シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
そしてあけましておめでとうございます。本年も引き続き本作をよろしくお願いします。
年末からリアルの競馬も色々ありましたね。
福永騎手の引退から調教師への転身が発表。
エイシンフラッシュ産駒がジャパンカップ制覇。
キタサンブラック産駒が秋天に続いて有馬記念制覇。
昨日のシンザン記念は武豊騎手がディープ産駒に乗って勝利。アプリの方で貰えるパール姉さんの主戦も武騎手でしたね。ちょっとこじつけでしょうか。
あと三ヶ月でまた皐月賞や春天が来るってマジ? 今年はどんな名馬が生まれるのか楽しみです。
前振りが長くなりましたが、今日から七話、投稿させていただきます。
あと、最後にアンケート在りますので興味があればどうぞ。
43話 マルカブと聖蹄祭
その日、カフェテリアはいつも以上の賑わいを見せていた。ウマ娘の生徒だけでなく、学園職員や他のトレーナーの姿もある。
カフェテリア内も普段と違っていた。紙の輪が飾られ、祝いの言葉を書いた横断幕が吊るされていた。
イスやテーブルを移動し、空いたスペースを囲むように人だかりができていた。
生徒たちでできた輪の中心には私たち、チーム・マルカブの面々。そして対峙するのは黒い髪のウマ娘、ライスだ。カフェテリアに集った者たちの視線は特に黒髪の少女へと集まっている。
少し照れた様子のライスへ、私たちが声を揃えて言う。
『ライス先輩、退院おめでとう! アーンド天皇賞春秋制覇おめでとうございます!』
クラッカーが引かれ、紙吹雪やリボンが舞うのと同時に昼のカフェテリアに大きな拍手が起こる。
「みんな……! ありがとう!」
ライスの退院はトレセン学園を上げて祝福されたのだ。
代表してグラスから花束をライスに渡すときにまた拍手が鳴り響く。
まさかの歓迎に涙を浮かべるライスにもらい泣きしてしまう生徒もいた。
菊花賞の翌日、ライスは無事学園に戻ってきたのだ。
お祝いのケーキを切り分けながら、ライスがいない間の学園のことを話していると、自然と直近の行事が話題に上がった。
「聖蹄祭……? あ、もうそんな時期なんだ……」
「えっと……つまりは秋のファン感謝祭のことですよね?」
ドトウの言葉に頷く。
春のファン感謝祭が一般的に言う体育祭であるのに対し、秋のファン感謝祭は謂わば文化祭だ。
喫茶店をやったり、演劇やお化け屋敷など生徒たちが各自で志向を凝らした出し物が多く、多様性から春とはまた違う盛り上がりを見せる。
「特に今年はライス先輩やスズカ先輩の活躍もあって、例年以上の来園があるだろうとみんな大盛り上がりデス!」
「そうなんだ……なんか照れちゃうな」
「いえいえ先輩はそれだけの活躍をされていますって!」
「まあ実際、学園からはマルカブとして何か出し物をとお願いされているんですよね?」
「そうなのお兄さま?」
「ん……まあそうなんだよね」
今年の聖蹄祭はマルカブとして参加してほしい。
たづなさんからそんな要請があったのは、グラスが菊花賞を勝ったすぐ後だった。
かつては解散寸前の崖っぷちチームだったマルカブだが、今ではついに所属する五人中三人がGⅠウマ娘。しかもライスに至ってはGⅠ六勝となり、タマモクロス以来の同年天皇賞春秋制覇の偉業を成し遂げたところだ。そんな彼女が聖蹄祭に参加することで客入りを確かなものにしたいのだろう。
私としてもライスが多くの人に祝われるのは本望だ。
「去年の聖蹄祭はどうだったんですか?」
「あー去年はチームとしては参加しなかったんだ」
まだチームメンバーも三人しかいなかったし、みんなで話し合ってチーム存続のために実績を積むことを優先したのだ。
その前の年もライスが療養中だったし、マルカブが参加するのは久しぶりだ。
「と言っても何をしましょうか。今からではあまり大規模なものはできませんし……」
「凝ったところは夏の間から準備してマスから、クオリティじゃあどうしても負けてしまうデス」
「ん〜やる気を削ぐようでなんですけど、そこまでキッチリした出しものである必要はないと思いますよ?」
「というと?」
聞き返すとデジタルは顎に手を当てながら続ける。
「聖蹄祭ってファン感謝祭なので、学園側も気合い入れてファンのみなさんを楽しませようとするんですが……そもそもファン目線からすると、いつも客席からしか見れないウマ娘ちゃんを間近で見られるだけで幸せなんですよ。ですからあまり内容に拘らず、マルカブのみんなで来てくれたファンに感謝を伝えられるものにすれば良いかと」
「……うん、デジタルさんの言う通りかもね」
「ビッグスケールに拘らずデスか……」
「それでも、やはり何をするか悩みますね……」
デジタルがある程度方向性を示してくれたが、ジャンルが定まったわけではなく、再度みんなで思考の海へと潜っていく。
時間はないためあまり大掛かりでなく、手間も少なく、かつファンに感謝を伝えられる出し物。言われているとスッと出てこないものであった。
「あ、あの~」
おずおずと、手を上げる者がいた。
「わ、私なんかのアイディアで良かったらなんですけど、こういうのはどうでしょうかぁ……?」
自信なさげなドトウの口から出たアイディアに、私たちは即座に飛びつくこととなった。
◆
「仮装喫茶店か……」
放課後、私たちは学園近くにある貸衣装屋に来ていた。
店内に陳列されたゲームや映画の中でしか目にしない衣装を前に、ライスたちは目を輝かせていた。
「以前オペラオーさんと舞台を観に行きまして。そこではキャストの皆さんが劇中衣装のまま握手や写真を撮らせてくれたんです。私とっても嬉しくて、なので……」
「聖蹄祭でマルカブが衣装を来て接客すればファンとの距離は近いし、感謝も伝えるタイミングもある。いい案だと思うよ」
仮装はドトウのアイディア、そしてそこから喫茶店にしようというのはデジタルのアイディアだった。
飲食系の出し物は多いので学園側がまとめて申請や食材の発注をしてくれる。メニューも色々回りたいファンのことを考えたら手軽なものの方が好まれるだろう。私たちが吟味するのはファンに見せる衣装くらいになるというわけだ。
「メニューは軽食とコーヒーのセットとかシンプルで、調理や食べるのに時間がかからないものが良いですね。火の使用は最小限にしたいですし、サンドイッチなんかどうでしょう。間に挟む食材でバリエーションも増やせますし、簡単に調理できますからね。
衣装は……本当はチーム揃って勝負服を着られれば良かったんですけどね。あたしとドトウさんのはまだできていませんから……」
「ファンとの交流という意味ならこっちの方が新鮮かもしれないし、いいんじゃないかな」
「ジャジャーン! エルはこれに決めました! トレーナーさん、どうですか?」
早々に試着室に入ったエルが飛び出し、くるりと回ってポーズを決めた。
彼女が選んだのは人気ゲームに出てくる格闘家の衣装だった。普段とは違うマスクをつけ、太陽のように明るい色の手甲脚甲を装備。羽飾りが散りばめられつつも、エルが好みそうな動きやすい格好だった。
ただ、
「少し大胆じゃないかな……?」
腰回りを締めるコルセットのような装備の下には身体にフィットした黒のインナー。全体的に身体の線がはっきり分かるデザインだ。しかもポーズの時に一瞬見えたが背中はほぼ丸見えだった。極めつけは大きく開かれた胸元。見える谷間は男なら思わず視線が吸い寄せられてしまう。
「デジタルはどう思う……デジタル? デジ───し、死んでる……!?」
天井を見上げて倒れた彼女の顔は、幸せの絶頂を示していた。
ハプニングはあったものの、どうにか五人とも自分の仮装を決めることができた。
各自選んだ衣装に着替えて並ぶ。皆普段とは違う装いに気分が高揚しているようだ。
ドトウが選んだのは魂を運ぶ黒衣の墓守。
「お、お客さんをしっかりご案内しますね!」
デジタルが選んだのはピンク色主体の可愛らしいキョンシー。
「これで何度尊みに溢れた瞬間に出会おうと即復活できます!」
エルは気が変わることなく、先程の格闘家のコスチュームだ。
「太陽のように熱い闘志をお客さんにも分けてあげマス!」
ライスはゴシックな意匠を凝らしたヴァンパイアの衣装。
「来てくれたファンの皆とお友達になれたらなって……」
そしてグラスは白を基調とした僧侶の格好。エルと同じくゲームキャラクターの衣装を選んだ。
「皆さんに癒やしを与えましょう……なんちゃって」
「「「癒やし……?」」」
「その杖で闘魂注入の間違いデス?」
「何か……?」
「「「なんでもありません!」」」
回復役を怒らせてはいけない。ゲームの鉄則である。
「じゃあ衣装も決まったし、帰ろうか」
「……? まだお兄さまの分が残ってるよ?」
踵を返そうとした足が止まる。
ギギギ、と首だけ振り返ると、怪しく笑う担当ウマ娘たちと目が合った。
「え? 私も着るの?」
「裏方で手伝いするって言ってたデスよ?」
「……裏方なら別に仮装する必要ないよね?」
「もしもの場合もありますし、その時お一人だけスーツでは浮いてしまうかと」
「もしもの時に仮装していたら変な空気にならないかな?」
「えーい四の五の言わず、腹をくくるデース!」
「ちょっ、待って───」
ウマ娘に力で勝てるわけもなく。ズルズルと衣装の森へと引きずり込まれていったのだった。
◆
「……なるほど、それでそんな恰好をしているわけですか」
「まあ、そういうことになるね」
ついに来た聖蹄祭当日の朝。私は割り当てられた教室で、手伝いを申し出てくれたマンハッタンカフェにことの経緯を説明していた。
私の格好はスーツの上から包帯を適当に巻き付けたなんちゃってミイラ男だ。勇者だの魔法使いだのヴァンパイアだののコスプレをさせられるよりはマシだと思う。
「最初見た時はケガをされたのかと驚きましたが、なんともないのなら良かったです」
「驚かせて悪かったね。それより、本当に裏方の手伝いなんてさせてしまって良かったのかい?」
衝立で囲ったキッチンスペースで食材の確認をしながら、自前のコーヒーメーカーを準備しているマンハッタンカフェに訊ねた。
「ええ。私はまだデビュー前ですから交流するようなファンもいませんし、元々こういう賑やかな空気は余り得意ではないんです。……ただ、フクキタル先輩が雰囲気だけでも味わってきて欲しいと懇願されまして。ですのでこうして裏方に入れるのは私にとっても渡りに船でしたから、気にしないでください」
「そうか……それじゃあ厚意に甘えようかな」
「そうしてください」
私もコーヒーは飲むが人に出すような腕があるわけではない。趣味が高じて自分で焙煎までしているらしいマンハッタンカフェが手伝ってくれるのは幸運だった。
「お兄さま、ライスたちの準備終わったよ!」
衝立の向こうから声がした。
スペースから顔を出すとレンタルしてきた貸衣装に着替えたライスたちが並んでいた。
役割としては一人が外で店の宣伝、残りの四人が店内で接客、そして私は裏で調理だ。宣伝と接客は時間で区切って交代。接客も込み具合を見ながら調整して、ライスたちが学内を見て回れるようにする予定だ。
「よし、聖蹄祭もそろそろ始まる。今日はファンの人たちに感謝を伝えつつ、自分たちも時間を作ってお祭りを楽しんでいこう!」
「時間……作れますかね? 宣伝用に作ったウマスタのアカウントのウマいね!も凄い数になってますし……」
「わ、私たちはともかく……先輩方はきっと……」
「ま、まあそこは店を回しながら調整していこう。せっかくのイベントだ。みんなもホストだけじゃなくて楽しんでほしいから」
ライスたちを見ると特に気にしてなさそうだが、彼女たちはまだ若者だ。こういった行事では苦労だけでなく楽しみもしっかり味わって欲しい。
そして時間が来て、チャイムが鳴る。
聖蹄祭が始まった。
◆
案の定、マルカブの仮装喫茶店は大盛況だった。
五人中三人がGⅠウマ娘、しかもつい先日の天皇賞(秋)や菊花賞で勝利を挙げたウマ娘が揃っているのだから当然だろう。さらに付け加えれば、見目麗しいウマ娘たちがやや季節遅れだがハロウィンのような仮装をしているのだ。熱烈なファンでなくとも一目見たいと立ち寄ろうとするものだ。
それを考えるとメニューをシンプルなものに絞ったのは正解だった。
最初こそてんやわんやしたが、やがて一定のルーティンが出来てくる。注文や配膳の際にファンと一言二言交わし、食べ終わったら一緒に写真を撮って店を出ていく。慣れてくればこの繰り返しだ。
「お待たせしました。ハムサンドとコーヒーのセットです」
「きたきた! えっと……菊花賞凄かったです!」
「ふふ、ありがとうございます」
「あの、写真一緒にいいですか?」
「いいですよ」
「ライスシャワーさん! わ、わたしたちとも写真お願いします!」
「はーい、いま行きますね!」
やはり、直近でGⅠを制覇していたライスやグラスがよく声を掛けられていた。しかし人気が二人に集中しているということは無く、
「エルコンドルパサーさん、次のジャパンカップ頑張ってください! 応援します!」
「ありがとうデース! 日本代表として見事勝ってみせマース!」
「あ、あの! 芝とダート両方出ようとしてるって本当なんですか? すごいなぁ……絶対応援行きますね!」
「あああありがとうございます! 今はダートですけど、絶対、必ず、芝のレースにも出て見せますから!」
「この前のレース惜しかったですよね……諦めないで頑張ってください! 次はオペラオーにも勝てますって!」
「あ、ありがとうございますぅ。み、みなさんの期待に応えられるよう頑張りますね……!」
黄金世代として活躍するエル、二刀流を目指すデジタル、そして惜しいレースが続くドトウ。やはり店にまでくる熱心なファンはよく見てくれていて、接客でテーブルに近づくたびに声を掛けられていた。
ファンから直接声をかけてもらうことで、みんなの瞳に宿る光が強くなっている。彼女たちのレースにかける想いが、熱が、より高まっていくようだった。
聖蹄祭に出て良かった。そう思える内容だった。
「あの~すいません……」
「はい、なんでしょう……あ、写真ですか?」
「はい。それでできれば、トレーナーさんとも撮りたくて……」
……予想外の呼び出しはあったが。
◆
時間は経ってお昼時、来客もまばらになってきた。ここは軽食しかないのでランチには外に並ぶガッツリ系の屋台に向かったのだろう。
合わせて交代でライスたちにも昼休憩に入ってもらう。
「じゃあ行ってきますね」
「できるだけ早く戻ってきます!」
「慌てなくていいからね」
第一陣としてグラス、ドトウ、宣伝から戻ったデジタルが出ていく。残ったライスとエルだが、最後の客が出ていくと途端に手持ち無沙汰だ。いっそ二人も休憩させようかと思った時、
「邪魔するぜ」
艶のある、けれど勇ましい声が聞こえた。
衝立越しのため私から姿は見えないが、声で誰かは分かった。
「シリウスシンボリ……さん」
「久しぶりだなライス。秋天、いいもん見せてもらった。アイツは……奥でコックの真似事か? 相変わらず裏でこそこそするのが好きなやつだ」
「トレーナーさんに何か用デスか?」
「いや、用があるのはお前さエルコンドルパサー。世界最強なんて簡単に口にするヒヨッコの面を見に来たのさ」
シリウスシンボリの挑発に、店内の温度が一気に下がった気がする。
出ていこうと衝立から顔を出したところでライスと目が合った。そしてシリウスシンボリも私に気づいた。
「………………」
ライスが待ってと視線で訴えていた。
シリウスシンボリもお前に用はないとばかりの目つきだ。情けないが、ここは彼女たちに任せるしかないのか。
「シリウスシンボリさんとは、なにかあったのですか?」
裏に引っ込むと、様子に気づいていたマンハッタンカフェが聞いてきた。
「昔、担当トレーナーが付いていない、伸び悩んでいたウマ娘を見かけてね。私なりにアドバイスをしたんだけど彼女がシリウスシンボリの後輩でね。その後、自分を慕ってくる後輩に粉をかけるなと文句を言いに来たことがあったんだ」
まだ師匠がいた頃の話だ。結果として大事にはならなかったが、危うくシリウスシンボリ一派とマルカブの全面対決になる所だった。
「……詳細は聞きませんが、恐らく彼女の地雷を踏んでしまったんですね」
「当時もみんなに言われたよ。結局どこが地雷だったのかは誰も教えてくれなかったけど……」
衝立の向こうから声が聞こえる。
どうやらシリウスシンボリが本題に入るようだ。
「エル、お前の次走はジャパンカップだったな。勝てば晴れて日本代表を名乗って来年から海外遠征か?」
「そのつもりですがなにか?」
「そのジャパンカップ、私も出る」
「ケッ!?」
とんでもない情報が飛び込んできた。
シリウスシンボリと言えばダービーウマ娘。しかも海外の猛者相手に転戦を繰り返してきた古豪だ。そんな彼女が、ジャパンカップに出てくる。
流石に引っ込んではいられなくなった。
「……おい、用は無いって言ったの聞こえなかったか?」
「レースとなれば話は別だよ。エルは私の担当ウマ娘だ」
衝立から出てライスたちの前に立つ。シリウスシンボリが不愉快そうな視線を向けてくるが、こちらも引いては入れらない。
「君、ここ最近はトゥインクルシリーズに出ていないだろう。本当にジャパンカップに出られるのかい?」
ジャパンカップは国内でも最高峰のGⅠの一つだ。シリウスシンボリがいくらダービーウマ娘だからと言って、過去の栄光を掲げて出られるほど出走条件は甘くない。
が、私の懸念を鼻で笑ってシリウスシンボリは言った。
「別に私はドリームトロフィーに移籍していない。最近は専ら海外に行っているから国内のレースを走っていないだけで、まだ籍はトゥインクルシリーズにある。出走権もきっちり確保しているさ」
「……シリウス先輩が、エルが海外で戦えるかの試験官ということデスか?」
シリウスシンボリの目が鋭く、口元に笑みが浮かんだ。
「ほう……ただの良い子ちゃんかと思ったら大人の話を盗み聞きする程度のやんちゃは出来たか」
「え……あ!」
試験……エルの口から試験官という言葉がどうして出たかはさておき、丘辺トレーナーを通してお願いしていたシンボリ家からの支援。エルがそれに相応しいか見定めるためにシリウスシンボリが日本に戻ってきたということか。
私の思考を察したのか、シリウスシンボリが眉を顰めた。
「本家のジジイどもの考えなんか知るかよ。私は生意気なウマ娘に現実を見せに来ただけだ」
シリウスシンボリがエルに近づく。互いの額がくっつきそうな距離で、僅かに背の高いシリウスシンボリがエルを見下ろしていた。
「世界の壁はお前が考えている以上に高いぞ? 少なくとも、ダービーウマ娘に勝てねえやつは行っても無駄だ」
「……では、証明しましょう。先輩に勝ってエルが世界に通用するということを!」
「ふん、面白れぇ……レース後も同じ口を叩けるか楽しみにしているさ」
からからと笑いながら、シリウスシンボリは去って行った。
すでにエアグルーヴの出走が知らされていたジャパンカップ。海外からの強豪に加え、かつての世代の頂点までも加わり激戦の予感は強まっていった。
◆
世界がオレンジ色に染まる夕方。
予想外の来訪者もあったが、マルカブの聖蹄祭は無事終わりを迎えた。
ウマスタをはじめとするSNSには多くの写真がアップされており、仮装したライスたちとファンが並んで撮った写真もあった。ミイラ男状態の私の写真もいくつかあって気恥しいが、好意的な反応が多いようだ。
秋の日の入りは早く、片付けが終わるころには日は完全に沈んでいた。
ファンが学園を去って関係者だけが残されたとなれば、始まるのは後夜祭だ。
あちこちで今日の働きを労い合うなか、私たちマルカブもチームルームに集まってお疲れ様会をしていた。
「今日はみんなお疲れ様! 急ごしらえだったけど良い店が出来たのもみんなの頑張りのおかげだ」
『お疲れ様でしたー!!』
飲食系の出し物をしていた店で余った食材を使った料理を持ち込んで食べる。
ちなみにマンハッタンカフェは外様でいるのが窮屈だと思ったのか、片づけが終わるとそそくさと帰ってしまった。彼女の助力には大変助けられたので、今度会ったら改めてお礼をしよう。
「給仕というのは初めての経験でしたが、中々大変でしたね……」
「そうですねー。あ、やっぱりライス先輩やグラス先輩が特に写真ねだられてましたね」
「ぐぬぬ……時期によってはジャパンカップを勝利したエルが一番人気だったはず……!」
「で、でもウマスタだとエル先輩の衣装はすごい人気みたいですよ? みなさんカッコいいって」
「うう……やっぱりエルさんスタイル良いもんね……」
「え、あ、いや! ライス先輩も可愛いって大評判ですよ!」
仮装喫茶店であったことを話していくうち、やがて話題はエルの次走であるジャパンカップへと移っていった。奇しくも真っ向から宣戦布告を受けたのだから当然か。
「シリウスシンボリ先輩……本当に出てくるんでしょうか?」
「わざわざ顔を見て宣戦布告してきたんだ。当然出てくるだろうし、そんなつまらない嘘を吐くようなウマ娘でもないよ」
「スぺちゃんと同じダービーウマ娘。ですがかなり前のダービーを勝った方ですよね?」
「そうだね。全盛期は過ぎているかもしれない。でも実力が錆び付いているとは思えない」
本人も言っていたが、彼女の名前を日本で聞かなくなった間も海外を転戦していたようだ。ウマ娘の全盛期は短く、ピークを迎えたウマ娘の能力は右肩下がりに低下する。
しかし、レースの本場ともいえる欧州を走り続ける彼女はどうだろうか。確かに最高速度やスタミナは落ちているかもしれない。けれどその分、走って得た技術は研ぎ澄まされていると考えるべきだ。
シリウスシンボリを慕うウマ娘は多い。それが彼女が口だけでなく実力を未だ兼ね備えている証だろう。
「エアグルーヴさんだけでも大変なのに、ここに来てまさかの強敵だね……」
「エ、エアグルーヴさんってオークスを勝った方ですよね? じゃあエル先輩はオークスウマ娘と、ダービーウマ娘を同時に相手にするってことですか?」
ドトウの言う通りだ。時代は違えど相手は片やオークスに片や日本ダービー、世代の頂点を獲った二人だ。さらにジャパンカップとなれば海外からの強豪も参戦してくる。まだクラシック級のエルにとっては右を見ても左を見ても格上だらけだ。
けれど、だからこそここで好走……いや勝つことが出来れば世間からのエルの評価は跳ね上がる。日本ダービー二着、毎日王冠二着から一転、日本を代表するウマ娘の一角になれる。
そうなればエルの海外遠征の話も通りやすくなる。
ピンチだが、これ以上ないチャンスでもあった。
「ふっふっふっふ……みんな心配し過ぎデス!」
エルもどうやら同じ考えのようだ。
「むしろエルは強敵がどんどん集まって来て燃えてきていマス! オークス? ダービー? 海外の大レース? ドンと来いデス! 世界最強を目指す以上、これくらいで怖気づいていてはいられません!」
「その通りだ。海外へ行けば強敵を相手にするレースなんて山ほどある。自分たちのホームグラウンドで負けてはいられない……!」
拳を握り、胸中に浮かんだ弱音を潰す。
エアグルーヴにシリウスシンボリ。どちらも己が世代を代表する強敵だ。けれど時代は進む。世代は変わる。
かつてライスがメジロマックイーンを打ち破ったように、サイレンススズカがミホノブルボンを打ち破ったように、永世の強者などいない。
エルの能力が二人に劣っているとは思えない。それを証明してみせるのが、私の使命だ。
「エル。ジャパンカップまで残り僅か。だけどできることは全部やるよ。そして勝って、君の力を見せつける」
「───ハイ!」
ファンとの交流で心は満たされ、そして強敵からの宣戦布告で点火した。
彼女の羽ばたきを見せつけるため、私たちは翌日から早速トレーニングを開始した。
そして、ジャパンカップが来る。
アンケートです。
バレンタイン回(今回の毎日投稿ではそこまでいきません)で、お兄さまと誰かの二人での会話イベントを考えています。
それを誰にするかというアンケートになります。
特にこれで恋愛的なルートが決まるということはありませんので、気軽に見たいキャラを選んでくださって構いません。
最後、遅くなりましたら毎回感想・誤字報告ありがとうございます。
改めて今年もよろしくお願いします。
バレンタイン回でのイベント相手は?
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ライスシャワー
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グラスワンダー
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エルコンドルパサー
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メジロマックイーン
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サイレンススズカ
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スピカトレーナー