戦場とするウマ娘たちが興奮する一方、シーキングザパールと同じスプリンターたちは真剣な表情でレースを見ていた。

 もしも自分があの場にいたらどう動くかを脳内でシミュレートしているのだ。

 モーリス・ド・ゲスト賞は1,300mの直線レースだ。コーナーが無いため枠順の有利不利が無く、バ群に埋もれる危険も少ないため、純粋なスピード勝負となる。

 一方でこれは第七レース。つまりはシーキングザパールが走る前に六回、出走ウマ娘たちによって踏まれてきた芝だ。その分芝のコンディションには差が出てくる。

 

「パールさん、真ん中をそのまま走ってるね」

 

 ヒシアケボノの言葉に、隣にいたニシノフラワーが頷いた。

 

「はい。芝の状態がいい外ラチへ動くより、位置取りにかかるロスを嫌ったんでしょうね」

 

 短距離レースは七十秒ほどで決着がつく。

 コーナーから直線に入ってからの捲りが無い以上、一度掴んだペースを手放す意味はないと判断したのだろう、とスプリンターたちは結論付けた。

 

「残り300m!」

 

 誰かが叫んだ。

 

「パール姉さんまだ先頭!」

「行けぇ!」

「頑張って!」

 

 他の十一名がスパートをかけるが、それはシーキングザパールも同じだった。

 追走するウマ娘たちを振り切り、一番にゴール板を駆け抜けた瞬間、談話室の興奮は最高潮に達した。

 

 モニタの向こう、焚かれるフラッシュの光を浴びながら勝利インタビューを受けるシーキングザパールの姿があった。

 

『シーキングザパールさん! モーリス・ド・ゲスト賞勝利おめでとうございます!』

『ありがとう!』

『日本ウマ娘レース界の悲願であった欧州GⅠ制覇! それをご自身で成し遂げたことへの気持ちを!』

『そうね……まず、日本からの出走で欧州のGⅠ戴冠第一号という栄誉を飾れたことはとても光栄だわ。

 でも今日の勝利は私一人で成したわけではないとも思っているわ。トレーナーにサポートスタッフ、支援してくれたトレセン学園の職員たち。ニューマーケットでのトレーニングに協力してくれた現地スタッフたち。応援してくれたエブリワン。どれか一つでも欠けていたら成し得なかった、胸を張ってそう言えるわ!』

『遠征チーム、いや今日のレース出走までに関わった全てのヒトにとっての栄誉というわけですね!』

 

 素晴らしいです! と声を上げる記者を余所に、別の記者が手を挙げた。

 

『今日のレースは十七年ぶりのレコード更新となりました。このような記録的レースをできたことの要因はなんだったとお考えですか?』

『んー色々考えられるけど……一番の要因はズバリ、ガッツね!』

『ガ、ガッツですか……?』

『イエース! だって、住み慣れた日本を離れてフランスまで来るのよ? 時間もかかる、お金もかかる。まずそれを知ったうえで遠征を決意するためのガッツ! 準備するためのガッツ! 慣れない土地、環境、食事、そして想定外のことにも対応するガッツ! ガッツがあったからこそ、私は万全のコンディションでレースを走ることができたわ。

 それだけじゃない。私よりも前に欧州レースに挑んだ日本のウマ娘は何人もいるわ。そして敗れてきた……。それでも、先人たちはその結果に心折れることなくチャレンジし続けてきたわ。敗因を分析し、改善し、実践してきた。その試みと経験は受け継がれ、今日この瞬間結実した。日本ウマ娘たちのネヴァーギブアップというガッツが今日のレコード勝利を生み出した。私は確信をもって言えるわ!』

 

 シーキングザパールの演説に拍手が起こる。中には感極まって涙する者もいた。

 一時インタビューが中断しつつも、記者からの質問は相次いだ。

 そして最後の質問が飛ぶ。

 

『本日の勝利は日本のウマ娘レース界においてとても重要なものだったと思います。しかし一方で、天候や展開に恵まれたという見解もあります。シーキングザパールさんから見てズバリ、日本ウマ娘たちの実力は欧州のウマ娘に届いたと思いますか?』

 

 聞く者次第ではヒヤリとしかねないものだったが、シーキングザパールは笑って答える。

 

『思うわ。少なくともその一端に指先だけでも届いたと思う。そして今日の勝利の輝きは未来の萌芽に繋がる日差しとなった。いずれ真珠(わたし)の輝きを受け継ぎ、黄金の輝きが欧州を照らしにやってくる。私はそう信じているわ。

 ……信じられない? だったら、来週のジャック・ル・マロワ賞を見れば分かるはずよ。来週走るタイキシャトルは私と同じくらい……いいえ私よりももっとすごいウマ娘よ。日本で鍛えた彼女がどんな走りを見せるか、あなたが知りたい答えはそこにあるわ』

 

 言い切ると、シーキングザパールは去って行った。

 

 翌日、現地のメディアでも彼女の勝利は大きく取り上げられた。新聞の一面に彼女の名前が載り、三面までかけて日本ウマ娘の海外遠征史が紹介された。

 それほどまでに、シーキングザパールの欧州GⅠ制覇は歴史的な偉業だったのだ。

 当然彼女の勝利は日本でも大々的に報道され、日本中が興奮に包まれた。

 その熱はトレセン学園はもちろん、合宿先のウマ娘たちからも発せられていた。

 トレーニングに励む姿も昨日よりも熱が入っていた。

 クラシック級やシニア級のウマ娘たちはシーキングザパールの栄光に続くために。デビュー前のウマ娘たちは明るい未来を夢見ていた。

 それはマルカブの面々も同様で、特に海外遠征を狙っているエルコンドルパサーの熱の入りようは相当だった。

 

「はあ……はあ……トレーナーさん、もう一本追加で!」

「いや、一度休憩しよう」

「ええ~!? お願いデス!」

「これで終わりってわけじゃないんだ。無理に追い込むことはないよ」

「むう~……ハーイ、分かりましたデス」

 

 渋々と、パラソルが作った日陰に入るエルコンドルパサー。

 周りより冷たい砂地に腰を下ろす彼女へ、メイショウドトウがドリンクを渡した。

 

「ドトウ、ありがとうデス」

「いえ、このくらい……エル先輩、今日はとってもやる気に溢れていますね」

「当然デース! ドトウも昨日のパール先輩のレース見たじゃないデスか!」

 

 海外、それもレースの最先端ともいえる欧州レースのGⅠ勝利。それはエルコンドルパサーの夢が決して幻想ではないことの証明であった。

 夢の道程が拓かれていることに、エルコンドルパサーは燃えていた。

 

「やっぱりエル先輩はすごいですね……」

「ケ? そうデス? 夢のために頑張るのって当たり前だと思いますが……」

「わ、私には海外とかGⅠなんて壮大過ぎて……そういう夢を持っている時点ですごいなあって」

「夢……そういえばドトウは──」

「ドトウ! 併走始めるよ!」

「あ、はーい! 今行きますぅ! エル先輩、失礼しますぅ」

 

 エルコンドルパサーの言葉は最後まで聞く前に、メイショウドトウは走っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「ドトウはもっと自信を持っていいと思いマス!」

 

 トレーニングも終わった夜、旅館の大部屋。エルコンドルパサーの言葉にライスシャワーとグラスワンダーは首を傾げた。

 

「どういうことですか、エル?」

「ドトウはいつも頑張ってマス。普段のトレーニングに加えて、エルたちの自主トレにもいつもついてきてます。選抜レースも勝ったんだから実力はあるはずなのに、口を開けば自分なんて~ってばかりデス!」

「まあ……言われてみればそうですね」

 

 メイショウドトウはアグネスデジタルと一緒にクラスメイトにお呼ばれしたとかで部屋にはいない。

 

「音を上げない不屈さ、ライス先輩にもついて行くスタミナ。私やエルにも併走で食らいついてくるパワー。そこまで卑下するものではないとは思いますが」

「デスよね! そこでエルは考えたのデス。ドトウが自信をつけるための企画……即ち、チーム対抗模擬レース!!」

 

 ババーン! と口で言いながら、エルコンドルパサーは一枚のチラシを取り出した。

 チラシには合宿の総仕上げ! と大きな見出しが飾ってある。

 

「リギルやスピカを誘って模擬レース! ここで勝てばドトウも自信を持てるはず!」

「エル……まさか自分が走りたいだけじゃないでしょうね?」

「べ、べべべ別にそんなことありませんけどお~?」

「それにマルカブ(うち)だけじゃなく他のチームも巻き込むなんて……トレーナーさんの負担が大きくなりませんか?」

 

 合同での併走トレーニングならそれほど難しくないが、模擬レースとなれば話は違う。

 日程、場所取り、一応は学園主催の合宿なのだからそちらに話を通す必要もあるだろう。

 普段のトレーニングに、日々エアシャカールとアグネスタキオンの知見を取り込んでメニューを構築するなど、今のマルカブトレーナーは多忙だ。

 グラスワンダーとしては、エルコンドルパサーの後輩想いの気持ちを汲みつつも、賛同できなかった。

 

「ライス先輩はどう思いますか?」

 

 結論をリーダーへ委ねる。

 そうだね、と顎に手を当てて考えるライスシャワー。少しして、うん、と一度頷いてから答えた。

 

「エルさんの気持ちもわかるけど、ドトウさんは大丈夫だと思うよ」

「そう、ですかね……?」

「ドトウさんは自信を持ててないけど、しっかりと追いたい背中は見つけている」

「……リギルのテイエムオペラオーですね?」

 

 ライスシャワーは頷いた。

 グラスワンダーが挙げたのはリギル肝いりの新メンバーだ。

 入学早々に頭角を現し、あっという間に学園トップのチーム・リギル入りを決めた新星。

 選抜レースも圧倒的な勝利だったと聞く。

 メイショウドトウも同学年ということもあり、日中共に行動しているのを見かけるし、トレーニング中に彼女の口からもよく名前が出る存在だ。

 

「ライバルを見つけているから大丈夫ということデス?」

「うん。ドトウさんにとってオペラオーさんは憧れのヒト。追いつきたいヒト。そのためにドトウさんは頑張っている。そういう気持ち、ライスも分かるから……」

 

 ふと窓の外を見るライスシャワー。彼女の瞳には海の向こうへと旅立ったライバルの姿があった。

 

「自信を持つことも大切だけど、強くなるために必要なものを持っているのに無理に矯正する必要はないかなって」

「そういう、ものでしょうか……?」

「エルは夢に向かって真っすぐですからね。でも、私も先輩の言うこと分かる気がします」

「ケ? グラスにもそういう相手がいるデスか?」

「……………………ドンカン」

「ケッ!?」

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あれ、ドトウちゃん! デジタルちゃんも! 昨夜ぶりだね」

「トップロードさん! こんばんは~、アヤベさんも~」

「こんばんは……」

「お二人も御呼ばれしたんです?」

 

 メイショウドトウ、アグネスデジタル、ナリタトップロード、アドマイヤベガ。さらには年の近いウマ娘たちが集まっている。彼女たちが集まったのはリギルが宿泊する高級ホテルだ。

 となれば、誰に呼び出されたのかは明らかだった。

 

「はーはっはっはっは!! ようこそ諸君、我が覇王の居城へ!」

 

 もはや聞きなれた高笑いとともに、テイエムオペラオーが現れた。が、彼女の装いに集まったウマ娘たちは目を丸くした。

 

「あなた、その恰好……」

「さすがはアヤベさん、よく気付いたね! そう、これこそ覇王テイエムオペラオーの勝負服さ!」

 

 桃に金に白。煌びやかな色合いをした貴族のような出で立ち。さらにくるりと回れば童話に出てくる王族が羽織るようなマントが広がった。

 勝負服。一部のイベントを除けばGⅠレースでしか披露することのない、オンリーワンの衣装。多くがそれを着ることを望みながらも、着ること叶わず舞台を去るその服をテイエムオペラオーは纏っていた。

 

「気が早いのね……もう自分のGⅠ出走が決まったつもりなの?」

「はーはっはっはっは!! 何を言っているのかアヤベさん、トゥインクルシリーズを走るウマ娘にGⅠ出走を考えない者がいるとでも?」

 

 それは、とアドマイヤベガは言い淀む。

 気が早いとは言いつつ、彼女も──いやこの場にいた全員がいずれGⅠに出てみせると心に決めている。テイエムオペラオーのように自分だけの勝負服を着ることをどこかで考えている。

 同期たちの表情からそれを読み取ったのか、テイエムオペラオーはうむ、と頷きながら再び口を開く。

 

「今宵、皆を集めたのは他でもない。ボクたちは選抜レースを勝ち抜き、チームやトレーナーがついた。この合宿が終われば本格的にトゥインクルシリーズにデビューとなる。今夜は、その決起集会というやつさ!

 ……ボクたちの一つ上には黄金世代と呼ばれた先輩たちがいる。彼女たちの実力を疑う者はいないだろう。そしてさらに上には個性派ぞろいの先輩方だ。ボクたちはそんな先輩方を超える世代にならねばならない!」

 

 両手を広げ、天を仰ぎながらテイエムオペラオーが告げた。

 

「ボクは時代を築こう! 黄金よりも燦然と輝き、永久に人々の記憶に残るような覇王の時代を!

 キミたちはどうだい? これからトゥインクルシリーズに挑むキミたちは何を目指す!? この覇王の隣を走るものとして目指す先を聞かせてくれ!

 まずはアヤベさん!!」

「───は?」

 

 突然指名されて呆けた声を出すアドマイヤベガ。

 下らないことを、と無視しようとするがすでに周りの視線は彼女に集まっている。

 

「私は……走らないといけないから。勝たないといけない。ただそれだけ……」

「使命! 義務感! それもまたヨシ! では次は……!」

 

 一人また一人とテイエムオペラオーに指名されたウマ娘たちがレースへの想いを語っていく。

 GⅠ制覇、クラシック三冠やトリプルティアラ、スプリンターの頂点、ダート王者。途方もない夢にも聞こえるが笑う者は一人もいない。

 胸に抱いた夢は己をトレセン学園へと導いた譲れないものだと知っているから。

 

「あたしの夢は芝もダートも走ること! 皆さん含めて、ウマ娘ちゃんたちの奮闘を誰よりも間近で拝ませていただきます!!」

「わ、わたしは……」

 

 最後の一人となったメイショウドトウへと視線が集まる。

 言い淀むメイショウドトウ。彼女は自己評価が低い。そんな自分が夢など語ってよいのだろうか。

 縋るように顔を上げるとテイエムオペラオーが真っ直ぐにメイショウドトウを見ていた。

 照明が後光のように差し、顔は輝く笑みがあった。

 待っている。

 同期の中でも間違いなく先頭を走っている、最も期待されているウマ娘がライバルではなく、歯牙にもかける必要のないはずのメイショウドトウの言葉を待っている。

 言わなければ。

 自分がダメなのは今更だ。でも、彼女をガッカリさせるようなことはしたくない。

 その輝く相貌を曇らせることは許せなかった。

 

「──追いつきたいウマ娘がいます。どんなに時間がかかっても、どんな舞台であっても、その方の隣を走るに相応しいウマ娘に、私はなりたいです」

 

 素晴らしい! とテイエムオペラオーが拍手する。

 その後は覇王のソロオペラが始まったり、同期たちと展望を語り合って夜は更けていく。

 

 

 

 

 そして翌週、シーキングザパールの言葉を証明するように、タイキシャトルは欧州GⅠジャック・ル・マロワ賞を勝利した。

 日本勢の欧州GⅠ二連勝という衝撃は世界を震撼させ、日本のウマ娘たちの闘志に火をつけた。

 熱はファンたちにも伝播し、今後のトゥインクルシリーズの期待に胸を弾ませた

 

 夏が終わる。

 秋が始まる。

 

 戦いの季節がやってきた。

 

 

 




10/30追記 参考:ドーヴィル競馬場
https://www.jra.go.jp/keiba/overseas/country/france/deauville.html


いつもご感想、誤字報告ありがとうございます。
今後の展開についてお知らせしておくことがあり、長めのあとがきとさせていただきます。
なにかというと、秋レースの開催順についてです。
この時点で「好きにせーや!」って方は大丈夫ですので以下スルーしていただいて構いません。

一体何かと言いますと、9話にて秋華→菊花→秋天という順に開催されたような書き方をしております。
ですが、モデルとしている97年では秋華→秋天→菊花の順に開催しております。
これは本作ではレースプログラム等をアプリないし、現代競馬をベースにしているためです(なのでスプリンターズSは9月末ですし、大阪杯もGⅠです)。
なのでこれから書く98年モデルの秋レースも同様にするべき……なのですが、どうにも秋天→菊花の方が収まりが良い。
ということで本来ならありえないのでしょうが、本作は諸事情によりGⅠの開催順が入れ替わることのある世界ということでご理解ください。
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