シニア級〇年目のライスと朴念仁系お兄さまと時々同期や後輩の話 作:ブルーペッパー
なお、年末のGⅠは当時に合わせてジュニア優駿→ホープフル→有馬とさせていただきます。……当時ホープフルはなくGⅢラジオたんぱですがそこはアプリに合わせてということで。
あと、覇王世代は戦績を史実から結構変えてます。GⅠ以外を具体的に書く予定はありませんが。
あたしはどこにでもいるごくごく平凡なウマ娘、アグネスデジタル。
あえて特徴を上げるならウマ娘ちゃんたちが大好きであることと、芝とダートの両方を走れることくらい。
そんなあたしですが、
「ではアグネスデジタルさんの今後の展望についてお聞かせください!」
「は、はいぃ……!」
グラス先輩と一緒に取材を受けていたのでした。
世間は今、空前のマルカブブーム! ……多分!
いえ実際スゴイ注目されています。なんていってもライス先輩が秋天でサイレンススズカさんを打ち破ってのレコード勝利、グラス先輩が秋に復帰してからの菊花賞勝利、そしてエル先輩はクラシック級でありながらシニア級の先輩方相手にジャパンカップ勝利です。個々としてはGⅠ一勝───それでも十分すごいですが、チームとしてはGⅠ三連勝中! そりゃあもう世間もマルカブの動向に注目するというものです。
連日取材取材取材グッズの監修写真撮影そしてまた取材です。
とまあ注目されていますが先輩たちのなかで次走が決まっているのはグラス先輩だけ、年の瀬のグランプリ有馬記念への出走を表明済みです。出走はファン投票に左右されるので確定ではないのですが、クラシック級GⅠを勝利したグラス先輩が選ばれないということは無いでしょう。そして他のお二人は残りの年内は休養を発表済みです。
注目の三人の内二人が
そう、ジュニア級GⅠを狙うあたしとドトウさんに。
「アグネスデジタルさんはマルカブでは唯一のダート路線で活躍中です。しかし、ダートだけに縛られず芝路線にも挑戦されているとか!」
「はい、ですが芝の方はまだ勝ててないんですけどね……」
二刀流なんて言ってますが先日出走した芝のレースでは掲示板外……やはりダートに比べて芝のウマ娘ちゃんはスピードありますね。
「他のウマ娘たちについて行けているだけ大したものです!今年は全日本ジュニア優駿を目標にされていますが、ズバリ来年の目標は!?」
「ええっ!? ま、まだ気が早いですよお……そうですね、トレーナーさんと相談ですけどクラシックで走るならマイルか中距離ですかね」
「となると、エルコンドルパサーさんに続いてNHKマイルか、ティアラ路線ということですね! そして夏にはジャパンダートダービー!!」
「だ、だから気が早いですよお……!!」
こ、この記者さんぐいぐい来ますね……!
「つ、疲れました……」
「お疲れ様でしたデジタルさん」
取材が終わると、グラス先輩がお茶を奢ってくれました。ちょっと苦いですが、慣れない場でたくさん喋ったからか喉をすんなり通っていきます。
「先輩方も去年こんな感じだったのですか?」
「そうですね……私たちの時は黄金世代なんて言われていたのもありますが、どちらかというとジュニア級のGⅠに出る一人、といった感じでしたね」
「うう、そうなりますとやっぱりマルカブのウマ娘として注目されているんですね……」
「芝とダート両方走る、と公言しているのもあると思いますが、まあ観念してください」
火付け役の一人に言われてしまっては仕方ありません。リギルのような他チームの新人さん方もこういう気持ちなのでしょうか。
正直言うと芝はまだまだですが、ダートなら中々のものだと自負しています。全日本ジュニア優駿も楽勝、などとは口が裂けても言いませんが勝ち負けに持っていけるのではと思っています。
となると……
「あたしよりも、ドトウさんの方が心配です……」
「そう、かもしれませんね……」
ドトウさんは、未勝利戦以降勝ちに恵まれていません。
◆
私は一人、トレーナー室でドトウのレースを見返していた。
何度見ても結果は変わることはない。それでも、次につながるヒントが無いかと探し続ける。
ドトウは未勝利戦を勝ち、トゥインクルシリーズの第一歩を踏み出した。しかし、それ以降の勝利に縁が無かった。
今また見ているレースでも、彼女は二着に終わった。
そう、また二着だった。
メイクデビュー、条件戦、ОP戦。ドトウの走るレースには、悉く彼女が立ち塞がった。
「テイエムオペラオー……!」
モニターの向こうで勝利し喝采を浴びるウマ娘の名が零れた。
分かってはいたがやはり強い。鋭い末脚、ジュニア級とは思えないスタミナと本番に強いメンタル、そして卓越したレースセンス。元より頭一つ抜けていた素質は、リギルに入ったことでさらに磨きがかかっていた。彼女はすでにクラシック級とも張り合えるだけの実力を持っている。
そんな彼女がドトウと同じレースに出てくるのは不運としか言いようが無かった。
当然向こうがこちらを狙ってきているなどということはないだろう。二人とも適性が近い故に起こったことだ。
唯一の救いは、いずれのレースもドトウが大敗せずに惜しくも二着になっていることだろう。勝ち星にはならないが、重賞に出走するのに問題ない程度の成績ではある。
夏から予定していたホープフルステークスはなんとか出走できるだろう。
「問題は……」
傍らに置いたホープフルステークスの出走予定リストを見直す。
その中にテイエムオペラオーの名はない。東条トレーナーは既にクラシックレースを見据えているのだろう。
ジュニア級はあくまでレース経験を積む時期と定め、本番はクラシック三冠なのだと推察した。
ドトウの勝利を妨げる最大の障害は消えた。が、それでドトウの勝利が確定したわけではない。
彼女たちの世代はグラスたち黄金世代にも負けず劣らずの粒ぞろいだ。ドトウたちとは別の路線からジュニア級GⅠへの出走を果たしたウマ娘もいる。
その中で特に注意すべきウマ娘は───
「……アドマイヤベガ」
魔術師の後継、奈瀬文乃トレーナー率いるチーム・ハマルのウマ娘だ。
◆
「ドトウ」
「え、あ、はいドトウです……ってあれ、アヤベさん……?」
「大丈夫? なんだが心ここに在らずって感じだったけど」
言われて気付いた。手には山積みのプリント資料。教師からお願いされて運んでいるところだったのっだ。
視線の先、ガラス戸から見えるのはグラウンドだ。今も授業で合同トレーニングをするウマ娘がいた。
「す、すみません! ボーッと立っていてお邪魔でしたよね、すぐに……!」
「そんなこと言ってないわ。……それ、どこに持っていけばいいの?」
「え、あ───」
メイショウドトウの返答を待たず、アドマイヤベガが山積みの資料に手をかけた。
半分より少し多めに持っていく。メイショウドトウは軽くなった手元とアドマイヤベガを交互に見る。顔には未だ困惑の色があった。
「ウマ娘だからって持ちすぎよ。転んだら大変だし手伝うわ」
「あ、ありがとうございますぅ……!」
「別に。見かけてたのに後でケガとかされたら気分悪いだけ」
素っ気なく言って、アドマイヤベガは歩き出す。
その背中を見て、彼女が目的地を知らないことを思い出して追いかけた。
アドマイヤベガの少し前に立つ。目的地を告げてやや急ぎ足で歩いていく。
「あ、あのぅ……」
「なに?」
「その、アヤベさんは次、ホープフルステークスに出るんですよね?」
「ええ……ドトウも出るのよね?」
出走予定リストは既にトレーナー陣に共有されている。担当トレーナーからウマ娘へ情報が降りてくるのは当然だった。
「は、はいぃ……最近勝ってはいませんけど、二着続きでなんとか」
「ジュニア級なら勝った数は関係ないわ。GⅠに出られるだけでも十分立派よ」
二着もスゴイ、とは言わなかった。
アドマイヤベガもウマ娘だ。一着と二着の途方もない差は知っている。
「ドトウと一緒のレースに出るのは初めてね」
「そ、そうですね。メイクデビューも、それ以降もずっと別のレースでしたから」
「……オペラオーが出ないからって気を抜かないことね」
氷のような声。しかしメイショウドトウは知っている。これはライバルとしての言葉なのだ。
アドマイヤベガが、メイショウドトウを打ち勝つべきライバルとして言外に認めているのだ。
「ホープフルステークスは私が勝つ」
星に誓うように、彼女は宣言した。
◆
十二月も半ば、川崎レース場。ついに全日本ジュニア優駿の日がやって来ました。
ありがたいことに、あたしことアグネスデジタルは一番人気。これもマルカブ人気の影響でしょうか。
ですが人気と実力は絶対のイコールではありません。むしろ一番人気だからこそ周りにマークされる可能性が高いです。
そんなあたしが最も警戒すべきは二番人気、ドミツィアーナさん。ここまで三戦三勝中のダート界期待の星です。
「デジタル、準備できたかい?」
「は、はい!」
トレーナーさんの声で我に返り、今一度姿見で自身の格好を確認します。
パステル系でカラフルな勝負服。百を超えるデザイン案から選び抜いた、あたしだけの勝負服。まさか具現化して袖を通す日がやってくるとは。
更衣室から出るとトレーナーさんと先輩たち、ドトウさんが並んで出迎えてくれます。
「………」
瞬間、ドッとプレッシャーが押し寄せてきました。
先輩たちからではなく、あたし自身の内側から。マルカブは秋からGⅠを三連勝中、当然観客はあたしが勝って四連勝を期待している人たちが多いでしょう。
胸の鼓動がやけに大きく聞こえます。トップチームの一員としての重責を今更自覚しました。
「……デジタル」
「え? あ、はい! なんでしょうトレーナーさん!」
「多分、色々と考えているんだろうけれど……まずはデジタル自身の夢だけを考えて欲しい」
「あたしの、夢……?」
「うん。……走るんだろ、芝もダートも。今日はまずダートのGⅠだ」
あたしの夢。芝もダートも走り、ウマ娘ちゃんたちの勇姿をもっとも近くで目に焼き付ける。そうでした、チームのことも大事ですがあたしがトゥインクルシリーズに来たのはそのため。
自分に向けられる期待より、あたしが意識すべきはともに走るウマ娘ちゃんたちであることを思い出します。
気づけば圧し掛かっていた重圧は少し軽くなっていました。
「では不肖アグネスデジタル、行ってまいります!!」
行ってらっしゃい、頑張って、応援しているよ、皆さんの言葉を背中に浴びながら控室を出てターフへ向かいます。
自分の夢を考える。ありがとうございますトレーナーさん。あなたの言葉に救われました。
でも、勝つ気でいるのも変わりません。
「あたしも……」
あたしだって、先輩方の熱にしっかり充てられているんですから。
◆
『最終コーナーを曲がって先頭はドミツィアーナ! しかし外からアグネスデジタルが上がってきた! デジタル追いつけるか!? 振り切るかドミツィアーナ!!』
見事なコーナリングで先頭を走るドミツィアーナさん。さすがはダート界期待の新星、さすがの走りです。
ですがあたしだって負けていられません。
あたしを推薦してくれた黒ちゃんのためにも、応援してくれている皆さんのためにも。
そして、ドミツィアーナさん!
「奮闘するあなたを間近で見たいぃぃぃいいい!!」
欲望全開? 煩悩丸出し? 好きに言ってください。これが、これこそがアグネスデジタルが走る理由なのですから!
『並んだ! デジタル並んだ!! 粘るドミツィアーナ! 差し切るかデジタル!』
いい! ドミツィアーナさん良い表情です!
汗にまみれた顔も、歯を食いしばる姿も素晴らしい!
このままずっと見ていたい。その全身をこの目に焼き付けたい。そのために───!
『抜けた! アグネスデジタルが抜け出した! アタマ一つ! ドミツィアーナ差し返せるか!?
───アグネスデジタル! アグネスデジタルが一着でゴールイン!!
ジュニア級のダート王者はアグネスデジタルだ!!』
「はあ……はあ……! やった……やったよぉ……」
歓声と拍手が客席から降り注ぎます。それは勝ったあたしだけでなく、奮闘したウマ娘ちゃんたちにも向けられているでしょう。
ですが、客席に向かって手を振るのはあたし一人。二着のドミツィアーナさんも、他のウマ娘ちゃんたちも俯くか、堪えるような表情でした。
レースに出るウマ娘ちゃんは誰もが勝利を目指して頑張っています。でも勝利を手にするのはたった一人。その重さはどれほどか、GⅠともなれば筆舌に尽くしがたいそれを、今日あたしは背負ったのです。
これがトゥインクルシリーズ。栄光と苦悩に満ちた世界。
あたしも、ドトウさんも、これからこの道を歩むのでしょう。
◆
デジタルが勝ってマルカブはGⅠ四連勝。世間からの期待はさらに高まったと同時、ウマ娘たちにかかるプレッシャーもさらに増した。
今日はホープフルステークス。ドトウが出走するジュニア級最後のGⅠだ。
ドトウは既にターフへ送り出した。生来の後ろ向きさゆえか、重圧からの緊張か、強張っていたのが気になった。
「まずはトレーニングの成果をしっかり出すことを考えよう。周りの目は気にしなくていいよ」
控室でそう言ったもののもとより気遣い屋の彼女のことだ、実践できるだろうか。
いや、できることはやって来た。あとは彼女を信じ、どんな結果になろうともフォローできるようにしておこう。
「おや、お久しぶりですね。マルカブのトレーナーさん」
客席に行くと声をかけられた。
中性的な顔立ち、クールな佇まいだが小柄な見た目から可愛らしいという印象が先に来る麗人。
奈瀬文乃。チーム・ハマルの、アドマイヤベガのトレーナーだ。
レース場で会うのは確かに久方ぶりだ。昔、イベントでライスとスーパークリークがエキシビションマッチをした時以来か?
「遅くなりましたが、ライスシャワーの天皇賞制覇おめでとうございます」
「ありがとうございます。そちらこそシーキングザパールの欧州GⅠ制覇おめでとうございます。中継を見ていましたが素晴らしい走りでした」
「ありがとうございます。……しかし、マルカブさんは昨年に続いて秋シーズンは絶好調ですね」
いたずらっぽい笑み。確かに昨年も今年も、春に比べて秋の方が勝率がいい。端に出走した数が違うだけかもしれないが。
「今日のメイショウドトウが勝てばチームとしてGⅠ五連勝。より一層気合が入るのでは?」
「それは……」
声色は朗らかだが、目が笑っていない。
相変わらずクールな外見に対して熱い人だ。
「チームとしての栄光なんて二の次ですよ。まず大切なのはウマ娘の夢のためになるかです」
「変わりませんね、貴方は」
「そちらこそ。わざわざそんなことを言うなんて、勝つのは自分たちだという宣言ですか?」
「まあ、自信はあります」
パドックが始まり、歓声が起こった。
ちょうどアドマイヤベガが出てくるところだった。
深い青に金の装飾が印象的な、星夜を想わせる勝負服を纏う彼女の表情は固く見える。
大舞台故の緊張、ではないと思った。
「彼女には少し複雑な事情がありまして」
どんな? とは聞かない。担当トレーナーでもない私が踏み入ってよい領域ではないだろう。
「アヤベの覚悟を理解したうえでチームに引き入れました。だから、ここで躓くわけにはいきません。
……メイショウドトウはテイエムオペラオーに随分とやられているようですが、この世代の強者は彼女だけではないということを覚えておいてください」
「そう、ですか……」
覚悟、と奈瀬トレーナーは言った。
それは今のドトウには確かに無いものだ。
所詮は気持ちの話、と断ずることもできるだろう。
しかし、その気持ちの有無の差を、私たちは見せつけられることになる。
◆
『最終コーナー曲がって先頭集団が最終直線へ! ここでメイショウドトウ前に出た! ミニオーキッドを抜いてメイショウドトウが先頭! このまま後方を振り切るか!!』
ドトウの走りは周りから見ても見事だった。ペース配分、コーナリング、仕掛け処。まさに、テイエムオペラオーさえいなければと思われるほど。
しかし───
『大外からアドマイヤベガ! アドマイヤベガ上がってきた! メイショウドトウを捉えるか!?
───アドマイヤベガが撫で切った!! アドマイヤベガ一着!! ジュニア級最後のGⅠを勝ったのはアドマイヤベガ!! 二着はメイショウドトウ!』
それはまさに流星であった。
最終コーナーを曲がって後方からの直線一気。先行勢をまとめてごぼう抜きし、アドマイヤベガは見事ホープフルステークスを制して見せた。
勝利したアドマイヤベガは胸に手を当て空を見上げた。その先にいる誰かに己が勝利を捧げるように。
(あれが、彼女の覚悟か……)
アドマイヤベガの動きにどんな意図があるのか分からない。
だが、GⅠ勝利を喜ぶわけでもなく、誇る様子もないその姿が妙に印象に残った。
「アヤベはこのままクラシックへ向かいます」
奈瀬トレーナーがターフを見下ろしたまま言った。
「目指すのは日本ダービー。もしその舞台にメイショウドトウが来るのなら、また会いましょう」
そして彼女は去って行った。
残された私は、ターフで敗北を噛み締めるドトウを見る。
彼女の前に立ちはだかるライバルは多い。
テイエムオペラオーだけでも精一杯だというのに。
流星の如き輝きが、舞台に躍り出たのだ。
ドトウの冬はちょっと長い。
補足
主なチームハマルメンバー
スーパークリーク(リーダー):ドリームトロフィー
バンブーメモリー(隠居した父から引き継ぎ):ドリームトロフィー
マーベラスサンデー:ドリームトロフィー
シーキングザパール:シニア級(海外遠征希望)
アドマイヤベガ:ジュニア級(来年からクラシック)
他、モブウマ娘複数
ドミツィアーナはアプリのアオハル杯シナリオに登場するダートのウマ娘になります。モブのはずがやけに強い。
バレンタイン回でのイベント相手は?
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ライスシャワー
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グラスワンダー
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エルコンドルパサー
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メジロマックイーン
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サイレンススズカ
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スピカトレーナー